イノベーションとは?意味、起こす方法、成功事例、人材育成のポイント

update更新日:2025.11.11 published公開日:2024.11.14
イノベーションとは?意味、起こす方法、成功事例、人材育成のポイント
目次

イノベーションとは、これまでにない新製品やサービスを生み出し、社会に変革をもたらすことです。

デジタル化やグローバル化が進む現代、企業が社会の変化に対応し持続的に成長していくには、イノベーション創出が不可欠です。

本コラムでは、イノベーションの基本から人材育成のポイントまで、わかりやすく解説します。

イノベーションとは

イノベーションとは、既存の要素を新しく組み合わせ、社会に変革をもたらす革新的な活動のことです。

「イノベーション」は英語の「innovation」をそのまま日本語として用いた言葉で、直訳すると「革新」や「新機軸」という意味になります。

シュンペーターの「新結合」理論

イノベーションの概念を学術的に定義したのは、オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターです。彼は20世紀前半の著書『経済発展の理論』の中で、イノベーションを「新結合(new combination)」と表現しました。

この「新結合」とは、既存の生産方法や生産活動を新しい方法で組み合わせることで、従来にはない価値を創造することを指します。

経済産業省によるイノベーションの定義

イノベーションは、日本では長らく「技術革新」と訳されてきましたが、本来のイノベーションは技術面だけに限定されるものではありません。経済産業省は、2023年に発表した政策指針の中で、次のような一連の活動の流れをイノベーションと定義しています。

  1. ①社会・顧客の課題解決につながる革新的な手法(技術・アイデア)や既存手法の新たな組合せで新たな価値(製品・サービス等)を創造
  2. ②社会・顧客への普及・浸透
  3. ③ビジネス上の対価(キャッシュ)の獲得、社会課題解決(ミッション実現)に貢献

この定義が示すように、イノベーションには技術だけでなく、アイデアや手法の組み合わせによって新しい価値を生み出すという意味があります。

例えば、新しいビジネスモデルの創出、既存サービスの革新的な提供方法、組織運営の改善なども、全てイノベーションに含まれます。

出典:「イノベーション循環を推進する政策の方向性」(経済産業省)

イノベーションがいま注目されている理由

現代のビジネス環境において、イノベーションは企業にとって欠かせない存在です。その背景には、次のような要因が挙げられます。

技術革新への対応

技術の進歩が企業に新たなチャンスを生み出す一方で、既存のビジネスモデルに大きな変化を迫っているのも現実です。従来のやり方だけでは、やがて市場から取り残されてしまう可能性があります。

こうした状況を受けて、現代の企業はイノベーションに継続的に取り組むことが求められています。

人口構造の変化への適応

日本では労働力の減少と消費者の減少が同時に進んでおり、従来の人手に頼った方法では対応できない状況です。あらゆる分野で、AIやIoTを活用した業務効率化が急務となっています。

国内市場の縮小とともに、海外展開では各国の多様なニーズに応える新たな手法を構築する必要があります。

市場競争における優位性の確保

激しい市場競争を勝ち抜くためには、差別化が欠かせません。革新的な製品やサービスをいち早く市場に投入できる企業は、競合が追いつくまでの間、その分野で優位な立場を築くことができます。

先行者利益はブランド価値を高め、収益の向上につながります。新しいアイデアや技術を素早く実用化し、市場に投入する力が今後ますます重要となるでしょう。

イノベーションを創出する「ドラッカー理論」とは

実際にイノベーションを起こすには、どのようなアプローチがあるのでしょうか。

世界的に有名な経営学者であるピーター・F・ドラッカーは、イノベーションを起こすきっかけとして「7つの機会」を提唱しました。

【ドラッカーの7つの機会】

  1. (1)予期せぬ成功と失敗
  2. (2)理想と現実のギャップ
  3. (3)ニーズの存在
  4. (4)産業構造の変化
  5. (5)人口構造の変化
  6. (6)認識の変化
  7. (7)新しい知識の活用

これらは信頼性と確実性の高い順番で並べられており、上位ほど企業にとってリスクが低く、取り組みやすくなっています。そして、それぞれが同時に起こったり重複したりすることもあります。

それでは、1つずつ見ていきましょう。

(1)予期せぬ成功と失敗

最初の機会は、「予期せぬ成功と失敗」です。ビジネスでは、いくら準備や計画を徹底しても、不測の事態により予期しない成功や失敗が起こることがあります。

予期しない成功はもちろん、予期しない失敗にも、イノベーションにつながるチャンスが隠されています。なぜそれが起こったのか、あるいは予期できなかったのか、原因を分析することで、イノベーションのヒントが見つかるかもしれません。

(2)理想と現実のギャップ

2つ目の機会は「理想と現実のギャップ」です。自身の理想と実際の状況とのギャップを把握することもイノベーションにつながる機会を提供してくれます。

業績やイメージ、顧客や従業員など様々な面で理想と現実のギャップが存在しているでしょう。そのギャップはなぜ存在しているのか、埋めるためにはどうすればよいのか分析することが、イノベーション発掘のきっかけになります。

ギャップの原因を分析・検証する際には、プロセスや認識、価値観など多面的に行うことが大切です。

(3)ニーズの存在

3つ目の機会は「ニーズの存在」です。ドラッカーは、需要(ニーズ)を「イノベーションの母」と表現しました。

イノベーションに大切なのは、商品やサービス開発に必要な顧客ニーズではなく、企業や業界の顕在化していないニーズを探ることです。例えば、フロアの人手不足に対応するための配膳ロボット導入や、二酸化炭素排出量削減に対応した生産プロセスの改良などが該当します。

組織内で不足しているプロセスやリソースを見つけ出し、イノベーションにつなげることができます。

(4)産業構造の変化

4つ目の機会は「産業構造の変化」です。産業や市場の構造自体が変化するときには、イノベーションのチャンスが生まれます。産業構造が変わると、物流や人の動き方が変わり、新たなニーズやサービスが生まれる機会が増えるからです。

産業構造の変化は企業の外部にあるため、前半の3つの機会に比べると分析や対応の難易度が高まります。それでも、市場や仕事の仕方、技術などが変わることで、大きな企業内の変化やイノベーションにつながりやすくなるメリットがあります。

(5)人口構造の変化

5つ目の機会は「人口構造の変化」です。人口の数や年齢分布の変化は頻繁に生じるわけではありませんが、イノベーションにつながる重要な要素です。

具体例としては、高齢化の進行による弁当や食材の宅配、介護タクシーなど高齢者向けサービスの拡充が挙げられます。日本をはじめとする先進国の高齢化はもちろん、所得別や属性別など、様々な切り口で人口構造がどう変化するかを見極めることがイノベーションを生むきっかけになります。

(6)認識の変化

6つ目の機会は「認識の変化」です。社会の価値観やライフスタイルなど認識の変化は、顧客が求める商品・サービスの変化につながります。従来の価値観でつくられたものが人々の生活や仕事のスタイルに対応しきれなくなるからです。

具体例としては、女性活躍推進とフェムテックの発展、障害者の社会参加とバリアフリー環境の構築などが挙げられます。

ただし、価値観や認識の変化を予測するのは困難で、科学的に効果や時期を検証するのは難しいという特徴があります。

(7)新しい知識の活用

7つ目の機会は「新しい知識の活用」です。ビジネス上の新たな知識とは、新しいテクノロジーや技術を含んでいると考えてよいでしょう。

日本ではイノベーションというと、新しいテクノロジーや技術のことだと捉えがちですが、ドラッカーは新しい知識の活用を、7つの機会の中で最も時間がかかり、成功する確率が低いものと位置付けています。新しい知識や技術は確かにイノベーションにつながる可能性が高いですが、それ以外にもイノベーションのきっかけがあることを忘れてはいけません。

イノベーションの種類と分類

イノベーションには様々な形態があり、それぞれが企業の成長や市場変化に重要な役割を果たしています。

ここでは、著名な経済学者や研究者が提唱するイノベーションの種類と分類について解説します。

シュンペーターによる5種類のイノベーション

シュンペーターは、経済の発展におけるイノベーションの重要性を提唱し、イノベーションを5つの種類に分類しました。

これらの分類は、イノベーションがどのような形で現れるかを体系的に整理したもので、現代の企業活動でも広く参考にされています。それぞれの特徴と具体例を見てみましょう。

【シュンペーターによる5種類のイノベーション】

プロダクト・イノベーション

全く新しい製品・サービスを開発すること。人々の暮らしや社会に大きな変化を与え、市場での差別化を図る。

<事例>洗濯機やテレビ、スマートフォンなど

プロセス・イノベーション

生産工程や流通方法などに変革を起こすこと。生産効率や利益率などを向上させ、自社や業界全体に影響を与える。

<事例>ベルトコンベアーによるライン操業やPOSシステムによる販売流通管理、トヨタの「カンバン方式」など

マーケット・イノベーション

新たな市場やニーズを開拓すること。競合が参入していない市場を見つけることで、売上の向上や新たなマーケティング手法を確立する。

<事例>スマホゲームやフィルム会社が開発した化粧品・健康食品など

サプライチェーン・イノベーション

製品を作るための材料や供給ルートを新たに開拓・確保すること。

<事例>Amazonのような独自流通ルートの獲得やECサイトを活用したDtoCなど

オーガニゼーション・イノベーション

組織変革によって企業や業界全体に大きな影響を与えること。組織運営を根本から見直し、システムやビジネスモデルを大きく変えることでイノベーションを実現する。

<事例>フランチャイズシステムや社内ベンチャー制度など

日本は特にサプライチェーン・イノベーションの分野で、国際的競争力に後れをとっていると言われています。これを受けて経済産業省は「サプライチェーン イノベーション大賞」を設け、配送のスピードアップや物流機能の強化とサプライチェーン全体の最適化を推進しています。

参考:経済産業省ホームページ

クリステンセンによる持続的イノベーション/破壊的イノベーション

アメリカの経営学者クレイトン・クリステンセンは、イノベーションを持続的イノベーションと破壊的イノベーションに分類しました。

持続的イノベーションは、既存の製品やサービスを改良し続けることで市場を維持する手法です。一方、破壊的イノベーションは、従来の市場を一変させるほどの革新的なアイデアや技術を導入し、新たな市場や価値観を創造する手法です。

破壊的イノベーションのアプローチは、特に新興企業が大手企業に挑む際に有効で、既存のビジネスモデルを覆すほどの力があるとされています。

チェスブロウによるオープンイノベーション/クローズドイノベーション

アメリカの経営学者であるヘンリー・チェスブロウは、イノベーションをオープンイノベーションとクローズドイノベーションの2つに分類しました。

オープンイノベーションとは、企業がビジネスのために、自分では持っていない技術やアイデアを活用することです。具体例として、産学連携で技術を開発したり、他社のノウハウやライセンスを導入したりして、自前では不足した部分を補完しながらイノベーションを進めていきます。

自社で一から新しい技術や商品を開発するのにはコストがかかりますが、外部と協業することで既にあるリソースを活用でき、素早く新製品や新サービスを市場に投入できるというメリットがあります。

一方、クローズドイノベーションとは、自社で開発した技術や製品を既存のネットワーク内で販売する自前主義のことを言います。環境変化が激しく、グローバルな競争が激化している中、従来の自前主義では有用なイノベーションを起こすことが難しくなっている、というのがチェスブロウの考えです。

日本では、2014年から経済産業省や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の後援のもと、アジア最大のオープンイノベーションマッチングイベント・イノベーションリーダーズサミット(ILS)が実施されています。ILSは、国内外の主力VCや政府機関などが推薦する有望スタートアップ企業と大手企業をマッチングして面談などを行い、オープンイノベーションを生み出そうという大がかりなイベントです。

ILSをきっかけとしたオープンイノベーションの成功例としては、以下のようなものがあります。

【大手企業とスタートアップの協業事例】

大手企業 VCやスタートアップ企業 取り組み内容
花王株式会社 名古屋⼤学発ベンチャーの株式会社ヘルスケアシステムズ 「皮脂RNA」を活用した郵送検査サービスの共同開発
日本航空株式会社 ベジタリアンフード開発の株式会社みんなのごはん 国際線機内食ベジタリアン対応メニューの共同開発
三井化学株式会社 人感センサーによる介護支援システム開発の株式会社Z-Works バイタルセンシング材料を活用した介護支援システムの共同開発

これらの事例は、大手企業が持つ技術力や資金力と、スタートアップの柔軟性や専門性を組み合わせることで、実現が難しい革新的なサービスを生み出している典型的な例だと言えるでしょう。

参考:大手×スタートアップの提携事例(Innovation Leaders Summit)

イノベーションの成功事例

続いて、独自のアプローチでイノベーションを実現した、日本企業の成功事例を3つご紹介します。

事例1:ソニーグループ株式会社

ソニーは創業以来、「クリエイティビティとテクノロジーの融合」を軸に世界を驚かせる革新を生み出してきました。エレクトロニクス、ゲーム、エンターテインメントの多様な事業を連携させ、独自の強みを発揮しています。

PlayStation事業ではコンテンツ制作力とハードウェア技術を融合させ、「コンテンツ×テクノロジー」戦略により、単なる製品メーカーを超えた総合エンターテインメント企業の地位を築いています。

事例2:株式会社NTTドコモ

NTTドコモは携帯電話やコンテンツ配信など幅広い事業を展開する通信キャリアで、新規事業開発プログラム「39works」や社内起業支援プログラム「docomo STARTUP」を活用し、オープンイノベーションを積極的に推進しています。

さらに、開発・運用・ビジネス部門が連携するBizDevOps体制を構築し、生産性向上と新事業創出を両立させています。こうした取り組みにより、通信キャリアの枠を超えた多様な事業展開を実現しています。

事例3:株式会社メルカリ

メルカリは中古品CtoCプラットフォームを運営し、アプリの利便性向上やコンビニとの連携により市場シェアを拡大しました。多くのユーザーを獲得したことで、金融やスポットワーク、モバイル通信などの新事業領域にも進出しています。

社内はオープンな環境で、アイデアや意思決定がスピーディに行われているのが特徴です。

イノベーション人材採用のポイント

イノベーションを持続的に生み出すには、技術力や市場タイミング、資金調達、組織体制など多くの要素が関わっています。中でも、それらを動かす人材の役割は重要です。

従来の採用では「コミュニケーション力」や「実行力」が重視されてきたため、イノベーション人材が組織に入る機会は限られていました。積極的に確保するには、企業が求める人材の要件を見直す必要があります。そのためには、イノベーション人材に求められる能力を理解することが大切です。

経営学者クレイトン・クリステンセンらは、イノベーション人材が持つ重要なスキルとして、以下の5つの能力を提唱しています。

  • 関連づける力:異なるアイデアや経験を組み合わせて新しい発想を生み出す
  • 質問力:現状に疑問を持ち、「なぜ?」「もしも?」と本質的な問いを投げかける
  • 観察力:細かく世界を観察し、他者が見落とす洞察を得る
  • ネットワーク力:多様な背景を持つ人々とつながり、多角的な視点を取り入れる
  • 実験力:失敗を恐れず試行錯誤を繰り返し、有効な解決策を見つける

これらの能力を、従来の「コミュニケーション力」や「実行力」と合わせて評価することが求められます。

例えば、異分野の知識を結び付けて新しいアイデアを提案できるか、現状の課題に鋭い質問を投げかけられるか、多様な人脈を活用した経験があるか、などを採用選考時に確認するとよいでしょう。

イノベーション人材育成のポイント

イノベーション人材の確保には、新たな人材を採用するだけでなく、社内にいる既存の従業員を育成することも大切です。人材不足が深刻な今、社内育成の重要性はますます高まっています。

最後に、イノベーション人材育成のポイントについて整理しておきましょう。

潜在的なイノベーション人材の発掘

採用時に条件を満たさなくても、入社後の経験で「関連づける力」「質問力」「観察力」「ネットワーク力」「実験力」などの資質を伸ばした社員は少なくありません。

アセスメントや能力測定調査、自己・他者推薦などを活用し、潜在的な人材を発掘することも重要な取り組みの1つです。

実践的な育成環境の提供

新規事業や新商品の開発は、イノベーション能力を高める絶好の機会です。

「多様な人と協働し幅広く情報を集める」「バラバラのアイデアをつなぎ合わせる」「抵抗を乗り越えて協力を得る」といった経験が創造力や粘り強さを養います。失敗しても試行錯誤を続けられる環境が、人材を鍛える土壌となります。

「育てる」から「育つ」へのアプローチ

イノベーション人材は教育によって「育てる」のではなく、自然に「育つ」のを見守るという考え方もあります。若手社員に裁量と責任を委ね、自力で課題を解決する環境に身を置くことで、必要なスキルが身につきやすくなります。

イノベーション人材としての素質が見られる社員には、あえて難易度の高い業務を任せるのも効果的です。ただし、能力の向上に伴って他のメンバーとの考え方に温度差が生じる場合があるため、組織の中で円滑に業務を進める「調整力」も同時に身につけさせることが重要です。

組織全体でのサポート体制

若手が挑戦しやすい環境をつくるには、組織全体でのサポート体制が欠かせません。

具体的には、以下のような取り組みが有効です。

  • 経営トップが企業のイノベーションに対する思いを全社に表明し、直接指導する
  • チームのリーダーや上司が特許管理など過去の知見を共有し、開発業務におけるリスクを軽減する
  • 新しいアイデアや挑戦を人事評価に反映する

こうした人材育成の積み重ねが、企業の革新力を高め、持続的な成長を支える基盤となります。