在宅勤務とは?意味、テレワークとの違い、導入メリットと大企業事例



在宅勤務とは、読んで字の如く「在宅で仕事をする」ことを意味します。在宅勤務は従業員のワーク・ライフ・バランスを実現する重要な手段となりましたが、「なかなか続けられない」という企業も多いようです。
本コラムでは、在宅勤務の意味や目的、導入のメリット・デメリット、適した仕事内容やポイント、大企業における導入事例などをわかりやすく解説します。働きやすい環境づくりに、ぜひお役立てください。
在宅勤務とは?意味・定義とテレワーク・在宅ワークとの違い
在宅勤務の意味は、「自宅で仕事をすること」。2020年からの新型コロナウイルス感染症流行により、働き方の1つとして一気に普及しました。
在宅勤務とはどのような働き方なのか、その意味・定義やテレワークとの違い、在宅ワークとの違いなどをまずは確認していきましょう。
在宅勤務の意味・定義、普及した背景
在宅勤務とは、オフィスに出社せず自宅を就業場所とする働き方のことです。1日の業務全てを自宅で行う場合もあれば、勤務時間の一部のみを在宅勤務とする場合もあります。
厚生労働省や総務省による定義でも、業務を「労働者の自宅で行う」こととしています。
在宅勤務が急速に拡大した背景として、2020年からの感染症拡大を思い出す人は多いでしょう。デスクワークを中心とする職種では「ほぼ毎日在宅勤務だった」というビジネスパーソンも珍しくありません。
そもそも在宅勤務が推進されるようになった背景には、1980年代に日本電気株式会社がテレワーク制度を導入した理由でもある育児・介護と仕事の両立や、2020年の東京オリンピック開催に伴う混雑緩和があります。同時に、少子高齢化に伴う人材不足もありました。
しかし、日本企業での在宅勤務導入はなかなか進まず、一気に施策が広がったのは2020年からのコロナ禍でした。
従業員の健康と安全を守るためにやむを得ず導入したという企業もあれば、在宅勤務のメリットを意識して導入した企業もあります。具体的なメリットは後述しますが、業務を自宅で行うことで通勤の負担がなくなり、これまで雇用できなかった人材を雇用しやすくなったという点が大きなところでしょう。
*参考:厚生労働省|テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン
在宅勤務は自宅以外で仕事をしてもいいのか?
在宅勤務の意味や定義を見ると、「在宅勤務で仕事ができるのは家だけなのだろうか?」と疑問に感じる方もいるかもしれません。カフェやコワーキングスペースで働くことは在宅勤務として認められるのかどうか、という疑問です。
これに対して簡単に答えれば、「企業のルールによる」となります。定義上は「在宅で」となりますが、企業があまり就業場所にこだわらず、カフェやコワーキングスペースでの業務も認めているのであれば、そうした自宅以外の場所でも問題ありません。
テレワークとの違い
在宅勤務と比較されやすい言葉に、「テレワーク」があります。総務省や厚生労働省によれば、テレワークとは、ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を問わず業務を行う就業形態の総称です。
テレワークと在宅勤務との違いは、そこに含まれる働き方の範囲。テレワークの範囲は在宅勤務よりも広く、在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務を含む概念となっています。観光地などの施設で休暇を楽しみながら働くワーケーションも、テレワークの一形態です。
【テレワークと在宅勤務の関係】
大分類 | 小分類 | 意味 |
---|---|---|
テレワーク | 在宅勤務 | 労働者の自宅で仕事をすること |
サテライトオフィス勤務 | 本来のオフィス以外のオフィス(サテライトオフィス・コワーキングスペースなど)で仕事をすること | |
モバイルワーク | 移動中なども含めて、時間・場所を問わず仕事をすること | |
ワーケーション | 観光地や宿泊地などで余暇を楽しみながら仕事をすること |
つまり、「テレワークに含まれる働き方の種類の1つとして、在宅勤務がある」ということです。
リモートワークとの違い
もう一つ、「リモートワーク」という言葉をご存じの方もいるでしょう。実のところ、リモートワークには明確な定義がなく、「オフィス以外の場所で仕事をする」程度の意味でしかありません。言葉としては、「テレワーク」のほうが頻繁に用いられます。
総務省や厚生労働省がテレワークの特徴にICT活用を含めている点と比較すれば、“ICT活用を前提としない遠隔地での就業も含む概念がテレワークである”といってもよいかもしれません。とはいえ、明確な線引きがあるわけでもないため、ほぼ同義語と考えてよさそうです。
在宅ワークとの違い
在宅勤務と「在宅ワーク」の違いも意識しておくと便利です。
まず、在宅勤務と在宅ワークの共通点は、「自宅で仕事をすること」。仕事の内容や成果物をインターネットでやり取りする点も同じといえるでしょう。
両者の違いは、企業に雇用されて実施するか否かです。在宅勤務では、企業と雇用契約を締結した労働者が自宅で仕事をしますが、在宅ワークでは原則として個人事業主が雇用されずに(業務委託などで)自宅で仕事を行います。
なお、厚生労働省では在宅ワークという言葉の代わりに「自営型テレワーク」という用語を用いています。
在宅勤務・テレワーク導入企業の割合と推移
在宅勤務を含むテレワークの普及状況に関する行政機関の調査は複数ありますが、その中で代表的な統計の1つが、総務省による「通信利用動向調査」です。同調査は過程や企業における情報通信ネットワークの構築状況や情報通信サービスの利用動向を把握し、政策に活用するための基礎資料となっています。
企業について調査する「企業編」の令和5年調査では、常時100人以上の労働者を雇用する企業を対象に、2,000社以上からの有効回答を得ました。
同調査によれば、テレワークを導入する企業は、49.9%。導入企業が多い産業は、1位から順に情報通信業(93.2%)、金融・保険業(81.2%)、不動産業(69.9%)となっています。反対に、導入企業が少ない産業は、運輸業・郵便業(35.7%)、サービス業・その他(42.3%)、卸売・小売業(47.5%)でした。
企業規模で見ると、大企業ほどテレワークの導入率が高くなり、従業員2,000人以上の企業では9割が導入している一方で、100人〜299人の企業では4割強の導入率に留まりました。
【企業におけるテレワーク導入率(2024年)】
項目 | 企業の割合 | 前年との比較 |
---|---|---|
「導入している」 | 49.9% | 1.8pt低下(前年51.7%) |
「今後導入予定がある」 | 3.0% | 0.5pt低下(前年3.5%) |
【導入企業が多い産業(2024年)】
順位 | 産業 | 割合 |
---|---|---|
1位 | 情報通信業 | 93.2% |
2位 | 金融・保険業 | 81.2% |
3位 | 不動産業 | 69.9% |
テレワーク導入率の推移を見ると、2020年に一気に拡大しています。その後はやや減少傾向にあるもののコロナ禍以前よりも高い水準に落ち着いている状態。2019年以前に「導入している」と回答した企業の割合は約2割以下でしたが、2020年以降は5割前後にまで増加しました。
テレワークの導入形態としては、9割が「在宅勤務」を選択しているとのことです。
在宅勤務(テレワーク・リモートワーク)の5つのメリット
多様な働き方を実現するために推奨されてきた在宅勤務。そのメリットは、対象となる従業員だけでなく、企業にもあります。主なメリットは次の5つです。
- (1)生産性・業務効率が向上する
- (2)コスト削減につながる
- (3)優秀な人材を確保しやすい
- (4)災害時など出社が困難な状況でも事業を継続できる
- (5)育児・介護と仕事の両立がしやすくなる
それぞれのメリットを詳しく見ていきましょう。
(1)生産性・業務効率が向上する
在宅勤務の1つめのメリットは、通勤時間が削減されることです。通勤時間がなくなれば、体力の消耗を大きく軽減できるでしょう。さらに、自宅で業務を進められるため、周囲の物音や雑談による業務の中断も少なくなります。
出社の負担軽減と社員それぞれに合った作業環境の確保が容易になれば、集中して仕事を進めやすくなります。自分のペースで働く環境を構築することは、時間の効果的な活用につながり、生産性や業務効率にも寄与するでしょう。
(2)コスト削減につながる
従来の出社を前提とした働き方では、社員が使う座席を確保しなければなりません。しかし、在宅勤務を導入してオフィスに滞在する人数を減らせば、全員分の座席を常に確保する必要がなくなります。
これらは会社で購入・管理する什器の削減、オフィスとして必要なスペースの削減につながり、維持管理費や家賃などのコストカットに。実際、多くの従業員を在宅勤務に切り替え、オフィスの面積を縮小した企業が複数見られます。また、毎日発生していた出社・退社がなくなることで、交通費も削減できます。
次の項目で述べるように出社が難しい人材も働きやすくなりますので、離職率の低下と採用コスト削減にもなるでしょう。
(3)優秀な人材を確保しやすい
3つめのメリットは、優秀な人材の採用、雇用維持に適していることです。
在宅勤務は、これまで必須とされてきた出社を軽減した柔軟な働き方。通勤の負担がかからないことで、例えば
- 育児・介護など家庭の事情で出社が難しい人材
- 病気・ケガや感覚過敏などで出社時の混雑に耐えられない人材
- 遠隔地の人材
などが働き続けやすくなります。
労働時間短縮制度やフレックスタイム制、時間単位の年休などと組み合わせれば、さらに多様な働き方が実現可能です。
求職者にとっても、働きやすい制度をもつ企業の求人は魅力的。深刻な人材不足が叫ばれる今、優秀な人材の確保に向けた施策として、在宅勤務は重要な選択肢の1つなのです。
(4)災害時など出社が困難な状況でも事業を継続できる
在宅勤務の4つめのメリットは、災害時などの緊急事態における事業継続です。
地震や大雨、感染症の流行期など、社屋が被害にあったり交通機関が使えなかったり、あるいは出社すること自体が従業員の安全上のリスクにつながったりする場合、オフィスでしか働けない会社では、業務を進められません。
これに対し、在宅勤務が可能な企業では、オフィス以外で業務を進める設備や制度が整っています。そのため、オフィスに被害が出ても在宅勤務に対応した業務を続けられます。感染症拡大期で人混みを避ける必要がある場合でも、従業員は安心して自宅で作業できるでしょう。
不測の事態に備えて事業の継続性を高めることは、変化の激しい社会における柔軟な対応力や安定性強化につながるということです。
(5)育児・介護と仕事の両立がしやすくなる
そして、5つめのメリットが育児・介護と仕事の両立をしやすくなることです。これは、3つめのメリットにあった採用活動における利点になるだけでなく、既に働いている従業員にとってもメリットが大きいということです。
育児や介護の必要が生じた場合、柔軟性の低い職場では退職を余儀なくされる人々がいます。休職・休暇制度を活用する場合でも、「その間の仕事を誰が代替するのか」という問題に頭を抱えるケースがあるでしょう。
在宅勤務では、そうした悩みの回避・軽減が可能です。通勤に使っていた時間を仕事や育児・介護に充てられますし、子どもや介護を要する家族を見守りながら業務を進めることもできるからです。
始業・終業時刻を柔軟に設定できるタイムフレックス制や、勤務時間を短くする短時間勤務制度と併せて、育児・介護と仕事の両立をより効果的にサポートできるでしょう。
在宅勤務の4つのデメリット・注意点と対策方法
在宅勤務のデメリットは、仕事に必要なデータが社外に持ち出されること、対面でのコミュニケーションやマネジメントが難しいことに起因します。いずれも重大なトラブルに発展する可能性があるため、事前対策が不可欠です。
(1)セキュリティリスクが生じる
1つめのデメリット・注意点は、セキュリティリスクが生じることです。
在宅勤務を導入するにはPCや記録媒体の持ち出しが必要ですが、これは機密情報を社外で閲覧・編集することを意味します。従業員へのセキュリティ教育を徹底しなければ、情報漏洩のリスクが高まるでしょう。
また、セキュリティ対策として導入しているVPN機器のID・パスワード流出にも注意が必要です。日本でテレワークが一気に拡大した2020年には、端末やソフトウェアの脆弱性を悪用したID・パスワードの流出が世界規模で発生。日本でも40社近くの企業などが不正アクセスの被害を受けました。
脆弱性管理について、総務省の「テレワークセキュリティガイドライン第5版(令和3年5月)」では、
- VPN機器、リモートデスクトップアプリケーションなどの最新アップデート、パッチ適用を定期的に行うこと
- テレワークで使う端末やソフトウェアには、メーカーサポートが終了しているものを使わないこと
としています。
(2)労働時間を把握しにくい
2つめは、従業員の労働時間を把握しにくいことです。出退勤の記録に関して従来の方法が使えないだけでなく、従業員の目の前に立って「やってください」と言えるわけでもないため、労働時間の管理や記録自体が従業員任せになるという側面があるからです。
こうした状況から発生するのが、勤務時間中の“サボり”や、記録を付けないまま働き続ける無断残業でしょう。生産性低下や長時間労働による体調不良を引き起こしかねない状況は、従業員個人の努力だけでなく、システム面の整備によっても軽減・回避しなければなりません。
在宅勤務での労働時間の把握に当たって欠かせない施策は、
- 休憩時間・労働時間に関する明確なルールの設定(中抜けや残業など)
- 在宅勤務用の勤怠管理システムの活用
などがあります。
ほかに、厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」では、
- パソコンの使用時間の記録などによる始業・終業時刻の確認
- 情報通信機器やサテライトオフィスの利用時間と従業員の労働時間が一致している場合は、利用開始時刻・終了時刻の照合、確認
- 自己申告制をとる場合は、パソコンの使用状況など客観的な事実との照合(著しい乖離がないかどうかの確認)
なども施策例として挙げられています。
従業員から管理職への定期的な報告、朝礼や終礼での業務報告なども上手に使いつつ、適正な労働時間の把握につなげましょう。
*参考:厚生労働省|テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン
(3)労働環境の変化で体調不良になる場合がある
3つめは、既に在宅勤務を導入・運用している組織やメンバーから実際に聞かれる「運動不足になる」という点です。これらの課題を放置すると従業員の健康問題に発展しかねません。
在宅勤務で体調不良になる典型的な要因は、仕事のオン・オフのメリハリをうまくつけられないことです。長時間同じ姿勢で仕事を続ければ、肩こり・腰痛・足のむくみ・頭痛などが発生しやすくなるでしょう。
通勤があれば、自宅から駅や駐車場への移動で一定の距離を歩きますし、社内でも他のメンバーや部署への移動が発生します。ところが、在宅勤務では通勤にかかる運動がなくなり、仕事中の移動も主に自宅内。1日の運動量が半減した生活になっていても不思議ではありません。
企業側ができる対策としては、福利厚生でスポーツジムの割引利用を可能にしたり、いつでも参照できる体操やストレッチの動画を従業員に共有したりすることです。ほかに、レクリエーションやスポーツ大会といった体を動かす社内イベントを企画・開催することも有効でしょう。
(4)人材育成で在宅勤務独自の工夫が必要になる
在宅勤務の4つめのデメリット・注意点は、従来の人材育成方法では、在宅勤務の育成対象者を十分に育てられないことです。
例えば、オフィス内でのOJTでは、指導者が、実際に扱うファイルの場所や作業する項目、手順を示しながら説明することができます。育成対象者の姿を見ていれば、その手元や視線の動きで仕事の理解度を推測することも可能でしょう。
しかし、在宅勤務でのOJTでは、指導者が育成対象者の姿を見られません。指導も相談・報告も、多くの状況ではテキストコミュニケーションで行われます。テキストコミュニケーションの難点は、「相手がどう感じているか」を認識しにくいことです。
こうした問題に対応するには、育成対象者のスキルレベルを定期的に確認しながら、OJTのゴールを設定することが重要です。ALL DIFFERENTでご提供するOJT研修では、具体的なゴール設定の手法、任せる業務の量と質の選び方、在宅勤務中の育成対象者の状態に応じたコミュニケーション方法などをお伝えしています。
在宅勤務(テレワーク・リモートワーク)でできる仕事内容
在宅勤務やその他のテレワークでできる仕事内容の代表的な例は、デスクワークです。具体的な職種に関しては、国土交通省による「テレワーク人口実態調査」が参考になります。
同調査でテレワークが多かった職種TOP3は以下の通りです。
【国交省調査によるテレワークが多かった職種TO3(令和5年度)】
順位 | 職種 | 割合 |
---|---|---|
1位 | 研究職 | 64.3% |
2位 | 管理職 | 49.2% |
3位 | 専門・技術職 | 48.6% |
営業職(44.3%)、事務職(30.0%)も比較的大きな割合を占めました。
さらに仕事内容についてテレワークの様々な事例を見ると、特に次のような業務でテレワークを実施しやすいようです。
【テレワーク事例で見られる仕事内容の例】
分野 | 仕事内容の例 |
---|---|
営業 |
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マーケティング |
|
ITエンジニアリング |
|
クリエイティブ |
|
サポート |
|
事務・その他 |
|
とはいえ、こうした仕事であっても、機密性の高い情報を扱う仕事や迅速で深いコミュニケーションが求められる業務では出社や対面で進めるほうがよい場合もありますし、同じ業務でも従業員によって在宅勤務の向き不向きがあります。上の表は、あくまで参考としてご活用ください。
*参考:国土交通省|テレワーカーの割合は減少、出社と組み合わせるハイブリットワークが拡大~令和5年度のテレワーク人口実態調査結果を公表します~
在宅勤務(テレワーク・リモートワーク)の導入方法
自社の業務で在宅勤務に適した仕事内容がある場合は、従業員の希望をヒアリングしながら整備・導入を進めましょう。在宅勤務のリスクを抑えながらメリットを最大化するための5つのステップをご紹介します。
(1)導入目的と方針を明確にし、従業員に周知する
最初のステップは、在宅勤務制度の導入目的の明確化と全体の方針の決定です。
例えば、在宅勤務を導入する目的には以下のようなものがあります。
- 働き方改革の推進(ライフステージやライフスタイルに応じた働き方の選択など)
- 業務効率・生産性の向上(通勤の負担軽減など)
- コストの削減(家賃、交通費など)
- 人材確保(育児・介護中の人材、遠隔地の人材、出社困難な人材など)
自社の課題やミッション・ビジョンと在宅勤務のメリットを照らし合わせながら、全体の方針の基盤を作りましょう。
全体の方針では、在宅勤務対象者の範囲、在宅勤務を適用する期間や可能日数も検討します。現場で働く従業員の声を反映すると、より活用しやすい制度の設計が可能です。導入目的を伝えながら、働き方にどのような課題・困りごとがあるのか、在宅勤務を望む従業員がどの部署にどのくらいいるのかを確認しましょう。
在宅勤務の目的・方針を決定したあとは、従業員に周知することも忘れてはいけません。何も知らされないまま在宅勤務制度が始まると、現場は突然の変化に混乱してしまいます。反対に、事前の周知を徹底すれば、在宅勤務での業務の割り振りや連絡方法といった導入後の働き方を検討し、現場のルール設定をスムーズに進められるでしょう。
(2)導入計画を立てて環境整備を進める
ステップ2は、具体的な導入計画の立案です。一般的に、導入までのステップは以下のような流れになります。
- 在宅勤務制度の構築、現場で適用するルールの検討・設定
- テレワーク環境の構築に必要な備品の選定、システムの構築
- 在宅勤務に関するセミナーや研修の開催(労務管理、マネジメント、報連相、面談など)
- 在宅勤務の試験的実施を行う部署の選定と実施手順の決定
- 試験結果の分析と施策改善
- 全社的導入に向けた計画策定
在宅勤務に必要な備品で多くの企業が従業員に貸与しているものは、ノートパソコンとマウス、ヘッドセットです。福利厚生では、高速インターネット回線の契約やオフィスチェア購入などの環境整備に使える在宅勤務手当の支給を行うケースも見られます。
在宅勤務の導入検討で大切なポイントには、「出社しないとできない業務はやり方を見直す」こともあります。例えば、不必要な押印や署名を廃止したり、書類のペーパーレス化などに取り組んだりといった施策があります。
出社をなくすと業務自体が止まってしまうような業務は削減困難ですが、業務の本質に関わらない部分では、在宅勤務でも進められるような仕組みを構築していきましょう。
在宅勤務制度に関するルールが決まったら、就業規則にも記載しておくと、その後のトラブル防止や解決につながります。
(3)小規模で試験的に導入を始める
在宅勤務を試験的に実施する部署の選定と環境を整えたら、実際に自社での在宅勤務を試してみましょう。
このとき大切なのは、いきなり全社展開しないこと。小規模から始めれば、万が一トラブルが発生してもダメージを小さくできます。対応も小規模で済みますので、迅速な検証と改善を行いやすいでしょう。
試験運用に参加する従業員には、定期的にヒアリングも行ってください。実際に在宅勤務で働く立場としての利点や不都合な点を聞き取り、今後の全社的な運用に活かすためです。
在宅勤務での生産性、労務管理の状況、マネジメントの成否など、適正なデータを取るために必要な試験期間は、3~6か月ほどです。
(4)試験運用で見つかった改善点を洗い出す
試験運用期間終了後は、改めて従業員へのアンケートや聞き取りを行い、具体的な改善点がないかをチェックします。これがステップ4です。
- 在宅勤務でできた業務、できなかった業務は何か
- できなかった業務を在宅勤務でもできるようにする方法はあるか
- コミュニケーションにおける課題は何か
など、多角的に分析しましょう。
もし大きな改善点が見つかった場合は、制度設計やルール自体を見直す必要があるかもしれません。権限の変更、ツールの新規導入や変更など、より働きやすい環境整備へつなげてください。
こうした試験運用と改善を繰り返すことで、より実態に合った制度にブラッシュアップできます。一定の成果を得られたら、本格的な導入に向けて準備を進めましょう。
(5)改善策を盛り込み運用を開始する
ステップ5は、いよいよ全社的な導入の準備です。
ルール設定で特に重要なことは、就業規則やセキュリティに関するルールの再設定。在宅勤務に関するルールを労使の協議で決定し、就業規則に明記してください。その後、改めて在宅勤務制度の導入目的とルールを全従業員に伝えましょう。
また、在宅勤務は利用者が増えるほど、多様な課題が発生します。試験運用中は生じなかったトラブルが発生するかもしれませんし、社会状況の変化によって新たな対応が求められるかもしれません。「導入したら終わり」とせずに、定期的なヒアリングと見直しを行ってください。
在宅勤務・テレワークの大企業事例
最後に、これまで多方面から評価されてきた在宅勤務の取り組みから、代表的な事例として、カルビー株式会社、日産自動車株式会社、NTTグループの取り組みを見ていきましょう。実際の事例からは、在宅勤務・テレワークの成功に向けた多くのヒントを得られます。
カルビー株式会社の事例
カルビー株式会社は、1991年からフレックスタイム制を導入するなど、長年働き方改革を推進してきました。2014年には週2回までの利用を可能とする「在宅勤務制度」を導入。2017年には「モバイルワーク制度」として場所や日数の制限を撤廃。2020年からは「Calbee New Workstyle」という新しい取り組みを始めています。
「Calbee New Workstyle」では、勤務場所を自宅だけでなくカフェなどでも可能とし、モバイルワークを標準化しました。生産性や創造性を高めることを目的とした、主体的に勤務場所を選べるシステムです。さらに、コアタイムなしのフレックスタイム制も導入し、場所だけでなく時間も自分で選べるようになっています。
こうした働き方改革の成功の鍵は、「圧倒的当事者意識」の醸成です。従来のやり方やコミュニケーションを見直すため、ITツールの拡充・整備やITスキル向上を重視するとともに、職場や個人が生産性向上に成功した事例などを共有しています。
*参考:THE CALBEE|「働きやすい」だけでなく「働きがい&やりがい」の実現へ! ~「Calbee New Workstyle」の挑戦~
日産自動車株式会社の事例
日産自動車株式会社では2015年から多様な働き方に力を入れ、「Happy8」プログラムを実施してきました。これは、1日8時間勤務を意識した働き方です。仕事への意欲や貢献度向上、生産性向上などの仕事面の意識改革を図るとともに、従業員自身の健康や管理職のワークライフマネジメントを重視するものです。
在宅勤務制度自体は、2006年に導入済み。ただ、当時の対象者は育児・介護両立社員に限られていました。2010年以降は対象を全従業員に拡大するとともに、利用時間や場所の柔軟性も高めています。
2020年になると、自宅・実家以外の公共の場所でも勤務可能となり、2021年には時間における利用制限を撤廃。コアタイムなしのスーパーフレックスタイム制、半休制度と組み合わせることで、それぞれのライフステージや状況に応じた柔軟な働き方を可能としました。
社内にはリモートワーク推進のための専用サイトも立ち上げ、好事例やノウハウを共有。チームの業務分析・可視化も定期的に実施するなど、多角的な取り組みが生産性やマネジメント力の向上につながっています。
*参考:NISSAN Recruiting Site|働く環境 多様な働き方
日本電信電話株式会社(NTTグループ)の事例
NTTグループは、2022年7月にリモートワークを標準とする「リモートスタンダード制度」を導入しました。
導入の大きな目的は、健康経営のために従業員の「住む場所」をより自由にすること。2022年7月以前もリモートワーク制度やリモートワーク手当などの働き方改革を推進してきましたが、コロナ禍以降でも従業員が日本全国どこでも転勤や単身赴任のない働き方をできるようにするという狙いです。
導入の範囲は、国内の主要グループ会社の全社員区分。その中で、リモートワークを標準とする働き方でも支障がない組織を「リモートスタンダート組織」と定義し、当該組織の社員を対象に在宅勤務と出社のハイブリッドワークを可能としています。
2024年7月の活用実績は、NTTで58.1%、NTT東日本で60.4%、NTT西日本で42.1%など、いずれも4割以上の割合。NTTコミュニケーションズにいたっては、74.3%が在宅勤務を実施しています。サテライトオフィス勤務の従業員を含めれば、リモートワーク率はより大きな割合になります。
NTTグループは、リモートスタンダート制度の運用において、社員のメンタルヘルスにも配慮してきました。定期的に健康状態を確認するとともに、不調や困りごとを感じた際の相談窓口の設置、管理職や一般社員へのリモートワーク活用研修なども実施しています。
在宅勤務導入に向けて、管理職のメンタルヘルス研修を
適切な制度設計と運用ができればメリットが多い在宅勤務制度。家庭生活との両立、優秀な人材の確保や離職率低下、生産性向上などを実感し、「出社しか選択肢がない働き方はつらい」というビジネスパーソンも多いでしょう。
ただ、全ての従業員がそのように感じるとは限りません。
「自宅で一人で仕事をするのは寂しい」
「チャットで他のメンバーが仲良く話していて、疎外感がある」
という悩みや苦しさを感じているメンバーもいるかもしれないからです。
在宅勤務が適用される部署の管理職には、メンバーのメンタルヘルス対策が求められます。在宅勤務につきまとう孤独感の防止、精神的な悩みを伝えられた際の適切な対応などを事前に学んでおきましょう。
ALL DIFFERENTでは、在宅勤務も含めて管理職が知っておきたいメンタルヘルス対策を具体的にお伝えしています。ご自身のセルフケアやラインケア、部下への声かけの方法などもご紹介していますので、ぜひ施策にお役立てください。