コンフリクトとは?組織への影響と発生原因、解決方法を解説



コンフリクトは異なる意見や価値観がぶつかり合い、緊張が生じる状態のことです。否定的な意味合いを持つ場合もありますが、ビジネスの現場では適切に管理することで組織の成長を促進するきっかけにもなります。
本コラムでは、コンフリクトの本質と発生原因、組織への影響、効果的な解決方法について解説します。
コンフリクトとは
コンフリクト(Conflict)とは、英語で「衝突」「対立」「争い」を意味する言葉です。ビジネスの文脈では、異なる意見や利害が衝突し、容易に妥協点を見いだせない状況を表します。
コンフリクトは、個人間だけでなく、部署間や企業間など様々なレベルで発生する可能性があります。国土交通省の「国土交通白書2019*」によると、日本では、他者を尊重する「義理がたさ」や調和を重んじる「和」の文化があります。そのような背景から、ビジネスにおいてもコンフリクトは「避けるべきもの」と捉えられてきました。
一方で、近年の研究では、コンフリクトを適切に管理することで、組織の成長を促す可能性が示されています。コンフリクトがもたらす良い影響については、「生産的コンフリクト」の章で解説します。
コンフリクトが発生しやすい環境
コンフリクトは、特定の状況や環境で発生しやすいといわれています。ここでは、代表的な環境を見ていきましょう。
不確実性の高い環境
今日の企業は、急速に変化する顧客ニーズ、めまぐるしい技術革新、予測困難な自然災害など、多様な不確実性に直面しています。このような流動的な環境では、組織内で優先事項や方針が衝突しやすく、それがコンフリクトの火種となることが少なくありません。
多様な人材が共存する職場
グローバル化の進展や働き方改革の推進により、性別・年齢・国籍・専門性など、多様なバックグラウンドを持つ人がともに働く場面が増えています。このような職場では、新しいアイデアや視点が生まれる一方で、価値観や仕事の進め方の違いから、コンフリクトが発生する可能性が高まります。
ビジネスシーンにおけるコンフリクトの例
ビジネスの現場では、意見や利害が衝突し、様々な場面でコンフリクトが生じます。
例えば、営業部門がスピーディーな納期を優先したい一方で、製造部門は適切な時間をかけて品質を重視したいと考えることがあります。また、金銭的報酬を重視する社員と、休日や働きやすさを優先したい社員の間で意見が分かれることもあるでしょう。
こうしたコンフリクトは他にも様々なシーンで発生します。以下に、具体例をまとめました。
【コンフリクトの具体例】
コンフリクトの例 | 事象の具体例 |
---|---|
部門間の対立 | 営業部門と製造部門で、納期や品質に関する意見が食い違う |
上司と部下の意見の不一致 | プロジェクトの進め方や優先順位について、上司と部下の考えが異なる |
同僚間の競争 | 昇進や重要な案件の担当をめぐって、同僚間で激しく競い合う |
経営方針の対立 | 会社の将来的な方向性について、経営陣内で意見が分かれる |
世代間ギャップ | 若手社員とベテラン社員の間で、仕事の進め方や価値観の違いが顕在化する |
コンフリクトが発生する原因
組織内で生じるコンフリクトの原因は、主に以下の3つのパターンに分類できます。
- (1)条件の対立
- (2)認知の対立
- (3)感情の対立
それぞれ単独で発生することもあれば、複数のパターンが絡み合って複雑な形で現れることもあります。詳しく見ていきましょう。
(1)条件の対立
1つ目は、業務内容や取引条件の違いから生じる対立です。品質・コスト・納期設定・優先順位など、条件の相違が原因となります。
例えば、取引先が厳しい納期を求める一方で、従業員の労働時間を適切に管理しつつ品質を確保しなければならない場合、対応が困難なことがあります。また、本社から材料費の削減を指示されたものの、現場では品質維持に必要なコストだと考え、意見が対立することもあるでしょう。
このように、条件の相違は社内や取引先との間でコンフリクトを引き起こす大きな要因となります。
(2)認知の対立
2つ目は、価値観や物事の捉え方の違いから生じる対立です。組織内で共通の目標が不明確な場合や、部門間の協力関係が弱い状況では、この種の対立が発生しやすくなります。
例えば、プロジェクトがうまくいかなかった場合、ある社員は「プロジェクトの計画や方向性に問題があった」と考える一方で、別の社員は「担当者のスキルが不足していた」と指摘し、意見の食い違いが起こることがあります。また、伝統を重んじる上司と革新を重視する部下の間で、仕事の進め方に関して対立が生じることもあるでしょう。
認知の違いは組織内でコンフリクトを引き起こす要因となります。
(3)感情の対立
3つ目は、個人的な感情や人間関係の問題から生じる対立です。過去のトラブルや誤解、嫉妬など、感情的要因が根底にある場合、対立に発展することがあります。「条件の対立」や「認知の対立」が長引くと、相手への不信感や苛立ちが蓄積し、問題が深刻化します。
感情が絡むコンフリクトは、問題の本質が見えにくく、解決が困難な傾向があります。そのため、早期の発見と迅速な対応が重要です。
コンフリクトが組織へ与える影響
これまで見てきたように、コンフリクトは様々な原因から生じます。その結果、組織にどのような影響を与えるのでしょうか。コンフリクトの性質や管理の仕方によって、組織に大きなメリットを生むこともあれば、深刻なデメリットを引き起こす場合もあります。
ここでは、組織にとって有益な「生産的コンフリクト」と、有害な「破壊的コンフリクト」の2つの観点から、それぞれの特徴をご説明します。
良い影響をもたらす「生産的コンフリクト」
「生産的コンフリクト」とは、組織内で生じる対立や衝突が、ポジティブな影響をもたらす状態を指します。例えば、製品開発において意見が対立した場合、建設的な意見の交換を通じて、新たな解決策やアイデアが生まれることがあります。
生産的コンフリクトは、組織のコミュニケーションを活性化し、良好な職場環境を整える要因にもなります。
悪影響を及ぼす「破壊的コンフリクト」
一方、組織に悪影響を及ぼすコンフリクトは「破壊的コンフリクト」と呼ばれます。組織と社員にどのような問題を引き起こすか、見ていきましょう。
組織への悪影響
破壊的コンフリクトは、組織内の連携や業務効率に深刻な影響を与えます。社員間の対立が深まると、チームワークが低下し、組織の分裂や目標達成の阻害につながります。また、コンフリクト解決に時間がかかることで、重要な意思決定が遅れ、最終的には業績低下のリスクもあります。
社員への悪影響
破壊的コンフリクトは、社員の精神面や働き方に悪影響を及ぼします。組織内のストレスが増えると、関係する社員のメンタルヘルスが損なわれ、生産性の低下や欠勤率の上昇を招くことがあります。また、コンフリクトの慢性化により、社員のモチベーションやエンゲージメントが低下し、最終的には優秀な人材の離職につながるリスクもあるでしょう。
さらに深刻な「ハイコンフリクト」
破壊的コンフリクトの中でも、特に深刻な影響を及ぼす状態を「ハイコンフリクト」と呼びます。具体的には、以下のような状況を引き起こします。
- 貴重な時間、信頼、エネルギーの浪費
- 仲間同士の対立の激化
- 現実認識の歪み
ハイコンフリクトの状態が長期化すると、最終的には組織全体に悪影響を与え、健全な機能を失う恐れがあります。
コンフリクトマネジメントの重要性
このような破壊的コンフリクトに対し、企業は早急に対処する必要があります。そこで重要となるのが「コンフリクトマネジメント」です。
コンフリクトマネジメントは、組織内で生じる対立や意見の衝突を管理し、効果的に解決するための手法です。コンフリクトが組織で発生することは避けられませんが、適切にマネジメントすることで、新たなアイデアの創出や人間関係の改善につながります。
「令和5年雇用動向調査結果の概況」によると、前職を辞めた理由として「職場の人間関係が好ましくなかった」と答えた人は、男性で9.1%、女性では13.0%でした。これは、男性では「定年・契約期間の満了」に次いで多く、女性では「その他の個人的理由」を除けば最も多い理由でした。
この調査結果から、人間関係のコンフリクト(対立)が従業員の離職に大きく影響することは明らかです。適切なコンフリクトマネジメントは、従業員の離職を防ぎ、組織を健全に持続させるために必要不可欠といえます。
コンフリクトマネジメントの効果とメリット
コンフリクトマネジメントを適切に行うことで、企業にどのような効果やメリットがあるのでしょうか。以下の3つの観点から解説します。
- イノベーションの促進
- コミュニケーションの活性化と組織の成長
- 社員のモチベーション向上と離職防止
順に見ていきましょう。
イノベーションの促進
異なる意見や価値観が衝突することで、イノベーションが生まれるきっかけとなります。例えば、部門間での議論を通じて、新しいアイデアの創出につながることや、企業と顧客の意見の対立を解決する過程で、革新的なサービスが生まれることがあります。
また、多様な意見が自由に交わされる職場では、若手社員を含む全社員から、斬新なアイデアが生まれやすくなります。古い慣習にとらわれない文化の形成は、組織の柔軟性を高め、競争力を強化する原動力となるでしょう。
コミュニケーションの活性化と組織の成長
適切なコンフリクトマネジメントを行うことで、職場内のコミュニケーションが活性化し、組織全体の成長につながります。
社員間で率直な意見交換をすると、相互理解が深まります。これにより、業務の効率化だけでなく、チーム全体の連携が強まり、迅速な意思決定が可能になるでしょう。
また、自由に意見を言える環境が整うことで、年齢や立場に関係なく発言しやすい職場文化が育まれます。結果として、柔軟性や対応力が高まり、時代の変化に適応できる組織になるでしょう。
社員のモチベーション向上と離職防止
コンフリクト解決のプロセスに参加することは、社員のモチベーション向上につながります。対立を解消するために前向きな議論を重ねることで、自分の意見が尊重されていると感じる場面が増え、仕事への意欲が高まるのです。
このような働きやすい環境は、社員のモチベーション向上に寄与するだけでなく、離職防止にもつながります。
コンフリクトマネジメントによる効果的な解決方法
コンフリクトを適切に解決するためには、効果的な手法と実践的なプロセスを理解することが重要です。ここでは、代表的な手法である「二重関心モデル」と、コンフリクトマネジメントの実践手順、コンフリクト解決のポイントについて解説します。
二重関心モデルとは
二重関心モデルとは、1970年代に、心理学者のケネス・W・トーマスとラルフ・H・キルマンによって考察された、コンフリクトの解決方法を分析するためのフレームワークです。コンフリクトの状況において、「自分の意見・利害」と「他人の意見・利害」をどの程度重視するかによって、以下の5つの型に分類されます。
【二重関心モデルの5つのパターン】
パターン | 説明 |
---|---|
強制 | 自分の意見・利害のみを重視する |
協調 | 双方の意見・利害を重視する |
服従 | 他人の意見・利害のみを重視する |
回避 | 衝突を避け、対立など存在しないかのように振る舞う |
妥協 | 自分の意見・利害と他人の意見・利害の両方をある程度考慮し、落としどころを探る |
5つのうち、ビジネスにおいて理想とされるパターンは「協調」です。「妥協」は現実的な解決策に見えるかもしれませんが、根本的な問題解決に至りません。双方の意見や利害の背景を理解し、「協調」に基づいた解決策を見いだすことが重要です。
コンフリクトマネジメントの実践手順
次に、職場でコンフリクトマネジメントを行う際の具体的な手順をご紹介します。準備から分析、予防までのプロセスを、以下のような流れで進めていくとよいでしょう。
①相互理解のための会合の設定
組織全体で「コンフリクトは成長の機会」という認識を共有し、関係者が相互理解を深める場を設定します。中立的な環境を用意することが大切です。
②原因の特定と分析
両者に平等に発言の時間と機会を与え、コンフリクトの背景にある「条件の対立」「認知の対立」「感情の対立」などを分析し、根本的な原因を特定します。この段階で問題の本質を見極めることが、解決への第一歩となります。
③客観的な解決策の提示
客観的に状況を分析し、調査結果に基づいて、適切な解決策を提案します。解決策を検討する際は、どちらかの意見を優先するのではなく、双方の意見を平等に扱います。まずは意見の一致点を明確にし、その後で相違点を整理しましょう。
④合意形成と協力体制の構築
提示された解決策から、双方が納得できる着地点を見いだし、合意を目指します。この過程で、関係者間の相互理解をさらに深めることが重要です。
⑤予防のためのフォローアップ
解決策の実行後も状況を継続的にモニタリングし、必要に応じて軌道修正を行います。関係者間の理解が深まることで、将来的に、類似したコンフリクトの再発防止にも役立つでしょう。
コンフリクト解決のポイント
コンフリクトマネジメントを効果的に進めるためには、以下の3つのポイントが重要です。
迅速に対応する
コンフリクトが発生した場合は、迅速な対応が重要です。放置すると組織内のストレスが高まり、状況が悪化する可能性があります。
人ではなく問題に焦点を当てる
誰が悪いかではなく、何が問題かを見極めることが大切です。当事者に解決策を提示する段階で、不必要に感情的対立に発展しないよう、伝え方は十分に配慮しましょう。
オープンな姿勢で臨む
マネジメントを行う際は、企業側もオープンな姿勢で臨みましょう。コンフリクトの存在を認め、その解決過程を透明化することで、組織全体にポジティブな雰囲気が広がります。
コンフリクトを力に変える組織へ
コンフリクトは適切に管理することで、イノベーションの促進やコミュニケーションの活性化、社員のモチベーション向上といったメリットを生みます。一方で、管理を怠ると組織に悪影響を及ぼすリスクがあります。
コンフリクトをポジティブに活用するためには、組織全体での理解を深め、実践的なスキルを習得することが重要です。
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