セクシャルハラスメント(セクハラ)とは?具体例と判断基準、企業の対策


職場における性的な言動による嫌がらせ、いわゆるセクシャルハラスメント(セクハラ)は、働く人の尊厳を傷つけ、職場環境を悪化させる重大な問題です。男女雇用機会均等法によって、企業には防止措置を講じることが義務化されています。
本コラムでは、セクシャルハラスメントの定義や被害の具体例、判断基準などを詳しく解説。企業が取り組むべき対策についてわかりやすくご紹介します。
セクシャルハラスメントとは
セクシャルハラスメントとは、職場での性的な言動により相手に不利益を与えたり、就業環境を害したりする行為です。略して、セクハラやセクシュアルハラスメントとも呼ばれることもあります。
まずは、具体的にどのような言動がセクシャルハラスメントに該当するのか、そして「職場」とされる対象範囲について詳しく見ていきましょう。
セクシャルハラスメントの「性的な言動」とは
セクシャルハラスメントに該当する「性的な言動」は、具体的に以下のようなものがあります。
種類 | 具体例 |
---|---|
性的な内容の発言 |
など |
性的な行動 |
など |
セクシャルハラスメントを理解するうえで、特に気をつけるべきポイントとして、
- 男性・女性どちらも行為者にも被害者にもなり得る
- 異性間だけでなく同性間でも該当する
- 社外の人からの行為も対象となる
- 相手の性的指向や性自認に関係なく該当する
といった点をおさえておきましょう。
ここで性的指向と性自認について補足しておくと、性的指向は、恋愛感情や性的感情をどのような性別の相手に向けるかを示す概念のことです。これは人によって様々で、異性を好きになる人もいれば、同性を好きになる人、両性を好きになる人、また恋愛感情や性的感情をほとんど抱かない人もいます。
一方性自認は、自分の性別をどのように認識しているかという、いわゆる「心の性」を表す概念です。多くの人は身体の性と性自認が一致していますが、一致しない場合もあります。また、男性・女性のどちらとも認識していない人や、状況によって流動的な人もいます。
性的指向や性自認は、個人の尊厳に関わる非常にセンシティブな情報です。職場では当事者のプライバシーを守るため、これらの情報を慎重に取り扱うことが求められます。
セクシャルハラスメントにおける「職場」の対象範囲
次に、セクシャルハラスメントにおける「職場」の対象範囲について見ていきましょう。具体的には、社員が業務を行う全ての場所を指します。
【セクシャルハラスメントにおける「職場」の対象範囲】
「職場」に該当する場所 | 具体例 |
---|---|
通常就業している場所 |
など |
業務に関連する場所 |
など |
業務の延長線上の場所 |
など |
なお、勤務時間外の懇親会や宴会などについては
- 職務との関連性
- 参加者の範囲
- 参加が強制的か任意か
といった要素を考慮して個別に判断する必要があります。
セクシャルハラスメントに関する法規制
職場におけるセクシャルハラスメントは、男女雇用機会均等法により規制されています。
セクシャルハラスメントの定義
セクシャルハラスメント防止措置は、男女雇用機会均等法第11条1項によって以下のように定義されています。*
【職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等】
事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
職場におけるセクシャルハラスメントとは、性的な言動により労働者が不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることを指し、事業主には相談体制の整備など必要な防止措置を講じることが義務付けられています。
ハラスメント防止対策の強化
2020年6月の法改正により、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました。セクシャルハラスメントに関連する主な強化内容は以下の通りです。*
【法改正によるセクシャルハラスメント防止対策の主な強化ポイント】
強化項目 | 具体的な内容 |
---|---|
関係者の責務の明確化 |
|
労働者保護の強化 |
|
事業主間の連携強化 |
|
調停における協力体制の整備 |
|
このように、職場におけるセクシャルハラスメント防止対策は、企業の重要な法的義務として位置付けられています。
*参考:「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年6月5日公布)の概要」(厚生労働省)を加工して作成
セクシャルハラスメントの分類
職場でのセクシャルハラスメントは、その性質によって「対価型」と「環境型」に分類されます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
対価型セクシャルハラスメント
対価型セクシャルハラスメントは、職場で受けた性的な言動に対して拒否や抵抗をしたことにより、解雇や降格、減給などの不利益を受けるものを指します。具体例は以下の通りです。
- 出張中のホテルで上司から性的な関係を迫られ、拒否したため降格された
- 営業所長から性的な噂を流されたため、抗議したところ転勤を命じられた
- 取引先からの性的な要求を断ったことで、契約を解除された
環境型セクシャルハラスメント
環境型セクシャルハラスメントは、職場で性的な言動を受けたことにより、働く環境が不快なものとなり、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じるものを指します。
- 職場に性的な写真が掲示されている
- 同僚から性的な冗談を日常的に言われる
- 業務中に体を触られる
なお、先述した通り、セクシャルハラスメントの被害者は男女を問わず、同性に対するものも該当します。また、性的指向や性自認に関する偏見に基づく言動もセクシャルハラスメントとなり得るため、職場では十分な配慮が必要です。
セクシャルハラスメントの判断基準
セクシャルハラスメントは、状況によって判断が異なり、個別のケースごとに慎重な判断が必要です。判断の際は、以下の2つの視点が重要になります。
- 労働者の意に反する性的な言動であるか
- その言動により就業環境が害されているか
セクハラかどうかの判断では、基本的には労働者の主観が重視されます。客観性を期すために、以下のような基準が用いられています。
【セクシャルハラスメントの判断基準】
判断の種類 | 判断基準 |
---|---|
身体的接触の場合 | 強い精神的苦痛を与える身体的接触は、1回でも就業環境を害するとみなされる |
継続的な行為の場合 | 「明確な抗議をしているのに放置された場合」や「心身に重大な影響が出ている場合」は回数にかかわらず就業環境が害するとみなさられる |
性別による判断基準 | セクシャルハラスメントに該当するとされる行為者の言動が、「女性の場合は平均的な女性労働者の感じ方であるか」「男性の場合は平均的な男性労働者の感じ方であるか」を基準として判断される |
このように、セクシャルハラスメントの判断には、被害者の主観的な受け止め方と、一般的な感覚という客観的な基準の両方が考慮されます。特に身体的接触を伴う場合や、継続的な行為である場合は、より厳格な判断基準が適用されることに注意が必要です。
セクシャルハラスメントで企業が負うリスクと責任
職場でセクシャルハラスメントによる被害が発生すると、企業は以下のような深刻なリスクと責任を負うことになります。
法的責任とコスト
セクシャルハラスメントが発生した企業は、男女雇用機会均等法違反として行政指導の対象となり、改善がみられない場合は企業名が公表されることがあります。使用者責任として加害者とともに損害賠償を求められたり、被害者の治療費用など多額の金銭的負担が発生したりするケースも見られます。
人材・業務への影響
セクシャルハラスメント被害を受けた従業員は、心理的なストレスによりメンタルヘルス不調に陥り、休職や退職に至るケースが少なくありません。また、職場の雰囲気が悪化することで全体の士気が低下し、業務効率が著しく低下する場合もあります。
さらに、他の従業員への精神的影響から連鎖的な退職が発生するなど、組織全体に大きな打撃を与えることになります。
企業価値への影響
セクシャルハラスメントの問題が表面化すると、企業の社会的信用は大きく失墜します。近年ではSNSなどで情報が広く拡散されるため、様々な風評被害により業績に深刻な影響を及ぼすでしょう。
そのほかにも、採用市場でのイメージが低下して人材確保が困難になったり、取引先との関係が悪化したり、企業価値に長期的な影響を与えることになります。
職場における他のハラスメント
セクシャルハラスメント以外にも、職場におけるハラスメントは多数存在しています。ここでは、主なハラスメントとその法的位置付けについて見ていきましょう。
【職場におけるハラスメントの種類一覧】
ハラスメントの種類 | 定義 | 法令 |
---|---|---|
パワーハラスメント(パワハラ) | 職場における優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、労働者の就業環境を害する行為 | 労働施策総合推進法 |
妊娠・出産に関するハラスメント(マタニティハラスメント・パタニティハラスメント) | 妊娠・出産したことを理由とする不利益な扱いや嫌がらせなどの言動により、労働者の就業環境を害する行為 | 男女雇用機会均等法 |
育児休業・介護休業等に関するハラスメント | 育児休業や介護休業の取得を理由とする不利益な扱いや嫌がらせなどの言動により、労働者の就業環境を害する行為 | 育児・介護休業法 |
これらのハラスメントは、労働者の尊厳を傷つけ、職場環境を悪化させるだけでなく、企業の生産性低下や社会的信用の失墜にもつながる重大な問題です。そのため、企業には法律で防止措置が義務付けられており、相談窓口の設置や研修の実施など、実効性のある対策を講じることが求められています。
セクシャルハラスメントの現状
厚生労働省が2024年3月に公表した「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」報告書から、職場におけるセクシャルハラスメントの実態が明らかになっています。
全国の20~64歳の男女労働者を対象とした調査によると、過去3年間に職場でセクシャルハラスメントの被害を経験した人は全体の6.3%となっています。性別による差は明確で、女性が8.9%、男性が3.9%と、女性の方が被害を受けやすい傾向にあるようです。また、被害を受けた後の対応としては、被害者の51.7%が「何もしなかった」と回答しています。
一方で、ハラスメントの予防・解決のための取り組みを実施している企業では、本来の目的である防止効果に加えて、職場のコミュニケーションの活性化や風通しの改善、会社への信頼感の向上といった副次的な効果も報告されています。このことから、セクシャルハラスメント防止への取り組みは、職場環境の全体的な改善にもつながることがわかります。
セクシャルハラスメント防止のための具体策
企業は、職場におけるセクシャルハラスメントを防止するため、具体的に以下のような措置を講じる必要あります。
基本的な防止措置
まず重要なのは、社内での方針の明確化と周知、啓発です。セクシャルハラスメントが許されない行為であることを明確にし、就業規則に定め、研修などを通じて全従業員に周知徹底を図ることが求められています。
また、相談窓口の設置と周知、事実関係の迅速な確認と適切な対処を行い、プライバシーの保護と相談者への不利益取扱い禁止を徹底することが重要です。
実効性のある取り組み
セクシャルハラスメントの効果的な防止策として、以下のような取り組みが挙げられます。
- 各種ハラスメントの一元的な相談窓口の設置
- 職場環境の改善(適正な業務目標の設定、過剰な長時間労働の是正など)
- コミュニケーションの活性化や円滑化のための取り組み(定期面談、研修など)
前章の調査結果からもわかる通り、こうした防止措置を実施することで、職場のコミュニケーションが活性化し、会社への信頼感が向上します。さらに、職場環境が改善され、労働者の働きやすさが向上するなど、組織全体にポジティブな効果をもたらすことが報告されています。
定期的に見直しと改善を行い、より実効性のあるセクシャルハラスメント防止体制を構築していきましょう。