ダイバーシティとは|メリットや取り組み事例を紹介

published公開日:2023.11.14
目次
近年、ビジネスでも注目を集めるダイバーシティ(多様性)。働き方改革においても考慮されており、企業の事業活動において欠かせない要素となっています。

本コラムでは、ダイバーシティとは何か、その概要と重視されている背景をご紹介。企業がダイバーシティ経営を導入するメリットについても解説していますので、ぜひお役立てください。

ダイバーシティ(多様性)とは

ダイバーシティを考慮した振る舞いや事業活動は国際社会で大きく注目を集めており、グローバル化が進む日本においても他人事ではありません。特に企業活動においては、多様な人材の共存と活躍を意識する必要があります。経営戦略としてダイバーシティを取り入れる企業も見られます。

まずは、ダイバーシティがどのような考え方なのか、その概要や種類を確認していきましょう。

ダイバーシティの意味

ダイバーシティ(diversity)は、日本語で「多様性」という意味になります。

社会や企業におけるダイバーシティは、組織や集団において年齢や性別、人種、民族、能力、価値観などが異なる、さまざまな属性の人が集まっている状態のこと。加えて、そうした多様な人々を公平に扱うという姿勢も含む概念です。

ダイバーシティは、1950~1960年代にかけて行われた公民権運動で注目されるようになりました。そこでは、人権問題や雇用機会の均等を訴える中で使われました。

現代では、グローバル化が進み、多様な人々が共に活動する機会が増えたことから、ダイバーシティの重要性が説かれています。例えば、政府や公的機関は社会全体のダイバーシティを推進しており、ビジネスでも企業が競争で生き残る重要な経営戦略としてダイバーシティ経営を重視しています。

ダイバーシティの種類

ダイバーシティは、2つの種類に分けて考えることができます。「表層的ダイバーシティ」と「深層的ダイバーシティ」です。

表層的ダイバーシティとは

表層的ダイバーシティとは、文字通り外から見てわかる事柄の多様性を指します。これは、自分の意思では変えられない生来の特性や属性です。例えば、人種や年齢、性別、民族的な伝統、肉体的能力などが該当します。

深層的ダイバーシティとは

深層的ダイバーシティは、表に出ていない内面的な事柄の多様性を指します。深層的ダイバーシティの例には、宗教や言語、働き方、価値観などがあります。一見すると分からないことがあるため、こうした特性・属性に関してトラブルが起こると複雑化しやすいでしょう。

ダイバーシティとインクルージョンの違い

ダイバーシティとともに言及される概念に、「インクルージョン」があります。

インクルージョンは、「包括」「包含」「一体性」などの意味を持つ言葉。ビジネスや組織運営においては、多様な価値観や考え方を認め合い、相互に関係しあって一体感を持っている状態を表します。簡単にいえば、ダイバーシティは多様性を認めること、インクルージョンはその多様性を活かすこととも表現できるでしょう。

また、企業の報告書や公式ページでは、ダイバーシティという言葉で女性の活躍推進やLGBTQの採用・活躍を、インクルージョンという言葉で障害者雇用を紹介している例も見られます。

いずれにせよ、2つの言葉を組み合わせたダイバーシティ&インクルージョン(D&I)は、多様な特性・属性を持つ人々が、個性や能力に応じて活躍できる・しているという意味で使われています。

ダイバーシティが重視される理由

2017年に経済産業省は「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を策定。日本でも政府主導でダイバーシティが推進されています。経済産業省からガイドラインが発表されたことで、企業の経営戦略でもダイバーシティがより意識されるようになりました。

では、なぜ経済産業省はダイバーシティをこれほど重視しているのでしょうか。

労働人口の減少

今後の日本は、深刻な人手不足に陥ることが避けられません。

強い危機感を抱く経済産業省は、子育て世代の女性や障がい者、外国人など多様な人材の活躍が不可欠であるとして、ダイバーシティを推進しています。企業には海外からの労働者の受け入れや女性の雇用機会を増やす経営戦略が求められているのです。

価値観の多様化

時代の移り変わりとともに、労働者の働き方やキャリアに対する考え方も多様化しています。従来の終身雇用制度や年功序列制度が崩壊し、大きな価値観のアップデートが求められるようになりました。

多く見られる例が、「プライベートを重視した働き方がしたい」「商品の購入よりもリアルな体験にお金を使いたい」など、若年層を中心としたさまざまな価値観の広がりです。

さらに、企業は多様化する顧客ニーズに対応するため、新しい価値観を採り入れた商品やサービスを生み出さなければなりません。固定観念に縛られない発想力をもって事業活動を進めるには、社内でも多様な人材が活躍できる環境を整備する必要があるのです。

グローバル化

現在、世界の多くの地域で国境を越えた事業活動が進んでいます。

日本の製品や事業がアジアだけでなく欧米諸国、アフリカなどで評価される例も珍しくなくなりました。あわせて、国内市場も飽和気味。日本企業の海外進出や海外企業の日本進出が盛んになり、国境を越えて競争が激化している状態です。

日本企業は、日本国民のニーズだけでなく、世界規模の顧客ニーズを分析し、対応する必要があるということです。

さらに、日本の人材不足が叫ばれる中で、国内企業においても人種・国籍・文化が異なる人々を雇用する機会が増えたことも、ダイバーシティを重視する姿勢の背景となっています。

ダイバーシティ経営の重要性

社内のダイバーシティを実現するには、多様性を経営戦略に取り入れた「ダイバーシティ経営」が重要です。グローバル化やITの発展が急速に進む今、多様な人材や多様なニーズに柔軟に対応すること自体が経営課題となります。

ダイバーシティ経営とは

経済産業省は、ダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しています。※

定義における多様な人材とは、性別・年齢・人種・国籍だけでなく、障がい、性的指向、宗教、その他キャリアや働き方なども含む多様な属性・価値観をもった人々のことです。

ダイバーシティ経営では、こうした多様な人材が活躍できる職場環境や社内制度を整備します。それぞれの人材が自身の特性を活かして働くことで、事業全体の生産性向上と競争力強化につながるのです。

経済産業省が取り組むダイバーシティ経営の推進

経済産業省ではダイバーシティ経営を推進するために、「新・ダイバーシティ経営企業100選/100選プライム」や「なでしこ銘柄」などに取り組んでいます。

新・ダイバーシティ経営企業100選/100選プライムは、多様な人材の能力を活かし、中長期的に経営成果を上げている企業を表彰する制度。なでしこ銘柄は、東京証券取引所と共同で、女性活躍推進で成果を上げている上場企業を選定するものです。

ダイバーシティ経営の実践の現状と課題を見える化する「ダイバーシティ経営診断ツール」も、経済産業省公式ページに掲載されています。

ダイバーシティ経営を組織に導入するメリット

ダイバーシティ経営の戦略立案において、「経済産業省が進めようとしているから」という理由だけでは、本質を捉えた立案が難しいかもしれません。ダイバーシティ経営のメリットは何か、なぜそのメリットが生じるのかを理解することが、より効果的な戦略立案につながります。

採用・雇用力の強化

ダイバーシティ経営の1つめのメリットは、採用活動で優秀な人材に興味を持ってもらいやすいことです。なぜなら、多様な人材が活躍できる環境を整備することは、より多くの求職者に魅力的に映り、好条件で働きたいと考える人々の目にもとまりやすくなるからです。

従来の「フルタイムで朝に出社し、残業もいとわない人材」や「必ず出社して業務を行う人材」だけでは、時短や在宅なら働ける優秀な人材は応募できません。募集できる地域も限定されてしまうでしょう。

こうした制約を軽減することで、より広い層が求人に応募しやすくなるのです。

イノベーションの創出、生産性の向上

ダイバーシティ経営の2つめのメリットは、イノベーションの創出や生産性の向上につなげられることです。

イノベーションにはプロダクトイノベーションとプロセスイノベーションの2種類がありますが、どちらにも従来の考えに縛られない発想力や視点が必要です。多様化する顧客ニーズの分析・理解も、さまざまな立場や価値観の人材が関わることで、より深化できるでしょう。

多角的な視点がもたらすアイディアは、商品開発以外の部分にも恩恵をもたらします。例えば、日常業務で「当たり前」と思っていた工程を別の視点から見ることで、「実はこの工程は不要なのでは」と気づいたり、逆にトラブルの元になっていた部分を見抜いたりできるでしょう。

グローバル市場における競争力の強化

そして、ダイバーシティ経営実践の3つめのメリットは、性別・人種・国籍・宗教・能力などが異なる多様な人材が活躍することで、グローバル市場での競争力強化につながることです。技術の発展により激しく変化するビジネス環境において、人材の多様性は変化に対する柔軟性、耐久性につながります。

例えば、クレディ・スイスによる調査レポート「Gender 3000」は、「取締役会の多様性と株価パフォーマンスとの間に強い相関関係」があると指摘。また、「経営幹部において女性の割合が高いことは、サステナビリティ、ESGおよび国連の持続可能な開発目標に対して、より一層重視していることと相関関係」があるとしています。※

世界経済や国際情勢の影響を受けやすいグローバル市場において、ダイバーシティ経営こそが生き残りの鍵になるということです。

※参考:クレディ・スイス|ジェンダー3000 レポート

ダイバーシティの推進方法‍

企業において、ダイバーシティの考え方や制度を導入する際は、基本の手順を押さえ、先進事例を参考にしながら進めるとよいでしょう。その中で、発生しやすい課題を予見し、対策を講じておくことも重要です。

ダイバーシティの手順、事例、発生しやすい課題と対策を確認していきましょう。

ダイバーシティ経営の実践ステップ

まず、ダイバーシティ経営の実践は、以下の手順を基本に進めるとよいでしょう。経営層から現場の従業員まで、ダイバーシティの重要性やその理由を理解すること、その理解を行動につなげること、行動につなげやすい環境を整備することなど、全社的な取り組みが求められます。

  • 1. 経営戦略にダイバーシティを組み込む
  • 2. ダイバーシティ推進体制を構築する(担当部署の設置など)
  • 3. ダイバーシティを考慮したガバナンスへ改革する
  • 4. 現場でダイバーシティ推進をしやすいよう、全社的な環境・ルールを整備する(多様な働き方、具体的な採用活動の内容など)
  • 5. 研修などで、ダイバーシティ推進に関する管理職の意識改革・行動変容を進める
  • 6. 研修や業務の中で、ダイバーシティ推進に関する一般社員など現場の従業員の意識改革・行動変容を進める

ダイバーシティ経営の実践で第一に行うことは、経営戦略にダイバーシティ推進を組み込むことです。経営トップがダイバーシティ推進の重要性と決意を明示することで、全社的な取り組みが可能になります。

経営戦略のひとつとしてダイバーシティ推進を組み込んだあとは、実際にそれを推進する体制を構築しましょう。具体的には、ダイバーシティ推進を担うチームや部署の設置、経営層全体におけるダイバーシティへの理解の深化、人事評価制度や採用活動の方針の検討、多様な働き方の中で実現したい・実現できる施策などです。

その際、ガバナンスの改革も進めなければなりません。ダイバーシティをうたっているのに経営層が単一の属性で構成されている、女性や障がいのある方などが管理職や経営層にキャリアアップする道がないといった事態は、経営戦略と矛盾しますし、株主や顧客からの評価も上がりにくいからです。

ダイバーシティに対する意識改革は、経営層、管理職、一般社員など現場の従業員の順に進めるトップダウン型で行うことが肝要です。こうすることで、「現場ではダイバーシティが進んでいるのに、管理職や経営層が理解せず、マイノリティのキャリアが閉ざされてしまう」などの事態を防ぐことができます。

そして何より、強い権限を持つトップ層や管理職がダイバーシティ推進の姿勢を見せることで、これまで意識してこなかった他の管理職や従業員の意識改革につなげられるでしょう。意識改革には、ダイバーシティ推進に理解のある担当者や外部の研修会社による研修を活用すると、より本質的な理解を伴った実践に役立ちます。

企業における取り組み事例 カンロ株式会社

ダイバーシティ経営の先進事例は、新・ダイバーシティ経営企業100選/100選プライムで表彰された企業の取り組みを参照するとよいでしょう。

たとえば、カンロ株式会社では、ダイバーシティ経営の実践により、新たな視点での商品開発を実現しました。グローバル展開も視野に入れて、多様な人材が活躍できる職場環境の整備を行っています。ダイバーシティ経営を前提とした全社的な環境整備は、部門横断的な商品開発プロジェクトの実現、時短勤務社員をリーダーとする新商品の実現にも大きく貢献しました。

従来とは異なる視点でターゲットを捉えた新商品は好調な売上を見せ、会社全体の業績向上につながっています。

ダイバーシティ経営の課題と対策

ただ、このようにダイバーシティ経営を実践する中で直面しやすい課題が、いくつか見られます。これらの課題を放置すると、ハラスメントが発生したり、社員同士が衝突したりして、全体の生産性低下を招くリスクがあります。

発生しやすい課題をあらかじめ把握し、対策を講じましょう。

ダイバーシティ経営で発生しやすい課題と対策

主な課題 対策
アンコンシャス・バイアスによるハラスメント※ ●経営層や管理職を対象に、アンコンシャス・バイアスによるハラスメントに関する研修を定期的に実施する
●ハラスメントに関する注意喚起やパンフレットを全社に発信する
●ハラスメントに関する相談窓口を設置し、社内で周知する
●ハラスメントが発生してしまった事例を共有し、どのような発言・行動がハラスメントに当たるのか、理解促進につなげる
価値観の違いによる衝突 ●ダイバーシティ推進施策の中で、多様な人材が参加することでの価値観の違いが生まれることを知らせておく
●価値観の違いで衝突する事態が発生した際の話し合い方や相談先を明示しておく
●業務の進め方や報連相の経路を手順書などで明確にしておく
●相互理解を促すためのコミュニケーションの機会を定期的に設定する
●多様な人材と働くために必要な研修を定期的に実施する
不公平感、透明性の欠如による不満の発生 ●評価基準が明確な人事評価制度を導入し、実際に運用する
●不公平感や不満が発生していないか、定期的にアンケートやヒアリングを行う
●採用・昇進・昇給の条件がダイバーシティ経営戦略と矛盾していないか定期的にチェックする
●社員等の属性をもとにした構成比を調べ、分析・評価する

※アンコンシャス・バイアス … 無意識の思い込みや偏見