昇給とは?相場や役割・メリット、ベアとの違いも

published公開日:2024.02.01
目次
昇給とは給与が上がることを指し、企業ごとに制度や昇給率が異なります。
本記事では、昇給制度の役割やメリット、課題などを解説。さらに、昇給につながる従業員の行動やスキルも紹介します。昇給制度の見直しをしたい方、昇給制度に興味のある方は、ぜひご覧ください。

昇給とは

まずは、「昇給」とは何か、意味を混同しやすい「昇格」や「ベースアップ」との違い、賃上げ交渉を行う「春闘」について解説します。

昇給と昇給制度

「昇給」とは、勤続年数や業績などに応じて、基本給が上がることです。ボーナスは基本給には含まれません。どのような基準で昇給するかを定めた昇給制度は、会社によって異なります。多くの場合は会社側が基準を設定しますが、労働組合や従業員側からの呼びかけが全体の賃金アップにつながることもあります。

昇給と昇格の違い

「昇格」とは、職能資格制度を導入している企業において、従業員の等級が上がることです。給与が上がることを示す昇給に対し、昇格は職務レベルの変化を表します。

等級が上がることによって、会社から求められるパフォーマンスが高くなったり、業務上の責任が重くなったりするため、昇給をともなう昇格も多くあります。しかし、昇給と昇格は異なる制度であるため、必ずしも連動するわけではありません。

昇給とベースアップ(ベア)の違い

ベースアップ(略称 ベア)とは、従業員全体の「給与の基本額(ベース)」が上がることです。昇給は、会社の規定(賃金表)に沿って個別の従業員の賃金に対して行うこと。ベースアップは、賃金表自体を書き換え、全体の給与水準を引き上げることを意味します。

ベースアップ実施の可否は、通常、春季闘争(春闘)における、労働組合と雇用者(経営者)の賃上げ交渉で決まります。物価上昇によって相対的に下がった賃金の回復などを目的に行われます。

ベースアップは会社の業績や景気によって決まり、毎年一定の割合でアップするとは限りません。また、一度上げた給与を理由なく引き下げることは難しいため、多くの企業がベースアップには慎重姿勢を取っています。

賃上げ要求を行う「春闘」とは

春闘とは、「春季賃上げ闘争」(日本大百科全書)や「春季生活闘争」(連合)の略で、労働組合が主体となって企業に対して労働条件の要求・交渉を行う労働運動のことです。

春闘は、多くの日本企業が3月に会計年度を終えるため、4月から始まる新年度に向け、毎年2〜3月にかけて行われます。要求・交渉内容には、賃金の引き上げをはじめ、労働時間の短縮や労働環境の改善など、さまざまな案が含まれます。

昇給制度の種類

従業員の昇給基準を定めた昇給制度には、いくつかの種類があります。ここでは、代表的な6つの制度をご紹介しましょう。

定期昇給

定期昇給は定期的・自動的に給与が上がる仕組みのことです。日本ではこの定期昇給が主流であり、年功序列・終身雇用型人事を象徴する制度といえます。

なお、外資系企業は成果主義の傾向があり、多くの企業が定期昇給の仕組みを持ちません。近年は、日本でもベンチャーやIT企業を中心に成果主義を採用する会社が増えており、定期昇給制度の見直しが進んでいます。

臨時昇給

臨時昇給は、時期や対象者を定めず、臨時で行われる昇給のことです。企業の業績が好調であるときや、従業員が優れた業績や成果を達成した場合など、さまざまな理由で行われます。

臨時昇給は、定期昇給や自動昇給の対となる昇給制度です。

自動昇給

定期昇給の中で、従業員の年齢や勤続年数などに応じて自動的に昇給する仕組みが自動昇給です。実績や能力に関係なく、条件を満たした全ての従業員が一律で昇給対象となります。

考課昇給

考課昇給は、従業員それぞれの実績や成果に対する評価(考課)を基準とした昇給制度です。企業ごとに昇給条件や昇給率は異なります。

自動昇給とは対照的に、日々の業務内容や業績などが昇給につながるため、従業員のモチベーションアップも期待できる制度です。

普通昇給

技能や職務遂行能力の向上に応じて行われる昇給を指します。資格取得や一定年数の勤務などが基準となるケースもあります。自動昇給や考課昇給との違いが明確でないこともありますが、「特別昇給」と区別する際によく使われる用語です。

特別昇給

特殊な職務に従事した場合や、めざましい功労があった場合など、特別な理由に基づく昇給です。臨時で行われる場合が多く、定期昇給・自動昇給とは性質が異なります。

特別昇給は、普通昇給の対象外である事柄に対する評価である点で、臨時昇給と異なります。

昇給制度の4つの役割

こうした昇給制度には、さまざまな役割があります。主な役割として4つをご紹介します。

(1)働きに見合った給与に調整する

昇給制度の1つ目の役割は、勤続年数や職務遂行能力が上がった従業員に対して、それに見合う賃金を支払うための給与調整機能です。

一定の基準に基づいて昇給を行うことで、従業員の会社に対する帰属意識・貢献意識の向上や、継続的雇用の実現につなげられます。

(2)労働意欲を刺激する

2つ目は、従業員の労働意欲を刺激するという役割です。特に、考課昇給や特別昇給などにおいては、各従業員の成果や努力に対する評価が基準となります。

日頃の頑張りが昇給につながれば、従業員のさらなるモチベーション向上につながるでしょう。多数の従業員の労働意欲が刺激されれば、組織全体の業務効率向上や成長につながることも期待できます。

(3)従業員の生活レベルを維持する

3つ目は、従業員の生活水準を維持する役割です。春闘の項目で解説したように、景気変動による物価上昇に対して、適切に給与を調整することで、従業員の実質的な収入を保つことができます。

それだけでなく、状況に応じた必要な昇給によって、結婚、子育て、教育費、住宅ローンなど、ライフステージの変化に応じた従業員の費用負担軽減にも寄与するでしょう。ライフステージの変化に備えた資金計画も立てやすくなります。

(4)見通しの良い資金計画で企業経営が安定する

4つ目として、企業経営を安定させる役割もあります。昇給制度を整備することで、従業員に支払う給与額を予測しやすくなります。人件費の算出は長期的な資金計画にとって欠かせない要素であり、行き当たりばったりで増減できるものではありません。

昇給制度などをもとにした人件費の予測は、リソースの効果的な活用につながります。企業全体のより確実な成長と安定を図る事業計画にも、大いに役立つでしょう。

昇給制度がもたらすメリット

従業員と企業に対して多くの役割が期待される昇給制度。そうした役割から、昇給制度の導入・運用には複数のメリットがあります。働く側と会社側とに分けて、あらためて具体的なメリットを見ていきましょう。

働く側のメリット

昇給制度が働く側にもたらすメリットは、主に次の3点です。

  • ・昇給の基準やタイミングが明確になる
  • ・成果や評価が給与に反映されることが可視化され、モチベーションアップにもつながる
  • ・定期的な給与アップが見込めることで、将来の収入を見越したライフプランを立てられる

VUCAの時代、ビジネス環境の不安定さは従業員の生活の不安定さにもつながることがあります。いつ、どのような条件で昇給できるかを見通せれば、より安心して働けるでしょう。

会社側のメリット

他方、会社側のメリットは、役割で先述したように次の3点です。

  • ・従業員の昇給額や昇給のタイミングが決まっていることで、会社の固定費(給与額)を予測できる
  • ・あらかじめ固定費を算出できるため、経営計画を立てやすくなる
  • ・明確な昇給の仕組みが、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上につながる

近年、物価高騰の影響もあり、多くの従業員が生活に不安を感じています。また、少子化などによる人材の流動化に悩む企業も増えています。昇給条件の明確化は働く意欲につながるとともに、生産性アップや人材確保などの面でも大きなメリットがあるでしょう。

昇給制度の課題

多くの役割やメリットのある昇給制度ですが、対策すべき課題も存在します。昇給制度における特に重要な課題として、2つをご紹介します。

あいまいな評価基準は不満の原因になる

昇給制度で最も重要なことは、従業員と企業側の双方が納得できる評価基準を設定することです。評価基準があいまいなままでは、昇給に関する公平性を欠き、不満の原因になりかねません。細かい条件設定を面倒に感じるかもしれませんが、公平性を期すには、明確な昇給基準が重要です。

臨時昇給や特別昇給では、通常と異なる理由での昇給を行います。業績好調のための昇給であれば、会社全体の業績向上が給与として還元されますので、会社への信頼度も高まるでしょう。

個々の従業員の仕事に対する評価に基づく昇給であれば、その従業員の努力を認め、労働意欲を刺激することができます。

会社側が求める条件を一方的に示したり評価者の主観で昇給の有無を決めたりせず、従業員エンゲージメントや生産性の向上につながるよう、公平な基準設定と運用を行いましょう。

人事考課に手間がかかる

従業員の業績やスキル、勤務態度を給与の基準とする場合、定期的な人事考課を行って昇給額を決定しなければなりません。目標管理(MBO)やコンピテンシー評価、360度評価など、会社によって評価基準はさまざまですが、いずれも適切な評価を行うには「手間がかかる」点が共通しています。

例えば、管理職や上司などの評価者にとっては、部下の一人ひとりと向き合い、その業績やスキル、目標達成率を評価し、課題解決に向けた話し合いの時間を割かなければなりません。一人にかける時間は短時間でも、被評価者が増えれば増えるほど多くの時間が必要です。人事担当者も、評価に向けて評価シートなどの資料を作成したり、評価者向けの研修を実施したりしなければなりません。

評価にかかる労力が大きすぎれば、本来の業務に支障が出てしまいます。昇給制度の設計では、こうした運用コストにも目を向け、従業員を適切に、かつ簡単に評価できる仕組みも意識するとよいでしょう。

昇給額の相場

会社によって昇給額や昇給率は異なりますが、景気の影響を受けて年次ごとにある程度の傾向が現れます。日本経済団体連合会および日本労働組合総連合会が発表した2023年の春闘結果をもとに、大企業・中小企業の平均昇給額を紹介します。

大企業の昇給額

一般社団法人日本経済団体連合会(以下、経団連)による「春季労使交渉・大手企業業種別回答状況」によると、2023年の妥協額は加重平均で1万3,362円(アップ率3.99%)。2022年の7,562円(同2.27%)と比較すると、1.5倍以上の伸び率です。引き上げ額が1万円以上、アップ率3%台後半となったのは1993年以来30年ぶり。現行の集計方法を開始した1976年以降、最も高い数値となりました。

また、製造業と比べて非製造業のほうがアップ率・伸び率ともに高く、コロナ禍の影響を脱したサービス業や小売業などの復調が顕著です。

※参考:一般社団法人 日本経済団体連合会|2023年春季労使交渉・大手企業業種別回答状況[最終集計]

中小企業の昇給額

経団連が発表した2023年春闘の集計結果によると、組合員300人未満の中小企業におけるアップ率は3.00%でした。前年比1.08ポイント増となり、こちらも物価上昇に対応した高い水準の賃上げとなりました。

ベースアップと定期昇給等を合わせた賃上げ額は平均8,012円で、前年よりも約2,976円増加。アップ率が3%台となるのは1994年以来約30年ぶりの高水準です。

※参考:一般社団法人 日本経済団体連合会|2023年春季労使交渉・中小企業業種別妥結結果[最終集計]

昇給につながる従業員の4つの行動

昇給の基準は企業ごとに異なるものの、多くの企業で評価されやすい行動がいくつかあります。今回は、昇給につながる4つの行動をご紹介しましょう。

(1)会社の昇給システムを把握する

まずは、従業員が自社の昇給システムや給与テーブルをしっかり確認することです。

昇給の仕組みを知ることで、自身の成果がどのように評価され、昇給につながるかを把握できます。昇給に向けた条件を一つずつクリアする道を定めやすく、目標設定やキャリアパスの検討・実現に生かせるでしょう。

進むべき方向が明確になれば、昇給できる等級・職位までの道のりを意識した働き方ができます。上司や育成担当者との定期面談においても、ポイントを押さえた効果的なフィードバックが可能となります。

(2)仕事の成果を出す

昇給制度に定められた基準を満たす成果も重要です。そうした基準は、会社が従業員に求める姿であり、条件を満たすほど職位が上がりやすくなります。職位があがれば、昇給のチャンスも増えるでしょう。

特に、ベンチャー系やIT企業など、欧米型の成果主義を採用する企業では、より実績が昇給につながりやすいものです。昇給以外では、インセンティブとして報奨金や賞金を出すケースも見られます。

(3)資格を取得する

資格を取得してスキルアップすることも、昇給に向けた効果的な行動の一つです。

企業によっては業務に役立つ資格について、資格取得手当を支給するところもあるでしょう。昇進の要件として、指定した資格の取得を求める場合もあります。

資格に関する手当や昇給制度がない企業でも、仕事のために資格を取得すれば、その意欲を評価して人事考課でプラスに働くでしょう。

いずれにおいても、「業務に必要なスキルや知識は何か」「それを獲得するにはどのような資格が有効か」をしっかりと判断し、実務につなげられることがポイントです。

(4)役職者を目指してスキルアップする

役職者になることは、昇給するための確実な手段といっても過言ではありません。

厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」の結果によれば、役職別の平均賃金は、非役職者が約28.16万円であるのに対し、係長級は約36.90万円、課長級は48.69万円、部長級は58.62万円でした。

こうした大きな昇給を望むのであれば、役職者に求められる要件を満たすような目標設定と行動が必要です。会社としても、次期リーダーや経営層の育成を見据え、積極的に支援するとよいでしょう。

※参考:厚生労働省|令和4年賃金構造基本統計調査の概況

昇給に関わる従業員のスキル

昇給するために求められるスキルは、会社やポジションによって異なります。ただ、多くの場合で共通するスキルとして、コミュニケーションスキルや課題解決スキルがあるでしょう。これらは管理職に必要なスキルとも共通しており、キャリアアップにも役立ちます。

コミュニケーションスキル

コミュニケーションスキルは、全てのビジネスパーソンに求められる基本スキルです。一方で、求められるコミュニケーションスキルのレベルは、職位や役割によって大きく異なります。

例えばチームリーダーの場合、チームワークや円滑な業務遂行において、確実な情報共有と状況に合わせたサポートは欠かせません。もちろん、プロジェクト発足時のチームビルディングでも、メンバーとの信頼関係構築を実現する要は、リーダーのコミュニケーションスキルです。

一般社員の場合でも、クライアントとの交渉、ユーザーとのやり取りなど、適切なコミュニケーション力は多方面で必要とされます。相手に好印象を与えるコミュニケーションや的確な情報提供ができれば、業績アップにもつながるでしょう。

それぞれの従業員が自身の役割を果たすために必要なコミュニケーションスキルを獲得できるよう、会社側による支援も欠かせません。

課題解決スキル

もう一つのスキルは、課題解決スキルです。課題解決スキルとは、業務や仕組みの問題に気付き、原因を分析し、適切な解決策を見出すスキル。チームや組織の課題だけでなく、従業員個人が抱える課題も対象となります。

具体的にいえば、一般社員からの昇格を目指す場合、業務効率の向上や他の従業員との連携、上司への適切な報連相、そして目標となる成果の達成が求められます。人事考課が行われる時期を期限とすれば、その期限までに今の自分にはないスキルや知識、観点を分析し、成長につながる取り組みを行わなければなりません。

管理職の場合は、部署全体の業績における課題、人間関係における課題、働き方の課題など、多方面からの分析と解決策が求められるでしょう。

変化の多い昨今のビジネス環境において、課題を解決する力こそ企業の成長の源です。不測の事態にも臨機応変に対応できるよう、職位や職務内容に応じた課題解決スキルのレベルを定め、スキル獲得・向上の仕組みづくりを行いましょう。