ロジカルシンキング(論理的思考)とは?基本手法とフレームワーク、スキルの鍛え方



ビジネスシーンで必須のスキルとされる「ロジカルシンキング」は、物事を論理的に考え、筋道を立てて結論を導き出す思考法です。
本コラムでは、定義・必要性・基本手法・主要フレームワーク(ロジックツリー、MECE)・クリティカルシンキングやラテラルシンキングとの違い・効果的な鍛え方など、ビジネスパーソンの思考力向上に役立つ情報をお届けします。
ロジカルシンキングとは
はじめに、ロジカルシンキングの定義とビジネスにおける必要性について見ていきましょう。
ロジカルシンキングの定義
「ロジカルシンキング」とは、伝えたい主張(結論)に向けて、根拠を筋道立てて考える能力のこと。日本語では「論理的思考」と訳されます。物事を論理的に捉え、因果関係を明確にし、合理的な結論を導き出すための思考法です。
ビジネスの現場では、コミュニケーション・タイムマネジメント・意思決定など、日常業務のあらゆる場面において、ロジカルシンキングは欠かせないスキルとして認識されています。
実際に、経団連が2022年1月に発表した「採用と大学改革への期待に関するアンケート結果」によると、企業が採用の観点から大卒者に特に期待する能力として「論理的思考力」が上位に挙げられています。
*参考:経団連「採用と大学改革への期待に関するアンケート結果(2022年1月18日)」
ロジカルシンキングの必要性
ビジネスにおけるロジカルシンキングの必要性について、具体例を通じてさらに詳しくご説明しましょう。
例えば、ある営業担当者が「仕事の効率を上げる」という課題に直面したとします。ロジカルシンキングを用いない場合、
- 残業を増やす
- 作業スピードを上げる
といった表面的な対策に終始しがちです。
一方、ロジカルシンキングを活用すると、以下のような思考プロセスを経ることができます。
- ①時間がかかっている作業を特定する
- ②その作業に時間がかかる原因を分析する
- ③根本的な解決策を考える
これらの思考プロセスを経て、例えば「会議の資料作成に時間がかかりすぎていた」という原因が判明したとします。そうすれば、「会議で実際に使用される資料のみを準備する」といった具体的かつ効果的な改善策を見いだすことができるでしょう。
このように、ロジカルシンキングは表面的な対策ではなく、問題の本質に迫る解決策を導き出すことができます。それゆえ、ビジネスにおいて非常に重要なスキルとなっているのです。
ロジカルシンキングのメリット
ビジネスパーソンがロジカルシンキングを身につけ、実践することで、以下のようなメリットが得られます。
自分の考えが伝わりやすくなる
ビジネスでは、感情的な説明よりも、事実に基づいた論理的な説明が求められる場面が多くあります。ロジカルシンキングを身につければ、自分の考えをより効果的に相手に伝えられるようになります。
例えば、企画部門のメンバーに新たな企画を提案する場合、「なんとなくいいアイデアだと思う」という感覚的な説明よりも、「この企画によって○○の課題が解決でき、△△の効果が期待できる」といった具体的で論理的な説明の方が、相手に納得してもらいやすいでしょう。上司や同僚からの理解や承諾を得やすくなり、提案の採用確率が高まります。
ロジカルシンキングの活用シーンは、対面でのコミュニケーションだけではありません。メールやチャット、報告書の作成など、あらゆる情報伝達の場面で役立ちます。特に、近年増加しているオンラインコミュニケーションでは、考えを論理的に整理して伝えることで、相手との認識のズレを減らせます。結果として、スムーズな情報共有につながるでしょう。
分析力・問題解決能力が向上する
ロジカルシンキングを身につけることで、問題の原因を的確に分析し、効果的な解決策を導き出せるようになります。
例えば、営業マネージャーが「売上が減少している」という問題に直面した際、単に「営業部門の努力が足りない」と結論づけるのは適切な対応とはいえません。以下のような、多角的な分析が必要です。
- ①なぜ売上が減少しているのか
- ②どの商品の売上が特に落ちているのか
- ③競合他社の状況はどうか
このように様々な角度から分析することで、表面的な症状だけでなく、その根本原因を論理的に追究し、より適切な結論を導き出せます。
ロジカルシンキングの基本手法
ロジカルシンキングを正しく理解し、実践するうえで、基本の手法を知っておくことが大切です。
ここでは、土台となる3つの考え方「演繹法」「帰納法」「弁証法」について見ていきましょう。
演繹(えんえき)法
演繹(えんえき)法は、一般的な原則や前提から特定の結論を導き出す思考法です。「大前提」「小前提」「結論」という形で論理が展開されることから、「三段論法」とも呼ばれます。
【演繹法の例】
- 大前提:優秀なビジネスパーソンはロジカルシンキングが得意である
- 小前提:Aさんは優秀なビジネスパーソンだ
- 結論:ゆえに、Aさんはロジカルシンキングが得意だ
演繹法は、既知の事実や原則から論理的に結論を導き出す思考法です。そのため、新しい発見を生み出す用途というよりも、既存の知識を適用する場面で多く用いられます。
帰納法
帰納法は、複数の個別事例や観察を積み上げることで、一般的な法則や結論を導き出す思考法です。
【帰納法の例】
- 観察1:A社の新入社員研修でチームビルディング演習を行ったところ、参加者の満足度が高かった
- 観察2:B社の管理職研修でチームビルディング演習を実施し、参加者の評価が良かった
- 観察3:C社の全社員研修でチームビルディング演習を導入し、社内コミュニケーションが改善した
- 結論:チームビルディング演習は、様々な階層の社員研修において効果的である
帰納法は新しい理論や法則を発見するのに役立ちますが、全ての事例を観察することは不可能なため、結論に誤りが含まれる可能性があります。帰納法を用いる際は、この限界を認識し、慎重に結論を導き出すことが重要です。
弁証法
弁証法は、「テーゼ(正)」と「アンチテーゼ(反)」と呼ばれる対立する意見や概念を統合し、解決策「ジンテーゼ(合)」を見いだすという思考法です。ドイツの哲学者ヘーゲルによって体系化されました。
【弁証法の例】
- 正(テーゼ):企業は利益を追求すべきだ
- 反(アンチテーゼ):企業は社会的責任を果たすべきだ
- 合(ジンテーゼ):企業は利益を追求しながら社会的責任も果たすべきだ
弁証法の最大の特徴は、「アウフヘーベン(止揚)」の概念です。これは、対立する要素を単純に統合するのではなく、両方の要素を保持しつつも乗り越えて、より高次な段階を生み出すことを意味します。
弁証法は、異なる意見や利害関係を調整し、新たな価値を創造する際に役立つ思考法といえます。
ロジカルシンキングの主なフレームワーク
ロジカルシンキングには、様々なフレームワークがあります。
ここでは、ビジネスシーンで特によく使用される3つのフレームワーク、「ロジックツリー」「MECE(ミーシー)」「ピラミッドストラクチャー」をご紹介しましょう。
ロジックツリー
ロジックツリーとは、問題や課題を構造化し、視覚的に表現することで論理的な分析を可能にするフレームワークです。主なロジックツリーとして、「Why Soツリー」と「So Howツリー」の2種類があります。
【主なロジックツリーの種類と特徴】
目的 | 主な質問 | 結果 | |
---|---|---|---|
Why Soツリー | 問題の原因を掘り下げる | 「なぜ?」 | 問題の根本原因を特定する |
So Howツリー | 目標達成のための方法を展開する | 「どうやって?」 | 具体的な解決策を導き出す |
これらのロジックツリーを使い分けることで、問題解決や目標達成のプロセスをより効果的に進められます。Why Soツリーで問題の本質を把握し、So Howツリーでその解決策を具体化するという流れで活用するのが一般的です。
例えば、「若手社員が定着しない」という問題に対するWhy Soツリーは以下のように表せます。
【ロジックツリーの例:若手社員が定着しない要因】

ロジックツリーを作成するコツは、実際に紙やホワイトボードに書き出しながら考えることです。慣れないうちはとにかく手を動かして、思考の途中過程もメモしながらロジックツリーを完成させましょう。
MECE(ミーシー)
MECE(ミーシー)は、ロジカルシンキングの重要な概念の1つであり、同時に実践的なフレームワークでもあります。「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の頭文字を取ったもので、日本語に訳すと、「漏れなく、重複なく」という意味になります。
MECEの特徴は以下の通りです。
- Mutually Exclusive(相互排他的): 各要素が重複しないこと
- Collectively Exhaustive(全体網羅的): 全ての可能性を漏れなくカバーすること
MECEを適切に用いることで、問題や状況を体系的に整理し、効率的に分析できます。以下に、MECEの状態とそうでない場合の例を挙げてみましょう。
【MECEの正しい分類と間違いやすい例】
例 | 説明 | |
---|---|---|
正しいMECE | 「20代」「30代」「40代以上」(年齢層の分類) |
|
MECEでない例 | 「学生」「社会人」「主婦」(属性の分類) |
|
このように、MECEを意識することで、問題や状況を漏れなく、重複なく整理することができます。ただし、MECEによる分類を行う際は、分類の基準や目的を明確にし、対象となる全体を適切にカバーしているか常に確認することが重要です。
ピラミッドストラクチャー
ピラミッドストラクチャーは、結論を頂点に置き、その根拠を階層的に並べて論理展開を行うフレームワークです。
以下の図は、「新商品Aを発売すべき」という結論を例にしたピラミッドストラクチャーです。この図を参照しながら、作成手順を見ていきましょう。
【ピラミッドストラクチャーの例:結論「新商品Aを発売すべき」】

【ピラミッドストラクチャーの作成手順】
- ①結論を頂点に置く:例えば、「新商品Aを発売すべき」という結論を頂点に置く
- ②根拠を下層に配置:結論の下に、「市場ニーズがある」「技術的に実現可能」「収益性が高い」といった根拠を並べる
- ③階層的に詳細化:各根拠をさらに掘り下げる。「市場ニーズがある」の下には「顧客アンケートで高評価」「競合製品の売上が好調」などの具体的な事実を配置する
- ④論理的つながり:上位の主張が下位の要素で説明できるようにする。例えば、「新商品Aを発売すべき」という結論は、下層の根拠によって裏付けられる
- ⑤情報の粒度調整:上層では概要を、下層に行くほど詳細な情報を記述する
ピラミッドストラクチャーを用いることで、複雑な情報を整理し、聞き手や読み手にとって理解しやすい形で提示できます。特に、プレゼンテーションやレポート作成など、自身の主張を論理的に説明し説得力を高めたい場面において効果的なツールとして広く活用されています。
ロジカルシンキングとほかの思考法との違い
ビジネスの課題解決には、ロジカルシンキング以外にも様々な思考法が活用されています。ここでは、ロジカルシンキングとほかの主な思考法の違いについて詳しく見ていきましょう。
クリティカルシンキング
ロジカルシンキングとクリティカルシンキングはどちらも論理性を重視する思考法ですが、それぞれ異なる特徴と目的を持っています。
ロジカルシンキングは、与えられた前提や情報をもとに、論理的な整合性を重視しながら結論を導き出す思考法です。一方、クリティカルシンキングは、それに加えて前提条件の妥当性や思考の偏りまで検証する、より深い分析を行う思考法です。
クリティカルシンキングの特徴は、「前提を疑う」「思考の偏りに気づく」ことにあります。例えば、ある調査結果をもとに判断を下す際、クリティカルシンキングでは調査方法の妥当性や回答者の偏りなども考慮に入れます。
ラテラルシンキング
ラテラルシンキングは、通常の思考パターンから離れて、新しい視点や解決策を見いだす思考法です。日本語では「水平思考」とも呼ばれます。固定観念にとらわれずに、多角的に物事を捉える点が特徴です。
例えば、「売上を上げる」という課題に対して、ロジカルシンキングでは既存の販売データを分析し、効果的な販促策を考えます。一方、ラテラルシンキングでは「そもそも売上以外の指標で事業の成功を測れないか」といった、従来の発想にとらわれない視点からも解決策を探ります。
ラテラルシンキングの課題として、導き出された結論が一般的な論理展開では説明しづらい場合があるという点には注意が必要です。しかし、ビジネスで革新的なアイデアを生み出したいシーンでは、ラテラルシンキングが積極的に活用されています。
上記以外の思考法
クリティカルシンキングやラテラルシンキング以外にも、ビジネスでは様々な思考法が活用されています。それぞれの特徴とロジカルシンキングとの関係性をまとめたものが、下の表です。
【ロジカルシンキングとそのほかの思考法の比較】
特徴 | ロジカルシンキングとの関係性 | |
---|---|---|
事実ベース思考 (ファクトベース思考) |
客観的な数値データや明確な事実に基づいて判断する | ロジカルシンキングの基盤となる思考法。より具体的な事実やデータを重視するため、推測や憶測を排除することが可能 |
ゼロベース思考 | 既存の前提や慣習を一旦取り払い、白紙の状態から考える | ロジカルシンキングを補完する役割を担う思考法。固定観念にとらわれないため、新しい視点が生まれやすい |
デザインシンキング | ユーザーのニーズや感情を深く理解し、創造的な問題解決を行う | ロジカルシンキングの分析力と組み合わせることで、革新的でありながら実現可能な解決策が生まれやすい |
これらの思考法は、ロジカルシンキングと相反するものではありません。状況に応じて組み合わせることで、より効果的な問題解決が可能になります。
ロジカルシンキングの実践技法
ロジカルシンキングを実践するうえで、重要な技法がいくつかあります。特に「列挙」と「掘り下げ」は、問題解決や詳細な分析に役立つ手法としてよく使われています。
以下に、それぞれの実践方法を具体例と合わせてご説明しましょう。
列挙
列挙とは、ある課題や問題に関連する要素を漏れなく挙げていく方法です。
【「列挙」の例:若手社員が育たない原因は何か?】
- ①人材育成の仕組みが機能していない
- ②上司・先輩が部下・後輩の育成に時間を割けていない
- ③若手自身の成長意欲が低い
列挙では、このように課題に対して考えられる要素をできる限り多く挙げていきます。このときのポイントは、漏れやダブリがないようにすることです。先述したMECEのフレームワークを意識して、相互排他的かつ全体網羅的な分類を心がけましょう。
掘り下げ
掘り下げとは、1つの要素から因果関係のある、より深い要素を挙げていく方法です。「なぜ?」という質問を繰り返し、問題の本質を解明していきます。
【「掘り下げ」の例:若手社員が育たない原因は何か?】
-
①「なぜ若手自身の成長意欲が強くないのか?」
→「成長しないといけないと思うような難しい仕事の場が与えられていないから」
-
②「なぜ難しい仕事の場が与えられていないのか?」
→「上司が若手の能力を過小評価しているから」
-
③「なぜ上司が若手の能力を過小評価しているのか?」
→「若手と上司のコミュニケーションが不足しているから」
このように、考えられる要因を繰り返し掘り下げることにより、「真の要因」を明確にしていきます。ただし、問題の掘り下げが甘いと、考えつく解決策も表面的なものになってしまう点には注意しましょう。
ロジカルシンキングの鍛え方
ロジカルシンキングは、筋力トレーニングと同様に、適切な方法で繰り返し実践することで向上させられます。
最後に、ロジカルシンキング・スキルの鍛え方を3つのステップでご紹介しましょう。
(1)基本知識のインプット
まずは、ロジカルシンキングの基本的な考え方や手法を学ぶことから始めます。書籍や研修、eラーニングなどを活用し、正しい知識を身につけましょう。
ロジカルシンキングを実践するには、取り組む問題に関する基礎知識(業務知識・専門知識など)も重要になってきます。このステップが不十分な場合、論理的な思考が困難になる可能性があるため、十分な準備が必要です。
(2)各種フレームワークの実践
基本知識を学んだら、実際に様々なフレームワークを使って練習を行います。身近な業務上の課題を1つ選び、これまで学んだロジックツリー、MECE、ピラミッドストラクチャーなどを適用してみましょう。
例えば、「売上が伸びない」という問題に対して、それぞれ以下のようにアプローチできます。
【ロジックツリーの実践例】
売上低迷に関する「Why Soツリー」を作成する。
-
①なぜ売上が伸びないのか?
- a. 新規顧客が増えていない
- b. 既存顧客のリピート率が低い
-
②なぜ新規顧客が増えていないのか?
- a. 広告宣伝が不十分
- b. 競合他社の台頭
……
【MECEの実践例】
売上に影響する要因をMECEで分類する。
-
商品関連(価格、品質、種類)
-
顧客関連(新規獲得、既存維持)
-
販売チャネル(店舗、オンライン、代理店)
……
【ピラミッドストラクチャーの実践例】
売上低迷に関するピラミッドストラクチャーを作成する。
-
①頂点:売上向上策の提案
-
②第2層:新規顧客獲得のための対策(例えば、既存顧客維持策・商品力強化策など)
-
③第3層:それぞれの具体的な施策
……
複数のフレームワークを組み合わせれば、問題に対してより多角的な視点からアプローチすることができます。フレームワークを使って作成した分析や提案は、周囲の人と意見交換したり経験豊富な人にフィードバックをもらったりして、さらに考察を深めていきましょう。
(3)日常生活での意識的な実践
ロジカルシンキング・スキルを鍛えるには、日々の生活の中で、意識的に実践することが大切です。例えば、以下のような取り組みが効果的です。
- 会議での議論をMECEの観点で整理してみる
- ニュース記事を読んで、主張の論理構造を分析する
- 日常の出来事を「列挙」と「掘り下げ」の技法を使って考察する
このように、日常生活のあらゆる場面でロジカルシンキングを使ってみることで、徐々に論理的思考力が向上していきます。
ロジカルシンキングは、問題解決能力やコミュニケーション能力の向上に直結する重要なスキルです。基本知識の習得と継続的な実践を通じて、着実にスキルアップを目指しましょう。
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