ブレイクスルーとは|ビジネスに役立つ思考と実践方法や事例

published公開日:2024.03.28
目次

ブレイクスルーとは多方面からのアプローチによって現状を打破することを指します。課題に直面している際に、新しい展開をもたらす可能性があるものです。

本コラムでは、その種類やビジネスに役立つブレイクスルー思考を踏まえて、実践方法や事例をご紹介します。

ブレイクスルーとは

ブレイクスルーとは、「困難や障害を突破すること」「突破口」などの意味を持つ言葉です。元は英語の「breakthrough」で、「ブレークスルー」と表記することもあり、科学、医療、スポーツなど、さまざまな分野で使われます。

ビジネスにおけるブレイクスルーとは

ビジネスシーンにおけるブレイクスルーは、「突破口を見つけて停滞していた状況から抜け出す」「困難な状況を打破し前進する」などの意味で使われます。これまでの仕組みや常識的な思考から抜け出し、別方向からアプローチすることなどにより、本質的に課題を解決することや、その解決策を指します。

ブレイクスルーとイノベーションの違い

イノベーションは「革新」という意味を持ち、技術の変化だけでなく、新しい市場の発見や製品の開発なども含みます。「革新的な変化」を意味するブレイクスルーは、イノベーションの一種であり、その類語ともいえるでしょう。

ブレイクスルーの4つの種類

ブレイクスルーは、段階に応じて4つのタイプに分類されます。ここでは、タイプ0から3まで、すべての特徴を見ていきましょう。

タイプ0

タイプ0は、既にある技術を活用し、改良や改善を重ねて商品を開発することです。それまでの常識やルール(パラダイム)の延長線上にあることから、「パラダイム持続型イノベーション」と呼ばれます。

問題を根本から解決するブレイクスルーには至らないと考えられることから、タイプ0と呼ばれています。タイプ0をブレイクスルーと見なすか否かで、ブレイクスルーの種類を3つとする場合もあります。

タイプ1

タイプ1は、既存の技術や研究をさらに深く掘り下げ、革新的なアプローチを見出すことです。新しいアイデアを生み出し、製品やサービスとして形にします。

これは「知の創造」と「知の具現化」の2つの思考から成り立っています。「知の創造」とは誰も知らないことを見出す「研究」であり、「知の具現化」はその「知」を社会的に価値のあるものに仕上げる「開発」です。既存の技術を向上させるだけでなく、新しいアイデアを探求することで、他にはない新しい技術や製品が生まれます。このプロセスは、「パラダイム破壊型イノベーション」とも呼ばれます。

タイプ1の有名な事例として、青色LEDの開発があります。実現不可能といわれていた青色LEDは、研究中の偶発的な反応をきっかけに生まれたのです。

タイプ2

タイプ2は既存の商品や技術に対し、再度、徹底的に検証し、新たな価値や優位性を見つけ出す方法です。改善や開発を進めるだけでなく、新たな視点から可能性を探します。

タイプ3:タイプ1+タイプ2

タイプ3は、タイプ1とタイプ2を組み合わせた方法です。既存の研究を追求すると同時に、新たな価値創造を平行して行います。

例として、蒸気機関の発明があります。フランスのドゥニ・パパンは「熱エネルギーを力学的エネルギーに変換する」という研究と、「気体は膨張と圧縮をする」という研究を進め、シリンダー式の蒸気機関を発明しました。異なる分野の知識と経験が交流し、重要な役割を果たしたのです。

このように、多角的なアイデアの交差が、新しい革新を生み出すことがあります。

ブレイクスルー思考とは

ブレイクスルー思考は、目的を問うことで、課題の根本や本質に迫る考え方です。南カリフォルニア大学・名誉教授のジェラルド・ナドラー氏や中京大学・名誉教授の日比野省三氏によって提唱されました。

通常の問題解決手法は、現在や過去の状況を把握し、原因を分析して、解決策を見つけます。しかし、ブレイクスルー思考では、過去や現在の状況にとらわれず、目的となる未来に視点を置き、それを実現するための方法を模索します。

ブレイクスルー思考を活用するためには、「非凡ブレイクスルー思考」と呼ばれる、3つの基礎原理と4つのフェーズの把握が有用です。

ブレイクスルー思考の3つの基礎原理

最初に、ブレイクスルー思考を構成する3つの基礎原理をご紹介します。

  • 1. 目的情報:目的達成のために必要な情報を指します。多くの情報を集めることは重要ではなく、収集する情報は必要最小限とすることが推奨されています。
  • 2. ユニーク(unique):「ユニーク」という言葉には「特異な」「特徴的な」「既存には当てはまらない」といった意味がありますが、ブレイクスルー思考では「万物にはユニークな差がある」という考えがあり、既存の概念から自由になり、独自の視点やアプローチを採用することが重要です。これは、類似事例から解決策を探るのには限界があることを意味しています。
  • 3. システム:ブレイクスルー思考では、「万物はシステムである」と考えます。個々の要素や出来事は孤立して存在するのではなく、相互に影響しあうと認識することが重要です。

ブレイクスルー思考の4つのフェーズ

次に4つのフェーズについて解説します。

  • 1. 人間のフェーズ:人(関係者)との関わり方を考える段階です。「万物はシステムである」と考えるため、目的を達成するためのシステムに人も含まれます。「いつ、どこで、誰に」関わってもらうか(もらわないか)を、見極めることが重要です。
  • 2. 目的のフェーズ:目的を明確にし、「何のために、その目的を達成するのか」を考えます。「目的の目的」を突き詰めることにより、本来の大きな目的(目的の本質)に気付くことがあります。
  • 3. 未来解のフェーズ:本来の目的をもとに、未来を創造します。「現状や過去の延長線上にある未来」ではなく、未来の「あるべき姿」を創造する思考が重要です。
  • 4. 生解のフェーズ:環境や状況により、解決策は変化します。変化に合わせて、改善や調整を行うことが必要です。

ブレイクスルー思考の重要性

では、なぜ、ビジネスにおいてブレイクスルー思考が重視されるのか、メリットと役割をご紹介します。

幅広い視点で解決策が探せる

先述したように、ブレイクスルー思考では目的を達成するために多角的な視点で現状を把握します。あらゆる側面から課題解決を模索するため、それまで考えつかなかった方法を思いつくことがあるでしょう。

ビジネスチャンスを見つけやすい

状況の改善だけでなく、原点回帰し打開策を見つけるブレイクスルー思考は、新たな土俵や予想外のアイデアを生むことがあります。これは、他の企業がまだ進出していない未開の領域である可能性があり、新しいビジネスチャンスとなり得るでしょう。

幅広く意見交換ができる

ブレイクスルー思考では、多方面から問題を考えるため、経験値のある社員からだけでなく、新入社員や他部署の社員などの意見も取り入れます。そこから、新たな可能性が見つかることも珍しくありません。もし、意見が出てこなければ、チームの雰囲気や企業風土の見直しのきっかけにもなるでしょう。

打開策を実現しやすい

話し合いを進めることで、必然的にチーム内の全員が現状と向き合えます。全員が当事者意識を持つことで、打開策が見えたときに、実現する力がはたらきやすいでしょう。

ブレイクスルーを実現するためのステップ

ここからは、ブレイクスルーを実現するためのステップを4つに分けてご紹介します。

ステップ1:課題と目的を明確にする

まずは、今ある問題を洗い出し、課題や目的を明確にします。これまでの方法に縛られることなく、問題の本質に立ち返り、原因を探ることが重要です。課題や目的が見えてきたら、目的を達成するための目標を考えます。「目的のフェーズ」で示したように、「目的の目的」を突き詰めましょう。

ステップ2:ラテラルシンキングを身につける

ラテラルシンキングは、既存の枠組みや固定概念にとらわれず、さまざまな視点から新しい発想を生み出すための思考法です。日本では「水平思考」とも呼ばれます。

ロジカルシンキングのように、物事を論理的に縦方向に深堀する思考とは異なり、発想を自由に横に広げます。複数の視点から考察することで、問題解決の糸口をつかめるでしょう。

ラテラルシンキングの手段として、社内研修会やワークショップを開くのも有効です。チームのメンバーが集まることで、他者の意見を取り入れ、多角的な視点で考えられます。

ステップ3:アイデアを出し合う

ラテラルシンキングについて理解が進んだら、いよいよブレイクスルーの実現に向けたアイデアを出します。他者の意見を積極的に傾聴し、否定せず、あらゆる意見について話し合う環境を作りましょう。部署を横断した意見交換や、社外との交流などもアイデア出しに役立ちます。

ステップ4:実行する

チーム内で出たアイデアを絞り込み、実行してみましょう。PDCAを回しながら検証し、目的を実現するために改善することが重要です。

アイデアの実行前には意図や目的、やるべきことなどを、改めて関わる人に説明する機会を設けます。経験者だけでなくチームに新しく加入した人も、新商品や新戦略の展開にスムーズに取り掛かれるでしょう。

ブレイクスルーを実現した3社の事例

最後に、ブレイクスルーを実現した企業の事例を3つご紹介します。

ベネトンの実践事例

イタリア発の世界的なアパレルメーカー「ベネトン」は、ファッション業界の流動的な需要にも対応できる製造工程を採用しています。

以前は、大量の生地を一度に染色し、製造の効率化やコスト削減を図っていました。しかし、流行の移り変わりに対応できず、売り上げが伸び悩むといった課題に直面しました。

そこで、同社が取ったのは「製造工程の見直し」です。トレンドを予測して大量に染色するのではなく、縫製後に流行に合わせて染める「後染め」に変更。流行のカラーを需要に合わせて展開できるようになり、業績が回復しました。

コクヨの実践事例

コクヨは1905年創業の老舗文房具製造販売会社です。2005年から、主力ノート「Campus(キャンパス)」の中国展開を開始しましたが、輸送コストなどの課題を抱えていました。

さらに、中国ではCampusの模倣品であるGambol(ギャンボル)がシェアを獲得しており、苦戦を強いられていました。

そのような状況で、コクヨが取った意外な戦略は、模倣品との提携。2012年には、Gambolの製造元から生産・販売事業を継承し、CampusだけでなくGambolの製造も開始しました。

これにより、日中関係の悪化により日本製品の不買運動が広まる逆境の中、販売業績は順調に推移し、中国市場でナンバーワンブランドとなりました。

JTRRD cafeの実践事例

JTRRD cafe(ジェイティードカフェ)は、「心と体の美を作るフードアート」を主軸にしたカフェです。看板商品のスムージーの売り上げ向上を目指し、ブレイクスルーを実践しました。

芸術大学卒の店長が持つ色彩やデザインの知識をもとに、それまでになかった「カラフルで独創的なスムージー」を開発。メインターゲットの女性の間で人気が高まり、オリジナリティやSNS映えするビジュアルが注目を浴びました。