ファシリテーターとは?意味、役割、必要スキルと主要フレームワーク

update更新日:2025.09.03 published公開日:2022.07.26
ファシリテーターとは?意味、役割、必要スキルと主要フレームワーク
目次

会議やミーティングにおける「ファシリテーター」は、参加者の意見を有効に引き出し、議論を体系的に整理し、合意形成へと導く高度なスキルが求められる重要な役割です。

本コラムでは、ファシリテーターの基本的な意味から具体的な役割、必要なスキル、フレームワークを活用した実践的なテクニックまで詳しく解説します。

ファシリテーターとは

はじめに、ファシリテーターの基本概念を見ていきましょう。

ファシリテーション・ファシリテーターの意味

「ファシリテーション」(facilitation)は英語で「促進する・容易にする・支援する」などを意味する言葉です。会議やミーティングが円滑に行われるよう支援し、問題解決や合意形成に向けてサポートすることを指します。

このファシリテーションを行う人がファシリテーターと呼ばれ、会議において重要な役割を担っています。

ファシリテーターの主な役割

ファシリテーターは会議や話し合いの場で次のような役割を果たします。

  • 会議や研修の進行役として全体の流れを管理する
  • 参加者が積極的に発言できるよう促してサポートする
  • 議論の目的とゴールを参加者に共有し、導く
  • 誰もが意見を出しやすいオープンな雰囲気をつくる
  • 時間配分を適切に管理し、議論が脱線しないよう調整する
  • 出された意見や主張を整理する
  • 最終的な合意形成をサポートする

ファシリテーターは意思決定者ではなく、あくまでも案内役として中立の立場から会議を円滑に進める役割を担当します。

ファシリテーター、司会、ネゴシエーターの違い

ファシリテーターと似た役割として、司会やネゴシエーターがあります。それぞれの意味や役割の違いを確認しておきましょう。

ファシリテーターと司会の違い

ファシリテーターと司会者は、どちらも事前準備をして会議を円滑に進める役割を担いますが、最終的な合意形成までを行うかどうかという点に大きな違いがあります。

司会者は、会議の流れを円滑にし、最後まで滞りなく進めることに特化しています。予定された進行表に従って時間を管理し、参加者全員が発言しやすい環境づくりに注力しますが、議論の中身や最終的な結論については踏み込まないのが基本です。

一方、ファシリテーターは会議の流れを円滑に進めるだけでなく、出た意見に対して参加者の認識を擦り合わせ、最終的に合意をとるところまで行います。

ファシリテーターとネゴシエーターの違い

ネゴシエーション(negotiation)は英語で「交渉」や「折衝」を意味する言葉です。ネゴシエーターは「交渉人」とも呼ばれ、商談や取引の場で双方の利害を調整する役割を担います。その目的は、できるだけ自分側に有利な条件で妥協点を見いだすことです。

一方でファシリテーターは、当事者の利害から離れた中立的な立場で、話し合いの場全体をサポートします。特定の意見に肩入れすることなく、参加者それぞれの声が公平に扱われるよう配慮し、全体が納得できる結論へ導くことを目標とします。

ファシリテーターが必要とされる3つの理由

現代のビジネス環境は変化が早く、多様な価値観や考え方を持った人同士が、ともに課題解決に取り組むべき機会が増えています。このような状況において、ファシリテーターの存在が組織にとって重要である理由を3つご紹介します。

参加者の発言を促進するため

意思決定者が1人で会議を進めてしまうと、決定権のない人は意見が出しづらい雰囲気になります。「発言しても取り入れてもらえない」というような状態が続けば、多くの参加者は積極的に発言する気持ちもなくなり、形ばかりの会議になってしまうでしょう。

ファシリテーターが中立的な立場から場を整えることで、役職や立場に関係なく、誰もが安心して発言できる環境をつくることができます。

組織横断的な課題に対応するため

近年、企業は政府主導のデジタル化推進や多様な働き方への対応など、従来の枠組みでは対処しきれない課題に直面しています。これらの課題に対応するには、部署の垣根を超えた協力が必要です。

ファシリテーターは異なる部門間の価値観や利害関係を調整しながら、組織全体として最適な解決策を見いだす手助けをします。

会議の生産性を高めるため

会議では、話し合いに時間をかけても実際の行動につながらないことがよくあります。ただ話すだけの会議は、貴重な時間を無駄にし、社員のやる気も下げてしまいます。

しかし、ファシリテーターが議論がぶれないよう見守り、建設的な意見交換を促すことで、限られた会議時間を最大限に活用できるのです。

ファシリテーターの実践的な役割と業務内容

ファシリテーターは会議の進行だけでなく、事前準備や合意形成など様々な役割を担っています。ファシリテーターの具体的な業務内容として、例えば次のようなものがあります。

【ファシリテーターの主な役割と業務内容】

役割 内容
会議やミーティングのゴール設定と共有
  • 会議の目的を明確にする
  • 具体的なゴール(例えば、意見出しのみか、一案に絞るのか)などを設定する
  • 目的とゴールを全参加者に共有する
参加メンバーの選定と連絡調整
  • 目的に沿って適切なメンバーを選定する
  • 意思決定が必要な会議の場合は、決定権者に参加依頼する
  • スケジュールとアジェンダの作成と共有、日程調整を行う
会議環境の整備
  • 必要資料の準備と確認(紙資料は予備も含めて印刷する)
  • データ資料の事前共有と変更時の対応を準備する
  • 会議場所を確保する
参加者の発言促進
  • 自由に発言できる雰囲気づくり
  • アイスブレイクの実施
  • 傾聴の姿勢を示す
  • 場合に応じて事前に意見を聞き、会議中に詳細説明を促す
議論の整理と合意形成
  • 出された意見を整理し、構造化する
  • 会議の目的に合わせた適切な手法を選び、合意形成につなげる
時間管理
  • アジェンダに沿って時間配分を決める
  • 進行中にも適切に時間管理をする
  • 議論が脱線した場合に軌道修正をする
  • 必要に応じて次回への課題持ち越しを判断する

特に「議論の整理と合意形成」については、ファシリテーターの手腕が最も問われる部分です。

会議で出された多様な意見をただ羅列するだけでは、具体的な結論や行動につながりません。出された意見をファシリテーターが関連性のある意見ごとに分類・整理して、全体像を見えやすくする必要があります。

なお、議論の整理や合意形成に活用できる具体的な手法やフレームワークについては、後ほど詳しくご紹介します。

ファシリテーターを設定する4つのメリット

会議にファシリテーターを設置することで、具体的にどのような効果が得られるのでしょうか。ここでは、主なメリットを4つご紹介します。

会議やミーティングのゴールが明確になる

ファシリテーターは会議の開始時に、まず話し合いの目的とゴールを参加者全員に共有します。これにより、議論が本筋から外れたり、まとまりのない長時間の会議になったりするリスクを減らすことができます。

参加者も自分に何が求められているかを理解できるため、当事者意識を持って参加するようになります。

最終的な合意形成がしやすくなる

ファシリテーターの重要な役割の1つが、出された意見についての合意形成です。会議で出たアイデアや決定事項を整理し、最後に全員で確認します。

意思決定者が判断を下した場合も、その経緯や理由を簡潔にまとめ、参加者の認識にずれがないか確認します。そうすれば、「何が決まって何が決まっていないのか」があいまいになる問題を防ぐことができます。

参加者が話しやすい雰囲気になる

ファシリテーターは参加者からの発言を引き出し、対話を活性化させます。初対面の参加者が多い場合は、最初にアイスブレイクの時間を設けて緊張をほぐし、顔見知り同士なら簡単な雑談を交えるなど、話しやすい環境づくりに配慮します。

「役職に関係なく、自由に発言する」といったルール設定も効果的です。こうした雰囲気づくりによって、多様な意見やアイデアが生まれやすくなります。

会議が無駄に長引かない

時間管理もファシリテーターの大切な仕事です。例えば「説明に10分、意見出しに15分」と時間配分し、アジェンダとして事前共有しておけば、参加者も時間を意識した発言ができるようになります。

また、議論が本題から外れた場合はファシリテーターが適切に軌道修正することで、限られた時間を有効に使うことができます。

ファシリテーターに必要な7つのスキル

効果的なファシリテーションを行うために、ファシリテーターには多様なスキルが求められます。ここでは、代表的なものを7つご紹介します。

事前準備と企画力

会議を成功させるには、しっかりとした事前準備が欠かせません。会議の目的を明確にし、適切な参加者を選び、アジェンダを作成する企画力が求められます。

参加者の専門性や組織内での立場を把握し、全員が同じ情報レベルで議論に参加できるよう配慮することが大切です。事前に目標を明確にしておくと、参加者全員が同じ方向性を持って議論に臨むことができ、より効率的な会議運営が実現できます。

質問力

効果的なファシリテーションには、参加者から意見を引き出し議論を深める質問力が不可欠です。参加者の意見を的確に引き出し、議論を深めて合意形成に導くためには、適切なタイミングで効果的に質問をする能力が求められます。

いきなり本題の質問を投げかけるのではなく、まずは参加者がリラックスできる環境づくりから始めるのがポイントです。軽い雑談やアイスブレイクで緊張をほぐし、話しやすい雰囲気をつくってから本格的な議論に入りましょう。

次のように質問のタイミングと種類を使い分けることで、議論を深めることができます。

【議論の段階別質問法】

  • 初期段階:

    「どんな可能性が考えられますか?」など視野を広げる質問で多様なアイデアを引き出す

  • 後半段階:

    「最も重要な要素は何でしょう?」など焦点を絞る質問で論点を整理する

【発言を促す質問テクニック】

  • 事前準備活用:

    参加者から事前に意見を聞き、会議中に「○○さんから興味深いアイデアをいただいているのですが、詳しく説明していただけますか?」と指名する

  • 掘り下げ質問:

    「それは具体的にはどのような状況ですか?」「その背景にはどんな課題がありますか?」など、表面的な議論から深い対話へ導く

コミュニケーション力と傾聴力

参加者から積極的に意見を引き出すには、高いコミュニケーション能力が必要です。適切な質問の仕方、相手の話をしっかり聞く姿勢、身振り手振りなどの非言語的な表現まで含めて、参加者が安心して発言できる環境づくりが求められます。

傾聴の際は、相手の話を最後まで聞き、要点を整理して「つまり、○○ということですね」と確認することで、発言者に理解されているという安心感を与えることができます。また、時には軽いユーモアを交えることで、参加者の緊張をほぐし、活発な議論を促すことも重要です。

中立性の維持

ファシリテーターは常に中立の立場を保ち、特定の意見に偏らないよう注意する必要があります。参加者の意見が対立した場合でも、双方の立場を尊重しながら合意形成に向けて調整するスキルが求められるでしょう。

意見の対立は良いアイデアを生み出すきっかけになる一方で、放置すれば議論の妨げにもなります。そのため、対立の原因を冷静に分析し、妥協点を探る能力が問われます。

タイムマネジメント力

効果的なタイムマネジメントは、事前準備から始まります。各工程における所要時間の把握が最も重要なポイントです。

会議のリハーサルを行い、アイスブレイク・議題説明・意見交換・論点整理・合意形成・まとめの各工程で必要な時間を記録します。過去の会議データも参考にしながら、ファシリテーター自身が話す時間と参加者の発言時間を見積もり、全体のタイムテーブルを作成しましょう。

会議中は設定したスケジュールに沿って進行し、決められた時間内で最大の成果を上げることを目指します。時間が余った際の追加内容や、時間不足時の割愛内容も事前に決めておくことで、柔軟な対応が可能になります。人員に余裕がある場合は、タイムキーパーを設置すると効果的です。

論理的思考力(ロジカルシンキング)

出てきた意見をバラバラのまま放置せず、論理的に整理して構造化する思考力も重要です。

議論の中から要点を見つけ出し、建設的な方向に導くには、様々な角度から問題を見直し、自分なりの解決策を考える力が求められます。

場の空気を読む力

ファシリテーターは会議全体の雰囲気や流れを敏感に察知し、適切なタイミングで対応する能力が欠かせません。議論が停滞しているときは新たな視点を提示し、感情的になりそうな場面では冷静に軌道修正するなど、状況に応じた柔軟な対応が必要です。

参加者の表情や仕草から本音を読み取り、発言しづらそうな人には個別に声をかけたり、議論が白熱しすぎたときは一旦休憩を提案したりするなど、状況を総合的に判断して行動することが良い雰囲気づくりの鍵となります。

ファシリテーションで使われる主要フレームワーク

実際のファシリテーションでは、目的や場面に応じて様々なフレームワークが活用されています。ここでは、有意義な会議進行に役立つ4つの代表的なフレームワークと活用ポイントをご紹介します。

会議の基盤となるフレームワーク「OARR(オール)」

効果的な会議を実現するためには、準備段階での設計が重要です。OARR(オール)は、会議の成功に必要な4つの要素を体系的に整理するフレームワークです。

【OARR(オール)の構成】

項目 内容
Outcome
(目標・ゴール)
会議終了時に達成すべき具体的な成果や結論を明確に設定する
Agenda
(議題・スケジュール)
話し合う議題と各項目の時間配分を事前に決めて参加者に共有する
Role
(役割)
ファシリテーター・記録係・タイムキーパーなど参加者の役割分担を決める
Rule
(ルール)
発言方法・時間管理・議論の進め方など会議運営のルールを設定する

これらの要素を事前に整理し参加者と共有することで、目的意識を持った建設的な議論が可能になります。自身で決定できない項目がある場合は、あらかじめ意思決定者に相談しておけば、会議当日はスムーズに進められるでしょう。

会議開始時のフレームワーク「チェックイン」

チェックインは、会議の冒頭で参加者が現在の状況や気持ちを共有し、発言しやすい雰囲気をつくるためのアイスブレイク手法です。

【チェックインの進め方】

  1. ①会議の目的とアジェンダを共有
  2. ②チェックインの説明とルール設定
  3. ③「準備ができた方からどうぞ」と促す
  4. ④ファシリテーターは発言を受け止める
  5. ⑤全員終了後、本格的な議論に移行

最初にチェックインを行うと、発言への心理的ハードルが下がり、参加者同士の距離が縮まります。その結果、議論が活発になり、参加者同士の良好な関係づくりにも役立ちます。

アイデア創出のフレームワーク「ブレインストーミング」

新しいアイデアや解決策を生み出したい場合は、ブレインストーミングが効果的です。質より量を重視し、批判を控えるルールのもとで自由にアイデアを出し合う過程で他者の意見から刺激を受けて、より創造的な発想を生み出すことができます。

【ブレインストーミングの基本ルール】

  • 出された意見を批判・評価しない
  • 質より量を重視する
  • 自由な発想を促進する
  • 他者のアイデアに便乗してもよい

さらに以下の手法を組み合わせると、より効果的なアイデア創出が可能になります。

  • マンダラート:

    中心テーマから8つの関連要素を展開し、さらに細分化する手法

  • マインドマップ:

    中心テーマから枝分かれ式に関連アイデアを整理する手法

  • KJ法:

    個々の情報をカード化し、グループ化や並べ替えでアイデアを整理する手法

  • オズボーンの自問法:

    転用・応用・変更・拡大・縮小・代用・置換・逆転・結合の9つの視点からアイデアを強制的に抽出し、思考の枠を広げる手法

論点整理のフレームワーク「ペイオフ・マトリクス」

会議で多くのアイデアが出されたとき、どの案から実行すべきか迷うことは珍しくありません。ペイオフ・マトリクスは、様々な提案を客観的に比較し、優先順位を決めるための整理手法です。

この手法では、2つの評価軸を決めて各アイデアを分類します。例えば、新規事業のアイデア評価として、縦軸を「効果」(得られる成果の大きさ)、横軸を「実現性」(取り組みやすさや必要なコスト)とする組み合わせで設定してみましょう。

設定した軸に基づいて、全てのアイデアをマトリクス上の適切な位置に配置します。

【ペイオフ・マトリクスの設定例】

エリア 特徴 取り組み方針
効果大×実現性高 理想的な選択肢 即座に実行に移す
効果大×実現性低 検討価値がある 時間をかけて準備し段階的に実施する
効果小×実現性高 取り組みやすい 余裕があるときに実施する
効果小×実現性低 優先度が低い 他の選択肢を優先する

重要なのは、アイデア創出とマトリクス評価を分けて行うことです。同じタイミングで実施すると、実現しやすい案ばかりに偏り、革新的なアイデアが生まれにくくなる可能性があります。

ペイオフ・マトリクスをうまく活用すれば、参加者が共通した基準で各案を理解でき、感情ではなく論理に基づいて判断できるようになります。情報が整理されることで、議論の焦点が明確になり、効率的な会議運営にもつながるでしょう。

ファシリテーターのスキルを身につけるには

ファシリテーターのスキルは、日常のシーンからでは学ぶことが難しい場合があります。自社にファシリテーションが行える人材が不足しているのであれば、スキルが身につく研修を受けることがおすすめです。独学で書籍や動画などから学ぶのもよいですが、研修の場合は講師からその場でフィードバックがもらえるため、正しいスキルを効率的に身につけられます。

会議時間が長い、無駄な会議が多いと感じている場合は、ファシリテーターを育成することで課題を解決しましょう。

また、コロナ禍により利用が拡大したWeb会議は、対面の会議とはまた違ったスキルが必要になります。ALL DIFFERENTでは、Web会議に特化したファシリテーション研修もご用意しておりますので、ページ下部の「関連する研修」より、ぜひご確認ください。