ヒューマンエラーとは?原因・対策・防止方法



ヒューマンエラーは、職場で起こる事故やトラブルの大きな要因の1つです。個人だけでなく組織全体に深刻な影響を与えるリスクがあるため、企業は原因を解明し、予防のための対策を講じる必要があります。
本コラムでは、厚生労働省の資料をもとに、ヒューマンエラーの基本概念から具体的な防止策まで、わかりやすく解説します。
ヒューマンエラーとは
ヒューマンエラーとは、人間の判断ミスや不注意によって「本来望んでいなかった」「予期していなかった」事態に至ること、またはその結果生じる事故のことです。ビジネスや安全対策の場面では、「人的ミス」や「人的過誤」などの表現が用いられる場合もあります。
ヒューマンエラーの身近な例では、
- メールの宛先や内容を間違えて送信してしまう
- データ入力時に数字を打ち間違える
- 重要な打ち合わせの時間を勘違いして遅刻する
- 安全確認を忘れて機械を操作する
といったケースが挙げられます。これらは誰にでも起こりうるミスですが、職場では生産性の低下や安全上の問題につながる可能性があるため、決して軽視できるものではありません。
ヒューマンエラーと類似する概念として「違反」があります。違反は規則を意図的に破る行為を指します。ヒューマンエラーには規則違反が含まれる場合もありますが、一般的にヒューマンエラーは「意図せず発生するミス」を示すことが多いです。
ヒューマンエラーには軽微なものから重大なものまで様々な種類があり、発生する要因は多岐にわたります。組織内で生じた場合、その影響は個人だけでなく企業全体に及ぶため、組織として適切な対策を講じる必要があります。
ヒューマンエラーの主な種類と具体例
ヒューマンエラーは、発生要因によっていくつかの種類に分けられます。
厚生労働省の生衛業向け労働環境改善ガイドラインでは、ヒューマンエラーの主なタイプを「ついつい・うっかり型」と「あえて型」の2つに分類しています。前者はさらに、「記憶エラー」「認知エラー」「判断エラー」「行動エラー」の4つに細分化されます。
【ヒューマンエラーの主な種類】
分類 | 説明・具体例 | |
---|---|---|
ついつい・うっかり型 | 記憶エラー |
|
認知エラー |
|
|
判断エラー |
|
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行動エラー |
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あえて型 | ― |
|
一般的なヒューマンエラーは「記憶する」「認知する」「判断する」「行動する」という一連の流れの中で、どれか1つ、もしくは複数の機能が適切に働かない場合に発生します。これらは主に「ついつい・うっかり型」と呼ばれる無意識のミスです。
製造現場で生じやすいヒューマンエラーを例に挙げると、次のように分類できます。
- 「記憶エラー」:点検作業の一部をうっかり忘れてしまった
- 「認知エラー」:警告表示や計測器の数値を見落とした
- 「判断エラー」:機械の異常音を「問題ない」と思い込んで作業を続けた
- 「行動エラー」:機械の操作ボタンを押し間違え、誤ったプログラムを起動させた
対して、「あえて型」のヒューマンエラーは、決まり事を守らない、横着をする、手抜きをするなど、意図的な行動によって発生します。
例えば、時間短縮のために安全確認を省略したり、面倒だからと点検作業を行わなかったり、「この程度なら大丈夫だろう」と規定の手順を無視して作業を進めたりするようなケースが該当します。
ヒューマンエラーが起こる原因
ヒューマンエラーが発生する原因について、さらに詳しく解説します。
「ついつい・うっかり型」ヒューマンエラーの要因
まずは「ついつい・うっかり型」のヒューマンエラーが起こる原因を種類別に見ていきます。
「記憶エラー」のケース
記憶エラーが発生する要因として、まず「情報そのものが覚えにくい」という状況が挙げられます。意味のない情報の羅列や、一度に処理しきれないほど情報量が多すぎる場合などがこれに該当します。
反復や復習を行わないことで記憶内容が薄れたり、時間の経過とともに変化してしまうことも要因の1つです。
「認知エラー」のケース
認知エラーとしては、「正しく伝えるべき情報の質の悪さ」が考えられます。情報に漏れや不足があったり、誤った情報やあいまいな情報、識別しにくい情報であったりする場合、正確な認知が困難になります。
また、説明する声が小さくて聞こえない、文字が小さくて読みにくいなど「伝え方」に問題がある場合も原因になるでしょう。さらに周囲が騒がしかったり、照明が暗かったりといった環境的な障害があれば、より認知エラーが生じやすくなります。
「判断エラー」のケース
判断エラーは「状況理解の困難さ」から生じることが多いようです。現状把握や今後の予測がしづらい状況、目標や計画が不明確な場合には、適切な判断を下すことが困難になります。
さらに、判断基準が不明確であったり、思い込みが激しかったりすると、誤った判断につながりやすくなります。
「行動エラー」のケース
行動エラーは、例えば機械操作を行う場合、機器やボタンの配置・間隔が直感的にわかりづらかったり、持ちにくい・使いにくい設計だったりすると、操作ミスが発生しやすくなります。
「あえて型」ヒューマンエラーの要因
一方、「あえて型」のヒューマンエラーは、ルール内容や必要性の理解不足、納得不足、職場全体でルールを守る意識の欠如などが原因となります。
ルールを守ることに対して納得していない人がいた場合、義務付けられた確認作業の必要性はわかっていても「面倒だから」と省略してしまうケースが生じるのです。
ヒューマンエラーが多い人に見られる5つの特徴
実際の現場では、どのような人がヒューマンエラーを起こしがちなのでしょうか。ここでは、ミスを起こしやすい人の行動パターンや特徴を5つ取り上げます。
(1)注意力が散漫で集中力が続かない
「外部からの刺激で注意が分散してしまう」「ひとつの作業に集中し続けるのが難しい」というタイプの人は、ヒューマンエラーを起こしやすい傾向にあるかもしれません。
周囲の音や動きに敏感に反応し、自身の作業から意識がそれてしまうと、確認の見落としやうっかりミスが起こりやすくなります。
(2)経験・知識・教育が不足している
業務経験が浅い場合や、新しい作業・手順に慣れていないときは誰でもミスをしがちです。とはいえ、マニュアルを確認せずに作業を始めたり、わからないことをそのままにしたりすると、さらにヒューマンエラーが生じやすくなります。
知識やスキルが十分でなくても、周囲のサポートや教育体制を整えることでエラー防止につながります。仕事でわからないことを誰もが気軽に質問できるような職場環境づくりをすべきです。
(3)ストレスや疲労を抱えている
慢性的な疲労や精神的なストレスがあると、集中力や判断力が低下しやすくなります。仕事が忙しい時期やプレッシャーがかかる場面ではなおさら、普段は起きないようなミスをしてしまうこともあるでしょう。
こうしたミスを防ぐには、適度な休憩やリフレッシュを心がけることが大切です。また、周囲のサポートを活用して従業員の心身のコンディションを整えることで、ヒューマンエラーの防止につながります。
(4)柔軟性がなく思い込みが強い
自分なりのやり方や過去の経験に頼りすぎて「これで大丈夫だろう」と思い込み、新しい方法や指示に柔軟に対応できない人もヒューマンエラーを起こしやすいでしょう。
慣れている作業であっても、定期的に手順やルールを見直し、確認を怠らない姿勢が重要です。
(5)責任感や主体性が低い
自分の仕事に対して「誰かが確認してくれるだろう」といった受け身の姿勢になりやすい人も、結果ミスを起こしがちです。
仕事に携わる一人ひとりが責任感や主体性を持って取り組むことで、ミスの再発や重大なトラブルを防ぐことができます。
ヒューマンエラー防止のための対策プロセス
組織内のヒューマンエラーを防ぐには、ミスの種類や発生要因を正しく把握し、原因ごとに多角的な対策を講じることが重要です。
最後に、ヒューマンエラー防止に向けて現場で実践すべき対策の5つのプロセスをご紹介します。
(1)ヒューマンエラー事例の洗い出しと現状把握
まずは、現場で発生しているヒューマンエラーの洗い出しを行います。過去の事例を掘り下げていくことで、原因解明や事故防止の重要な手がかりにつながります。
どのようなミスが多いのか、どの工程や場面で発生しやすいのかを可視化して整理し、対策ポイントを明確にしていきましょう。
(2)既存対策の確認と未対策ミスの抽出
続いて、過去のヒューマンエラー事例のうち、対策されているものとそうでないものを振り分けます。
既に改善措置が講じられている事例については、その対策内容と効果をチェックしましょう。未対策の事例については、発生頻度や影響度を考慮して改善の優先順位を決めていきます。
重大な事故につながる可能性が高いもの、日常的に発生しているものから順次対策を検討していきましょう。
(3)ヒューマンエラーの原因解明
過去に発生したヒューマンエラー事例のうち、対策の優先順位が高いものについては、前章で解説した「ついつい・うっかり型」の4種のエラーや「あえて型」などのタイプに分類し、さらに詳しく発生要因を分析していきます。
前章で解説したように、
- 記憶エラー:情報が多すぎる、復唱・反復不足
- 認知エラー:情報の質や伝達方法が悪い、環境的な障害がある
- 判断エラー:状況把握や基準の不明確、思い込みや同調圧力
- 行動エラー:操作性の悪さ、配置や手順の複雑さ
- あえて型:ルールの理解不足、納得感の欠如、職場全体の意識低下
といった要因を明確にすることで、根本的な改善策に役立ちます。
(4)具体的な対策の検討
要因分析を踏まえ、以下の4つの観点からヒューマンエラーを防止するための具体的な対策を検討します。
①人の関与の排除・提言
人が関わる余地そのものをなくす、またはできるだけ少なくすることで、ミスの発生自体を抑えます。自動化や機械化、ITシステムの導入などによって、人手による作業や判断を減らし、ミスが起こりづらい仕組みを構築します。
②要因の排除・抑制
ミスを生み出す要因そのものを取り除いたり、発生しにくいような環境を作ります。
例えば、
- 情報の伝達方法を見直して理解しやすくする
- 操作ミスが起きやすいボタン配置を改善する
- 環境要因(騒音・照明不足など)を整える
などの対策が考えられます。
③人的ミスの排除・低減
ミスを発見しやすくし、ミスが生じてもすぐにリカバリーできるような仕組みを作ります。
- チェックリストの作成
- ダブルチェックの導入
- 作業手順の標準化
- 復唱や声かけの徹底
などが有効です。
また、教育や訓練を充実させて、判断基準や手順を十分に共有するための取り組みも重要です。
④被害の緩和
万が一ミスが発生しても、不具合や事故による被害が最小限になるような対策を講じます。具体的には、
- 安全装置の取り付け
- 異常時の自動停止機能
- 被害拡大を防ぐマニュアルの整備
などが挙げられます。
検討した対策の中から実行可能なものを選び、現場で実際に導入します。
(5)対策の実施と継続的な見直し
対策の策定・運用後も定期的に効果を検証し、必要に応じて見直しや追加対策を行うことが重要です。
ヒューマンエラー防止は、一時的な注意喚起だけでは改善できません。現場の実態に即した具体的な仕組みづくりと、組織全体での継続的な取り組みが不可欠です。
出典:「生産性&効率アップ必勝マニュアル」(厚生労働省)を加工して作成
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