事業承継とは?事業継承やM&Aとの違いから税制・補助金まで解説
更新日:2026.08.20
公開日:2018.01.25

事業承継とは、会社や事業を次の担い手へ引き継ぐための重要な経営課題です。後継者不足や税負担などの理由から、準備を先送りにしてしまうケースも少なくありません。
本コラムでは、事業承継の基本的な意味やM&Aとの関係、承継の種類、税制特例や補助金、相談先までを体系的に解説します。自社に合った事業承継を考えるための基礎知識としてご活用ください。
事業承継とは?基本的な意味と事業継承との違い
事業承継とは、会社や個人事業の経営を次の世代へ引き継ぐことを指します。中小企業では経営者の高齢化が進み、事業承継は避けて通れない経営課題となっています。
最初に、事業承継の基本的な意味や言葉の違い、なぜ中小企業にとって重要なのかを整理して解説します。
事業承継とは何かをわかりやすく解説
事業承継の読み方は「じぎょうしょうけい」で、経営者が築いてきた会社や事業を、後継者に引き継ぐことを意味します。
承継対象は経営者の地位だけにとどまらず、株式、事業用資産、取引先との関係性、経営ノウハウなど多岐にわたります。
事業承継は単なる世代交代ではなく、事業を将来にわたって継続させるための重要な経営判断です。計画的に進めることで、事業の安定や従業員の雇用維持につながります。反対に準備が遅れると、廃業や経営混乱を招くリスクが高まる点に注意が必要です。
事業承継と事業継承の違い
「事業承継」と「事業継承」は類似した言葉ですが、制度や公的文書においては「事業承継」が正式な表現とされています。
「承継」は、地位や権利、義務などを正式に受け継ぐ意味を持ち、経営権や株式を引き継ぐ場面に適しています。
一方、「事業継承」は意味が通じる場合もありますが、制度や専門分野ではあまり使われません。
公的機関や専門家の情報でも「事業承継」が用いられているため、記事や手続きではこの表記を使うのが一般的です。
なぜ中小企業に事業承継が重要とされているのか
中小企業において事業承継が重要視される理由は、経営者の高齢化と後継者不足が深刻化しているためです。
経営者の平均年齢は60.5歳と高齢化が進んでおり、後継者不在率は20~38%にのぼります。全体の約3割が後継者問題を抱えている状況です。
後継者が決まらないまま経営者が引退すると、黒字であっても廃業に至るケースがあります。
東京商工リサーチの調べによれば、休廃業・解散件数は2023年度も増加傾向です。
早期に事業承継を検討することで、親族承継、従業員承継、M&Aといった多様な選択肢を十分に比較・検討できます。さらに、税制や補助金といった支援制度も活用しやすくなり、経営のバトンを円滑に渡すことが可能になります。
事業承継で引き継ぐ主な要素とは
事業承継では、単に経営者が交代するだけでは不十分です。
円滑な事業承継を実現するためには、経営権、会社の資産、さらには目に見えない無形の価値までも含めて引き継ぐ必要があります。
事業承継において引き継ぐべき要素は、「経営権」「株式・資産」「知的資産」の3つに大別されます。それぞれの特徴を理解することが、計画的な事業承継の第一歩となります。
経営権の事業承継
経営権の事業承継とは、会社の経営判断や意思決定を行う立場を後継者に引き継ぐことです。
経営権の承継が不十分な場合、意思決定の停滞や社内外の混乱を招く可能性があります。そのため、名目上の代表交代だけでなく、実質的に経営を任せる体制づくりが重要です。
早い段階から後継者を経営に関わらせることで、判断力や責任感が育ちます。経営権の承継は、人材育成と一体で進めることが、事業承継成功の鍵となります。
株式・資産の事業承継
株式・資産の事業承継とは、会社の所有権や財産を後継者に移すことを指します。具体的には、自社株式や事業用の不動産、設備、現金などが対象となります。
これらが適切に承継されなければ、後継者は経営権を持っていても自由な経営ができません。
特に中小企業では、株式と経営権が強く結びついているため、株式承継の方法が重要です。税制や制度を理解したうえで進めることで、負担を抑えた事業承継が可能になります。
知的資産(理念・ノウハウ・人材)の事業承継
知的資産の事業承継とは、形のない経営資源を引き継ぐことです。具体的には、創業者の経営理念、長年にわたり蓄積された技術・ノウハウ、取引先との信頼関係、顧客情報などが該当します。特許などの知的財産権や特定の許認可なども、事業にとって重要な知的資産です。
これらは数値で評価しにくいものの、事業の強みそのものといえます。
日頃から理念や考え方を言語化し、人材を育成することで、事業の価値を次世代へ確実に引き継ぐ取り組みが必要です。
事業承継の種類と3つのパターン
事業承継は、大きく3つの形態に分類されます。
- 後継者を親族から選ぶ方法
- 社内の役員や従業員に引き継ぐ方法
- 第三者へ引き継ぐ方法
どの方法を選ぶかによって、準備の進め方や注意点は大きく異なります。ここでは、代表的な3つの事業承継パターンについて整理して解説します。
親族内承継による事業承継の特徴
親族内承継とは、子どもや配偶者などの親族に事業を引き継ぐ方法です。
長年会社を見てきた身近な存在であるため、経営理念や方針を継承しやすい点が特徴です。また、取引先や従業員からも理解を得やすく、比較的スムーズに承継できる場合があります。
一方で、後継者の経営能力や意欲が十分でない場合、事業の停滞リスクが高まります。そのため、早期から後継者教育を行い、適性を見極めながら進めることが重要です。
親族外承継(役員・従業員)による事業承継
親族外承継とは、会社の役員や従業員など、親族以外の内部人材に事業を引き継ぐ方法です。
業務内容や社内事情をよく理解しているため、経営の連続性を保ちやすい点がメリットです。また、従業員にとっても安心感につながります。
ただし、株式取得の資金負担や、親族との調整が課題になることがあります。制度や支援策を活用しながら、関係者全体の理解を得て進めることが、円滑な事業承継につながります。
第三者承継(M&A)による事業承継
第三者承継とは、親族や社内に後継者がいない場合に、外部の企業や個人へ事業を引き継ぐ方法です。
一般にM&Aとして行われ、後継者不足を解消できる有効な選択肢とされています。事業の継続性を確保し、雇用維持が図れる点が大きな利点です。
一方で、条件交渉や手続きが複雑になりやすいため、専門家の支援が欠かせません。
M&Aによる事業承継については、次の章で詳しく解説します。
事業承継とM&Aの違いとは
事業承継を考える際に、M&Aを「別の選択肢」や「対立する手法」と捉えてしまうケースがありますが、実際には、M&Aは事業承継を実現するための方法の1つです。
事業承継には親族内承継や親族外承継など複数の手段があり、その中で第三者に引き継ぐ方法がM&Aに当たります。
ここでは、事業承継とM&Aを正しい関係性で整理し、それぞれがどのような場面で選ばれるのかをわかりやすく解説します。
事業承継とM&Aの関係
事業承継とM&Aは対立する概念ではなく、M&Aは事業承継を実現するための手段の1つです。
事業承継とは、事業を次の担い手へ引き継ぐこと全体を指しており、その手段には親族内承継や親族外承継、そして第三者承継があります。M&Aは、この第三者承継に該当します。
後継者が社内にいない場合でも、M&Aを活用すれば事業を存続させることが可能です。事業承継を広い視点で捉え、その選択肢の1つとしてM&Aを理解することが、より適切な判断につながります。
親族や従業員による自社内承継が向いているケース
事業承継の中でも、親族や従業員による自社内承継が向いているのは、社内に信頼できる後継者がいる場合です。
長年事業に関わってきた人物であれば、経営理念や業務内容、取引先との関係を理解しているため、経営の連続性を保ちやすくなります。
また、従業員にとっても安心感があり、組織の混乱を抑えられる点が特徴です。
時間をかけて後継者育成ができる環境が整っている場合には、自社内承継が適した選択肢といえます。
M&Aが向いているケース
M&Aが向いているのは、社内に後継者がいない場合だけでなく、事業のさらなる成長を重視する場合です。
第三者へ事業を承継することで、廃業を回避し、事業を存続させる選択肢となります。
加えて、M&Aによって新たな経営視点や専門的なノウハウが導入される点も大きな特徴です。
資金力や販売網、技術力を持つ企業と統合することで、これまで難しかった事業拡大や新分野への進出が期待できます。
また、経営者の引退時期が迫っており、短期間で事業承継を進めたい場合にも有効です。
事業の成長性や将来性を重視し、次の段階へ発展させたい企業にとって、M&Aは有力な事業承継の方法といえます。
事業承継に係る税制特例と要件
事業承継を進めるに当たり、多くの経営者にとって大きな課題となるのが税負担です。
特に中小企業では、自社株式の評価額が高く、相続税や贈与税が大きな負担となるケースがあります。こうした課題を軽減し、円滑な事業承継を後押しするために設けられているのが、事業承継税制です。
ここでは、事業承継税制の基本的な考え方と、法人版と個人版それぞれの特例や要件について整理して解説します。
事業承継税制の概要と活用の考え方
事業承継税制とは、後継者が非上場会社の株式を相続や贈与によって取得する際、一定の要件を満たすことで税金の納税が猶予される制度です。
多額の税負担により事業承継が進まない状況を防ぐ目的で設けられています。
制度を活用することで、後継者は資金負担を抑えながら経営に専念できるというメリットがあります。
ただし、承継後も一定期間事業を継続するなどの条件を満たす必要があるため、税制を単独で考えるのではなく、事業計画とあわせて活用する視点が重要です。
法人版事業承継税制の特例と要件(2026年2月時点)
法人の事業承継では、主に自社株式の承継に伴って相続税や贈与税が発生します。税負担が事業承継の大きな障壁となることから設けられたのが、法人版事業承継税制です。
法人版事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」があります。
特例措置では、所定の期限までに事業承継計画を策定し、認定を受けることで、非上場株式にかかる相続税・贈与税の納税が実質的に全額猶予されます。一般措置と比べて対象範囲が広く、要件が緩和されている点も、特例措置の大きなメリットといえます。
ただし、特例措置には適用期限が設けられているため、利用を検討する場合は早めの準備と制度理解が欠かせません。
【法人版事業承継税制の概要】(平成30年度の税制改正概要)
| 特例措置 | 一般 | |
|---|---|---|
| 概要 | 条件を満たす後継者への株式譲渡について、相続税・贈与税を免除 | |
| 対象株数 | 全株式 | 総株式数の3分の2まで |
| 納税猶予割合 | 100% | 相続:100%、贈与:80% |
| 承継パターン | 最大3人 | 1人 |
| 事前の計画策定 | 特例承認計画の提出 | 不要 |
| 適用期限 | 令和9年12月31日 | なし |
| 雇用確保要件 | 一般措置より一部緩和 | 承継後5年間平均8割の雇用維持が必要 |
出典:国税庁|非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし(令和7年5月)(令和7年7月更新)
個人版事業承継税制の特例と要件(2026年2月時点)
個人事業承継税制は、個人事業主が後継者へ事業用資産を承継する際に、贈与税や相続税の納税が猶予される制度です。
対象となるのは、事業に直接使われている土地や建物、機械設備などで、後継者が事業を継続することが要件となります。
法人版事業承継税制との大きな違いは、「株式」ではなく「事業用資産」が承継対象となる点です。また、法人版は会社の存続が前提となりますが、個人事業承継税制では後継者が個人として事業を引き継ぎます。
承継後に事業をやめた場合、猶予されていた税金を納める必要があるため、長期的に事業を継続する意思があるかどうかを慎重に見極めることが重要です。
事業承継で活用できる補助金・支援制度
事業承継を進めるに当たっては、資金面や手続き面での負担が大きな課題となります。
特に中小企業や個人事業者では、承継後の設備投資や経営体制の見直しに十分な余力がないケースも少なくありません。
こうした負担を軽減するため、国や自治体では事業承継を支援する補助金や制度を整備しています。
ここでは、代表的な補助金の概要と、その他の支援制度、利用時の注意点について整理して解説します。
事業承継・引継ぎ補助金の概要(2026年2月時点)
事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業や小規模事業者が事業承継やM&Aを行う際に必要となる費用の一部を支援する制度です。
具体的には、設備投資、専門家への相談費用、事業統合後の経営改善に関する取り組みなどが補助対象となります。制度は複数の枠に分類されており、事業承継の形態や目的に応じて柔軟に活用できる点が特徴です。
| 制度 | 概要 | 対象経費 | 上限額 |
|---|---|---|---|
| 事業承継促進枠 | 承継前の会社の「磨き上げ」を支援 | 設備費・産業財産権など関連経費・謝金・旅費・外注費・委託費 | 800~1,000万円 |
| 専門家活用枠 | M&Aに係る専門家を活用する際の費用(買い手・売り手) | 謝金・旅費・外注費・委託費・システム利用料・保険料 | 600~800万円 |
| PMI推進枠 | M&Aの成立後に行われる「経営・業務・企業文化等の統合」のための取り組み支援 | 設備費・外注費・委託費など | PMI専門家活用類型:150万円 事業統合投資類型:800~1,000万円 |
| 廃業・ 再チャレンジ枠 |
既存事業を廃業し、新たな事業活動に挑戦したり、社会貢献を行うなど新たな取り組みを実施する事業者を対象 | 廃業支援費・在庫廃棄費・解体費・原状回復費・リースの解約費・移転移設費用(併用申請の場合のみ) | 150万円 |
補助金を活用することで、承継後の事業基盤を整えやすくなり、円滑な事業継続につながります。
参考:経済産業省 中小企業庁|中小企業庁担当者に聞く「事業承継・M&A補助金(令和6年度補正)」
その他の中小企業向け事業承継支援制度
経済産業省中小企業庁の補助金以外にも、中小企業向けの事業承継支援制度は数多く用意されています。
代表的な支援策としては、以下のような例が挙げられます。
- 日本政策金融公庫の事業承継マッチング支援
- 商工会・商工会議所の事業承継、事業引継ぎ支援
- 自治体独自の支援制度や専門家派遣制度
また、地銀や信金などの地域金融機関、士業団体も、事業承継マッチング支援や無料相談会など、様々な支援を実施しています。
早い段階から複数の支援制度を把握しておくことが重要です。
補助金・支援制度を利用する際の注意点
補助金や支援制度は、誰でも自動的に利用できるものではありません。多くの場合、事前の計画策定や申請手続き、要件の確認が必要です。
また、補助金は後払いが原則であり、ひとまず自己資金で支出する必要があります。
制度の内容は年度ごとに変更されることもあるため、最新情報を確認することが欠かせません。
専門家や支援機関に相談しながら進めることで、制度をより適切かつ効果的に活用できます。
事業承継を成功させるための相談先と専門家
事業承継は、税金や法務、経営判断など複数の分野が関わるため、経営者一人で進めるのは困難です。
適切な相談先や専門家を活用することで、判断ミスや準備不足によるリスクを抑えることができます。公的機関や専門家による支援を適切に活用することが、円滑な事業承継につながります。
ここでは、代表的な相談先と、それぞれの役割について整理して解説します。
事業承継引継ぎ支援センター
事業承継引継ぎ支援センターは、中小企業の事業承継を支援する公的な相談窓口です。
全国に設置されており、後継者探しや承継方法の検討、M&Aの相談などを無料で行えます。
【事業承継引継ぎ支援センターの主な支援内容】
| 第三者承継支援 | 民間M&A仲介業者や金融機関、後継者人材バンクなどから承継者をマッチングし、事業譲渡までをサポート |
|---|---|
| 親族内承継支援 | 地域の支援機関、金融機関と連携し、事業承継のための診断や事業承継計画の策定を支援 |
| 後継者人材バンク | 創業を目指す起業家と、後継者不在の会社や個人事業主のマッチング |
地域の支援機関や金融機関、後継者人材バンクなどを活用したマッチング支援を行うほか、専門の相談員が現状を整理し、必要に応じて専門家や支援機関につなげてくれる点が特徴です。
はじめて事業承継を考える経営者にとって、最初の相談先として活用しやすい存在といえます。
税理士・公認会計士・金融機関などによるマッチングと支援
税理士や公認会計士は、事業承継に伴う税金や財務面の整理を専門的にサポートします。株式評価や税制の適用判断など、正確な知識が求められる場面で欠かせません。
また、金融機関は取引先企業とのネットワークを活かし、後継者候補や譲受企業とのマッチングを支援する役割を担います。
専門家と連携することで、経営・財務の両面から安定した事業承継が進めやすくなります。
事業承継士とは
事業承継士とは、一般社団法人事業承継協会が運営する、事業承継に関する知識と実務能力を備えた民間資格です。
一般社団法人事業承継協会が認定する資格には、事業承継士と事業承継プランナーの2種類があります。なかでも事業承継士は、事業承継に関わる多様な課題に対して、総合的な助言や支援を行う専門家です。
事業承継士になるためには、一般社団法人事業承継協会が運営する資格講座を受講し、認定試験に合格した後、入会審査を受ける必要があります。
事業承継は早めの準備と制度活用が重要
事業承継は、単に経営者が交代する手続きではなく、事業を将来に引き継ぐための重要な経営判断です。
親族や従業員への承継、M&Aといった方法の違いを理解したうえで、自社に適した選択肢を検討することが求められます。
また、税制特例や補助金、公的支援制度を活用することで、承継時の負担を大きく軽減できます。
事業承継には時間を要するため、早期の段階から専門家や支援機関に相談し、計画的に取り組むことが成功の鍵となります。

