「各業界で活躍されているあの人は何がすごいのか?」をコンセプトに、各業界の有識者から“成長の秘訣”や“仕事論”を赤裸々に語っていただくHR×LEARNING スペシャルセミナー。
2025年6月26日開催のセミナーは、株式会社イトーキより取締役常務執行役員 人事本部長の山村善仁氏のご登壇です。イトーキが抱えてきた業績低迷と従業員エンゲージメントの伸び悩みを解決したのは、全社的な人事制度の大改革。成長を阻害してきた社風からの脱却と高いエンゲージメントスコア達成の秘策を共有いただきました。
今回のレポートでは、イトーキが実施した人的資本投資とオフィス投資の取り組みから、社員がイキイキと働ける社風づくりと人事制度構築のヒントをお届けします。
1890年創業の長い歴史をもつイトーキは、ワークプレイス事業と設備機器パブリック事業を展開するトップランナー。従業員エンゲージメント向上に取り組み、2024年度のエンゲージメントスコアは驚異の82.5%を達成しました。これに比例し、売上高や営業利益も大幅に上昇しています。
改革前のイトーキは、売上・営業利益ともに横ばいであり、2019年度・20年度は2年連続の最終赤字。従業員の意識調査でも、「会社に対する誇りがもてる」という社員は40%台、「会社の未来に希望がもてる」はわずか25%でした。「業績も厳しければ社内の雰囲気も前向きになれない、停滞状況にあった」と山村氏は振り返ります。
そこで着手したのが、2021年度からの全社規模の構造改革です。イトーキの歴史上初めて外部から社長を迎え、最重要課題に従業員のエンゲージメント向上を掲げました。そこには、湊社長がもつ経営者の信念「モチベーションが高く、愛社精神を持った社員が良い仕事をし、良い結果につなげてくれると、信じて疑わない」がありました。
湊社長は、イトーキの成長を阻害する3つの課題も指摘。社員間の平等を重んじるあまり人事制度が一律になる「平等一律」、従来のやり方を重視する「前例踏襲」、そして「指示待ち・出る杭は打たれる」という社風です。エンゲージメントスコアを伸ばすには、この企業風土にもメスを入れなければなりませんでした。
新たな中期経営計画でとった方針は、湊社長によるタウンホールミーティング、役員による自部門への展開、全社員で取り組む“強みにフォーカス”したポジティブな企業風土の醸成の3つです。
タウンホールミーティングは全拠点で開催し、社長から社員へ直接メッセージを伝えてきました。役員による自部門への展開では、役員それぞれが自部門のエンゲージメントスコアに責任をもち、取り組みを進めています。
全社員で取り組む企業風土改革でも、多様な施策を実施してきました。例えば、社外のサービスを用いた一人ひとりの「強みの把握」、社内ポータルサイトに掲載される現場で活躍する社員を紹介する「個人推し」の活動、従業員が業務以外のプロジェクトに参加する「手挙げ活動の推奨」などです。
他方、人材戦略・人事制度改革では「専門性の強化」「成果を生み出す人材への処遇」「イキイキと働き続けられる環境づくり」という基本方針を策定しています。ゼネラリストが評価されやすい制度を改革し、スペシャリストも適正に評価される等級報酬制度を導入。専門性・多様性のある人材採用のために経験者採用も大幅に強化しました。
さらには、全社一律・階層別研修を廃止し、手挙げ方式の選択型研修や選抜型次世代経営者育成を導入。より主体的なキャリア形成を促すため、20代からのキャリアプランセミナーも実施しています。
こうした取り組みにより、従業員エンゲージメントのスコアは82.5%にまで高まり、売上高・営業利益も右肩上がりに。2024年度は売上高1,384億円、営業利益100億円を達成しました。
イトーキの取り組みの独自性は、「オフィス」にもあります。東京・日本橋の本社をはじめとする各拠点では、社員が目指すオフィスを体現。例えば、北陸支店では「次の働き方へ・お客さまや地域とのつながりを持てる場へ」として温かく開放的な雰囲気に、札幌支店では「居心地良い空間で、生産性高く働く」として無駄のない機能的な空間になっています。工場でも、安全性や品質管理とのバランスを取りながら、休憩室やトイレなど、従業員の周りの環境を改革してきました。
人事活動におけるオフィス投資で山村氏が「ぜひ、おすすめ」と力強く語ったのが、オープンフロアでのインターンシップを実施することです。最大のメリットは、社員の日常の姿、オフィスの雰囲気をインターンに参加する学生が肌で感じられること。入社後の「こんなはずでは」というネガティブなギャップを減らし、インターン参加者からの本採用率が2.4倍となりました。
社外からの評価も上昇しています。新卒向け求人情報サービス「みん就」で実施された2026年卒就活生の人気企業ランキングでは84位にランクイン。「柔軟な働き方ができそう」では9位、「ワークライフバランスを重視する学生の志望企業」では2位、「説明会を通して理解が深まった」企業では堂々の1位を獲得しています。
エンゲージメントスコアが伸びる中で、山村氏は社員の変化にも気づかれたとのこと。その中でも特に大きな変化が、「指示待ち・出る杭は打たれる」からの脱却です。
例えば、知財チームから湊社長へダイレクトに行われたビジネスモデルの提案。長らく温められたアイデアであり、社長や山村氏から見ても高く評価できる内容でした。「ぜひ進めよう」と話がまとまり、社長直轄プロジェクトがスタートしています。
業務改善提案では、バックオフィス系の社員から内部統制に切り込む内容が提案され、業務効率の飛躍的向上を実現。滋賀県にある工場からは通勤用の中古バスの購入が提案され、夏の過酷な暑さや冬の寒さから社員を守る快適な通勤時間と、独自のラッピングを施したことで企業ブランディングの両方を実現しました。
選択型研修の参加者数についても、人事による参加強制がないにもかかわらず、2022年の910人から2年間で2倍以上の1,846人に増加。海外で活躍したい社員の要望をきっかけとして「公募型異動」も実現しました。
講演の終わりには、参加者から工場での取り組みや、評価・報酬制度、手挙げ活動成功のポイントなど、実践的な内容に関する質問が相次ぎました。山村氏は、現場からの反発への対応や社員の自主性を重んじる姿勢など、1つ1つに丁寧に回答。施策のより具体的なイメージを伝えました。
セミナー後のアンケートでは、「当社も工場があり、貴社と近い状況だったのでとても参考になりました」「手を挙げた人をいかに会社が守るのか、そしてトップが取り組むことの重要性と波及効果が大変よくわかり、ためになりました」「実例を詳細にご紹介いただき、実際に起こり得そうなハレーションについても触れていただき、非常に参考になりました」といった感想も。イトーキの多角的な取り組みから、人的資本投資や組織風土改革についての大きなヒントが得られたことがうかがえます。
今後も、さまざまな業界から有識者の方をお招きし、皆様のビジネスのヒントをお届けします。詳細は、HR×LEARNINGスペシャルセミナーの特設サイトにてご案内しておりますので、ぜひご覧ください。また、ご興味のあるテーマやご要望、どんな小さなお悩みでも、どんどんお寄せください。
人は変われる
私は、社会人4年目でイトーキに営業職で転職しました。
自分自身、自信をそこそこ持って入社しましたが、同年代の社員とのレベル差にとても驚きました。
当時は成績が上がらず、商談に負ける理由を常に探すような状況でした。
評価シートの上司コメントには「達成意欲に欠ける」「受け身のスタンスは改めるべき」等が毎年記載されていました。今読み返しても恥ずかしい限りです。
そんな状況が続く中、30代に新規案件を受注した際、上司からメンバーの前でひと言褒めて貰えたとき、自分の中のスイッチが一気に入り前向きに仕事に取り組むようになりました。そして、物事に向き合えるようになりました。
その後、40歳の時に新規事業会社立上げのチャンスがあり、無謀にも手を挙げ社長を経験しました。
3名でのスタートでしたが、良いことも厳しいことも、会社の最終責任者として様々な経験をしました。
その日々は大変充実した毎日でした。
こうした経験から、利益や社員のモチベーション等が企業経営にとって如何に重要か思い知らされたのです。
このように、私はかつて後ろ向きな社員でした。しかし、私は上司からの一言で自分自身の仕事への向き合い方を変えることができました。
また、手挙げで責任のある役割を経験したことで、「人は変われる」という強い実感を得ました。
私は、「人は変われる」ということを心から信じています。
当社が目指す「強みを活かす」ポジティブな企業文化や「手挙げの推奨」は、私自身の経験からも、本当に必要なことだと感じています。
必ず、人は変われます。
(山村氏)
※全て開催当時の情報です