ベネフィットとは?マーケティングにおける重要性、メリットとの違い、活用例



顧客が商品やサービスを使って得られる「価値」や「恩恵」のことを、「ベネフィット」といいます。
近年、消費者は商品の機能だけでなく、使うことで得られる体験を重視するようになりました。そのため、企業はマーケティング施策において、ベネフィットを顧客に明確に伝えることが重要だといわれています。
本コラムでは、ベネフィットの基本的な意味からメリットとの違い、種類別の特徴、効果的な見つけ方や伝え方まで、具体例を交えてわかりやすく解説します。
ベネフィットとは
はじめに、ベネフィットの意味・語源とマーケティングで重要視される理由、企業の成功事例について見ていきましょう。
ベネフィットの意味と語源
ベネフィットとは、顧客が商品やサービスを使うことで得られる価値や利益、恩恵を表す言葉です。英語の「benefit(利益・恩恵・便益)」が語源となっています。
「ベネフィット」という言葉は、マーケティング以外の分野でも広く使われています。例えば企業の福利厚生制度や医療の分野では、「利益・恩恵」という基本的な意味で目にすることが多いのではないでしょうか。
本コラムでは、マーケティング分野におけるベネフィットについて解説します。
マーケティングでベネフィットが重視される理由
マーケティングの世界には、「ドリルを売るには穴を売れ」という有名な教えがあります。これは、経済学者のセオドア・レビット博士の「人々が欲しいのは1/4インチのドリルではない。彼らが本当に欲しいのは1/4インチの穴なのだ」という言葉から生まれました。
現代の消費者は、商品やサービスを選ぶ際、機能や価格だけでなく「使ったときの体験」や「自分の気持ちがどう変わるか」を重視する傾向が高まっていることもあり、ベネフィットはマーケティングにおいてますます重要視されています。
ベネフィットの企業事例
ベネフィットを効果的に活用した成功例をご紹介しましょう。
例えば、ナイキの「Just Do It」キャンペーンはその代表例だといえるでしょう。「高性能なスポーツシューズ」と商品の機能を強調するのではなく、「挑戦する勇気」「理想の自分になれる」というベネフィットを広告の前面に打ち出しました。その結果、多くの人の心を掴み、大成功を収めています。
また、スターバックスの「第三の場所」というコンセプトもベネフィットを効果的に活用した事例の1つです。美味しいコーヒーを提供するだけでなく、「家でも職場でもない、ほっと一息つける居心地の良い空間」というベネフィットを打ち出すことで、他社との差別化に成功しています。
ベネフィットとメリットとの違い
続いて、ベネフィットとよく似た意味で使われる言葉「メリット」について見ていきましょう。どちらも商品の良い点を表す言葉ですが、「商品目線」か「顧客目線」かという点で大きく異なります。
まず、メリットは簡単にいうと「商品やサービス自体の優れた点」のことです。性能や素材といった、商品そのものの客観的な特徴を指します。
一方、ベネフィットは「メリットによって顧客が実際に得られる価値や体験」のことです。「時間が節約できる」「ストレスがなくなる」「安心して使える」など、顧客の生活に起こる具体的な変化を表します。
ある掃除機のメリットとベネフィットを例に挙げ、この2つの概念の違いや関係性を見ていきましょう。
【掃除機の「メリット」と「ベネフィット」の比較表】
メリット | ベネフィット |
---|---|
吸引力が強い | 短時間で掃除が終わり、自由な時間が増える |
軽量設計 | 掃除が楽になり、体への負担が減る |
静音性に優れている | 夜でも気にせず掃除ができる |
フィルターが簡単に洗える | お手入れの手間がかからず、いつでも清潔 |
上記のように、商品・サービスのベネフィットは、それぞれのメリットから派生するという関係になっています。
もちろんメリットは重要ですが、実際に消費者が商品を選ぶ際、「吸引力が強い」「軽量設計」という機能自体に、直接魅力を感じているわけではありません。「短時間で掃除が済んで、別のことに時間を使える」「重くないからラクに掃除ができる」という結果に価値を見いだして購入を決めるのです。
ですから、マーケティングでは商品の機能(メリット)だけでなく、顧客にとっての価値(ベネフィット)をしっかり伝えることが重要になってきます。
ベネフィットの3分類(機能的・情緒的・自己表現的ベネフィット)
ベネフィットは、その性質によっていくつかの種類に分けられます。カリフォルニア大学名誉教授で経営学者のデイヴィッド・アーカー氏は、ブランド価値の研究において、ベネフィットを以下の3つに分類しました。
- 機能的ベネフィット
- 情緒的ベネフィット
- 自己表現的ベネフィット
それぞれの特徴を具体例と一緒に見ていきましょう。
機能的ベネフィット
機能的ベネフィットとは、商品やサービスの機能・性能によって得られる具体的な効果のことです。数字で測りやすく、他の商品と客観的に比較できるという特徴があります。
【機能的ベネフィットの例】
- 時間を節約でき、他のことに時間を使える
- 作業効率が向上し、生産性が高まる
- コストを削減でき、家計や予算に余裕が生まれる
- 身体的負担が軽減され、疲れにくくなる
- 操作に迷わず、ストレスなく使える
機能的ベネフィットがはっきりしていると、顧客は商品の価値を理解しやすくなり、選択もしやすくなります。
情緒的ベネフィット
情緒的ベネフィットは、商品やサービスを使ったり持ったりすることで得られる、心の変化を表します。
【情緒的ベネフィットの例】
- 楽しい気持ちになれる
- 安心感が得られる
- 快適に過ごせる
- かっこいい気分になれる
- ほっとできる
- 優越感を味わえる
- 充実感を得られる
情緒的ベネフィットはその人の価値観や状況によって変わるため、ターゲットに合わせて選択することが大切です。
実際の商品では、機能的ベネフィットと情緒的ベネフィットが同時に存在するケースが一般的です。スマートフォンを例に見てみましょう。
【スマートフォンの機能的・情緒的ベネフィットの例】
機能的ベネフィット |
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情緒的ベネフィット |
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情緒的ベネフィットは商品に機能以上の価値を与え、顧客のブランドへの愛着を深めるといった効果が期待できます。その結果、企業は顧客と長期的な関係を構築しやすくなるといわれています。
自己表現的ベネフィット
自己表現的ベネフィットは、商品やサービスを通して顧客が「自分らしさ」や「価値観」などを表現できる価値のことです。
【自己表現的ベネフィットの例】
- 自分らしくいられる
- 理想の自分に近づける
- こだわりを周りの人に示せる
- 自分に自信が持てる
- 価値観や個性を表現できる
- 所属するコミュニティを表現できる
自己表現的ベネフィットは、特に「今よりもっと良い自分になりたい」という思考を持っている人に響きやすいといわれています。そのため、高級ブランドや高価格帯の商品・サービスのブランディングによく用いられます。
ベネフィットの効果的な見つけ方と伝え方
最後に、自社の商品・サービスで魅力的なベネフィットを発見し、顧客に効果的に伝えるための4つのステップをご紹介します。
(1)商品の特徴からメリットを整理する
まず、自社商品・サービスの機能や特徴を客観的に洗い出しましょう。開発背景、顧客の声、専門家の評価なども含めて、商品そのものの優れた点(メリット)を明確にします。
オンライン英会話サービスを例にすると、「ネイティブ講師とのマンツーマンレッスン」「24時間いつでも受講可能」「レッスン録画機能付き」のような機能面の整理から始めます。
(2)顧客目線でベネフィットに変換する
次に、それぞれのメリットが顧客の生活にどんな価値をもたらすかを考えます。商品目線から顧客目線への転換がポイントです。
先ほどの例では、「ネイティブ講師とのマンツーマンレッスン」というメリットが「海外出張で堂々と英語で発表でき、キャリアアップにつながる」というベネフィットに変わります。
(3)ターゲットに合わせて3つのベネフィットを使い分ける
顧客の年齢や価値観に応じて、機能的・情緒的・自己表現的ベネフィットを使い分けましょう。
一般的に、効率性や成果を重視する若い世代には機能的ベネフィットが、安心感や心地良さを大切にする上の世代には情緒的ベネフィットが響きやすいという傾向があります。
例えば、同じオンライン英会話サービスでも、20代の若手社員には「海外案件を任される機会が増える」、40代以上のベテラン社員には「自分に合った環境・ペースで安心して学べる」のように訴求することで、より効果的に伝えられるでしょう。
(4)データと体験談でベネフィットに説得力を持たせる
ベネフィットをより説得力のあるものにするためには、具体的なデータや実際の体験談を活用することが重要です。
「多くの人が上達しています」という曖昧な表現よりも、「受講者の85%が3カ月でTOEIC100点アップを実現」と具体的な数字を用いた方が伝わりやすくなります。
また、ベネフィットを伝える際に「このオンライン英会話のおかげで海外出張でのプレゼンが成功し、念願の海外駐在が決まりました」といったエピソードを添えると、より共感を呼びやすくなるでしょう。
このように段階を踏んでベネフィットを構築すれば、商品の潜在的な価値を引き出し、各顧客層に効果的にメッセージを伝えることができます。