降格とは?主な理由と違法な降格をしないためのポイント

published公開日:2024.03.13
目次

降格とは、組織内での地位や役職が低くなること。降格には主に2種類あり、不当な理由での降格は違法と判断される場合があります。
本コラムでは、主な降格の理由、事実確認から従業員への通知までの適切な手順、違法とならないためのポイントを解説します。

降格とは

降格とは、従業員の現在の地位や役職が、より低いものに引き下げられることです。降格の対義語は昇格であり、地位や役職が上がることを意味します。

降格には、主に「懲戒処分」と「人事異動」の2種類があります。

懲戒処分による降格は、会社が懲戒権を行使して従業員を降格させること。制裁の意味合いが強く、従業員が会社に大きな
損害を与えたり、社内規定に著しく違反したりするなど、重大な事案が発生した場合に行われます。

これに対して、人事異動による降格では、従業員本人の能力不足や成績不振が理由となる場合もあれば、従業員側には理由がなく経営上の必要性から行われる場合もあります。会社側の人事権の行使ですので、就業規則での定めは必須ではありません。しかし、減給が伴う場合は降格と減給の関係性を明記しておく必要があります。

人事異動による降格は、どのような人事評価制度を採用しているかによって、多少呼び方が変わります。
例えば、職務等級制度では「降級」、職位を基準に考える場合は「降職」などと呼ぶことがあるでしょう。

降格の主な4つの理由‍

降格の理由は、従業員側の行動や能力を理由とする場合と、組織再編や業績悪化への対応など経営上の問題を理由とする場合があります。主な4つのケースをご紹介します。

(1) 業務遂行能力の不足や業績不振に基づく降格

1つめは、従業員の能力や業績が現在の職位に見合っていない場合の降格です。

  • ・ 従業員が業務目標を達成できなかった
  • ・ 求められるパフォーマンスよりも実際のパフォーマンスが著しく低かった
  • ・ 業務遂行に必要な知識やスキルが不足していることが分かった

などの場合に行われます。
職務等級制度や役割等級制度などでは、降格後の等級に応じた報酬が適用されます。そのため、減給も同時に発生するでしょう。

(2) 組織再編や人材開発に伴う降格

2つめは、事業や組織の再編、プロジェクトの新規立ち上げや終了などに伴う降格です。
これには、新しいポジションに従業員が割り当てられることになるため、必ずしも全員が現在と同じ職位または上の
職位に就けるわけではないという事情があります。

あるいは、新しい部署のメンバーとして能力開発を進めるために人事異動が行われ、結果として降格するというケースもあります。

こうした事業や組織の再編に伴う降格は、企業戦略に伴う人事異動ですので、必ずしも従業員側に原因があるというわけではありません。いわゆる適材適所の実現に向けた人事異動です。

(3) 経営上の理由による降格

3つめは、企業の業績不振を理由とする人事異動で生じる降格です。

会社全体の業績が落ち込み、コスト削減等が必要な場合、人件費を抑えるために従業員の降格や減給が検討されることがあります。整理解雇(リストラ)を避けるための企業側の努力として行われるものですので、従業員側に直接の落ち度はありません。

ただ、減給を伴う降格は従業員の生活に大きな影響を及ぼすことから、会社側が一方的に実施すれば違法となります。丁寧な説明と対象従業員との合意が必須です。

(4) 懲戒処分としての降格

そして4つめのケースは、懲戒処分としての降格です。懲戒処分となる主な理由には、従業員が規律違反行為(セクハラ・
パワハラ・社内規則への違反など)をしたり、重大なミスによって会社側に大きな損害を与えたりしたことです。そのため、他の降格と違って、制裁や懲戒の意味合いが非常に大きい降格となります。

懲戒処分としての降格を行うには、あらかじめ就業規則に懲戒処分とその事由について定め、従業員に周知しておかなければなりません。また、降格処分を行う前に注意・指導を行うなど、段階的な対応や弁明の機会の設定なども必要です。

降格する従業員への対応‍

降格対象となった従業員は、会社に対して少なからずネガティブな印象を抱いたり、仕事のモチベーションが低下したりする場合が多く見られます。ネガティブな影響をなるべく抑えるためにも、適切なコミュニケーションやサポートを行うことが
肝心です。

コミュニケーションを取る

コミュニケーションは、降格やその後の対応で重要なもののひとつです。降格対象となった従業員のこれまでの業績や
能力、社員としての立場を尊重しつつ、丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。

降格は、従業員に大きな精神的ストレスを与えます。その立場や感情を受け止めながら、降格の理由と今後の待遇について
説明し、今抱えている不安や悩み、意見に耳を傾けてください。

従業員が再び安心感を持って再出発できるよう、前向きな声かけも有効です。

サポートを提供する

ただ声をかけるだけでなく、今後の具体的なビジョンを示したり、成長の場を提供したりすることも大切です。

例えば、降格の理由となった行動を改善に向けた必要なスキル習得やトレーニングの場を設ける、その従業員に期待されている新しい役割を説明し、理解してもらう個人面談を設定するなどです。必要なリソースやツールを提供し、自己成長を促せるようサポートしましょう。

降格後の現在地点からのキャリアプランを一緒に考えたり、過去の事例や研修制度などの情報を提供したりするのもよいでしょう。

再昇格の機会を作る

さらに、一度降格した社員でも再び昇格できるよう、社内の体制を整備しておきましょう。

必要な条件を満たせば再び役職に就けることが明確に示されていれば、あらためてキャリア形成を目指すことができますし、離職防止にもつながります。

公平・公正な基準と評価にもとづいて昇格・降格の判断が行われていることを実感してもらう機会にもなります。

降格の手順‍

降格を行う際の一般的な手順は、降格の根拠となる事実関係の確認から始まります。特に重要なポイントは、降格の理由が
合理的であるか否かであること、そして対象となる従業員にその理由をしっかり説明しているかどうかです。

(1) 事実確認と降格の理由を明確にする

勤務態度の不良や能力不足等について報告を受け、それを理由に降格の検討を行う場合は、報告の内容に関する事実関係を
正確に把握しなければなりません。具体的には、従業員の勤怠記録や業績の記録、業務における能力の程度を明確な基準を
設けて評価しましょう。
評価に用いるデータは、

  • ・過去の業績
  • ・目標達成度や人事評価
  • ・面談等におけるフィードバック内容
  • ・プロジェクトでの成果物および関連する業務記録など

が代表的です。
他に、本人や周囲へのヒアリングも行いましょう。

報告を受けた内容が事実であり、従業員側に問題ありと判断される場合は、降格を行う前に注意・指導を行うことが望ましいとされています。複数回の注意・指導によっても改善されず、繰り返し問題が発生する場合は、降格に踏み切ることになります。

こうした対応の後、やはり降格が妥当であると判断される場合は、人事異動としての降格なのか、懲戒処分としての降格なのかを見極め、減給の有無も検討してください。

これらの調査・判断結果や降格の理由は文書としてまとめ、保管しておくとよいでしょう。後の手順で行う従業員への説明に活用できますし、万が一訴訟になった場合も、根拠を立証しやすくなります。

なお、減給を伴う降格や懲戒処分としての降格では、就業規則への定めが必要です。降格・減給の理由として適切かどうか、就業規則を改めて確認しましょう。

(2) 降格対象者に説明して合意形成を行う

降格が決定したら、対象となる従業員に説明を行います。さらに、減給がある場合は本人との合意形成を行い、懲戒処分として降格させる場合は本人が弁明できる機会を設けましょう。

説明の際は、降格の理由とその根拠となるデータや事実を示し、降格対象である従業員の意見も真摯に受け止めましょう。
必要に応じて疑問に答え、降格の理由を理解してもらいます。

そして、減給が伴う場合は、降格と減給の関連性が記載された就業規則を示し、合意形成を行ってください。

(3) 降格の通知を行う

説明や合意形成が済んだら、対象者へ降格の通知を行います。人事異動の場合は「辞令」、懲戒処分の場合は
「懲戒処分通知書」を作成しましょう。これらの通知書には、降格に関する以下の情報を明記します。

  • ・通知の年月日
  • ・対象となる従業員の氏名
  • ・降格の年月日
  • ・降格前の職位と降格後の職位
  • ・降格の理由(懲戒処分の場合)

通知書には明確で理解しやすい言葉で記載してください。特に、懲戒処分に伴う降格の場合、降格の理由としてどのような
行為が行われ、就業規則のどの規定によって懲戒処分となるのかを明記することが大切です。

(4) 関係書類を保管する

最後に、今回の降格に関連する書類等を保管しましょう。

これらの書類や記録は、降格対象となった従業員にもう一度説明を求められたり、訴訟に発展したりした際の重要な証拠となります。会社側が適切な説明を行ったことや、その前後に必要な対応をしたことがわかるよう、通知書以外の文書も保管してください。

また、対象の従業員に対して行ったサポート内容や提案したキャリアプランなども記録しておくと、他の降格人事の場合や、当該従業員の今後の人事評価に活用できます。

違法な降格とは‍

会社側には人事権や懲戒権がありますが、正当な理由なしに一方的に降格を行えば、裁判所から人事権濫用や懲戒権濫用とされ、無効とされる可能性が高くなります。したがって、降格を行うか否かの判断では、本項で紹介するような降格になっていないか、十分にご確認ください。

(1) 嫌がらせや差別的な理由による降格

人事異動による降格では、降格の理由が嫌がらせや差別的な理由によるものではないことが重要です。

嫌がらせは、客観的なデータによる判断を行わずに「あの人が嫌いだから」などの感情的な理由だけで行うもの。差別的な
理由の例は、性別や人種、出身地、宗教、性的指向、障害などです。

例えば、業績や能力が同程度であるにもかかわらず女性であることだけを理由に降格させ、男性従業員に対しては降格が無い場合、男女雇用機会均等法に抵触するでしょう。嫌がらせによる降格は、パワハラにあたる可能性が高くなります。

印象だけで降格の可否を決めるのではなく、当該従業員の勤務態度や業績、その影響などを客観的なデータにもとづいて評価し、最終的な判断を行いましょう。

(2) 就業規則に記載がない懲戒処分としての降格

繰り返しになりますが、懲戒処分としての降格には、就業規則において懲戒事由とともに定めが必要です。就業規則などにおける根拠が無い場合は違法と判断され、降格処分自体が無効になります。

さらに、懲戒処分の理由自体の客観的な合理性や社会通念上の相当性が求められます。具体的には、「降格の手順」の項目で見たように懲戒処分の前に注意・指導を行ったり、戒告などの比較的軽い懲戒処分から段階的に適用したりすることです。

「いよいよ懲戒処分として降格させなければならない」という場合でも、従業員本人に弁明の機会を与えなければなりません。

懲戒処分としての降格は、戒告やけん責から懲戒解雇までの段階の中で、比較的重い処分となります。そのため、法的および倫理的な観点から慎重に準備・対応し、適切に実施しなければなりません。法令の専門家のアドバイスを受けながら、常識的で公平な降格となるように進めることが大切です。

(3) その他の法令・規定違反にあたる降格

その他、降格が違法とされ得るのは、降格の理由自体にハラスメント的な性格があるケースです。法律でいえば、労働契約の最低条件を定めた労働3法(労働基準法、労働組合法、労働関係調整法)や労働契約法に加え、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法などが根拠となります。
セクシャルハラスメントやマタニティハラスメントにあたる降格人事の例は、

  • ・妊娠・出産を理由とした従業員の同意がない降格
  • ・妊娠・出産した女性従業員が残業・休日労働・深夜労働を拒否したことによる降格
  • ・産休・育休を取得したことを理由とする降格

などです。
また、育児休業から職場復帰する従業員を休業前の地位より低い地位で復帰させることも、法令違反となる可能性があります。育児・介護休業法第22条と厚生労働省の指針により、原職(休業前の職位や職務内容)に相当する職に
復帰させることが原則とされているためです。

パワーハラスメントについては、労働施策総合推進法でパワハラ防止施策を企業に義務づけており、パワハラを訴えた従業員に対して不利益な取扱い(解雇・減給・降格など)をしないことも定められています。