VUCAはもう古い?不確実な時代を生き抜くために求められる人材とは



VUCAとは、変動性・不確実性・複雑性・曖昧性の4つを意味する言葉です。
今の世の中は、新たな感染症のまん延や地政学リスク、AI技術の急速な発展など、不確実で将来を予測するのが困難であることを象徴して、VUCA時代といわれています。
本コラムでは、VUCAとは何か、具体例や求められる人材、企業がVUCA時代を生き残るために必要な戦略などを解説します。
VUCA(ブーカ)とは
VUCAとは、英語で変動性・不確実性・複雑性・曖昧性の単語の頭文字をとった造語で、読み方は「ブーカ」です。
はじめに、VUCAの言葉の意味と成り立ち、4つの要素の具体例、VUCAの次の時代を表すといわれている言葉などを解説します。
VUCAの意味と成り立ち
VUCAとは、下記の頭文字をとった造語で、主に「将来を予測するのが困難な時代」という意味で使われます。
- V=Volatility(変動性)
- U=Uncertainty(不確実性)
- C=Complexity(複雑性)
- A=Ambiguity(曖昧性)
もとは1990年代の冷戦終結後に生まれた言葉で、複雑化した国際情勢を表す軍事用語として使われ、2016年ダボス会議では現在の世界経済情勢を形容し、「VUCAワールド」と表現されました。
ビジネスにおいてVUCA時代という表現は「予測不能な混迷を極めた時代であること」を示す時に使われます。
VUCAの4つの要素(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)と具体例
VUCAの4つの要素について、概要やビジネスにおける具体例を整理すると以下のようになります。
要素 | 概要 | ビジネスにおける具体例 |
---|---|---|
Volatility(変動性) | 社会環境や価値観が激しく変化していること | 各国の金利や為替が大きく変動し輸出企業に大きな影響が出る |
Uncertainty(不確実性) | 将来の予測をするのが極めて難しいこと | 突然のパンデミックや戦争勃発でモノやヒトの流通・移動に支障が出る |
Complexity(複雑性) | 様々な価値観や要素、組織などが複雑に絡み合っていること | グローバル化と多様化が進み、様々な価値観や属性の人が一緒に働いたり競争したりする |
Ambiguity(曖昧性) | 解釈や価値が一通りではなく曖昧さを増していること | AIや自動化の進展により、人間が行っている従来の仕事の必要性が問われる |
VUCAは、現代社会の変化の激しさや予測困難な状況を表す概念として、ビジネスの世界でも広く使われています。企業や個人がこのVUCA時代を生き抜くためには、柔軟な対応力と迅速な意思決定が不可欠です。
VUCAはもう古い?VUCAの次の言葉とは
VUCAという言葉は、2016年のダボス会議をきっかけに世界中に広まりましたが、実は最近ではVUCAという言葉はもう古い、ともいわれています。
VUCAの次の言葉としてアメリカで注目されている言葉はBANIです。BANIは、英語でBrittle(脆弱)、Anxious(不安)、Non-Linear(非線形)、Incomprehensible(不可解)の頭文字を組み合わせた言葉で、アメリカの人類学者ジャメイス・カシオ(Jamais Cascio)がVUCAの次の時代を表すコンセプトとして提唱しました。気候変動、パンデミック、社会的不平等など、現代社会が直面する様々な危機を前に、既存のVUCAの概念では急速に変化する世界を適切に説明できないとして、BANIという概念を説明しています。*
VUCAやBANIといった言葉は、まさしく現代が予測不能で混迷を極めた時代であることを象徴しているといえるでしょう。
*参考:Forbes.com What BANI Really Means (And How It Corrects Your World View)
VUCA時代とは?なぜ注目されているのか
VUCAや次のBANIといった言葉が注目されているのはなぜでしょうか。
世界的に見れば、新たな感染症のまん延や戦争・紛争の勃発、為替危機など、いつまで続くのかもわからない状況が続いています。また、地球環境に目を向ければ、地球温暖化や海洋プラスチックなどの問題も解決のきざしが見えず、近年ではそうした背景から持続可能な成長(SDGs)の考え方が一気に世界中の企業に広がりました。ビジネスの観点で見れば、ダイバーシティやグローバル化における人間関係の複雑化、IT技術の急速な進歩など、追いついたと思ったら離されるような状況が続いています。
ここでは、VUCAの時代とは何か、注目されている背景を解説します。
グローバル化・デジタル化の影響
VUCAが注目される背景の1つに、グローバル化とデジタル技術の進展があります。
テクノロジーの発展により世界中の企業や個人がつながることで、急速にグローバル化が進展しています。グローバル化が進むことで、企業は世界中の市場で競争を強いられるようになりました。労働市場もリモートワークの普及により、地域や国を超えて人材競争が激化しています。グローバルなサプライチェーンの形成が進むと同時に、世界中の地政学的リスクや災害などの影響を受けやすくなり、調達や物流にも変動性や不確実性が増しています。
さらに、デジタル技術の進展も、VUCA時代を加速する要因です。AIや自動化の進展により、業務の効率化が進む一方、従来の仕事が不要になる可能性が高まっています。DXやデータ活用の重要性が増すと同時に、企業側のデジタル環境やデータ管理にかかわるリスクは増大しています。
グローバル化やデジタル化が、今までにはない不確実性やリスクをもたらし、VUCA時代を加速する要因となっているのです。
社会や経済の不確実性が増している
VUCA時代では、社会や経済の予測が困難になっていることも大きな特徴です。
社会的には、新型コロナウイルスの世界的パンデミックが働き方やビジネスモデルを一変させたことは、まさにVUCAを象徴する出来事だといえるでしょう。さらに、経済格差の拡大、個人の価値観やライフスタイルの多様化などにより、消費行動や雇用環境は大きく変化しています。
社会環境だけでなく、経済環境が予測しにくくなっている要因としては、各国の中央銀行の政策変更により金利や為替の変動リスクが大きくなっていることが挙げられます。新興国市場が拡大していくと、政治リスクや通貨危機の影響を受けやすくなっていくでしょう。
社会や経済の不確実性が増していることが人々に不安や疑心暗鬼を生じさせ、VUCAの時代であるという意識を強めています。
企業経営に与える影響と課題
VUCA時代は、ビジネス環境の急激な変化や予測の難しさから、企業の経営にも大きな影響を与えています。
シェアリングエコノミーやサブスクリプション型のビジネス台頭などにより、従来のビジネスモデルが崩壊しており、組織変革やイノベーションが課題となっている企業も多いでしょう。グローバルで複雑化した予測困難な環境下では、迅速な意思決定力や危機管理能力が求められます。
市場や消費者のニーズが大きく変化し多様化している中、企業の経営者もVUCA時代への対応が迫られているのです。
VUCAの具体例:現代社会における影響
VUCAの時代といわれる今、現代社会においては具体的にどのような影響が出ているのでしょうか。
ここで、VUCAの現代社会における具体例を、ビジネス、環境、政治経済の3つの側面に分けてみていきましょう。
ビジネス環境の変化(AI・DX・グローバル競争)
VUCA時代におけるビジネス環境の変化は、テクノロジーの急速な進化とグローバル競争の激化によって加速しています。特に、AI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、従来のビジネスモデルが大きく変わっています。
AIやDXの影響について業界別に具体例をみてみましょう。
業界 | 具体例 |
---|---|
製造業 | IoTを活用したスマートファクトリーが普及し、生産ラインの自動化が進行 |
小売業 | ECサイトの普及とAI機能の進化により、消費者の購買行動が変化 |
金融業 | フィンテックの発展により、オンラインバンキングやブロックチェーン技術が普及 |
さらに、テクノロジーの発展により、世界中の企業が同じ市場で競争するようになりました。例えば、中国やインドなどの新興国企業がテクノロジー分野で台頭し、従来の先進国企業と対等に戦うようになってきています。企業は常に新たな価値を提供し続けなければ、今後グローバルな競争に勝ち残ることは難しくなっていくでしょう。
業界や規模を問わず多くの企業が従来のビジネスモデルからの脱却を迫られているのです。
環境問題とサステナビリティの影響
VUCAの時代には、環境問題やサステナビリティについても大きな影響が出ています。
気候変動や自然資源の枯渇などにより、企業の経営戦略や消費者の価値観は大きく変わってきています。企業は、単なる利益追求だけでなく環境・社会・ガバナンス(ESG)を考慮した経営が求められているのです。消費者の意識が、環境や社会に配慮した商品やサービスを選ぶよう変化していることも要因の1つといえるでしょう。こうした社会の意識の変化をうけ、企業側は商品開発やサプライチェーン、使用エネルギーなどについて大きな変更や見直しを迫られています。
また、異常気象による農作物の不作や水害の増加が、サプライチェーンや食品産業に大きなダメージを与えているのもVUCAが加速している原因の1つです。企業側には、環境対策やリスクマネジメントを組み込んだ経営戦略を立てることが求められています。
政治・経済の変動がもたらすリスク
VUCA時代において、政治や経済の不確実性も増加しており、企業の経営環境や市場の動向に大きな影響を与えています。
ロシア・ウクライナ戦や中東情勢の不安定化など世界各国の政治情勢が変化して、地政学上のリスク増加が懸念されています。国際関係の不安定さは、エネルギー価格の高騰や物流の混乱などにつながる恐れがあります。
また、政治の影響だけでなく、新型コロナウイルスの影響や金融市場の変動により、経済の不確実性も増しています。為替の乱高下や急速なインフレ進行などは、資源の多くを輸入し、部品や完成品の輸出企業が多い日本の産業に大きなインパクトを与えるでしょう。
企業はこうした政治・経済の変動がもたらすリスクを考慮した事業戦略を立てる必要に迫られているのです。
VUCA時代に求められる人材とは
VUCA時代においては、変化が激しく予測が難しい環境に適応できる人材が求められています。これまでの固定的な思考や手法では通用しない場面が増え、新たな課題に対応できる能力が不可欠です。
特に、変化に対応できる思考スキル、不確実性を乗り越えて適切な意思決定を行う力や組織を率いる変革型リーダーシップが重要視されています。
ここでは、VUCA時代に求められる人材が身につけておきたいスキルについて解説します。
変化に適応できる思考スキル
現代の私たちは、経験をもとに解決策を検討したり事前に対策を打ったりするのが困難な問題に数多く直面しています。
例えば、AI・IoTの発達による無人店舗やキャッシュレス決済、SNSなどは、30年ほど前にはほとんど存在していませんでした。
前例の無い事象においては、「これまでの経験」が活かしにくく、解決策や対応策を見いだすにはベーシックな思考スキルが必要となります。直面した状況や事実を捉え、必要な対応やアイデアをゼロベースで出し、素早く判断して実行する。そういったことができなければ、VUCA時代において企業が発展できる可能性は低くなってしまうでしょう。
ビジネスパーソンの一人ひとりが、クリティカルシンキングやロジカルシンキングといった思考術を身につけ、変化に適応できる思考スキルを身につけておく必要があります。
クリティカルシンキングやロジカルシンキングについては以下のコラムで詳しく解説していますので参考にしてください。
コラム「ロジカルシンキング(論理的思考)とは?必要性と基本的な考え方、トレーニング方法を解説」はこちら
コラム「クリティカルシンキングとは?意味・例題と実践トレーニング3つのコツ」はこちら
不確実性を乗り越える意思決定力
VUCA時代においては、将来の見通しが立ちにくく、予測困難な状況が日常的に発生します。そのため、的確な判断を迅速に下せる意思決定力が必要です。
意思決定力が求められる理由は、環境変化が激しく、従来の経験やデータだけでは最適な解を導き出せないためです。また、不確実な状況では情報が不足していることが多いため、リスクを冷静に評価し、最適な選択肢を選ぶ力も求められます。
意思決定力を高めるには、普段から情報収集を怠らず、多様な視点を持つことが大切です。また、迅速な判断を下すトレーニングとして、ケーススタディやシナリオプランニングを活用することが有効でしょう。
変革型リーダーシップが必要
VUCA時代には、従来のトップダウン型のリーダーシップではなく、変革を推進するリーダーシップが求められます。企業や組織が持続的に成長するためには、変化に適応し、新しい戦略やビジネスモデルを導入できるリーダーが必要です。
その実現のために、特に管理職に変革型リーダーシップを期待する経営者が増加しているといわれています。変革型リーダーシップとは、組織のビジョンを明確にし、メンバーを巻き込みながら変革を推進する能力を指します。前例踏襲ではなく、自らの言葉でビジョン=将来像を描き、ゼロベースで何をすべきかメンバーと一緒に考え、メンバーをリードしてほしいと期待しているのです。
VUCA時代に企業が存続・発展し続けるためには、管理職の強化とメンバーの強化が不可欠といえます。VUCAの時代に求められるマネジメントスタイルについては、次の「VUCA時代を生き抜くための企業戦略」で詳しく解説します。
VUCA時代を生き抜くための企業戦略
VUCA時代において、企業が生き残り、成長を続けるためには、環境の変化に柔軟に適応できる戦略を持つことが必要です。市場の急激な変化や不確実性に対応するためには、組織改革、迅速な意思決定の仕組み、そして多様な人材の活用が重要な要素となります。
以下では、VUCA時代を生き抜くための企業の戦略について詳しく解説します。
企業が適応するための組織改革
VUCA時代においては企業を取り巻く事業環境が大きく変化します。将来予測が困難になり、顧客の嗜好や要望の変化スピードも加速した結果、変化に適応できるための組織改革が迫られているのです。

これまでは国内市場は継続的に拡大し続けていました。物を作れば売れる時代であったため、いかに早く沢山作るか、効率と合理性を重視し、多くの企業では上の図(左)のように、経営層が社員に指示をするトップダウン型のマネジメントがうまく機能していたといえます。
しかし、VUCA時代では、顧客や市場が多様化し、嗜好や要望の変化スピードも加速した結果、商品やサービスのライフサイクルが短期化しているのが大きな特徴です。
そのため、現在では上の図(右)のように市場や顧客の近くにいる現場の社員から意見を上げてもらうボトムアップ型にシフトしてきています。どういったプロダクトが望まれているのかを吸い上げ、管理職に情報提供と提案を行い、受け取った管理職は現場判断で意思決定を連続して行う形です。ボトムアップ式により、スピード感ある対応ができるようになります。
迅速な意思決定を可能にするOODAループとは?
VUCA時代では、意思決定のスピードが競争力を左右します。多くの企業が、迅速な意思決定をするために導入を進めているのがOODAループ(ウーダ・ループ)というフレームワークです。
OODAループとは、「Observe(観察)→ Orient(状況判断)→ Decide(意思決定)→ Act(行動)」の4つのプロセスを繰り返すことで、状況の変化に応じた迅速な判断を行う手法です。もともとは軍事戦略として生まれましたが、現在ではビジネスの場面でも広く活用されています。
OODAループは、状況に合わせてスピーディーにサイクルを回すため、PDCAと比較すると行動を起こすまでの所要時間(期間)が短いのが特徴です。状況変化のスピードが早く、未来予測が困難なことから、適応力が重視されるVUCA時代に必要なマネジメントスタイルといえるでしょう。
しかし、OODAループはただ導入すればよいものではありません。やみくもに現場で判断し、実行をすることでは変化には対応するものの、行き当たりばったりのマネジメントになってしまうリスクがあります。
OODAスタイルのマネジメントを成功させるには明確な方向性をリーダーが打ち出すことです。一方で、現場のメンバーに明確に範囲を決めて権限移譲・エンパワーメントを行いましょう。そして、何より現場メンバーのオーナーシップとプロフェッショナリティの向上がOODAループ導入を成功させる秘訣です。
変化に対応するための多様な人材活用
VUCA時代では、多様なバックグラウンドを持つ人材を活用することが、企業の競争力を高める鍵となります。
単一の考え方やスキルでは、VUCA時代の急速な変化に対応しきれません、例えば、デジタル領域の急成長により、従来の業務プロセスが通用しなくなる場面が増えています。このようなケースでは、ITスキルを持つ人材や、異業種の知見を持つ人材を積極的に採用し、組織に新しい風を吹き込む必要があるでしょう。
また、ダイバーシティ(多様性)の推進は、組織内のイノベーションを促進する効果もあります。異なる価値観を持つメンバーが議論を交わすことで、新しいアイデアやビジネスモデルが生まれやすくなります。
企業が多様な人材を活用するためには、インクルーシブな職場環境を整えることが不可欠です。性別や国籍、年齢にとらわれず、全員が活躍できる制度や文化を醸成することで、より強固な組織を構築できるでしょう。
VUCA時代の人材育成とは
「VUCA時代にどのようにしてOODAループを機能させたらよいか知りたい」「変革型リーダーシップについて実践させたい」という方がいらっしゃいましたら、ぜひ、以下のボタンよりお問い合わせください。当社の担当コンサルより、具体的な事例を紹介させていただきます。
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