アルコールハラスメント(アルハラ)とは?定義と具体例、企業がとるべき対策

published公開日:2025.06.10
アルコールハラスメント(アルハラ)とは?定義と具体例、企業がとるべき対策
目次

アルコールハラスメント(アルハラ)とは、お酒に関連する様々な嫌がらせのことです。会社の飲み会での無理な飲酒の強要や、泥酔状態での迷惑行為が社会問題として認識されており、企業には従業員を守るための適切な対応が求められています。

本コラムでは、アルコールハラスメントの意味や具体例、過去事例、企業への影響と効果的な対策について詳しく解説します。

アルコールハラスメント(アルハラ)とは

アルコールハラスメント(通称:アルハラ)とは、飲酒を無理強いしたり、飲めない人への配慮を欠いたりする行為です。また、酔った状態での迷惑行為や犯罪行為も含まれます。近年、日本の社会文化や慣習に関連したハラスメントとして、アルハラは広く問題視されるようになっています。

具体例としては、次のようなものがあります。

  • 上司が部下に対して飲酒を強要する
  • 新入社員歓迎会で一気飲みを強制する
  • 飲めない人をからかったり、無理に勧めたりする
  • 酔った勢いでのセクハラや暴言

アルコールハラスメントは被害者の心身に重大な影響を及ぼし、場合によっては急性アルコール中毒による生命の危険を伴う非常にリスクの高い行為です。職場におけるアルハラは支配的な立場からの言動を伴うことが多く、パワーハラスメントの一形態として認識されています。

企業は従業員を守るため、アルハラをパワーハラスメント対策の一環として位置付け、必要に応じた対策を講じる責務があります。

コラム「ハラスメントとは?定義・種類・原因・対策を簡単にわかりやすく解説」はこちら

アルコールハラスメントの定義と具体例

続いて、アルコールハラスメントの定義と具体例について見ていきましょう。

アルコールハラスメントの定義

依存関連問題の防止を目的とする特定非営利活動法人「ASK」は、以下の5項目を主要なアルコールハラスメントとして定義しています。*

【アルコールハラスメントとなる主な行動】

形態 内容
①飲酒の強要 上下関係・部の伝統・集団によるはやしたて・罰ゲームなどといった形で心理的な圧力をかけ、飲まざるをえない状況に追い込むこと
②イッキ飲ませ 場を盛り上げるために、イッキ飲みや早飲み競争などをさせること。「イッキ飲み」とは一息で飲み干すこと、早飲みも「イッキ」と同じ
③意図的な酔いつぶし 酔いつぶすことを意図して、飲み会を行なうことで、傷害行為にもあたる。ひどいケースでは吐くための袋やバケツ、「つぶれ部屋」を用意していることもある
④飲めない人への配慮を欠くこと 本人の体質や意向を無視して飲酒をすすめる、宴会に酒類以外の飲み物を用意しない、飲めないことをからかったり侮辱する、など
⑤酔ったうえでの迷惑行為 酔ってからむこと、悪ふざけ、暴言・暴力、セクハラ、その他のひんしゅく行為

アルコールハラスメントは単に社会的マナーの問題ではありません。被害者の心身に深刻な影響を及ぼす危険な行為です。また、行為者や企業が法的責任を問われる可能性もあるため、個人と組織の両方で取り組むべき課題となっています。

*出典:特定非営利活動法人ASKホームページ

アルコールハラスメントの具体例

具体的には、以下のような行為がアルハラに該当します。

①飲酒の強要

  • 新入社員歓迎会で「これが会社の伝統だ」と一気飲みを強制する
  • 上司が部下に圧力をかけて無理矢理酒を勧める
  • 飲み会で負けたゲームの罰として大量の酒を飲ませる
  • 「男のくせに飲めないのか」と性別を理由に飲酒を強要する

②イッキ飲ませ

  • 宴会の締めくくりに全員で一気飲みをさせる
  • 飲み会で早飲み競争を行い、勝者に賞品を与える
  • 酒豪自慢の上司が部下に「俺と勝負しろ」と言って大量の酒を一気に飲ませる
  • サークルの新歓コンパで新入生全員にビールジョッキでの一気飲みを強制する

③意図的な酔いつぶし

  • 新入社員を歓迎するという名目で、意図的に泥酔させるような飲み会を開く
  • 飲み会の二次会で、既に酔っている人に対しさらに酒を勧める
  • 「つぶれるまで帰れない」と宣言し、参加者全員を酔いつぶすまで飲ませ続ける
  • あらかじめ吐き袋や介抱する人を用意して、酔いつぶすことを前提とした飲み会を企画する

④飲めない人への配慮不足

  • アルコールが苦手な人に「少しくらい大丈夫だろう」と無理に勧める
  • 飲み会でノンアルコール飲料を用意せず、全員に酒を注ぐ
  • 「お酒が飲めない人は付き合いが悪い」と批判する

⑤酔ったうえでの迷惑行為

  • 酔った勢いで同僚や部下に暴言を吐いたりセクハラ発言をしたりする
  • 泥酔して店の備品を壊したり、他の客に絡んだりする
  • 酔って大声で歌い、周囲に迷惑をかける

アルコールハラスメントの法的責任と罰則

アルコールハラスメントを直接罰する法律はありません。しかし、行為者や企業には民事・刑事責任が問われる可能性があります。

行為者の法的責任

アルコールハラスメントによって被害者が身体的・精神的な被害を受けた場合、加害者は民法709条に基づく損害賠償責任を負うことがあります。特に重大な健康被害や死亡事例では、高額の賠償金を求められる可能性があります。

さらに、アルハラの行為によっては、以下のような刑事罰に該当する場合があります。

【アルコールハラスメントに関連する主な刑事罰】

罪名 内容
強要罪 脅迫して飲酒を強要する行為
傷害罪 飲酒強要による急性アルコール中毒や、酔った勢いでの暴力による傷害
傷害致死罪 飲酒強要により被害者が死亡した場合
保護責任者遺棄等罪 泥酔者を適切に介抱せず放置し、死亡させた場合
現場助勢罪 一気飲みや早飲みをはやし立てるなど、アルコールハラスメントの現場で加勢した場合

アルコールハラスメントに関連する刑事罰は、行為の態様や結果の重大性に応じて多岐にわたります。特に注目すべきは、直接的な加害行為だけでなく、現場での助勢や適切な介抱を怠ることも罪に問われる可能性があるという点です。

企業の法的責任

職場におけるアルコールハラスメントの場合、行為者だけでなく、企業も法的責任に負うことがあります。主なものとして、次の2つが挙げられます。

①安全配慮義務違反

企業には、従業員の安全を確保する義務があります。アルコールハラスメントが発生した場合、この義務を怠ったとして、労働契約法5条に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。

②使用者責任

業務の一環としてアルコールハラスメントが発生した場合、企業は民法715条1項に基づく使用者責任を負うことがあります。ただし、企業が従業員の監督について相当の注意を払ったことを証明できれば、免責されることもあります。

アルコールハラスメントの過去事例

アルコールハラスメントに関連する過去の判例として、2つの重要な事例をご紹介しましょう。

事例1:ホストクラブでの急性アルコール中毒死亡事件

2012年8月、大阪のホストクラブで21歳の男性ホストが急性アルコール中毒で死亡した事件で、遺族が労災認定を求めた裁判がありました。大阪地方裁判所は業務起因性を認め、労災保険給付の不支給処分を取り消す判決を下しました。

【主な判断のポイント】

  • ホストクラブでの飲酒が業務の一環だったこと
  • 事故が業務中に起きたと認められること
  • 仕事に伴う危険が実際に事故につながったと判断できること

この判決は、ホスト業界における過度の飲酒強要が、労働災害として認定され得るという重要な判例となりました。

事例2:大学テニスサークルでの飲酒死亡事件

平成29年12月、ある大学の非公認テニスサークルの飲み会で2年生の学生が大量飲酒により急性アルコール中毒となり、翌日死亡するという事件が発生しました。

【主な判断のポイント】

  • ビールの一気飲みを複数回強要
  • ウォッカをショットグラス20杯以上分、強制的に飲ませる
  • 集団によるはやし立てがあった
  • 被害者が意識不明となった後も適切な救護措置を取らなかった

この事件においては、飲み会参加者の一部に刑事責任が問われ、被害者の遺族が民事訴訟を提起しました。大阪地方裁判所は、被告らに対して連帯して損害賠償金を支払うよう命じる判決を下しました。

この判例からは、アルコールハラスメントが単なる悪ふざけではなく、生命に関わる重大な問題であることが明確に示されています。特に、集団での飲酒の強要や、適切な救護措置を怠ることの危険性が浮き彫りになりました。

アルコールハラスメントの企業リスク

アルコールハラスメントは、企業に様々なリスクをもたらします。主なものとして、従業員の健康被害や生産性低下、法的責任リスク、企業イメージの低下などが挙げられます。

以下、3つの企業リスクについて詳しく見ていきましょう。

従業員の健康被害と生産性の低下

アルコールハラスメントは、従業員の健康に多大な悪影響を及ぼします。急性アルコール中毒などの身体的ダメージだけでなく、強要によるストレスや精神的苦痛も深刻な問題となっています。

被害を受けた従業員の休職や退職から職場の環境が悪化し、他の従業員のモチベーション低下、離職率の上昇にもつながりかねません。結果として、組織全体の生産性や業績に大きな影響を与える恐れがあります。

法的責任リスク

先述した通り、アルコールハラスメントが原因で従業員が被害を受けた場合、企業は法的責任を問われる可能性があります。損害賠償責任や使用者責任が発生し、多額の賠償金支払いを命じられる恐れがあります。また、労働基準監督署からの是正勧告や刑事責任を問われることもあり、企業の信用や経営に深刻な影響を与えかねません。

企業イメージの低下

職場のアルコールハラスメントが事件として公になった場合、企業イメージは大きく損なわれます。「従業員を大切にしない、時代遅れの企業」のようなネガティブなイメージが形成され、社会的信用を失うでしょう。これにより、顧客や取引先との関係が悪化し、優秀な人材確保が難しくなることも考えられます。

アルコールハラスメントの防止対策

アルコールハラスメントを防止するには、組織全体での継続的な取り組みが必須です。最後に、企業が講じるべきアルコールハラスメント防止策について確認します。

明確なルール作りと周知

まず、企業は飲酒に関する明確なルールを策定し、全従業員に周知することが重要です。例えば、以下のような項目を含めるとよいでしょう。

  • 飲酒の強要禁止
  • 一気飲みの禁止
  • 任意参加の原則
  • ノンアルコール飲料提供などお酒が飲めない人への配慮
  • 飲み会における周囲の保護責任

これらのルールを就業規則に明記し、定期的に周知することで、社員全員のアルコールハラスメントに対する意識を高められます。特定非営利活動法人ASKが提案する「アルハラ防止ガイドライン」を参考に、自社独自のガイドラインを作成しましょう。

参考:特定非営利活動法人ASKホームページ

従業員教育の実施

アルコールハラスメントの防止には、定期的な従業員教育が欠かせません。全社員向けに、アルハラの定義、具体例、法的リスク、そして防止策について学ぶ機会を設けましょう。研修では実践的に学べるロールプレイングやケーススタディを取り入れると効果的です。

相談窓口の設置

アルハラ、また他の職場ハラスメントの早期発見・対応に向けて、社内に相談窓口を設置しましょう。人事部門と連携し、相談者のプライバシーを守りつつ、公正かつ迅速に問題に対処できる体制を整えることが重要です。

外部委託による相談窓口の設置も、中立性と専門性を確保するうえで有効な選択肢の1つです。

飲み会文化の見直し

企業は、従来の飲み会文化を見直し、アルコールに依存しない交流も検討すべきでしょう。

例えば、ノンアルコールの食事会やスポーツ・文化活動などのイベントを通じて、社内コミュニケーションを促進することも可能です。飲み会を実施する際には自由参加とし、飲酒を強要しない雰囲気づくりが求められます。