コンセプチュアルスキルとは?意味や具体例、高めるトレーニング方法を解説

published公開日:2025.05.28
コンセプチュアルスキルとは?意味や具体例、高めるトレーニング方法を解説
目次

コンセプチュアルスキルとは、概念化能力とも呼ばれ、複雑な情報や事象について本質を見極め理解できる能力のことをいいます。

予測不可能なVUCAの時代といわれる現代では、ビジネスにおいても、多様で複雑な状況に対応できるコンセプチュアルスキルのニーズが高まっているのです。

本コラムでは、コンセプチュアルスキルのカッツモデルにおける意味、高めるためのトレーニングや研修方法などについて解説します。

コンセプチュアルスキルとは?

コンセプチュアルスキルとは、物事の本質を見極め、抽象的な概念や複雑なシステムを理解できる能力のことです。

コンセプチュアルスキルは、カッツモデルと呼ばれる理論に従い、テクニカルスキル、ヒューマンスキルと並んで、業務遂行やマネジメントに必要なスキルに挙げられています。

まず初めに、カッツモデルにおけるコンセプチュアルスキルの意味や重要性、他のスキルとの違いについて解説します。

コンセプチュアルスキルとカッツモデル

コンセプチュアルスキルの考え方は、アメリカの経営学者ロバート・リー・カッツが提唱した「カッツモデル」(カッツ理論とも呼ばれる)がもとになっています。カッツモデルでは、様々な職種に必要なスキルを以下の3つのスキルに大別し、職層の違いによって必要なスキルの比率が変化していきます。

スキルの種類 概要
テクニカルスキル 担当する業務に必要な業務知識や定型的な業務能力
ヒューマンスキル 対人関係をつくり円滑に行うための能力
コンセプチュアルスキル 物事を抽象化し本質を見極める能力

カッツモデルでは、さらに実際の業務をマネジメントする人を「ロワー(現場監督者層)」「ミドル(管理職層)」「トップ(経営者層)」の3つの職位に分け、職位によって必要なスキルの割合が変わるとしています。

ヒューマンスキルはどの職位においても必要度の高いスキルです。テクニカルスキルはロワーマネジメント層ほど必要度合いが増え、トップマネジメント層ほどコンセプチュアルスキルを必要とする、というのがカッツモデルの基本的な考え方です。

参考:『カッツ理論とは?テクニカルスキル/ヒューマンスキル/コンセプチュアルスキル キャリア理論』(カッツ理論研究会/Kindle版)

コンセプチュアルスキルの重要性

コンセプチュアルスキルは、現代のビジネス環境においてますます重要性を増しています。企業を取り巻く環境は急激に変化しており、過去の成功パターンが必ずしも通用するとは限りません。そのため、変化に柔軟に対応し、創造的な解決策を導き出す力が求められています。

特にリーダーシップを発揮する立場の人には、組織全体の方向性を考え、戦略的な意思決定をするコンセプチュアルスキルが不可欠です。現場の課題を把握し、従業員の意見を取り入れながら、組織全体の目標達成に向けた判断を下すことが求められます。

また、コンセプチュアルスキルは、組織や企業にイノベーションをもたらす人材に欠かせないスキルとしても注目されています。コンセプチュアルスキルを高めると、新しいアイデアや創造性が生まれるチャンスが増えるからです。イノベーションの理論やビジネスにおける成功事例などについては、以下のコラムで詳しく解説していますので参考にしてください。

コラム「イノベーションとは|意味や使い方、ビジネスでの成功例などをわかりやすく解説」はこちら

他のスキル(テクニカルスキル・ヒューマンスキル)との違い

コンセプチュアルスキルは、テクニカルスキルやヒューマンスキルと並んで、重要なスキルの1つですが、他のスキルとの違いはどのようなところにあるのでしょうか。

3つのスキルの具体例を挙げて説明すると以下のようになります。

スキルの種類 具体例
テクニカルスキル プログラミング、データ分析、財務管理、語学力、情報収集力など
ヒューマンスキル コミュニケーション力、交渉力、プレゼンテーション力、ヒアリング力、リーダーシップなど
コンセプチュアルスキル 俯瞰力、多面的視野、戦略的思考、応用力など

3つのスキルは、それぞれ異なる役割を持ち、組み合わせて活用することで、より高い成果を生み出すことができます。

例えば、新規事業を立ち上げる場合、プログラミングの知識(テクニカルスキル)や、チームメンバーと協力する力(ヒューマンスキル)も重要ですが、それ以上に「どの市場に参入すべきか」「競争優位性をどう確立するか」といった戦略的な思考(コンセプチュアルスキル)が不可欠です。このように、コンセプチュアルスキルは他のスキルと密接に関わりながら、組織や個人の成長を支える重要な役割を果たす点に特徴があります。コンセプチュアルスキルを構成する具体的な要素については次の章で詳しく解説します。

コンセプチュアルスキルの構成要素

コンセプチュアルスキルは主に以下の10の要素で構成されるといわれています。

抽象的思考スキル
(Abstract-thinking skills)
情報について表面上は明白でない抽象的なアイデアを解読できるスキル
アクティブリスニング(積極的傾聴)スキル
(Active-listening skills)
相手の発言に応じて柔軟に思考を切り替えて会話に参加できるスキル
分析スキル
(Analytical skills)
データセットを見て個々のデータポイントを結びつける大局的な概念を見いだすことができる
コミュニケーションスキル
(Communication skills)
相手の情報ニーズと感情的なニーズに適切に対応できるスキル
創造的思考スキル
(Creative-thinking skills)
従来の常識を覆すようなアイデアや創造的な解決策を生み出す
意思決定スキル
(Decision-making skills)
多くの情報を素早く効率的に処理し迅速かつ的確な意思決定ができる
対人スキル
(Human skills)
他人と協力し、個々の性格や特性に合わせた的確な対応ができるスキル
リーダーシップスキル
(Leadership skills)
時間管理能力や感情的知性(EQ)を統合し、組織全体を管理・統率する能力
マネジメントスキル
(Managerial skills)
戦略的に考え、組織・メンバーを統率して現場をマネジメントする能力
問題解決スキル
(Problem-solving skills)
論理的思考を駆使して適切な解決策を導き出すスキル

このように、コンセプチュアルスキルは、リーダーシップやマネジメント、意思決定など、トップマネジメント層には必須のスキルを含んでいます。さらに、対人スキルやコミュニケーションスキルなど全ての職位の人に必要とされるスキルに加え、抽象的思考スキル、分析スキル、問題解決スキル、創造的スキルなど、業務の遂行やパフォーマンス向上に欠かせない要素が含まれているのです。

参考:Master Class:Conceptual Skills Explained: 10 Types of Conceptual Skills

コンセプチュアルスキルが高い人の特徴

コンセプチュアルスキルが高い人は、問題解決能力や物事の本質を見抜く力があるなど、いくつか共通の特徴があります。

ここでは、コンセプチュアルスキルが高い人の特徴を解説します。

問題解決能力が高い

コンセプチュアルスキルが高い人は、複雑な問題に直面した際も冷静に状況を分析し、最適な解決策を導き出す能力を持っています。例えば、問題が発生したとき、表面的なその場しのぎの対応をするのではなく、その根本原因を突き止め、より本質的な解決策を提案できる能力です。

この能力が高い人は、トラブル対応だけでなく、業務の効率化や改善提案にも積極的に関わることができます。

物事の本質を見抜く力がある

コンセプチュアルスキルを持つ人は、表面的な情報に惑わされることなく物事の本質を見極める力を備えています。単なる現象としての出来事ではなく、「なぜこの状況が発生したのか?」という背景を深く考えることができるのです。

例えば、部下が顧客Aと顧客Bの情報を取り違えるといったミスをした場合、部下個人の不注意や能力など表面的な問題として捉えるのではなく、チェック機能が働いているか、部下への育成指導ができているかなど、組織の課題として捉え、解決策を考えられます。物事の本質を見抜くためには、目先の問題だけでなく、長期的な影響も考慮して判断したり、データや事実をもとに多角的な視点から結論を導いたりできることも大切です。

長期的な視野で考えられる

短期的な利益だけでなく、長期的な影響を考慮した意思決定ができることも、コンセプチュアルスキルが高い人の特徴です。例えば、日常業務の中における判断であっても、「今の判断が将来的にどのような影響をもたらすか」を考えながら、持続可能な計画を立てられます。

企業の成長戦略を長期的な視点で捉え、社会や市場の変化を見据えて柔軟に対応できる人は、経営層やマネジメント職として組織を牽引する立場で活躍できるでしょう。

創造的なアイデアを生み出せる

コンセプチュアルスキルが高い人は、従来の枠にとらわれず、新しいアイデアや価値を創造する能力を持っています。既存の課題を解決するだけでなく、アイデアを形にし、実現可能な計画として落とし込む能力も、コンセプチュアルスキルを高めることによって鍛えられるでしょう。イノベーションが求められる職種や、新規事業開発の分野では、画期的な解決策を提示したり、創造的なアイデアを生み出したりできる能力が必要とされます。

コンセプチュアルスキルを高めるトレーニング方法

コンセプチュアルスキルを高めるには、単なる知識の習得ではなく、情報を整理し、適切に判断し、新たなアイデアを生み出す力を養うことが重要となります。

ここでは、物事を抽象化・具体化する思考訓練や、MECE・ロジカルシンキングといったフレームワークを活用する方法など、コンセプチュアルスキルの高め方について紹介します。

抽象化と具体化の思考訓練

コンセプチュアルスキルを高めるためには、物事を「抽象化」と「具体化」する思考訓練が効果的です。抽象化とは、個別の事象から共通する要素や本質を見つけ出し、一般的な概念として整理することです。一方、具体化は、抽象的な概念を個別の事例や実際のケースに落とし込んで考えることを指します。

このスキルを鍛えることで、目の前の問題を本質的に理解し、異なる分野でも応用できる能力が身につきます。例えば、マーケティングにおいて「売上が伸びない」という具体的な問題を、「市場の変化に適応できていない」という抽象的な課題として整理し、解決策を探ることが可能になります。

トレーニング方法としては、日常の出来事に対して「これは何を意味しているのか?」と問いながら、共通する概念を見つける習慣をつけることが重要です。また、逆に「この概念を具体的な事例で説明するとどうなるか?」と考えることで、より実践的な視点を持つことができます。こうした思考の訓練を続けることで、ビジネスシーンでの論理的思考力や戦略的な視野が鍛えられるでしょう。

フレームワークを活用する(MECE・ロジカルシンキング)

コンセプチュアルスキルを向上させるためには、論理的に物事を整理できる「フレームワーク」を活用することが有効です。特に、MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive:漏れなくダブりなく)やロジカルシンキング(論理的思考)は、ビジネスの問題解決や意思決定に役立ちます。

MECEは、情報やアイデアを重複なく分けることで、問題を明確にし、整理する方法です。例えば、「商品の売上が低下している理由」を分析する際に、「市場の変化」「競争環境の変化」「社内の販売戦略の問題」といった形で、重複のないカテゴリーに分類することで、より正確な原因分析が可能になります。

MECEについては、以下のコラムで詳しく解説していますので参考にしてください。

コラム「MECEとは|フレームワークの具体例や使い方をわかりやすく解説」はこちら

ロジカルシンキングは、筋道を立てて物事を考える思考法で、主に「演繹法」と「帰納法」に分けられます。演繹法は「一般的なルールから結論を導き出す」方法であり、帰納法は「複数の事例から共通点を見つけ、法則を導く」方法です。例えば、過去のデータを分析して市場の動向を予測する際には、帰納法を活用することで精度の高い意思決定が可能になります。

ALL DIFFERENTでは、ロジカルシンキングの「知識習得」から「職場での継続的な実践・定着」まで全面的にサポートする育成サービスを提供しています。

クリティカルシンキングの習得

クリティカルシンキング(批判的思考)とは、物事を客観的に分析し、論理的に判断する思考法です。単に情報を受け入れるのではなく、その情報が正しいのか、ほかに考慮すべき点はないかを深く考える習慣を身につけることが重要です。

クリティカルシンキングを高めるには、普段から情報の真偽を見極める、情報や結論に対して自分なりに「なぜ?」を繰り返すことなどを習慣付けるとよいでしょう。

例えば、ニュースやレポートを読む際に、情報の出所や根拠を確認するようにします。感情や先入観に流されず、論理的に分析する姿勢が大切です。

また、ある結論に対して、「なぜそうなるのか?」を繰り返し考えることで、問題の本質を捉える力が鍛えられます。例えば、ビジネスの課題を解決する際に、「なぜ売上が下がったのか?」→「なぜ顧客離れが起きたのか?」→「なぜ競合に流れたのか?」と深掘りしていくことで、根本的な問題を明確にできるでしょう。

クリティカルシンキングの高め方やトレーニング、例題などについては以下のコラムで詳しく解説しています。

コラム「クリティカルシンキングとは?意味・例題と実践トレーニング3つのコツ」はこちら

多面的な視点を持つための習慣化

コンセプチュアルスキルを高めるには、1つの物事を多角的に考える習慣を持つことが重要です。問題を1つの側面からではなく、異なる視点から見ることで、より本質的な理解が可能になるからです。

何かの問題について考えるとき、「もし◯◯だったら?」と仮説を立てる習慣をつけましょう。例えば、「もしこの製品のターゲットを若者からシニア層に変えたら?」など、視点を変えることで新たな発見が生まれます。

さらに、異なる立場から物事を見ることも大切です。例えば、顧客・上司・部下・投資家といった異なる立場の人がどう考えるかをシミュレーションすることで、より総合的な判断ができるようになります。

コンセプチュアルスキルの診断テスト・評価の方法

コンセプチュアルスキルは目に見えるものではないため、適切な診断・評価方法を用いることが重要です。

コンセプチュアルスキルをアセスメントする方法としては、ロジカルシンキングや問題解決能力など、関連するスキル・能力の診断テストを行う方法が考えられます。

厚生労働省では、職種の専門性に関わらない職務遂行上のスキルを「ポータブルスキル」と位置付け、ポータブルスキルを測定するツールを無料で公開しています。*1
カッツモデルに従えば、テクニカルスキルを除いたヒューマンスキルとコンセプチュアルを合わせたものがポータブルスキルです。このような診断テストや評価項目を参考にして、コンセプチュアルスキルのセルフチェックや企業での自己診断に役立てるとよいでしょう。

また、一般社団法人日本経営協会では、「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つの領域に関わる10のスキルについて個別診断する「能力自己診断プログラム」を実施しています。*2

コンセプチュアルスキルは多様な構成要素を含んでいるため、セルフチェックや企業の自己診断では評価が難しいと感じるかもしれません。組織開発や人材育成コンサルティング会社などでは、ロジカルシンキングや抽象的思考力など、多面的な評価によりコンセプチュアルスキルを診断するツールやプログラムを提供しています。これらの診断プログラムは、従業員への研修やフィードバックとセットで提供されていることが多いため、経営や人事の方針に合わせて導入するとよいでしょう。

*1 参考:厚生労働省のポータブルスキル見える化ツール

*2 参考:一般社団法人日本経営協会

コンセプチュアルスキルを高める研修・学習方法

コンセプチュアルスキルを高めるためには、継続的な学習と実践が不可欠です。企業や個人がスキル向上を目指す際には、オンライン講座や書籍、社内研修、OFF-JT(Off-the-Job Training)など、様々な学習方法があります。

それぞれの手法を活用しながら、思考力を鍛え、より高度な問題解決能力を身につけていきましょう。

オンライン講座や書籍で学ぶ方法

コンセプチュアルスキルを学ぶうえで、オンライン講座や書籍は手軽に知識を深めることができる方法として人気があります。特に、経営戦略やロジカルシンキング、デザイン思考に関する講座や書籍は、思考の柔軟性を養うのに有効です。

オンライン学習プラットフォームや書籍を選ぶ際には、以下のようなテーマや講座内容で検索するとよいでしょう。

  • ロジカルシンキング(論理的思考の基礎を学ぶ)
  • デザインシンキング(創造的な発想力を鍛える)
  • クリティカルシンキング(批判的思考を強化する)
  • マネジメントスキル(問題解決能力を向上させる)

オンラインの講座は、短時間で知識を習得でき、実践的なワークショップ形式のものも多いため、仕事に活かしやすいでしょう。また、書籍を読むと、コンセプチュアルスキルを体系的に理解しやすくなるというメリットがあります。

社内研修での育成プログラム

企業が組織内でコンセプチュアルスキルを育成する場合、OJTやメンタープログラムを活用して社内研修を行う方法があります。こうした社内での育成プログラムは、実際の業務と関連付けながらスキルを向上させることで、即戦力として活かせる人材育成が可能となる点がメリットです。

OJTは、日々の業務の中で実践的にスキルを磨くトレーニング方法です。コンセプチュアルスキルの育成においては、部門横断プロジェクトに参加させる、業務改善提案の機会を与えるなど、実際の業務に即した形でトレーニングを行うとよいでしょう。

メンタープログラムでは、経験豊富な社員がメンターとして若手社員を指導する方法が考えられます。上司や部下との定期的なディスカッションや、経営層との1on1ミーティングを実施し、部門ごとの成功事例を共有したり、学びの機会を増やしたりするのも効果的です。こういったメンター制度を活用することで、組織としてもメンバー各々の経験を体系化し、次世代のリーダーへとスキルを継承できる可能性が高まります。

OFF-JTの活用

OFF-JT(Off-the-Job Training)とは、職場外で実施する研修やワークショップを指し、実務とは異なる視点でスキルを向上させるために活用されます。コンセプチュアルスキルを高めるには、実際の業務から離れ、より広い視点で物事を考える機会を持つことが重要です。

外部研修では、体系的な知識やノウハウの習得を促すことができます。人事部や経営層からすると、評価や育成効果が均一化され、OJTと比べて現場の負担が軽減できる点もメリットです。

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