業務委託とは|契約の種類や違いと依頼時の注意点

published公開日:2024.04.15
目次

働き方の多様化や業務効率化とともに、業務委託の活用が増えてきました。業務委託を検討する企業にとっては、仕事の品質や報酬、契約にあたっての注意点など、気になるところも多いでしょう。

本コラムでは、業務委託の定義や特徴、種類、委託側と受託側双方のメリット・デメリットを解説。業務委託契約の際の注意点などもお伝えします。

業務委託とは

業務委託とは、簡単にいえば外部の企業や個人に業務を委託することです。業務内容や成果物の完成責任という観点から、民法では3種類に分けられています。

まずは、法令における定義とともに、労働契約や派遣社員、フリーランス、個人事業主などの混同されやすい用語との違いを見ていきましょう。

業務委託の定義

2023年5月に公布され、2024年秋頃までに施行予定の「フリーランス・事業者間取引適正化等法」では、業務委託とは、事業者がその事業のために他の事業者の物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託すること」と定義されています。

業務委託を行う際に、委託する側と委託を受ける側の間で交わされるのが業務委託契約です。業務は契約内容に基づいて進められます。原則として、委託元は具体的な業務指示や労働場所・時間を指定することはできません。

主に、自社にリソースやノウハウが足りない場合や、より高い品質を求めて外部の専門家に依頼したい場合に活用され、業務の遂行や完成した成果物に対して報酬が支払われます。

業務委託と労働契約・フリーランスの違い

業務委託と比較あるいは混同されやすい用語に、労働契約(雇用契約)やフリーランスがあります。労働契約は業務委託とは契約形態の点で異なり、フリーランスとは用語のカテゴリーの部分で違いがあります。

業務委託と労働契約(雇用契約)の違い

労働契約(雇用契約)は、企業と労働者の間で締結される契約です。労働契約を結ぶと企業と従業員は労使の関係となり、企業は従業員に対して業務内容や仕事の進め方について指揮命令権を行使できるようになります。

これに対して、業務委託では委託元に業務の指揮命令権はありません。委託側と受託側が対等である点も、労働契約とは異なります。

また、労働契約では、労働基準法などの労働者を保護する労働法が適用される点も特徴のひとつです。具体的には、最低賃金以上での賃金の支払い、所定労働時間の制限と時間外労働に対する割増賃金の支払い、年次有給休暇などに関する法令を遵守する必要があり、違反すると労働基準監督署による確認や指導を受けなければなりません。

業務委託では、企業と受託側には雇用関係がありませんので、労働基準法は適用されません。業務の遂行方法は受託者自らが決めるため、委託元が労働時間や労働場所を管理する必要はなく、原則として残業に対する割増賃金の支払いも不要です。

業務委託とフリーランスの違い

業務委託とフリーランスは、別のカテゴリーに属する用語です。業務委託は契約の形態、フリーランスは働き方の種類を示す言葉だからです。

まずフリーランスとは、企業等と労働契約を結ばずに個人で仕事をする働き方をいいます。企業・団体や別の個人と業務委託契約をして仕事をするケースが多いため、「業務委託契約をする個人のこと」と感じられるかもしれませんが、厳密には異なります。業務委託契約以外に、作家やイラストレーターなどであれば、出版社と出版契約をとり交わすケースなどもあり得るからです。

これに対して、業務委託は契約形態のひとつであり、必ずしも委託先がフリーランスであるとは限りません。企業・団体同士、企業・団体と個人、個人同士のいずれの場合でも締結が可能です。

業務委託契約の種類

業務委託には、以下の3つの契約形態があります。

  • ●請負契約(民法632条)
  • ●委任契約(民法643条)
  • ●準委任契約(民法656条)

それぞれの違いについて、確認していきましょう。

請負契約

請負契約とは、受託者が仕事を完成させる責任を負い、委託者はその成果物に対して報酬を支払うという契約です。

受託者には、完成物の数量・品質・種類について契約書通りのものを納品しなければならない義務があり、これに反する場合、委託者は契約不適合責任を問うことができます。

具体的には、

  • ●成果物が完成しなかった
  • ●成果物が納品されなかった
  • ●契約の目的や契約書に規定された条件を満たさなかった

という場合は、契約解除や損害賠償の請求、補修・代替物や不足分の請求、代金減額ができます。

請負契約の事例としては、

  • ●会社のロゴ制作や広報用のイラスト制作
  • ●Webデザインやサイト制作
  • ●オウンドメディアの記事作成
  • ●システム開発
  • ●楽器演奏
  • ●警備(成果は「安全」)
  • ●営業(成果は「売上」)
  • ●建設業における請負工事
  • ●運送

さまざまな業務があります。

委任契約

委任契約とは、委任者が受託者に対して業務の遂行を委託し、それに対して報酬を支払う契約です。

請負契約との違いは、成果物の完成ではなく、業務を行ったこと自体に対価が発生する点です。そのため、受託者に完成責任はありませんし。

一方で、受託者は業務の遂行について善管注意義務(善良な管理者の注意義務)を負います。すなわち、「業務の遂行にあたって、社会通念上当然に要求される注意を払う」ことです。

委任契約で委託される業務は、「法律行為」に限定されます。具体的には、

  • ●弁護士
  • ●行政書士
  • ●税理士
  • ●社会保険労務士

などが行う業務です。

業務の結果や成果物の有無は報酬の支払いに影響しないため、例えば弁護士との委任契約であれば、勝訴でも敗訴でも報酬を支払う必要があります。

準委任契約

法律行為以外の委任をする場合は、準委任契約となります。委任契約と同様、業務の遂行自体に対して報酬が発生します。

典型的な準委任契約のひとつが、ITベンダーによるシステム開発です。準委任契約には委任契約の規定が準用されますので、受託者には完成責任がなく、「契約書に定めた数量や種類、品質通りの成果物を納品しなかった」ことに対する責任(契約不適合責任)も原則として問えません。

ただし、システム開発のような成果物の引き渡しが不可欠な準委任契約は、成果物の納品によって対価を支払う「成果完成型」と呼ばれ、その成果物について善管注意義務を果たしながら作成することを求める契約となっています。

準委任契約における職種例には、ITエンジニアのほか、医師やコンサルタント、マッサージ師、エステティシャン、不動産鑑定士などがあげられます。

業務委託を受ける側のメリット・デメリット

業務委託には、受託者にとっていくつかのメリット・デメリットが存在します。主なメリットは、働き方の自由度、デメリットは不安定さです。

業務委託を受ける側のメリット

業務委託を受ける側のメリットは、業務の遂行に関する具体的な指示や命令を受けずに済むことです。会社員のように労働時間や勤務場所の縛りもありません。

また、委託される業務を受けるか否かも、受託者自身が決定できます。得意分野がある人なら、その分野に絞って受注することも可能。これまでに培ったスキルや経験を存分に活かし、専門性の高い業務に専念できます。

多数の案件やより報酬が高い案件を受注することで、自分の意思で収入アップを目指すことも不可能ではありません。

業務委託を受ける側のデメリット

受託者にとっての業務委託のデメリットは、収入やキャリアが安定しにくいことです。仕事をするには、自分で案件を見つけなければなりません。一度受注できても、その後も受注し続けられるとは限りませんし、季節によって受注量が大きく変動するケースもあります。

また、請求書の発行や報酬の交渉、帳簿の管理、社会保険料の支払い、確定申告等も自分で行わなくてはなりません。

業務委託の受託者は、労働基準法にある割増賃金や休日労働、年次有給休暇等の基本的な条件が適用されませんので、休日の取得や体調管理など、会社員以上の業務管理や体調管理が求められます。

企業が業務委託するメリット・デメリット

これに対して、企業側にとってはコスト削減や業務効率化というメリットと、高額な報酬や品質への不安といったデメリットがあります。

企業が業務委託に依頼するメリット

企業が業務委託を行うメリットとして、人手不足の解消やコスト削減などがあげられます。

人手不足解消と人件費の抑制

業務委託は、業務量や納期を条件とした単発での依頼が可能です。そのため、企業の一時的な繁忙期や欠員などによる人手不足の際に労働力を確保しやすい点が大きなメリットとなります。

繁忙期だけの発注となりますので、閑散期の人件費も抑えられます。

業務委託では、労働契約による人材確保とは異なり、社会保険料の会社負担や備品などの支給も不要です。すでに豊富なノウハウがある企業や個人に発注することで、社内の育成コスト削減にもつながるでしょう。

専門性の高い業務を任せられる

高度な専門スキルや知識をもった人材に業務を任せられる点も、大きな魅力です。

例えば、デザイナーやシステムエンジニア(SE)といった高い専門性を持つ職種が求められる場合、社内でそうした人材を既に雇用しているか、新たに雇用・育成しなければなりません。

しかし、業務委託であれば、既に高度なスキルや実績がある人材を選んで業務を依頼できます。社内で人材を確保しなくても、質の高い業務を効率的に遂行してもらえるということです。

自社の人材を有効活用できる

社内に高いスキルを持つ人材がいる場合でも、業務委託は有用です。コア業務に直接関係のない業務を外部に委託して、社内のリソースをより効率的に活用できるからです。

例えば、営業アシスタント業務やコールセンター業務、採用活動における面接日程の調整・連絡などは、テンプレートやマニュアルがあれば遂行しやすい業務です。情報漏洩防止対策を講じた上で外部に委託すれば、本業に割く社内リソースが増やせるでしょう。

人材の適材適所も実現しやすくなり、業務効率化や組織の生産性向上を期待できます。

短時間勤務を行うことになった社員の業務量を減らす際に活用するなど、働き方改革の観点からも大きなメリットといえます。

企業が業務委託に依頼するデメリット

業務委託の主なデメリットは、外注コストの発生や、社内ノウハウが蓄積されないなどの点です。

専門性の高さに応じて報酬が高くなる

あまり専門性が高くない業務の場合、業務委託によって人件費を抑えられます。しかし、専門性の高い業務を委託すると報酬が高額になることが多く、従業員に任せるよりも大きなコストが発生しやすくなるでしょう。

専門的な業務を委託する場合、有名なクリエーターやアーティストへの発注であれば、その仕事によって費用を大きく上回る売上が出るかもしれません。あるいは、高効率・高品質な仕事によって最終的にはコスト削減につながるケースもあるでしょう。

委託先の仕事の品質とそれによる影響、内製する場合の費用や期間など、総合的な判断が求められます。

社内にノウハウが蓄積されない

自社で対応できない業務を委託する場合、成果物の提供や業務遂行が行われても、そのノウハウが社内蓄積されないというデメリットがあります。ノウハウが蓄積されなければ業務の内製化も困難になり、結果として業務委託し続けなければならないかもしれません。

業務委託を行いながら社内のノウハウを高めるには、委託先との定期ミーティングを実施したり、報告書の提出を求めたりするとよいでしょう。何を目的として、どのように業務を進めているのかを知ることができますので、知見の一部を取り入れることができます。

なお、定期ミーティングや報告書の提出を求めるには、その旨を盛り込んだ条項を作成して合意形成を図り、業務委託契約を締結しましょう。

委託先によって成果物・業務の質が左右される

業務委託では、委託先によって成果物や業務の質にばらつきが出るというデメリットもあります。特に、委託先が個人である場合、業務プロセスや品質管理に違いが出やすく、思ったような成果物が得られないケースが見られます。

また、業務遂行能力が不十分な場合、納期遅れや品質の問題以外に、違法行為などのトラブルに巻き込まれる恐れもあります。

業務委託契約を締結する際は、委託先の信用度や業務レベルを確認したうえで、進捗などを定期的に確認するとよいでしょう。

偽装請負と見なされるリスクがある

業務委託契約では、発注者は業務上の指揮命令権がありません。そのため、別の会社に業務を委託した上で、受託者を自社の管理体制や指揮命令下に置いて仕事をさせると、「偽装請負」と呼ばれる違法行為となってしまいます。業務の実態が、実質的に労働者派遣契約や労働者供給契約と見なせるからです。

偽装請負は、労働者派遣法ならびに職業安定法によって禁止されています。違反すれば、委託者も受託者である企業も、どちらも罰則が適用されます。

具体的な罰則は、

  • ●当該労働形態が労働者派遣と見なされる場合
     派遣元に1年以下の懲役または100万円以下の罰金(労働者派遣法第59条第2項)
  • ●派遣元と労働者の間に労働契約がなく労働者供給と見なされる場合
     派遣元と派遣先の双方に1年以下の懲役または100万円以下の罰金(職業安定法第64条第9項)

となっています。

厚生労働省からの助言や指導、勧告が行われても状況の改善がない場合は、企業名公表の対象にもなるため、会社の社会的評価も低下してしまうでしょう。

業務委託を行う際は、業務の管理監督者や関係社員に、偽装請負にあたる行為を行わないよう、具体例とともに注意喚起する必要があります。

業務委託を依頼する際の確認点

業務委託を依頼する場合、事前に確認しておくべきポイントについて解説します。

安すぎる報酬額はトラブルの元

業務委託で多く発生するトラブルの一つに、報酬額をめぐるトラブルがあります。

「納品したのに報酬が支払われなかった」
「想定していた品質より低い成果物が納品されたため報酬を減額したら、裁判になった」

などの例です。

業務委託は、業務の結果や遂行に対して報酬を支払うものです。業務遂行中の指導や命令はできません。そのため、業務依頼前に報酬に関して十分な合意形成を行うことが大切です。

報酬の金額は、

  • ●業務に要するであろう時間や最低賃金制度
  • ●業務にかかる経費・交通費
  • ●受託者が普段受けている内容での相場
  • ●自社が出せる報酬額

などをもとに、検討・決定を行いましょう。こうした合意形成を事前に行うことが、報酬に関するトラブル防止につながります。

業務内容・成果物を明確に

業務委託では受託者の仕事の進め方に対して細かな指示を出すことはできません。そのため、業務の遂行方法や成果物の質について、想定していたものとは異なる結果になってしまったというトラブルも多く見られます。具体的な業務内容や成果物の質について十分にすり合わせを行い、業務委託契約書にも明記しておきましょう。

特に、デザインや楽曲制作などのクリエイティブな業務においては、発注者としては「何パターンか作ってほしい」「イメージに合わないから修正してほしい」と言いたくなることもあるでしょう。しかし、契約書に記載のない業務や成果物については、事前の取り決めがなく業務量が報酬に見合わないとして、受託者から拒否されることもあります。

業務委託のうち成果物の品質や数量がポイントになる契約では、作成するパターンの数や修正回数、修正可能なタイミングなども含めて明記した上で契約するとよいでしょう。

経費・交通費の取り決めも明記

一般的に、業務委託では業務の遂行または成果物完成のために発生した経費を発注者が負担します。経費の支払いについて取り決めがないと、受託者との間でトラブルに発展しかねません。

トラブルを避けるには、

  • ●具体的にどのようなものが経費として認められるか
  • ●金額の上限はいくらか
  • ●どのような手続きで請求するか

などを受託者とすり合わせる必要があります。

例えば、取材業務を委託した場合、

「現場に行くまでに要した交通費や料亭で取材対象者を接待した場合は経費と認める」
「交通費は別途請求」

というように、業務上発生し得る具体的なケースを想定した上で合意形成を図りましょう。

再委託の可否は慎重に判断

業務委託では、「再委託」という事態も発生する可能性があります。再委託とは、受託者が依頼された業務を第三者に委託することです。

再委託を認める場合、最初の受託者と再委託を受けた側とが業務を行うため、納期短縮などのメリットがあります。一方で、業務に関連するさまざまな情報が再委託先にも伝えられることになり、情報漏洩リスクが高まったり、委託先の業務管理体制が弱まったりするといったデメリットが生じるかもしれません。

万が一情報漏洩が起これば、重大な損害につながる恐れがあります。再委託の可否については、信頼できる受託者かどうか、情報セキュリティ対策の実施の有無などを加味した上で、事前の取り決めを行ってください。再委託を禁止する場合は、必ず業務委託契約書に明記しましょう。

中途解約や損害賠償に関するルールを明記

請負契約では、成果物の納品前に契約を解除することはできますが、損害賠償の支払いが発生する可能性があります。

委任契約や準委任契約では、委託者側と委託者側のどちらからも、時期を問わずに契約を解除することが可能です。しかし、相手方に不利な時期での中途解約となる場合は、損害賠償の支払いが発生するリスクがあります。

安全に中途解約を行うには、双方の合意が必要です。業務委託契約書に、あらかじめ契約解除に関するルール(解約条項)を明記しましょう。そして、中途解約の必要が出た際は受託者と話し合いの場を設け、受託者側の立場に配慮しつつ、中途解約の合意形成を行います。その上で、業務委託契約の解除通知書(解約通知書)を作成し、受託者に内容証明郵便で送ってください。

なお、どちらかに不利益が生じる状況で解約を行う場合、違約金や損害賠償の支払いを条件に合意形成が行われるケースもあります。どのような条件で違約金の支払いが発生するのか、どのような場合に損害賠償請求が行われるのかなど、業務の進め方や成果物の要件などを考慮しながら、契約書に記載しておくとよいでしょう。