厚生年金とは?パート・会社員の加入条件や金額の目安をわかりやすく解説

update更新日:2025.09.04 published公開日:2024.04.01
厚生年金とは?パート・会社員の加入条件や金額の目安をわかりやすく解説
目次

厚生年金とは、会社で働く人が加入する公的年金の制度です。パートやアルバイトでも条件を満たせば加入でき、加入期間や標準報酬額に応じて、受給できる金額が変わります。

本コラムでは、厚生年金制度の概要、国民年金との違い、加入条件や受給金額の目安などについて解説します。

厚生年金とは?基本的な仕組みと国民年金との違い

厚生年金とは、一般的な会社に勤めている人が加入する公的年金制度です。

まずは、厚生年金を含めた公的年金制度の基本的な構造と種類、国民年金の違いなどについて理解しましょう。

厚生年金の基本構造

厚生年金とは、会社員や公務員が加入する公的年金制度で、国民年金(基礎年金)に上乗せされる「2階部分」の年金です。

日本の公的年金には、会社員や公務員が加入する「厚生年金」と、20歳以上60歳未満の全ての人が加入する「国民年金」があります。厚生年金に加入している人は国民年金にも加入しているため、厚生年金は「2階建て」部分と呼ばれています。

2階部分 国民年金基金 厚生年金
1階部分 国民年金(基礎年金)
被保険者種別 第1号被保険者
(自営業者など)
第2号被保険者
(会社員・公務員)
第3号被保険者
(第2号被保険者に扶養される人)

厚生年金は、加入者と事業主が保険料を折半で支払い、将来の年金額は給与額や加入期間によって決まります。

老後の生活資金を手厚く補う仕組みとして、重要な役割を果たしている制度です。

厚生年金の目的と3つの種類

厚生年金は加入者が働けなくなったときに、家族の暮らしを支える目的があります。

厚生年金には、老後の生活を支える老齢年金をはじめ、3つの種類があります。

種類 目的 給付のポイント
老齢厚生年金 老後の生活の保障 国民年金(基礎年金)に上乗せして支払われる
障害厚生年金*1 ケガや病気により障害を負い仕事に支障が出た場合などの生活保障 65歳未満でも所定の障害に該当すれば支払われる
遺族厚生年金*2 年金加入者が亡くなった場合の家族の保障 年金加入者と生計を同一にする家族などに支払われる

このように、厚生年金には3つの種類がありますが、一般的に厚生年金という場合は、老齢厚生年金を指して言うことが多いです。

*1 参考:日本年金機構|「障害年金」

*2 参考:日本年金機構|「遺族年金」

厚生年金と国民年金の違い

厚生年金は国民年金を補完する公的年金制度です。厚生年金と国民年金の主な違いを表にまとめると以下のようになります。

国民年金 厚生年金
加入対象者 20歳以上60歳未満の人 会社員・公務員など(第2号被保険者)
保険料 定額 所得に応じて異なる
扶養制度
障害年金 障害等級1級・2級に限る 障害3級も対象
遺族年金 被保険者の「子」または「子のある配偶者」のみが対象 子のない配偶者や父母・孫なども対象

厚生年金と国民年金は加入対象や保険料、年金額などに違いがあります。国民年金は、20歳以上60歳未満の全ての人が対象で、保険料は定額制です。一方、厚生年金は会社員や公務員が対象で、給与額に応じて保険料が変わります。さらに、厚生年金には、配偶者を扶養にできる制度もあるため、経済的な安心感が大きい点も特徴です。

また、厚生年金と同じように国民年金にも障害年金と遺族年金があり、基本的に厚生年金が基礎年金に上乗せして支払われるのは老齢年金と同じです。しかし、受給条件や対象者などに違いがあります。

参考:日本の公的年金は「2階建て」 | いっしょに検証! 公的年金 | 厚生労働省

厚生年金基金やiDeCoとの違い

厚生年金基金やiDeCo(個人型確定拠出年金)は、公的年金に上乗せする私的年金のことです。

厚生年金基金は、元々は国が行う老齢厚生年金の一部(報酬比例部分)の支給を代行し、これにプラスアルファ部分を上乗せして支払う仕組みでした。法令の改正により、2014年以降は厚生年金基金を解散するかまたは順次確定給付企業年金へ移行することとなっています。

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分で積立額や運用先を決める私的年金です。厚生年金に加入していない自営業やフリーランス、第3号被保険者などが国民年金の上乗せとして加入できるほか、厚生年金の加入者もさらに老後の補償を手厚くしたい場合には、一定限度額まで加入できます。

参考:日本年金機構|厚生年金基金加入期間がある方の年金

参考:iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】|iDeCoってなに?

厚生年金に加入する会社員・パートの条件とは

厚生年金は会社員や公務員を対象とした公的年金ですが、パートやアルバイトなどは加入対象となるのでしょうか。

ここでは、厚生年金の加入対象者について詳しく解説します。

会社員の厚生年金加入は原則義務

厚生年金は、原則として会社員であれば必ず加入することが法律で義務付けられています。

厚生年金は、会社と労働者が半分ずつ保険料を負担することで、より多くの年金を将来受け取れる仕組みです。正社員はもちろん、契約社員やパート・アルバイトでも雇用契約を締結した先が「適用事業所」であれば、原則として加入対象になります。

参考:厚生労働省|社会保険適用拡大 特設サイト|パート・アルバイトのみなさま

適用事業所の種類とその特徴(強制・任意など)

厚生年金に加入できるかどうかは、勤務先が「適用事業所」に該当するかで決まります。適用事業所には、強制適用事業所と任意適用事業所があります。

強制適用事業所は株式会社などの法人の事業所または従業員が常時5人以上いる個人の事業所です。法人で5人未満の従業員を雇用している場合や常時5人以上の従業員を雇用する個人の法律・会計事務所なども対象となります。

一方、任意適用事業所は、条件を満たせば事業主と従業員の同意により制度を導入できます。どちらに該当するかで、加入義務が変わってくるため注意が必要です。

参考:日本年金機構|適用事業所と被保険者

パート・アルバイトでも加入が必要になるケースとは

勤め先が従業員数51人以上の企業の場合、パートやアルバイトでも、以下の条件を満たすと厚生年金への加入が必要になります。

  • 週の所定労働時間が週20時間以上
  • 月収が8.8万円以上(年収約106万円)
  • 雇用期間が2カ月超
  • 学生ではない

勤め先が従業員数「50人以下」の場合でも、従業員と企業が合意することで、51人以上の企業と同じ加入要件にすることができます。

この基準は「短時間労働者の適用拡大」により、2022年から段階的に広がっています。

厚生年金の扶養制度とは

厚生年金には、被保険者が一定条件の家族を扶養に入れることができる制度があります。扶養とは、配偶者や子どもなどの被扶養者は年金保険料を支払わなくても、将来的に年金や健康保険の恩恵を受けられる制度です。

扶養に入れることができる人の年収制限は130万円までで、年収が130万円以上の場合には配偶者の扶養から外れ第3号被保険者の資格を喪失します。いわゆる「130万円の壁」といわれるものですが、上で説明した通り、例えば年収が130万円未満のパートでも、勤め先が厚生年金の適用事業所で加入条件を満たしている場合は、勤め先の厚生年金に加入する必要があります。

厚生年金は何歳からもらえる?受給に必要な加入期間と支給開始年齢

厚生年金は何歳からもらえるのか気になっている方も多いでしょう。

原則として、厚生年金は65歳から支給が始まりますが、一定の条件を満たせば60歳から繰上げ受給も可能です。また、受給を遅らせることで将来の年金額を増やす「繰下げ受給」という制度もあります。

ここでは、厚生年金を受け取るための加入期間や支給開始年齢、受給タイミングによる年金額の変動について解説します。

参考:日本年金機構|老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額

受給資格を得るための加入期間

厚生年金は、老齢基礎年金(国民年金)の受給資格があり、厚生年金に1カ月以上加入している人が受け取れます。老齢基礎年金の受給資格は、保険料を10年以上納付した人(免除期間の合算も可能)です。

原則65歳から受け取れる老齢厚生年金

老齢厚生年金は原則として65歳から受け取れます。ただし、65歳時点で老齢基礎年金の保険料納付期間が10年に満たない場合などは、65歳以後に受給期間を満たした時点から受け取ることができます。

厚生年金支給開始年齢早見表

厚生年金の受給開始年齢は65歳ですが、段階的に引き上げられてきたため、昭和41年4月1日より前に生まれた人は、生まれた年や性別によって、支給年齢が異なることがあります。

例えば、昭和36年4月2日生まれの場合、男性は定額・報酬部分ともに65歳からの支給となりますが、女性は報酬比例部分のみ62歳からの支給となります。

このように、自分の生年月日や性別に応じて受給開始年齢が異なるため、年金機構が公開している「支給開始年齢早見表」で確認しておくと安心です。

参考:厚生労働省「支給開始年齢早見表」

繰上げ・繰下げ受給

老齢厚生年金は、原則の65歳よりも早く受け取る「繰上げ受給」、または遅らせて受け取る「繰下げ受給」が可能です。

【繰上げ受給】

  • 年金受取額を減額するかわりに年金受給開始年齢を60歳以降に繰り上げ
  • 減額率は「0.4%×繰り上げた月数(繰り上げ請求した月から65歳になる日の前月までの月数)」
  • 繰り上げ時期に応じて最大24%、年金額が減額され、生涯同じ金額で支給される*1

【繰下げ受給】

  • 年金受給開始年齢を65歳より後に繰り下げると、その分受給額が増額される
  • 増額率は「0.7%×65歳になる月から繰り下げの申し出をした月の前月までの月数」
  • 繰り下げ時期に応じて最大84%、年金額が増額される*2

*1:1962(昭和37)年4月1日以前生まれの人は、繰上げ受給による減額率は0.5%、最大30%です

*2:1952(昭和27)年4月1日以前生まれの人は、繰り下げの年齢は70歳までとなり、増額率は最大42%です

年金の繰上げ・繰下げ制度により、早く年金を受け取りたい人、あるいは将来に備えて受給額を増やしたい人など、それぞれの生活状況に応じた選択ができます。ただし、年金の繰上げ・繰下げは一度選ぶと変更できない、繰上げは原則として老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に行うことが必要、といった点に注意が必要です。

参考:日本年金機構|年金の繰上げ・繰下げ受給

厚生年金の金額はいくら?保険料と受給額の目安

厚生年金に加入すると、毎月の給与から保険料が天引きされ、将来は年金として受給できます。しかし「保険料はいくら支払うのか」「老後にどれくらい受け取れるのか」といった金額面は気になるところです。

ここで、保険料の計算方法や受給額の目安についてわかりやすく解説します。

月額保険料の計算方法(標準報酬月額・賞与)

厚生年金保険料は、毎月の給与や賞与に応じて決まります。

具体的には「標準報酬月額」と「標準賞与額」に所定の保険料率(令和6年度は18.3%)を掛けた金額です。保険料は労使折半で、会社と従業員が半分ずつ負担します。

標準報酬月額 被保険者が受け取る給与(基本給のほか残業手当や通勤手当などを含めた税引き前の給与)を一定の幅(1~32等級)で区分したもの
標準賞与額 実際の税引き前の賞与の額から1千円未満の端数を切り捨てたもの

例えば、実際の報酬月額が29万円で、標準報酬月額19等級(報酬月額29~31万円)に該当する場合、厚生年金の月額保険料は標準報酬月額30万円に18.3%をかけた約5.5万円です。このうち半分の約2.75万円が従業員の負担となります。

賞与については、区分ではなく実際の税引き前の賞与額の端数を切り捨てた金額に18.3%をかけた金額を労使で折半します。

参考:日本年金機構|厚生年金保険の保険料

参考:保険料額表(令和2年9月分~)(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険)

厚生年金の受給額の計算方法と金額の目安

厚生年金の受給額は、以下の計算式によって算出されます。

厚生年金受給額=①報酬比例部分+②経過的加算+③加給年金

厚生年金受給額のメインとなるのは①の報酬比例部分です。

②の経過的加算は20歳未満や60歳以降に厚生年金保険に加入期間がある場合、③の加給年金は65歳未満の配偶者や18歳未満の子どもがいる場合などに対象となります。

各項目の考え方や計算方法について詳しく解説していきます。

参考:日本年金機構|老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額

①報酬比例部分

報酬比例部分の金額は、厚生年金に加入していた期間や過去の報酬によって計算されます。

【2003年3月以前の加入期間】

平均標準報酬月額×(7.125/1000)×2003年3月までの加入期間の月数

【2003年4月以降の加入期間】

平均標準報酬額×(5.481/1000)×2003年4月以降の加入期間の月数

2003年3月以前は、月々の給与を元にした標準報酬月額を基準とし、2003年4月以降は賞与も含めた標準報酬額が基準となります。

②経過的加算

1985(昭和60)年の改正において、基礎年金を公的年金制度の1階部分に導入する際、旧法との差額を埋めるために経過的加算が設置されました。

厚生年金に加入した期間のうち、1961年4月以降で20歳以上60歳未満の期間がある場合は、以下の計算式による経過的加算額を調整します。

【計算方法】

  • A(定額部分):1,657円×定額単価*×被保険者期間の月数

    *定額単価:1946(昭和21)年4月2日以降生まれは1.000

  • B:老齢基礎年金満額(795,000円)×20歳から60歳未満の厚生年金加入月数/加入可能月数(例:480カ月)

③加給年金額

加給年金は、加入期間が20年以上の被保険者が65歳になったとき、以下の要件を満たした配偶者や子どもがいる場合に加算されます。

  • 65歳未満の配偶者
  • 18歳到達年度の末日までの間の子、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子

加給年金の金額は毎年改定され、令和7年4月からの加給年金額は以下の通りとなっています。

対象者 加給年金額 年齢制限
配偶者 239,300円 65歳未満であること
(大正15年4月1日以前に生まれた配偶者には年齢制限なし)
1人目・2人目の子 各239,300円 18歳到達年度の末日までの間の子
または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子
3人目以降の子 各79,800円 18歳到達年度の末日までの間の子
または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子

加給年金は上記の年齢制限に該当しなくなった場合のほか、離婚、死亡などにより生計を維持されなくなったときに加算が終了します。

年金受給額の平均

厚生労働省が発表している「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2023(令和5)年度の老齢厚生年金と国民年金の平均受給額は以下の通りとなっています。

平均受給額(月額)
老齢厚生年金
(基礎部分である国民年金分も含む)
147,360円
国民年金のみ加入 老齢基礎年金25年以上加入 57,700円
新規裁定者 55,252円

なお、国民年金の加入期間である20歳から60歳まで、全て加入していた場合、老齢基礎年金の満額は、2024(令和6)年度時点で月額68,000円となります。

参照:厚生労働省|令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況

参照:日本年金機構|令和5年4月分からの年金額等について

厚生年金は意味ない?加入するメリットとデメリットとは?

支給年齢の引き上げやインフレなどの影響により「厚生年金は将来受け取れないのでは?」「厚生年金は加入しても意味ない?」と考える人もいるかもしれませんが、もちろん厚生年金にはメリットがあります。

最後に、厚生年金に加入するメリットとデメリットを解説します。

メリット(1)将来受給できる年金額が増える

厚生年金の最大のメリットは、国民年金と比べて、将来受給できる年金額が多いことです。厚生年金保険料には、国民年金も含まれているため、厚生年金と国民年金の両方の老齢年金を受給できます。受け取れる年金額が増えるので、より豊かな老後生活を計画できるでしょう。

メリット(2)障害年金支給の適用範囲が広い

ケガや病気による傷害の際に支給される障害年金の範囲が広いことも、厚生年金のメリットです。障害厚生年金が障害等級1級~3級までを対象としている一方で、障害基礎年金(国民年金)の対象は障害等級1級と2級に限られます。

また、障害厚生年金の要件に該当しない場合でも、障害手当金(一時金)が支給されることがあります。障害手当金は国民年金にはない制度です。

メリット(3)扶養制度がある

厚生年金には扶養制度があり、加入者に扶養される配偶者は第3号被保険者として扱われます。第3号被保険者は保険料の負担はありませんが、将来、老齢基礎年金を受け取れます。一方、国民年金では扶養制度がないため、家族一人ひとりが国民年金に加入する必要があります。

メリット(4)保険料を会社と折半できる

厚生年金の保険料は、加入者と事業所が折半で支払います。会社が保険料を半分負担することで、将来の備えに対する加入者の負担が軽減されます。

デメリット(1)給与の手取り額が減る

給与から厚生年金の保険料が天引きされるため、毎月の手取り額が少なくなります。特に、扶養内で働いていた人が新たに厚生年金に加入する際には、これまで発生しなかった保険料を支払うため、給与の手取り額が減る可能性があります。

デメリット(2)企業型確定拠出年金により厚生年金の受給額が減る

企業型確定拠出年金(企業型DC)を利用する場合、厚生年金の保険料に影響があるため、受給額が減ることがあります。

厚生年金保険料の算出には、4月~6月の給与支給額をもとにした標準報酬月額が用いられます。確定拠出年金に加入する場合、掛金を天引きした額が給与支給額となるため、利用前と比べて標準報酬月額が減少します。それに伴い、厚生年金保険料が減ると、必然的に厚生年金の受給額も減少することとなります。

まとめ:厚生年金は会社員の老後を支える大事な公的年金制度

厚生年金は、会社員や公務員などが加入する日本の主要な公的年金制度であり、老後の生活資金として大きな役割を果たします。

国民年金と異なり、収入に比例して年金額が増える「報酬比例部分」が加わるため、将来の受給額が大きくなる点が特徴です。また、保険料は労使折半で負担される仕組みであり、個人の経済的負担が軽減されています。

厚生年金制度は今後も制度改正が行われる可能性が高く、老後の安定した生活のためにも、最新の情報をアップデートし、自身の加入状況や将来の受給額をしっかり把握することが大切です。