セカンドハラスメントとは?定義、事例、企業の法的責任と防止策

published公開日:2025.06.10
セカンドハラスメントとは?定義、事例、企業の法的責任と防止策
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ハラスメントの被害者が周囲に相談したことで、さらなる精神的苦痛を受けてしまうセカンドハラスメント。2020年のパワハラ防止法施行により、企業にはハラスメント防止措置が義務付けられましたが、多くの職場では被害者への対応や体制整備が十分とはいえない状況が続いています。

本コラムでは、セカンドハラスメントの定義や具体例、企業が講じるべき対策について詳しく解説します。

セカンドハラスメントとは

セカンドハラスメントとは、職場でハラスメント被害を受けた人が、その事実を上司や同僚、相談窓口などに報告・相談した際に、軽視されたり無視されたりといった不適切な対応によってさらに傷つけられる二次被害のことです。

このハラスメントの特徴は、加害者が悪意を持たない場合もあるという点です。相談を受けた人が「親身になって助言している」と認識していても、その発言が被害者にとってさらなる精神的負担となる可能性があります。また、過去に同様の経験をした人が「自分はこのように乗り越えた」とアドバイスすることが、結果として「被害者の軽視」となるケースも散見されます。

職場のハラスメントとは、主に次のようなものです。

【職場における主なハラスメント】

ハラスメントの種類 内容
パワーハラスメント(パワハラ) 優位な立場を利用した、業務の適正範囲を超えた言動
セクシャルハラスメント(セクハラ) 被害者の意に反する性的な言動
モラルハラスメント(モラハラ) 言葉や態度によって継続的な精神的苦痛を与える行為
マタニティ・パタニティハラスメント(マタハラ・パタハラ) 妊娠・出産・育児に伴う休業や時短勤務制度の利用に対する不当な扱いや不適切な言動
カスタマーハラスメント(カスハラ) 顧客や取引先からの理不尽な要求や言動

ハラスメント被害を周囲に相談するとき、被害者は既に大きな心理的負担を抱えている状態にあります。被害状況を説明するだけでも、つらい経験を思い出して再び苦しむこともあるでしょう。それゆえ、「気にしすぎ」といった言葉をかけることは、たとえ善意からでも被害者に深い傷を負わせてしまうことになるのです。

このような二次被害の問題は、決して珍しいものではありません。実際、職場でのハラスメント自体が広く蔓延している現状があります。厚生労働省の「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、過去3年間でパワハラ被害は19.3%、セクハラ被害は6.3%に達しています。

職場ハラスメントが多発している中、適切な対応がなければ二次被害のリスクは自ずと高まるでしょう。しかし、ハラスメント対策をしている企業は全体の41.8%にとどまっており、対応の遅れが目立っています。

参考:「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」(厚生労働省委託事業)

コラム「ハラスメントとは?定義・種類・原因・対策を簡単にわかりやすく解説」はこちら

セカンドハラスメントの具体例

セカンドハラスメントは、大きく分けて次の3つのパターンに分類できます。それぞれの具体例を見ていきましょう。

(1)被害者への不適切な発言・対応

最も多いのが、相談を受けた人による不適切な言動です。例えば、以下のようなものがあります。

  • 「そんなに深刻に考えなくても」「あなたの考えすぎではないですか?」「そんなことあるはずがない」と被害を軽視したり否定したりする
  • セクハラ被害の場合、「あなたの服装にも問題があったのでは」「なぜ二人きりになったの?」「なぜその場から離れなかったのか」と被害者を非難する
  • 「昔からの習慣だ」「この業界では珍しいことではない」と問題を正当化する
  • 「〇〇さんに悪気はない」「誰に対してもそのような態度だ」と加害者を擁護する
  • 「大ごとにすると社内に居づらくなる」「昇進・評価に影響するかもしれない」と不利益を強調して黙認を促す

相談を受けた人が良かれと思って発した言葉でも、被害者の心情、受け取り方によってはマイナスに作用するため、結果、セカンドハラスメントとなり得ます。

(2)情報の不適切な取り扱い

2つ目は、相談者の情報を適切に扱わないことで、保護されるべき情報が漏洩してしまうケースです。

  • 相談内容が職場の噂話として広まってしまう
  • 窓口担当者が被害者の許可なく加害者に相談内容を伝えてしまう
  • 人事部内での情報管理が不十分で、関係者以外に情報が漏れる

情報漏洩による二次被害は、被害者の職場での立場をさらに悪化させ、孤立を深める原因となります。最悪の場合、異動や退職に追い込まれることもあります。

(3)組織としての不適切な対応

3つ目は、ハラスメントの訴えに対し、組織が適切に対応しないというケースです。

  • ハラスメント事案の調査が形だけで終わり、実態解明がなされない
  • 被害者の希望を無視した形での配置転換や職場復帰
  • 具体的な改善策を示さず、時間の経過に任せる対応

組織がハラスメント被害に対して適切な対応を取らない場合、被害者はさらなる被害を受け続ける恐れがあります。

セカンドハラスメントが起こる原因

セカンドハラスメントの主な原因として、次の3点が挙げられます。

セカンドハラスメントへの認識不足

セカンドハラスメントの発生において大きな要因となっているのは、セカンドハラスメントという概念自体の認知度の低さです。パワハラやセクハラについては社会的認知が進み、多くの企業で研修などが行われていますが、セカンドハラスメントについてあまり知られていないのが現状です。

相談を受ける側が「これは二次被害になる」という認識がないまま対応することで、無自覚のうちに加害者となってしまうケースも。「大丈夫だよ」「気にしないで」といった、一見励ましのように聞こえる言葉が、実は被害者の心情を無視した発言になることもあります。

指導とハラスメントの境界線の曖昧さ

「厳しい指導」と「ハラスメント」の区別がつきにくいことも、問題を複雑にしています。

例えば、

  • 「指導の一環」という認識と「ハラスメント」の受け止め方のギャップ
  • 「昔はもっと厳しかった」という経験からくる感覚の違い
  • 業務上必要な叱責とパワハラの線引きの難しさ

こうした認識の違いから、相談を受けた側が「指導の範囲内」と判断し、被害者の訴えを軽視してしまうことがあります。

相談体制の不備

多くの企業がハラスメント相談窓口を設置しているものの、その運用面には依然として課題が存在します。具体的には、以下のようなことが問題視されています。

  • 相談担当者の専門知識や対応スキルの不足
  • プライバシー保護に関する意識や仕組みの欠如
  • 相談後のフォローアップ体制の不備

単に形式的に窓口を設置するだけでは、適切な対応を実施することは困難です。特に中小企業においては、専任の担当者を配置することができず、他業務と兼任する担当者が十分な知識を持たずに対応せざるを得ない状況が見受けられます。

企業のハラスメント対応義務と法的責任

企業には、職場でのハラスメント防止に関して、法律上の義務が課せられています。

【主なハラスメントと法律】

種類 法律
パワーハラスメント 労働施策総合推進法
セクシュアルハラスメント 男女雇用機会均等法
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント 育児・介護休業法

これらの法律に基づき、企業には具体的な防止措置の実施が求められています。特に2020年6月から施行された改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)では、パワーハラスメント防止のための措置が大企業に義務付けられ、2022年4月からは中小企業にも適用されています。

法律上、企業に求められる主な対応は以下の通りです。

  1. (1)ハラスメント防止に関する方針の明確化と周知・啓発
  2. (2)相談窓口の設置と適切な対応
  3. (3)事後の迅速かつ適切な対応
  4. (4)プライバシー保護と不利益取扱いの禁止
  5. (5)そのほか必要な措置

これらの対応を怠った場合、企業名の公表や是正勧告などの行政処分を受ける可能性があり、民事上も安全配慮義務違反や使用者責任に基づく損害賠償責任を問われることがあります。

セカンドハラスメントについても、相談者への不利益取扱いの禁止やプライバシー保護の観点から企業の責任が問われる可能性があります。企業は法的リスクを回避するだけでなく、従業員が安心して働ける職場環境を整備するという観点からも、真摯な対応が求められているのです。

出典:厚生労働省ホームページ

セカンドハラスメントの防止策

セカンドハラスメントを防止するには、主に以下の3つの取り組みが重要です。

(1)組織全体での意識改革とルールの整備

セカンドハラスメントの防止には、制度の整備と組織全体での意識改革が欠かせません。具体的な取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 経営トップからの明確なメッセージ発信
  • ハラスメント防止に関する社内規定の整備
  • ハラスメントの定義や影響に関する正しい知識の共有

(2)相談窓口の設置と運用の整備

相談窓口の設置・運用に関しては、運用担当者の選定、そして体制の整備が重要になります。相談対応の仕方、相談窓口と人事部との連携方法など、詳細についてあらかじめ決めておくことが大切です。

社内での窓口設置が難しい場合は、外部機関への委託も検討しましょう。外部窓口は、より客観的な立場で対応できるため、相談者の匿名性を確保しやすいというメリットがあります。

相談窓口の存在を定期的に周知し、利用しやすい仕組みを整えることで、ハラスメントの早期発見につながります。

(3)相談担当者の専門性向上

相談窓口の担当者には、一般的な人事業務とは異なる特別なスキルが求められます。被害者の心情を理解しながら適切に質問する技術や、正確に事実関係を把握する力が必要になってきます。

相談担当者が以下のようなスキルを身につけられるよう、定期的に研修を実施しましょう。

  • 相談者の話に耳を傾ける傾聴技術
  • ハラスメントの法的知識と企業責任の理解
  • 問題解決に向けたプロセス管理能力

セカンドハラスメントの防止には、組織全体の意識改革および規則整備、適切な相談窓口の設置と運営、ならびに相談担当者の専門性向上という多角的な取り組みが必須です。企業の責務として、ハラスメント被害者の気持ちを尊重すること、そして労働環境の整備と迅速な問題解決が求められています。