不機嫌ハラスメント(フキハラ)とは?原因と企業リスク、職場の対策

published公開日:2025.05.28
不機嫌ハラスメント(フキハラ)とは?原因と企業リスク、職場の対策
目次

不機嫌ハラスメント(フキハラ)とは、不機嫌な言動や態度を示し、周囲を不快にさせ、威圧感を与える行為のこと。近年、企業が対策すべき職場ハラスメントの1つとして注目を集めています。

本コラムでは、不機嫌ハラスメントの種類や原因、企業に与える影響を解説し、具体的な対処法と予防策も合わせてご紹介します。

不機嫌ハラスメント(フキハラ)とは

不機嫌ハラスメント(通称:フキハラ)は、不機嫌な態度や言動を日常的に繰り返し、周囲に精神的な苦痛を与える行為です。具体的な例として、理不尽な怒りをぶつける、無視をする、冷たい態度をとる、ため息や舌打ちをするなどが挙げられます。パワーハラスメントやモラルハラスメントの一種として位置付けられる場合もあり、直接的な暴力を伴わないため、「サイレントモラハラ(無言のモラハラ)」と呼ばれることもあります。

不機嫌ハラスメントは、職場、学校、家庭など、あらゆる場面で発生し得る問題です。多くの場合、上司や教師など上の立場の人が行為者となりますが、同僚や部下が行うケースもあります。

行為者の周囲にいる人は、日常的に不機嫌な態度にさらされ、不安や過度の緊張、恐怖心を抱くようになります。また、些細な言動に過剰に反応したり、常に相手の機嫌を伺ったりして、精神的な疲労が蓄積していくのです。

この問題を一層複雑にしているのは、加害者と被害者の双方が状況を正確に認識できていない点にあります。加害者は、自身の態度が周囲に与える影響を理解していないことが多く、一方で被害者も、日常的な出来事として受け止めてしまい、それが不当な扱いだと気づきにくい傾向が見られます。

職場における不機嫌ハラスメントは、社員の生産性低下やメンタルヘルスの悪化を招き、企業にとって大きなリスクとなるため、組織として適切な対策が不可欠です。

コラム「ハラスメントとは?定義・種類・原因・対策を簡単にわかりやすく解説」はこちら

不機嫌ハラスメントの4つの形態

職場における不機嫌ハラスメントは、主に4つの形で表れます。それぞれの特徴と影響を見ていきましょう。

(1)特定の人物への差別的な態度

1つ目は、周囲には普通に接する一方で、特定の部下や同僚に対してのみ露骨に不機嫌な態度を示すケースです。

  • 特定の人の発言だけ無視したり、露骨に表情を曇らせたりする
  • ある部下の企画案だけ必要以上に細かく指摘する
  • 会議やミーティングで、特定の人の意見だけ取り上げない

このような差別的な扱いを受けた人は、自尊心が傷つき、職場での居場所を失ってしまいます。

(2)無言の圧力

2つ目は、言葉による直接的な嫌がらせではなく、態度で相手を追い詰めていく行為です。

  • 目を合わせようとしない
  • 挨拶を返さない
  • 必要な資料を渡す際に一言も説明せず置いていく
  • メールや社内チャットの既読無視を続ける

無言の圧力によって、周囲に精神的なストレスを与えます。

(3)感情的な態度表現

3つ目は、不機嫌さを露骨に表現し、周囲に威圧感を与える行為です。

  • 舌打ちやため息をする
  • 物を乱暴に扱う
  • キーボードを強く叩くなど、必要以上に大きな物音を立てる

こうした行動は、職場全体の雰囲気悪化につながります。

(4)無自覚による不機嫌な態度

4つ目は、ストレスや体調不良が原因で、意図せず周囲に不快感を与えてしまうケースです。

  • 挨拶をするときの表情がいつも硬い
  • 電話応対の声が通常より低く冷たい
  • 会議中、腕を組んで険しい表情をしている

本人に悪意はなくても、日常的に不機嫌な態度をとる人がいると、周囲に以下のような悪影響を及ぼします。

  • 職場の雰囲気を重くする
  • チームの士気を下げる
  • コミュニケーションを妨げる

不機嫌ハラスメントが発生する2つの原因

不機嫌ハラスメントが発生する原因には、行為者個人の問題と職場環境の問題の2つの側面があります。それぞれの要因を詳しく見ていきましょう。

行為者個人の問題によるもの

行為者自身が感情をコントロールできない状態にある場合、不機嫌ハラスメントが発生しやすくなります。例えば、以下のような要因が考えられます。

  • ストレスや疲労の蓄積により、些細なことで感情的になる
  • 体調不良時に感情の制御が難しくなる
  • 自分の感情や状況を適切に言葉で表現できない
  • 不機嫌な態度が習慣化している

本人に自覚がない場合でも、不機嫌な言動が周囲に悪い影響を及ぼしていきます。

職場環境によるもの

一方で、組織の構造や文化にも、不機嫌ハラスメントを生み出す要因が潜んでいます。

  • 忙しすぎる業務負担やノルマ
  • コミュニケーション不足を原因とする相互理解の欠如
  • 「失敗は許さない」という厳しい職場文化

これらの問題は、組織全体で改善に取り組む必要があります。

不機嫌ハラスメントは、個人と職場環境の問題が複雑に絡み合って発生するため、双方の視点からの対策が重要です。

不機嫌ハラスメントによる企業のリスクと影響

職場で不機嫌ハラスメントが発生すると、法的責任やコンプライアンス上のリスク、経済的損失、組織力の低下、そして人材の流出まで、その影響は多岐にわたります。

ここでは、不機嫌ハラスメントによる企業のリスクと影響について詳しく解説します。

法的責任とコンプライアンス上のリスク

企業には、職場における労働者の安全と健康を確保する法的義務があります。2020年に施行された「パワハラ防止法」をはじめ、労働施策総合推進法や男女雇用機会均等法により、ハラスメント防止対策が義務付けられています。

不機嫌ハラスメントを放置すれば、使用者責任を問われる可能性があるだけでなく、「ハラスメントを容認する企業」という社会的評価の低下も避けられません。コンプライアンスの観点からも、不機嫌ハラスメントへの対策は企業にとって避けては通れない課題となっています。

生産性の低下

不機嫌ハラスメントが発生している職場では、例えば以下のような事情から、社員の業務効率が著しく低下してしまいます。

  • 行為者の機嫌を伺うことに時間を費やさなくてはいけないため、業務に集中できない
  • 職場の心理的安全性が失われ、社員が委縮して活発な意見や創造的なアイデアが生まれにくくなる

職場環境とチームワークの悪化

不機嫌な態度は、職場全体に伝染しやすい特徴があります。不機嫌ハラスメント行為をする人が職場に1人でもいると、職場全体の雰囲気が急速に悪化していきます。

その結果、社員同士のコミュニケーション減少によってチームワークが低下し、さらに職場全体にネガティブな空気が蔓延していくことになります。

人材の流出と採用への悪影響

最も深刻な影響の1つが、優秀な人材の流出です。不機嫌ハラスメントによるストレスで休職・退職者が増加すれば、採用市場において企業人気が低下し、優秀な人材の確保が難しくなります。

現場では、残された社員の負担が増大することで、さらなる退職者を生むという悪循環に陥ってしまう状況も考えられます。

不機嫌ハラスメントが起こったときの対処法

不機嫌ハラスメントが発生した場合、企業は迅速かつ適切な対応をする必要があります。以下に、主な対処法を3つご説明します。

(1)被害者への初期対応と事実確認

被害の報告を受けた際は、まず被害者の心身の状態に配慮して、状況の把握を行います。プライバシーの保護を最優先に、安心して話せる環境で丁寧に聞き取りを実施しましょう。状況に応じて産業医や専門家と連携し、メンタルヘルスケアも並行して行うことが大切です。

(2)行為者への適切な対応

事実関係を正確に把握したら、就業規則に基づき、適切な措置を講じます。行為者への指導や配置転換など、状況に応じた対応を検討しましょう。その際、不機嫌ハラスメントの背景にある原因(業務負担やストレスなど)も確認して、職場環境の改善につなげましょう。

(3)職場環境の調整

今回の問題を解決するだけでなく、今後も同様の問題が再発しないように対策が必要です。被害者と加害者の関係修復が難しい場合は、業務分担の見直しや配置転換を検討します。部署内のコミュニケーション改善など、職場環境の調整も行いましょう。

不機嫌ハラスメントを防ぐための対策

職場での不機嫌ハラスメントを未然に防ぐには、組織全体で対策を継続していくことが重要です。最後に、主な予防策を4つご紹介します。

ハラスメント研修を実施する

不機嫌ハラスメントは、行為者本人が無自覚のまま行っているケースも少なくありません。社員全員に次のような研修を定期的に実施し、不機嫌ハラスメントに対する理解を深めていくことが大切です。

  • 具体的な事例を用いた行動の振り返り、コミュニケーション方法の実践
  • 管理職向けのメンタルヘルスケア研修
  • 怒りの感情をコントロールする「アンガーマネジメント」手法の習得

アンガーマネジメントについては、以下のコラムで詳しく解説しています。

コラム「アンガーマネジメントとは?怒りの感情をコントロールする6秒ルールや実践方法」はこちら

相談しやすい体制を確立する

職場のハラスメントについて、社員が安心して相談できる環境を整備することが重要です。社内外に相談窓口を設置し、誰もが気軽に相談できる体制を整えましょう。相談窓口には、適切な対応スキルを習得した担当者を配置します。

相談者のプライバシー保護を徹底し、相談したことで不利益が生じない旨を周知することで、問題の早期発見・対応につながります。

組織としての姿勢を表明する

経営層から「不機嫌ハラスメントを許さない」という明確なメッセージを発信し、就業規則やガイドラインに具体的な規約を設けます。社内に定期的に啓発メッセージを発信したり、部門ごとの取り組み事例を共有したりすることで、組織全体での意識向上につながります。

業務体制を見直す

職場のストレス要因を特定し、もし過度なストレス負荷状況があれば、その軽減に向けた施策を実施します。具体的には、定期的な業務量調査を行い、特定の部署や個人への過度な負担が生じていないかをチェックします。業務の優先順位を明確にし、複数の上司からの指示で現場が混乱することのないよう、指示系統を整理することも効果的です。

さらに、部署間の連携状況や情報共有の仕組みも定期的に見直し、業務の効率化と働きやすい環境の整備を進めていきましょう。