サービス残業は違法!法律と罰則、防止対策のポイント

published公開日:2023.11.28
目次
サービス残業が常態化した会社では、経営者や上司が黙認・強要するケースが見られます。これは、労基法違反であり、罰則もあります。従業員が自主的に行った場合でも違法です。

本コラムでは、サービス残業の定義や罰則、防止対策のポイントを解説。会社全体でサービス残業の防止対策を講じましょう。

サービス残業とは‍‍

日本企業では長時間労働が一般化しており、賃金が支払われないサービス残業が黙認されてきました。しかし、サービス残業は違法であり、処罰の対象となります。

従業員にサービス残業をさせないために、まずは「どのような働き方がサービス残業にあたるのか」を把握しましょう。

サービス残業の定義

サービス残業とは、労働者に本来支払われるべき賃金を支払わずに法定労働時間を超えた労働(時間外労働)をさせることです。「賃金不払残業」とも呼ばれ、時間外労働だけでなく、深夜労働、休日労働に対して適正な賃金が支払われないことも含まれます。

そもそも法律で定められた「法定労働時間」は、休憩時間を除いて「1日8時間、1週間で40時間」※1
これを超えれば、原則として残業代を支払わなければなりません。

平成29年1月20日、労働時間を適正に把握することを目的として、厚生労働省(以下、厚労省)は企業向けのガイドライン※2を策定しました。企業には従業員の時間外労働の実態を正しく把握し、賃金不払残業を防止する取り組みが求められています。

※1 厚労省「労働時間・休日※2 厚労省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

時間外労働がサービス残業に該当しないケース

一方、1日8時間、週40時間という法定労働時間を超えても、割増賃金を支払う必要がないケースもあります。
よく知られたところでは、部長や工場長などの管理監督者の場合です。また、事業場外労働のみなし労働時間制や裁量労働制の対象労働者も、法定労働時間の適用対象外となります。

(1)事業場外労働のみなし労働時間制、裁量労働制の場合

事業場外労働のみなし労働時間制や裁量労働制は、外回りの多い営業職、専門的な業務を行う者、企画業務を担う者に見られる働き方です。

事業場外労働のみなし労働時間制は、事業場に滞在する時間が短いために実際の労働時間の記録・算定が困難であることから、一定時間労働したとみなすものです。

裁量労働制では、一定の成果を基準に考えます。働く時間や仕事の進め方について使用者が具体的な指示を出すのではなく、雇用契約に記載されたみなし労働時間に基づいて賃金が支払われます。

こうした働き方では、みなし労働時間が法定労働時間を超えない限り、残業代の支払いは発生しません。
ただし、休日労働や深夜労働については、実労働時間に基づいて割増賃金を適用した賃金の支払いが必要です。

(2)残業代に関する規定を設けている場合

残業代に関する規定を設けている場合も、一定時間までは残業代の支払いが発生しません。例えば、雇用契約書に「20時間分の残業代を含む」と明記されている場合です。あらかじめ毎月の給料に残業代が含まれていると考えるためです。

しかし、労働者が雇用契約書に記載された一定時間を超える残業を行った際は、超過分の残業代を支払わなければなりません。「みなし残業代が含まれているから、残業代は一切払わなくていい」という考え方は誤りです。

毎年公表されるサービス残業の実態

厚労省は、毎年賃金不払残業に関して労働基準監督署(以下、労基署)が行った指導件数や事例などを公表しています。日本労働組合総連合会(以下、連合)も、サービス残業の違法性を繰り返し指摘してきました。

厚労省、連合が報告するサービス残業の実態

2014年に連合が実施した「労働時間に関する調査」によれば、正規・非正規を問わず、労働者の4割強がサービス残業を行っていました。サービス残業の時間は、一般社員で平均18.6時間/月、課長クラス以上は平均28.0時間/月です※1

より新しいデータである厚労省発表の「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)」でも、依然として2万531件が賃金不払事案として報告されています※2

働き方改革が叫ばれて以降、残業時間削減に取り組む企業は増えました。しかし、「業務効率化が不十分なために仕事が終わらない」「長時間労働を報告すると睨まれる」などの理由から、サービス残業を余儀なくされている労働者は依然として少なくないようです。

※1 連合「労働時間に関する調査」※2 厚労省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)」

サービス残業は労働者にネガティブな印象を与える

サービス残業は労働基準法(以下、労基法)違反ですので、早期に是正しなければなりません。「当社はサービス残業が暗黙の了解である」という企業風土で活動してきた会社であっても、今や労働者にとって非常にネガティブな印象を与えるものとなっています。

日本労働調査組合が実施したアンケート※3によれば、「ブラック企業である」「ブラック企業であるかもしれない」という疑念を抱く理由の筆頭が「サービス残業」でした。

実態を報告する声には、次のようなエピソードが見られます。

  • ●残業代が30分ごとに出るが、強制的に29分でタイムカードを切らされる
  • ●上司から「サービス残業ではなく思いやり残業だと思って仕事しろ」と言われた

労働者は、サービス残業に対して決して肯定的な感情を抱いてはいません。会社への不信感が募れば企業に対するエンゲージメントや労働者のモチベーションを下げることにもつながり、ひいては採用活動に支障を来す恐れもあるでしょう。
※3 日本労働調査組合「ブラック企業に関するアンケート調査 2021年7月」

違法なサービス残業、訴えられたらどうなる?‍罰則は?

サービス残業を労働者に行わせた場合、企業側は労基署による調査や指導を受けたり、訴えられて不払いとなっている賃金の支払いを命じられたりします。

また、労基署の調査に協力しない場合や適切に労働時間を記録・保存していない場合も法律違反として罰則が適用されることがあります。

サービス残業を違法とする根拠法

サービス残業が違法である根拠は、労基法にあります。労基法第32条では、法定労働時間は休憩時間を除いて1日8時間、1週間40時間までと定めており、同法第37条では、法定労働時間を超える労働、深夜労働、休日労働に対して割増賃金を支払うことを企業に義務づけています。

サービス残業を行わせた場合、同法119条1号により、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。多くの場合、まず労基署の調査が入り、不払残業があった場合は労働者に対してその支払いを行い、再発防止策を講じることになるでしょう。

もちろん、残業自体は一定程度までは違法ではありません。しかし、従業員に残業させる場合は、時間外労働協定(36協定)の締結と労基署への届出が必要です。その上で、36協定に定めた範囲内での残業にとどめられるよう、環境整備や業務効率化を図らなければなりません。

サービス残業代の支払いを命じられた判例

サービス残業を支払わないでいると、訴訟に発展することもあります。実際にこうしたケースで争った判例を2つご紹介しましょう。

未払いの割増賃金と遅延損害金の支払いを命じられたケース

1つめの判例は、ケータリング事業を手掛けるA社の管理職Bさんが起こした訴訟です。Bさんの主張では、約2年間にわたり時間外・休日および深夜の労働に係る割増賃金が支払われていませんでした。

時間外労働等の時間数の特定や超過分の精算実態はないものの、裁判所は固定残業代は有効であるとして、Bさんの訴えを一部認め、A社に未払い割増賃金、遅延損害金などを含む163万5,692円の支払いを命じました。

「名ばかり管理職」の割増賃金等の支払いを命じられたケース

2つめは、有名ファストフード店の店長Xが会社Yに対して、時間外労働や休日労働に対する割増賃金の支払いを求めたものです。Y社の就業規則では、店長以上の職位は「管理監督者」とされており、残業の割増賃金が払われていませんでした。

裁判所は、本件の店長は店舗運営について重要な職責を負ってはいるものの、その権限は店舗内のことに限られており、経営者と一体的な立場ではないと判断。賃金の実態も管理監督者の待遇として十分ではなく、管理監督者に当たるとは認められないとしました。

よって、原告である店長Xに対する時間外労働等に対する割増賃金が支払われるべきであるとし、Y社に対して約755万円の支払いを命じました。

サービス残業が起こりやすい状況‍をチェック!

サービス残業によって賃金未払いのトラブルが発生すれば、会社内外で不信感が募ってしまいます。サービス残業を防ぐには、自社にサービス残業が発生しやすい要因がないか定期的にチェックしてください。主なチェック項目は、次の4つです。

(1)会社や上司から命じられて断りにくい雰囲気があるか

会社全体の方針や上司の命令で残業を前提とした働き方が常態化している場合、残業指示を受けた従業員は残業を断りにくくなってしまいます。指示する側が、従業員の働き方を都合よく解釈し、「自分はリーダーシップを発揮している」と誤解しているケースもあるでしょう。

そのような中で、「残業代はつけるな」と言われれば、断ることができません。特に経営者や上司の指示に従わないと不利益な取扱いがあるようなケースでは、減給や降格を恐れてサービス残業は違法であるという指摘自体が困難です。

適正な労働時間の記録を阻害するこうした要因は、早々に取り除かねばなりません。

(2)労働時間の管理がずさんになっていないか

企業側が労働時間の管理を怠っている環境も、サービス残業が起こりやすい状況です。例えば、出退勤や残業時間を自己申告制のみで勤怠管理システムを導入していない場合、正確な労働時間を示す客観的なデータを得にくいでしょう。

自己申告制は、従業員の過少申告にもつながりやすいものです。「残業時間が長いと能力がないと見なされる」「上司から残業を命じられても、一定時間以上の申告をすると怒られる」という内外の圧力が発生するからです。

(3)残業を申請しづらい風土が定着していないか

残業許可制を導入している企業の場合、「上司が残業時間を過少申告させる」「残業しなければ終わらない業務量なのに、上司が残業を許可しない」という事態が発生していないか、十分に確認してください。

「残業をするのは能力がない証拠」「業務時間で終わらないなら、サービス残業は当然」と考える雰囲気が強ければ、申請したくてもできない従業員が増えてしまいます。

(4)経営層は法律を理解しているか

サービス残業を防ぐためには、労基法などの制定目的を理解することが先決です。これをせず、「法の網の目をくぐり抜けて残業代を払わずに済ませよう」という姿勢が経営層にあれば、サービス残業が常態化しても不思議ではありません。

特に、一定時間分の残業代を手当に含めている場合は要注意。「みなし残業代を支払っているから必要ない」と勘違い(あるいは恣意的に解釈)し、超過分が未払いになったまま労基署の監督指導を受ける企業は少なくありません。

サービス残業防止に向けた対策ポイント

サービス残業をなくすには、就業管理の徹底が重要です。厚労省のガイドラインには7項目記載されています。他にも、社内での成功事例の蓄積、研修や啓蒙の実施など、さまざまな施策が可能です。

厚労省による企業が取り組むべき7つの就業管理

労働時間をきちんと管理するには、厚労省が策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に示された施策の理解と実施が非常に重要です※4

※4 厚労省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずるべき措置に関するガイドライン」

(1)始業・終業時刻の確認・記録

1つめは、労働者の始業・終業時刻を厳格に管理することです。各従業員の毎日の始業・終業時刻を正確に記録し、確実に保管しておきましょう。

サービス残業を良しとしない企業においても、予期せぬサービス残業を防げます。

(2)始業・就業時刻の確認及び記録の原則的な方法

従業員の労働時間の確認・記録においては、

  • ●企業側(使用者)が自ら現認することにより確認し、正確に記録する
  • ●タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録など、客観的な記録をもとに確認し、記録する

という2つの方法が基本です。「口頭で報告するだけ」「使用者や労働者の都合に合わせてデータを改ざんする」といったことがないようにしてください。

(3)自己申告制により始業・就業時刻の確認及び記録を行う場合の措置

外回りの営業職や在宅勤務など、タイムカードやICカード、パソコン使用時間による記録が難しいケースで自己申告制を導入する場合、適用対象となる従業員と管理者に対して、以下の項目を十分に説明しなければなりません。

  • ●労働時間とは何か
  • ●自己申告制の具体的な内容
  • ●正しい記録と適正な自己申告の重要性
  • ●適正な自己申告を行った場合、不利益な取扱いは行われないこと

自己申告と入退場やパソコン使用時間の記録に食い違いが見られる場合は、実態調査を行う必要があります。従業員が「休憩していた」「自主的な研修をしていた」と述べても、指示を受けて行っていた場合は、労働時間として扱わなければなりません。

自己申告できる残業時間に上限を設け、それを超える申請を認めないなどの阻害要因がないかどうかも、しっかりチェックしましょう。

(4)賃金台帳の適正な調整

労基法第108条および同法施行規則第54条により、会社は労働者ごとに

  • ●労働日数
  • ●労働時間数
  • ●休日労働時間数
  • ●時間外労働時間数
  • ●深夜労働時間数

などの項目を正しく記入しなければなりません。

賃金台帳にこうした項目を適切に記録していないと、同法第120条に基づき、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

(5)労働時間の記録に関する書類の保存

労基法109条により、労働者名簿や賃金台帳とともに、出勤簿や労働時間の記録に関する書類(法定三帳簿)には保存義務があります。保存期間は、現在のところ最後に帳簿に記載した日から3年間(経過措置のため、将来的には5年に延長される予定)です。

違反した場合、これも同法第120条により、30万円以下の罰金が科せられます。

(6)労働時間を管理する者の職務

人事・労務担当者、各部署の責任者は、従業員の労働時間を適正に把握し、管理しなければなりません。

労働時間の定義を理解した上で、

  • ●職場における各従業員の労働時間を正確に把握する
  • ●過度な長時間労働が続いている場合は対策を講じる
  • ●労働時間管理を行う中で課題が生じた場合、その解消に向けた取り組みを行う

といった取り組みを行い、従業員が残業申請をしやすい環境を整備しましょう。

(7)労働時間等設定改善委員会等の活用

労働時間の現状や管理上の課題などを把握し改善するには、労働時間等設定改善委員会などの労使協議組織の活用も視野に入れてください。

おすすめの施策と研修内容・啓発方法

サービス残業の背景には、長時間労働の常態化がしばしば見受けられます。しかし、今や残業ありきの働き方自体が見直されるべき時代です。

企業文化の更新や環境整備には、例えば

  • ●成功事例作りと啓発
  • ●タイムマネジメント研修

に取り組むとよいでしょう。

成功事例作りと啓発

長時間労働の文化が定着して変革が進まない場合は、成功事例の拡大を検討してみてください。全社的な改革に一気に取り組むよりも、小さな範囲でまず成功させることで「お手本」を示し、「自分たちもやりたい」と考える従業員を増やしていくことができます。

長時間労働の是正においては、

  • 1.少人数のプロジェクトを立ち上げ、メンバーの働き方を分析する
  • 2.長時間労働の是正に向けた施策を実行する
  • 3.残った課題の改善に向けて取り組む
  • 4.数カ月〜1年ほどプロジェクトに取り組み、その成果を社内で共有する

といった手順で進めます。このとき、人事・労務管理部門も活動を支援してください。

成功事例があれば、他の社員の現状と比較しながら「どうすれば成功するのか」という具体的な方法がわかりやすくなります。そして他の従業員が長時間労働の是正に取り組み始めれば、それまで取り組みに消極的だった従業員も「自分もやらなければ」と感じられるようになるでしょう。

社内での成功事例を社内報やポータルサイトで共有したり、働き方に関する研修で取り上げたりすることで、より効果的な啓発にもつなげられます。

タイムマネジメント研修

長時間労働を減らすには、業務効率化も必要です。例えば、タイムマネジメントです。
タイムマネジメント研修では、次の点を伝えるとよいでしょう。

  • ●タイムマネジメント力が高い状態と低い状態の違いのイメージをもたせる
  • ●タイムマネジメントの7つの要素を理解する
  •  (1) 時間の使い方に対する意識改革
  •  (2) 手帳や時間管理ツールの使い方
  •  (3) 整理・整頓の重要性とやり方
  •  (4) 上司や関係者との上手なコミュニケーションとメモの取り方
  •  (5) タスクのリストアップと所要時間の計測の活用方法
  •  (6) やり残した仕事の確認と翌日のスケジュール調整方法
  •  (7) 業務の進め方の定期的な見直しの重要性

各従業員が担当業務や雑務を効率よく行い、成果を出せるよう、人材育成担当者や管理職は従業員のスキルアップをサポートしましょう。

サービス残業をなくすための取り組み事例

最後に、サービス残業をなくすための取り組み事例を2つご紹介します。サービス残業が違法であるという認識の定着と、適正な労働時間の記録・申告ができる環境構築の推進がポイントです。

自己申告制を廃止し、勤怠管理システムを導入する

1つめの事例は、タイムカード等を使わず、従業員がパソコンに自分で始業時刻と終業時刻を入力する自己申告制を導入していたA社です。この方法では労働者が申告した残業時間とパソコンの使用記録に大きな食い違いが見られ、労基署が監督指導を行いました。

A社が実施した改善策は、3つあります。

  • ●自己申告制を廃止して勤怠管理システムを導入し、始業時刻・終業時刻を適正に記録できるようにした
  • ●従業員に対して、時間外労働を実施した場合は全て申請するよう説明し、環境整備を行った
  • ●企業風土や人事制度の改革に向けてプロジェクトチームを立ち上げ、時間外労働の削減を含む対策を講じた

定期的なチェックで残業未申請を防ぐ

B社の場合は、勤怠管理システムを導入していたものの、残業時間は自己申告制となっていました。これにより、「一定の時刻以降の残業時間に対する残業代が支払われない」という事態が発生し、労基署が監督指導を行いました。

B社がサービス残業解消に向けて行った取り組みは、次の2つです。

  • ●自己申告制を廃止して勤怠管理システムを導入し、始業時刻・終業時刻を適正に記録できるようにした
  • ●適正な労働時間の記録をするよう社内教育を徹底し、必要な残業が発生した場合はきちんと申告するよう説明した
  • ●人事担当部署が出退勤時刻と残業申請に食い違いがないか毎日確認し、食い違いがあった場合は従業員本人にヒアリングを行う体制を整備した

B社のように、「残業時間は残業申請で把握する」という体制は、サービス残業で労基署の監督指導を受けた他の企業にも見られます。

サービス残業を放置したまま送検された事例もありますので、人事・労務担当者は確認漏れがないよう、改めて定期的に(できれば毎日)チェックしていきましょう。