ディベートとは?意味とやり方、ビジネス研修のお題・テーマ例と進め方のコツ
公開日:2025.12.24

ディベートとは、特定のテーマについて賛成・反対の立場に分かれて議論する手法です。企業研修や教育現場では体系的なルールに従って実施され、論理的思考力やコミュニケーション能力を鍛える目的で活用されています。
本コラムでは、ディベートとは何かという基本的な意味から、ビジネス研修で使われるディベートのやり方や進行手順、実際のお題・テーマ例、効果的に進めるためのコツまでをわかりやすくお伝えします。
ディベートとは
はじめに、ディベートの基本的な意味と特徴を見ていきましょう。
ディベートの意味・定義
ディベートとは、特定のテーマについて賛成・反対の立場に分かれて議論する手法です。例えば「たばこ税をさらに値上げするべきか」「企業は週休3日制を導入すべきか」といったテーマで、論理的な議論を展開します。
ディベートの定義として、ディベート研究者の安井省侍郎氏(2014)は次のように定めています。*
- 1. 集会や議会等の公共的な議論を行う場において、
- 2. 対立する複数の発言者によって議論がなされ、
- 3. 多くの場合、議論の採否が議論を聞いていた第三者による投票によって判定される
教育現場やビジネス研修では、こうした形式を用いたディベートプログラムが活用されています。
ただし、日常的には「議論」や「討論」の広い意味で使われることも多く、会議での意見交換や社内の方針検討なども「ディベート」と呼ぶ場合があります。
*出典:安井省侍郎(2014)『初心者のためのディベートQ&A(電子版)』
ディベートの本質的な特徴
ディベートは感情的な口論と混同されがちですが、実際は明確なルールに基づく論理的な議論手法です。相手を言い負かすことが目的ではなく、異なる視点から物事を検討し、偏った判断を避けて最適な結論を導き出すために行います。
ディベートでは、参加者が反対・賛成のどちらの立場を担当するかを抽選で決めることがあります。そのため、自分の個人的な意見とは関係なく、割り当てられた立場で論理的な主張を組み立てるのがディベートの特徴です。
最も重要なのは、「審判が最終的な判断を下す」という点です。参加者の役割は、審判に向けて「なぜ自分たちの案が優れているか」を論理的に説明し、適切な判断材料を提供することにあります。
ディベートと他の議論形式との相違点
ディベート、ディスカッション、スピーチ、口論と混同されがちですが、目的と進め方が大きく異なります。
ディベートとディスカッションの違い
ディベートとディスカッションの最も大きな違いは、ディベートが「対立して競う」ものであるのに対し、ディスカッションは「協力して解決策を探す」ことにあります。
ディベートでは、賛成・反対の立場に分かれて第三者(審判)を説得することを目指します。審判が論理的な説得力を評価して勝敗を決めます。
対してディスカッションは、参加者が自由に意見を交換し、話し合いを通じて合意や解決策を見つけることが目的です。立場を固定する必要はありません。
ディベートとスピーチの違い
スピーチは1人が大勢に向かって話す「一方通行」の形式です。聴衆は話を聞いて理解することが役割で、発表者の考えに共感してもらうことが目的です。
ディベートは賛成派と反対派が「やり取り」をしながら議論する双方向の形式です。お互いに話し合うのではなく、どちらも審判という「第三者」に向かって、「こちらの意見が正しい」ことを証明しようとする点で大きく異なります。
ディベートと口論の違い
ディベートと口論の違いは、建設的な議論になるかどうかです。
ディベートでは「発言時間は5分まで」「必ず根拠を示す」といった明確なルールに従って進め、参加者は冷静に論理を組み立て、審判が客観的に判定します。たとえ激しく議論しても、最後は「お疲れ様でした」と握手できる関係です。
口論では感情が先に立ち、相手をやり込めることが目的になります。ルールもなく、声の大きい人や執拗な人が「勝つ」ことが多く、後味の悪い結果になりがちです。
重要なのは、ディベートでは「あなたの意見には反対です」と言っても「あなたという人間を否定している」わけではない点です。意見と人格は別物として扱います。
ディベートの主な形式と特徴
ディベートには大きく分けて2つの形式があります。事前にしっかり準備して臨む「アカデミック・ディベート」と、その場での機転を重視する「パーラメンタリー・ディベート」です。
アカデミック・ディベート
アカデミック・ディベートでは、事前準備が何より重要です。決められたテーマについて時間をかけて調査し、統計データや専門家の意見などの客観的な根拠を集めて議論を組み立てます。
主張をする際は必ず理由と根拠をセットで示すことが求められ、論理的な思考力を鍛えることに重点が置かれています。日本の企業研修や学校教育で行われているディベートの多くがこの形式です。
パーラメンタリー・ディベート
パーラメンタリー・ディベートは、イギリス議会の討論をお手本にした形式です。短い準備時間で説得力のある論理を組み立てる必要があり、話し方や身振り手振りも評価対象に含まれます。
瞬発力や表現力を身につけるための訓練として効果的だと言われています。
ディベートのビジネスでの活用
ディベートでは情報を整理して筋道立てて主張を伝えることが求められるため、論理的思考力やコミュニケーション能力が自然と身につきます。こうした効果が注目され、ビジネスにおいて様々なシーンで活用されています。
企業研修での活用
近年、社員研修の一環として、ディベートプログラムを実施する企業が増えています。これは「アクティブラーニング」と呼ばれる学習手法の1つで、受け身で話を聞くだけでなく、参加者が積極的に議論に参加する方式です。
実際に議論を交わすため、学んだ内容が記憶に残りやすくなり、問題解決力の強化に効果的だと言われています。
コラム「アクティブラーニングとは|企業研修におけるメリット・デメリットや活用のポイント」はこちら
採用選考での活用
採用選考では、応募者の論理的思考力やコミュニケーション能力を客観的に評価するツールとして活用されています。
審判は「論理性」「協調性」「表現力」「積極性」といった具体的な項目に基づいて判定することで、候補者の能力を多角的に判断できます。
日常業務での活用
実際の業務では、競技ディベートのような厳格なルールに捉われず、柔軟に活用されるケースも多いようです。
例えば、新事業への参入を検討する経営会議において、「参入賛成派」と「参入反対派」に分かれて議論します。両方の意見を踏まえて最適な経営判断を下すことが目的なので、最終的な勝ち負けを決めない場合もあります。
ディベート方式で行うことで、思い込みや先入観に捉われることなく、様々な角度からリスクとメリットを検討できます。
ディベートで身につく主なスキル
ディベートを通じて、ビジネス現場で求められる以下のような重要なスキルが自然と身につきます。
論理的思考力
ディベートでは「なぜそう言えるのか」を常に問われるため、論理的に考える習慣が身につきます。感情や思い込みだけでは、審判を説得できないからです。
特に大きな効果をもたらすのが、賛成・反対の両方の立場を体験することです。自分とは異なる視点で議論を組み立てる過程で、これまで見えなかった論理や背景事情に気づきます。思い込みや先入観から脱却するきっかけにもなるでしょう。
コラム「ロジカルシンキング(論理的思考)とは?必要性と基本的な考え方、トレーニング方法を解説」はこちら
コミュニケーション能力
限られた時間で第三者にわかりやすく伝える必要があるため、要点を整理して話すスキルが向上します。専門的な内容も、相手のレベルに合わせて説明する能力が身につきます。
同時に、相手の主張を正確に理解するための「傾聴力」も鍛えられます。ディベートでは相手の話を注意深く聞き取り、論理の構造や真意を把握することが不可欠です。この過程で、表面的な言葉だけでなく、相手が本当に伝えたいことを理解する力が身につきます。
チームで参加する場合は、メンバーと連携しながら一貫した主張を組み立てる協調性も養われます。
コラム「傾聴とは?意味や実践のポイント、ビジネスで身につける方法を解説」はこちら
情報処理能力
ディベートでは、相手の話を聞きながら「どこに反論の余地があるか」を同時に考えなくてはいけません。この訓練により、情報を素早く整理・判断する力が鍛えられます。
事前準備では、統計データや専門家の意見など膨大な資料を収集するため、情報を整理・活用するスキルも身につきます。
批判的思考力
ディベートでは、相手の主張をただ聞くだけでなく、「その根拠は本当に信頼できるのか」「論理に飛躍はないか」といった分析的な視点で評価する力が身につきます。
こうした思考習慣により本質を見抜く力が養われるため、ビジネスでの重要な意思決定において、表面的な情報に惑わされず、より客観的で的確な判断ができるようになります。
ディベートの一般的な進行手順
ディベートは、立論・反対尋問・反駁・最終弁論・判定の5つのステップで進行します。それぞれの段階で何を行うのか、具体的に見ていきましょう。
(1)立論
賛成側と反対側が、それぞれの基本的な主張を発表する段階です。
賛成側は「なぜこの案を採用すべきか」を説明します。具体的なメリットや期待できる効果を中心に、事前に準備した内容を発表します。
続いて反対側が「なぜこの案に問題があるか」を説明します。想定されるデメリットやリスクを指摘し、賛成側の主張に疑問を投げかけます。
(2)反対尋問
お互いに質問をし合う時間です。立論で不明だった点を確認したり、相手の主張の矛盾点を指摘したりします。
質問する側に主導権があり、「つまり○○ということですね?」といった確認や、「それは矛盾していませんか?」といった追及も可能です。
(3)反駁(はんばく)
反対尋問で受けた攻撃に対して、自分たちの主張を立て直す段階です。同時に、相手の弱点を攻撃することもできます。
通常は反対側から始まり、賛成側、反対側、賛成側の順で行います。反対側が有利な状況になるため、賛成側は攻撃を受け止めつつ、最終弁論で巻き返せるよう主張を組み立てる必要があります。
(4)最終弁論
それぞれが最後の主張を行います。これまでの議論を整理し、「なぜ自分たちの主張が優れているか」を審判にわかりやすく説明します。
単に最初の主張を繰り返すのではなく、相手との議論で明らかになったポイントを踏まえて総括することが重要です。
(5)判定
審判が勝敗を決定します。賛成側のメリットと反対側のデメリットを比較し、より説得力があった側の勝利となります。
ディベートに引き分けはありません。甲乙つけがたい場合は、「現状を変える必要がない」と判断され、反対側の勝利になります。
ディベートを実施する際のルール
ディベートを実施する際の基本ルールは以下の通りです。
適切で公正なテーマを選ぶ
参加者全員が理解でき、論理的な議論が可能なテーマを選びます。例えば、「小学生にスマートフォンを持たせるべきか」といった身近な話題なら誰でも参加できますが、「量子コンピューターの暗号解読リスクに対する国際規制は必要か」のような専門的すぎる内容は適しません。
また、議論の余地があることも重要です。「健康は大切である」のように答えが明らかなものや、宗教など個人の価値観に深く関わる内容は、テーマとしてふさわしくありません。
どちらか一方に明らかに有利なテーマも避け、賛成側・反対側の双方に十分な根拠を見つけられる内容を選びましょう。
用語の定義を明確にする
ディベート開始前に、テーマに含まれる重要な言葉の意味をはっきりさせておきます。
例えば「働き方改革を推進すべきか」というテーマなら、「働き方改革とは何を指すのか」を最初に決めておくことで、議論がかみ合いやすくなります。
必ず根拠を示す
意見を述べる際は、必ず理由と客観的な根拠をセットで提示する必要があります。「なんとなく思う」「感覚的に反対」といった感情論では審判を説得できません。
統計データや専門家の発言など、信頼できる情報で主張を裏付けることが重要です。
制限時間を守る
立論、反対尋問、反駁、最終弁論の各段階に制限時間を設けます。時間内に要点をまとめて話すスキルが身につくだけでなく、だらだらした議論を防ぐ効果もあります。
ディベート論題の分類とテーマ例
企業研修でディベートを実施する際、テーマ選びが重要なポイントになります。テーマは大きく3つの種類に分類され、それぞれ異なる思考力を育てることができます。
政策論題(制度・政策系)
政策論題は、特定の制度や政策の導入について「○○すべきかどうか」または「○○すべきか否か」を議論するテーマです。現実的で具体性があり、参加者全員が理解しやすいことから、賛成・反対の根拠を見つけやすいのが特徴です。
賛成側はメリット(期待される良いこと)を、反対側はデメリット(予想される悪いこと)を提示して議論します。
【政策論題のテーマ例】
- 「企業は社員の副業を全面的に許可すべきか」
- 「新卒一括採用制度を廃止すべきか」
- 「マイナンバーカードの取得を義務化すべきか」
- 「コンビニの24時間営業を制限すべきか」
- 「高校での金融教育を必修科目にすべきか」
- 「運転免許の更新を3年ごとに義務付けるべきか」
- 「ペットの飼育に免許制を導入すべきか」
推定論題(事実・効果検証系)
推定論題は、ある事実や効果について「正しいか間違いか」「効果があるかないか」を検証するテーマです。明確な正解が出しにくいため、豊富な知識や柔軟な発想力、データ分析力が求められます。
【推定論題のテーマ例】
- 「SNSの利用時間制限は生産性向上に効果があるか」
- 「リモートワークは従業員の創造性を高めるか」
- 「早起きは仕事のパフォーマンス向上につながるか」
- 「読書習慣は記憶力向上につながるか」
- 「スマートフォンの使用制限は睡眠の質を改善するか」
価値論題(価値観比較系)
価値論題は、異なる価値観を比較して優劣を論じるテーマです。3つの分類の中で最も難易度が高く、抽象的になりやすいという特徴があります。感情的な議論に陥りやすいため、テーマの定義を明確にし、論理的根拠に基づいて議論することが重要です。
【価値論題のテーマ例】
- 「散歩とランニング、健康維持にはどちらが適しているか」
- 「少数の親友と多数の知人、どちらの人間関係が豊かだと言えるか」
- 「計画性と柔軟性、仕事においてどちらが重要か」
- 「読書と映画鑑賞、教養を身につけるにはどちらが効果的か」
- 「節約と投資、将来の安定につながるのはどちらか」
ディベートをうまく進めるコツ
企業研修や採用選考でディベートを導入する際、おさえておきたいポイントがあります。順番に見ていきましょう。
審判を意識するように促す
ディベート開始前に、参加者全員に「相手をやり込めるのではなく、審判を説得することが目的」であることを明確に伝えましょう。多くの参加者は相手と直接議論してしまいがちですが、これでは効果が半減してしまいます。
「話すときは審判の方を向いて」「審判にわかりやすい言葉で説明を」といった具体的な指示を出すことで、参加者の意識が変わります。
ディベート会場のレイアウトも大切です。賛成側・反対側・審判が三角形を描くように配置するとよいでしょう。
議論の記録を定着させる
参加者全員にメモを取ることを義務付けましょう。相手の発言をメモしながら聞くことで、矛盾点の指摘をしやすくなります。
記録を取ることで、参加者は自然と「なぜそう言えるのか」「根拠は十分か」を考える習慣が身につきます。この習慣は、実際のビジネス会議でも「重要なポイントを聞き逃さない」「論理的な判断ができる」といった実用的なスキルとして活用できます。
簡潔な話し方を指導する
限られた時間で効果的な主張を行うには、相手に伝わりやすい簡潔な話し方が必要です。そこで活用したいのが「PREP法」です。この手法を参加者に事前指導することで、議論の質が向上します。
PREP法は以下の4つの要素で構成されています。
- Point(結論):一番伝えたい主張や結論の提示
- Reason(理由):その結論に至った理由や根拠、データの提示
- Example(具体例):聞き手の理解を深めるための事例や比喩の提供
- Point(結論):最初の結論の再確認と強調
主催者は参加者に対して「最初の30秒で結論を言い切る」「必ず数字で根拠を示す」「身近な具体例を1つ用意する」といった具体的な指示を出しましょう。実際の議論中も、発言が長くなりそうな参加者には「結論から話してください」と声をかけて軌道修正することが大切です。
ディベートを実施する際の注意点
ディベートを実施する際は、参加者が安心して議論に参加できる環境作りが大切です。
参加者の心理的負担を軽減する
日本人は特に「意見を批判される=人格否定」と受け取りやすい傾向があります。開始前に「これはルールに基づいたゲームです」「割り当てられた立場で論理的に議論することが目的です」と明確に伝え、参加者の不安を取り除きましょう。
「今日はAチーム、Bチームに分かれて議論してもらいます。どちらのチームになっても、その立場の最善を尽くしてください」といった前置きをすることで、個人の価値観と切り離して参加できる雰囲気を作れます。
また、議論中に緊張している参加者がいたら「深呼吸してゆっくり話してください」「時間はまだありますよ」といった声かけで緊張をほぐすことも効果的です。
発言機会の偏りを防ぐ
一部の積極的な参加者だけが話し続け、控えめな参加者が発言できなくなることがよくあります。主催者は「まだ発言していない方はいませんか?」「○○さんはどのように考えますか?」と意識的に全員に発言を促しましょう。
より多くの参加者が議論の経験を積めるように、チーム内で「この人ばかり話している」状況が見えたら、「チーム内で役割分担をして、全員が発言できるよう調整してください」と指示を出しましょう。
議論が行き詰まったときの対処法
議論が白熱しすぎて収拾がつかなくなったり、逆に盛り上がらずに沈黙が続いたりする場合があります。そんな時は主催者が適切に介入することが必要です。
議論が混乱している場合は「一度整理しましょう。今の論点は○○についてですね」と交通整理を行います。沈黙が続く場合は「賛成側の方、相手の主張で気になった点はありませんか?」といった具体的な問いかけで議論を再開させます。
どうしても議論が成り立たない場合は、一度中断して「5分間、チーム内で戦略を相談してください」と時間を与えることも有効です。

