諭旨解雇・諭旨免職とは?懲戒解雇との違いや要件を徹底解説

published公開日:2024.02.19
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諭旨解雇・諭旨免職とは、会社が従業員に退職を促し、退職届を受理したうえで解雇する懲戒処分のことです。懲戒解雇とは異なり、あくまでも自発的な退職です。

本コラムでは、諭旨解雇・諭旨免職の要件、退職金や失業保険などについて解説します。

諭旨解雇・諭旨免職とは

就業規則などに定められる「諭旨解雇」。読み方は「ゆしかいこ」ですが、どのような意味があるかご存じでしょうか。似た言葉で諭旨免職(ゆしめんしょく)があります。ここでは、諭旨解雇や諭旨免職について解説します。

諭旨解雇・諭旨免職の概要

諭旨とは、「趣旨を諭して告げる」という意味で、諭旨解雇とは、会社が従業員に対して解雇対象であることを勧告し、退職届の提出を求めて退職させることです。また、諭旨免職(ゆしめんしょく)は公務員に用いられる言葉で、意味や処分の重さは諭旨解雇と同じです。

諭旨解雇は懲戒処分の一種

諭旨解雇は懲戒処分の一種で、懲戒解雇に次いで重い処分です。懲戒解雇と合わせて検討される処分のため、従業員が退職に応じない場合は、懲戒解雇となります。

就業規則に定められることが多い懲戒処分には、以下のようなものがあります。

懲戒処分 制裁
戒告・けん責・訓告 <最も軽い処分>厳重注意
減給 給与を減額
出勤停止 一定期間、出勤を禁じる(その期間は無給)
降格 役職や職位を引き下げる
諭旨解雇、諭旨退職 退職を勧告し退職届を受理して雇用契約を解除、応じない場合は解雇
懲戒解雇 <最も重い処分>解雇

諭旨解雇でも退職金は支給される?

諭旨解雇による解雇者の退職金については、法的な決まりはなく、企業ごとに判断します。就業規則に定められている場合は、その内容に従います。

一般的には、懲戒解雇の際の退職金は減額または全額不支給、諭旨解雇の場合は通常の退職と同等、または一部のみ支給するケースが多いようです。

諭旨解雇の失業保険の給付は?

諭旨解雇で退職しても、受給に必要な被保険者期間が「離職前2年以内に12カ月」ある場合は、失業保険の基本手当が受け取れます。ただし、自己都合退職と同様に2カ月(または3カ月)の給付制限期間があり、支給まで待機する必要があります。

諭旨解雇と他の解雇・退職との違い

次に、諭旨解雇と混同されやすい、その他の解雇や退職との違いを説明します。

諭旨解雇と懲戒解雇の違い

懲戒解雇は即座に解雇する最も重い処分であり、従業員が重大な違反を犯した場合に適応されます。一方で、諭旨解雇は懲戒解雇よりも一段階軽い処分です。一方的に解雇する懲戒解雇と違い、自発的な退職を促す温情措置といえます。

諭旨解雇と諭旨退職の違い

諭旨解雇と諭旨退職は言葉の違いはありますが、従業員に退職届を提出させたうえで雇用契約を終了するという点で、内容はほとんど同じです。

ただし、諭旨解雇はその名の通り「解雇」と見られることがあり、労働基準法上の解雇規定の適用を受ける可能性があります。その場合、解雇予告の実施もしくは解雇予告手当の支払いが必要になります。

諭旨解雇と退職勧奨の違い

諭旨解雇が懲戒処分の1つであるのに対し、退職勧奨は人員整理や業績の悪化、合弁・買収などにより、従業員に自主的な退職を勧めるものです。退職金の加算や給付制限なしで失業保険が受け取れるなど、従業員にとって優位な条件を提示される場合もあります。

退職勧奨に応じるかどうかは、従業員の意思によるもので、会社からの強制ではありません。

諭旨解雇と自己都合退職の違い

自己都合退職とは、従業員が自らの意思で退職することです。通常、転職や家庭の事情、傷病など、個人的な理由で自発的に退職届を提出し、会社側が受理します。

一方で、諭旨解雇は、従業員の問題行動により会社側が退職を勧告するものです。退職届を提出するという点は共通していますが、自己都合退職とは性質が異なります。

諭旨解雇・諭旨免職の対象となるケース

では、諭旨解雇が該当するケースはどのような場合でしょうか。諭旨解雇が認められる要件とともに確認して行きましょう。

ハラスメント行為

パワーハラスメント(パワハラ)やセクシャルハラスメント(セクハラ)などのハラスメント行為により、諭旨解雇となることがあります。

パワーハラスメントとは、職場での地位や優位性を利用し、業務指導の範囲を超えて、上司が部下などに人格を否定したり尊厳を傷つけたりすることです。セクシャルハラスメントは、他の従業員に対して性的いやがらせを行ったり、性的な評価を下したりすることです。

ハラスメントは従業員のメンタルヘルスに影響を及ぼすだけでなく、職場環境の悪化や組織の生産性低下にもつながるため、諭旨解雇の対象として処分されることがあります。

正当な理由のない遅刻や欠勤

就業規則や雇用契約書では、従業員の就業時間や所定労働日が定められています。そのため、正当な理由のない遅刻や欠勤が繰り返される場合、労働契約の不履行とみなされ、懲戒処分になることがあります。

初回は戒告程度の軽い処分で済むことが多いですが、改善が見られない場合、より重い処分である諭旨解雇が検討されることがあります。

業務上の不正行為

不正会計や不正請求、取引先からの不正なリベートの受領、会社の備品転売など、業務上の不正行為は諭旨解雇の対象です。お金に絡む行為以外にも、情報のねつ造・改ざん・盗用、機密情報の持ち出し、秘密保持契約違反なども業務上の不正行為とみなされます。

違法行為

就業規則等に記載がなくとも、法律に違反した場合は懲戒処分を免れません。無免許運転や酒気帯び運転、規制薬物使用、窃盗、放火、傷害などは、諭旨解雇にとどまらず懲戒解雇となることがあります。

諭旨解雇が認められる3つの要件

従業員を諭旨解雇とするには、以下の3要件を満たす必要があります。

(1)就業規則に定めがあること

1つ目は、就業規則に懲戒処分の種別とその事由の規定があることです。就業規則に諭旨解雇に関する定めがない場合、処分を実行できません。

懲戒処分などの制裁については、種別とその事由を就業規則に明示する必要があります(労働基準法第89条)。事由は誰でも理解できるよう、具体的に記載しましょう。

※参考:労働基準法(第89条)第9章 就業規則「作成及び届出の義務」

(2)就業規則が従業員に周知されていること

2つ目は、諭旨解雇に関する内容を含めた就業規則が、従業員に周知されていることです。

労働基準法第106条において、就業規則の周知義務が定められています。就業規則に明記しても、周知されていない場合、諭旨解雇は無効となるため注意が必要です。

従業員がいつでも参照できるよう、以下のいずれかの方法で周知しましょう(労基法施行規則第52条の2)。

  • ・見やすい場所への掲示、または備え付け
  • ・書面の交付
  • ・電子データで記録し、常時閲覧できる状態にする
※参考:労働基準法(第106条)第12章 雑則「法令等の周知義務」
※参考:労基法施行規則(第52条の2)

(3)懲戒権および解雇権の濫用に該当しないこと

3つ目は、懲戒処分の内容が「懲戒権の濫用」や「解雇権の濫用」に該当していないことです。

諭旨解雇の事由が、客観的な妥当性や合理性を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、懲戒権の濫用や解雇権の濫用とみなされ、処分は無効となります(労働契約法第15条・第16条)。

諭旨解雇は極めて重い処分のため、適切に行われなかった場合、従業員が不当解雇として訴訟を起こす可能性があります。処分を実行する際は、過去の裁判例などを踏まえて、注意深く判断しましょう。

※参考:労働契約法(第15条)「懲戒」(第16条)「解雇」

諭旨解雇の手続き方法と注意点

続いて、諭旨解雇の処分を行う際、どのような手続きを踏むべきか、実際の手順と注意点について見ていきましょう。

(1)諭旨解雇に相当する事由か確認する

はじめに、該当者の問題行動について、事実関係を確認し、就業規則に定められているどの事由に該当するかを判断します。

前述の通り、諭旨解雇には客観的な妥当性や合理性が求められるため、慎重な調査が必要です。本人に聴取するだけでなく、関係者を洗い出し、証拠を収集するなど十分な事前調査を行いましょう。

(2)本人に弁明の機会を与える

次に、本人に弁明の機会を与え、問題行動に及んだ理由や現在の考えなど、「言い分」を聞きます。本人の弁明により追加調査が必要な場合は行い、情状酌量の余地についても検討します。

弁明の機会は諭旨解雇の合理的な決定を示す重要なプロセスのため、調査資料や面談記録はきちんと残しましょう。

(3)処分を決定する

最終決定にあたっては、諭旨解雇処分が妥当であるか、今一度精査します。調査結果や本人による弁明を考慮し、事実誤認がないことを確認したうえで処分を決定しましょう。一部の管理職のみの判断とならないよう、担当者間で事実の共有を行うことも重要です。

(4)懲戒処分通知書を交付する

諭旨解雇が決定したら、解雇の30日前までに懲戒処分通知書を本人に交付します。これは、労働基準法第20条の解雇予告義務にもとづく法的な手続きです。解雇の予告を行わない場合は30日分以上の平均賃金を解雇手当として支払う必要があります。

諭旨解雇は退職届を受けて、雇用契約を解除するため、懲戒処分通知書には退職届の提出期限や、退職届を提出しない場合は懲戒解雇になる旨を記載しましょう。

※参考:労働基準法(第20条)第2章労働契約「解雇の予告」

(5)従業員からの退職届を受理する

本人から退職届が提出された場合は受理し、予定日をもって解雇とします。もし、期日までに退職届の提出がなく、諭旨解雇の処分を拒否する場合には、懲戒解雇へ移行します。

諭旨解雇をする従業員への対応

諭旨解雇の対象となる従業員に対して、会社はどのように対応したらよいのでしょうか。最後に、後々大きなトラブルに発展しないために、人事担当者がおさえておくべきポイントを解説します。

処分決定の前に十分な改善指導を行う

諭旨解雇の妥当性は、処分決定以前の段階で対象者に改善の機会を与えていたかどうかも影響します。上司や人事担当者が十分な改善指導を行ったにもかかわらず、改善が見られなかった場合は、その経緯を記録しておきましょう。

懲戒処分を段階的に行う

問題のある従業員に対し、懲戒相当の事由が認められる場合、戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇と段階的に措置を講じます。

いきなり厳しい懲戒処分を行うと、改善の機会を与えていないと判断される可能性があり、最終的に諭旨解雇処分となった場合に、判断の合理性を欠く恐れがあります。

対話を通じたコミュニケーションを心がける

諭旨解雇をめぐっては、従業員側が処分を不服として、紛争・係争に発展する例が多くあります。このような事態を避けるために、会社側は処分の妥当性や合理性を確保するとともに、従業員との対話を通じたコミュニケーションを心がけましょう。

従業員が処分を受け入れるよう、趣旨を諭すことも、上司や人事担当者の重要な役割といえます。