人材育成とは?主な手法と階層別課題、役立つ理論・フレームワーク

update更新日:2025.01.23 published公開日:2021.02.01
人材育成とは?主な手法と階層別課題、役立つ理論・フレームワーク
目次

人材育成とは、人と組織の能力や総合力を高めることを意味します。企業における人材育成の目的や手法は様々であり、育成目的に応じた手法の使い分けが重要です。

本コラムでは、人材育成の定義や目的、主な手法、よくある階層別課題に加えて、人材育成計画の立て方、理論・フレームワーク、企業の成功事例などをわかりやすく解説します。

人材育成とは?定義と目的、人材開発や教育訓練との違い

人材育成の大きな意味合いは、何となくご存じの方も多いでしょう。ただ、「なぜ人材を育成するのか」と問われると、答えにくいかもしれません。

まずは人材育成とは何かについて、その定義と目的、「人材開発」「教育訓練」との違いを見ていきましょう。

人材育成の定義

人材育成とは、文字通り「人材を育成すること」です。しかし、その意義まで考えると、企業によって異なる意味合いとなるでしょう。

数々の企業の人材育成を支援しているALL DIFFERENTでは、「人と組織のケイパビリティを高めること」と定義しています。ケイパビリティとは、一般的には能力や才能、組織の総合力を意味します。現在の状況だけでなく、将来にわたる可能性・発展性・成長性というニュアンスも含むものです。

よって、簡単にいえば、人材育成とは「人と組織の力を高めて、可能性を広げること」と定義できます。

人材育成の主な目的

企業の人材育成における最も大きな目的は、企業活動や売上、経営に貢献する人材を育成することです。具体的には、企業の存続とミッション・ビジョン、経営目標の実現に寄与する人材の育成です。

これを部門・部署、あるいはチームごとに期待される役割に落とし込むと、その組織・チームの人材育成の目的となります。

人材育成の施策例は、現場の業務遂行に必要な知識・スキルを習得する施策と、働きやすい職場づくりや優秀な社員の離職防止のための施策という2つに大別されます。

人材育成と人材開発、教育訓練の違い

人材育成と同様に「人材開発」「教育訓練」という言葉を聞いたことがあるビジネスパーソンは多いでしょう。

人材育成と人材開発の違いは、定義の仕方によって異なります。ALL DIFFERENTでは、人材開発とは「社員の内側にある能力を引き出し、対象者の成長を促進させる取り組み」としています。ただし、企業によって「人材育成は新人や若手社員が対象」「人材開発は、全従業員が対象」としているケースもあれば、「大きな違いはない」としているケースもあります。

一方、「教育訓練」とは、その人材が獲得していない能力を習得させる取り組みのことです。行政の施策や助成金制度などでよく見られる言葉で、厚生労働省の「教育訓練給付制度」などが代表例です。*
同制度の目的や給付対象講座の例を見ると、体系的に知識や技術を身につける取り組みというイメージが近いでしょう。

人材育成と教育訓練の違いは、人材育成においては日常業務に関わるスキル向上やノウハウ習得なども施策に含む点です。

以上から、人材開発も教育訓練も、人材育成の下位概念であるといえます。

*参考:厚生労働省|教育訓練給付制度

人材育成の5つの手法

人材育成の手法には、主に以下の5つがあります。

  • 部署配置・ジョブローテーション
  • OJT
  • Off-JT
  • サクセッションプラン
  • 自己啓発支援

2つ以上を組み合わせて用いる場合もあれば、単独で実施する場合もあります。

部署配置・ジョブローテーション

1つめは、部署配置やジョブローテーションです。定期的に職場の異動や職務変更を行うことで、多くの業務を経験させる点が特徴です。日本企業で広く採用されている手法で、特に社内ゼネラリストの育成を重視する企業において活用されます。

異動・職務変更の期間は、育成対象者や育成目的によって異なります。例えば、新卒社員であれば数カ月単位の比較的短い期間で、管理職や幹部候補であれば、数年単位で実施することが多いでしょう。

現場で業務を経験しながら学ぶため、一般的には、次に述べるOJTと組み合わせて行われます。

OJT(On the Job Training)

2つめのOJT(On the Job Training)は、現場の人材育成で最も多く行われる人材育成の手法です。

OJTの特徴は、現場の実務の中で知識やスキルを習得していく点。主に新人・若手社員を対象に、期限・到達目標・手段を体系的に整理したうえで、徐々に業務の難易度を上げながら実施します。

育成対象者を指導するOJTトレーナーの役割は、管理職や先輩社員(中堅社員など)が担います。これにも「部下・後輩指導によって教える側の学びを促進する」という効果があります。

Off−JT(Off the Job Training)

3つめは、Off-JT(Off the Job Training)です。研修やセミナーなどのように業務から離れて学ぶ手法です。一般的には、年次・職種・職位別に、定期的に実施します。注意点は、目的に応じた方法を選択しなければ十分な効果を得られないことです。

以下が、Off-JTの主な種類と目的です。

【Off-JTの種類と目的】

種類 実施例 主な目的 特徴
講演会型

講習会

講演会

シンポジウム

体系的な知識の獲得 主に講師の話を聴講する
参画型

プロジェクト

研究会

実践を通じた知識・スキルの獲得 特定の目的をもつチームに入って活動する
フィールド型

実地研修

工場見学

実務能力の向上 実際に現場を訪れて知識・スキルを習得する

例えば、講演会型で体系的な知識を習得したあと、参画型やフィールド型で実践的な知識・スキルを習得するという流れにすれば、インプットとアウトプットをバランス良く組み合わせられるでしょう。

もちろん、これらとOJTを連動させることで、育成対象者の学びをより加速させることもできます。

サクセッションプラン

4つめの「サクセッションプラン」は、もともとCEOの後継者を選定・育成する「後継者育成計画」の意味でした。しかし、近年はよりニュアンスが拡大し、経営幹部や管理職などの重要ポジション(キーポスト)の後任となるリーダーを育成・確保する計画という意味合いになっています。

サクセッションプランは、企業存続と発展のための人材育成施策ですので、一般的な施策とは異なり、人事部門よりも経営層の関与が強い点が特徴です。

具体的には、

  • リーダーシップ養成研修や経営層に求められる知識(財務、マーケティングなど)を習得する研修といったインプットのための施策
  • 部門内の業務効率化や戦略設定・実行といった問題解決能力向上のための施策
  • ジョブローテーションやストレッチアサインメントなど、調整する機会を与えるための施策

などを盛り込みます。

自己啓発支援

そして5つめは、「自己啓発支援」です。自己啓発とは、本人の意志によって行われる能力開発や精神面の成長を目的とした取り組み。オンラインの動画研修サービスを導入し、社員がいつでも利用できるようにするといった施策が典型例です。

ただ、自己啓発は従業員の自主性に任せる部分も大きくなります。そのため、

「忙しくて時間がない」

「費用がかかりすぎる」

「何に取り組めばいいのかわからない」

といった問題が発生するでしょう。こうした育成対象者の課題にしっかり答えることが、自己啓発支援の成功の鍵です。

具体的には、次のような施策が考えられます。

【自己啓発支援における課題と対策】

課題例 対策
忙しくて時間がない
  • 業務負担を減らす
  • 特定の日の時短勤務を認める
  • 通勤時間やすき間時間を活用しやすいオンライン学習の導入・案内を行う
費用がかかりすぎる
  • 書籍購入補助、検定の受検料補助、講座の受講費補助などの金銭的援助を行う
  • 経済産業省の「リスキル講座」や厚生労働省の「教育訓練給付制度」「人材開発支援助成金」といった制度を活用する
何に取り組めばいいのかわからない
  • 評価面談などで求められるスキルを提示する
  • 具体的なキャリアプラン、キャリアパスを話し合う
  • 「あるべき姿」と現状のギャップを認識する機会を与え、取り組むべき課題の明確化を図る

「どうすれば主体的に学べるのか」という観点で環境整備を行いましょう。

人材育成の目的・目標に関わる階層別の課題

人材育成の目的・目標の設定には、よくある階層別の課題も参考になります。

近年の外部環境の激しい変化により、事業・製品のライフサイクルは短期化し、組織のスリム化・フラット化も進んできました。雇用する人材や雇用形態も多様化しています。そして何より、テクノロジーの変化への対応が喫緊の課題となっている企業も多いでしょう。

これらの背景から、現在は次のような課題が増えています。

【階層別の課題一覧】

階層 課題
管理職層
  • 成果要求の高まり
  • 育成意識と育成スキルのバラツキ
  • 過去の育成手法が通用しないことによる戸惑い
ベテラン層
  • 変化への対応スピードの遅れ
  • 過去の成功体験のアンラーニングの遅れ
  • 学びの習慣化の不足
中堅層
  • 成果要求の高まり
  • 業務負担の増加と後輩育成時間の不足
  • リーダーシップ不足
若手・新人層
  • “一人前”になるまでの期間短縮要求の高まり
  • 職場の人員構成のアンバランス(少ない先輩・トレーナー)
  • 失敗から学ぶ機会の減少

管理職層における「育成意識と育成スキルのバラツキ」については、部下育成に関わる知識・スキルを習得する研修の実施が有効です。若手・新人層に見られる「職場の人員構成のアンバランス」については、採用活動に力を入れると同時に、中間層やベテラン層に対して後輩育成スキルの向上を図る研修を行うとよいでしょう。

このように、代表的な課題と自社の状況を突き合わせながら施策を考えていくと目的が明確になり、具体的な人材育成計画を立てやすくなります。

階層別の人材育成についてまとめた比較一覧表もご用意しておりますので、ぜひ施策の具体化にお役立てください。

<階層別育成比較表>のダウンロードはこちらから

人材育成で大切なこと

効果的な人材育成施策には、目的と手法の整合性、育成対象者と周辺のメンバーの理解など、様々な要素が関わっています。複雑に絡み合うこれらの要素を上手に扱うために、5つのポイントをおさえましょう。

持続可能な体系的教育

人材育成は、本来長期にわたって段階的に実施するものです。短期的・場当たり的なやり方では、育成対象者が十分に動機づけられず、学んだあとの実践サポートも困難でしょう。

一貫した持続的な人材育成施策を行うには、階層・役割ごとの人材要件の確認と、人材要件を満たすための育成計画策定が重要です。

学習内容を実践につなげるサポート体制

研修などで吸収した知識・スキルを実践につなげるためのサポート体制も築いておきましょう。具体的には、現場の上司への共有と一貫した指導です。

ロンバルドとアイチンガーによれば、ビジネスパーソンの学びは7割が仕事の経験によるとされています。つまり、研修などの内容を定着させるには、対象者に対して積極的に仕事を割り振り、学びを活かせる機会を作らなければなりません。

そのためには、管理職やOJTトレーナーが育成対象者の学習内容を正しく把握できる体制が必要です。

“人を育てる人”の育成

人材育成に悩む企業の中でしばしば聞かれる声に、「適した人材育成担当者がいない」というものがあります。主な理由は、育成スキル不足と多忙です。

こうした課題の解決は、管理職やOJTトレーナーが単独でできるものではありません。人事部門や経営層が関与して

  • 優先すべき事項を決定する
  • 既存業務の低減(業務効率化や外注)を図る
  • 会社として管理職やOJTトレーナーに期待する役割を明確に伝える

などの対策を実施しましょう。

外部研修なども活用しながら、自社の“人を育てる人”を積極的に育成することが、企業全体の成長につながります。

学びと成長の見える化

人材育成施策は長期にわたるものであり、育成対象者も時間をかけて成長していきます。その中で、ときには「本当に成長しているのだろうか」と疑問を感じる場面が出てくるでしょう。

ここで重要な施策が、“学びと成長の見える化”です。例えば、ALL DIFFERENTがご提供しているビジネススキル診断テスト「Biz SCORE」シリーズでは、数値化が難しいとされてきた様々なビジネススキルを定量的に診断することができます。誰の目で見ても誤解の余地がなく、各人のスキルレベルの測定と成長、必要な学びの選定に役立ちます。

また、定量的な評価は、人事評価制度や目標管理制度への反映にも有用です。現場の育成担当者が抱きやすい「頑張って部下・後輩を育成しているのに、育成関連の評価項目がなく、給与やポジションに反映されない」といった不満を解消するためにも、育成関連項目を制度に導入し、納得感のある評価を行いましょう。

関連サービス<Biz SCORE Basic>の詳細はこちら

経営層・部門責任者・人事部門の連携

そして、経営層・部門責任者・人事部門との連携も欠かせません。人事部門や現場の育成担当者からよく聞かれる悩みが、「経営者の理解が得られず、施策が途中で頓挫してしまった」「部門責任者が育成施策に懐疑的で、現場社員も後ろ向きになってしまった」というものだからです。

経営層・部門責任者を巻き込むには、できる限り早い段階で施策についての積極的な情報発信と提案活動を行うとともに、育成施策実施後の報告を行いましょう。施策についての情報発信と提案では、企業のミッション・ビジョンを実現するうえでの人材育成の位置づけを説明し、三者間で共通認識をつくる対話が重要です。

人材育成計画の立て方

では、いよいよ人材育成計画の立て方に話を進めていきましょう。人材育成計画作成のステップは5つあります。

  1. (1)自社に必要な人材要件を確認する・見直す
  2. (2)人材育成の目的と対象者を明確化する
  3. (3)育成対象者の現状を把握する
  4. (4)課題解決に向けた育成施策内容・手法を決定する
  5. (5)人材育成計画を周知し、メリットも説明する

1つずつ解説します。

(1)自社に必要な人材要件を確認する・見直す

まずは、自社が求める人材の「あるべき姿」を確認しましょう。

ここで必要となるのは、具体的な人材要件です。人材要件は、主に以下の項目で構成されます。

【人材要件の5項目】

要件 ポイント
年齢
  • 企業の継続的な発展のため、どの世代にも人材がそろうようにする
業務経験
  • 階層ごとに望ましい業務経験を定義する
  • その業務経験を積めるよう、人材育成施策を実施する
能力・資質・意欲
  • 階層ごとに求められる具体的な知識・スキルの内容やレベルを定義する
  • 自社のミッション・ビジョンと連動させる
  • これらの知識・スキルを習得できるよう、人材育成施策を実施する
資格・免許
  • 業種に応じて、業務遂行に必要な資格・免許の取得を選定する
  • 人材育成施策として、取得支援を行う
雇用形態
  • 従事する業務内容と雇用形態の対応関係を確認したり、見直したりする
  • 業務内容や雇用形態に応じて、人材育成施策の内容を調整する

人材要件は採用活動で注目する場合が多いかもしれません。しかし、企業が最終的に求める人材の姿は、既存社員に対しても同じです。今いる人材の成長にとっても、人材要件は大切な土台なのです。

(2)人材育成の目的と対象者を明確化する

次に、人材育成の目的と対象者を明確にします。

誰を育成対象とするかによって目的は異なりますし、目的に応じて育成対象の範囲を設定し直す必要もあるでしょう。両者は不可分の関係にありますので、「企業として、誰にどうなってほしいか」を十分に検討することが大切です。

例えば育成対象者から考える場合、新卒の新入社員なら、報連相やあいさつの仕方、名刺の渡し方、電話応対・来客対応、上座・下座の区別などを知っておいてもらわなければなりません。会社の一員として働くための知識(ルール、ミッション・ビジョン、事業や商品・サービスの概要など)の習得も必要です。

反対に目的から考える場合、組織のマネジメントに課題が見られるのであれば、育成対象者は管理職となります。一般的には、組織マネジメントスキルの強化、ハラスメント研修、上位計画と連動したアクションプランの作成スキル向上などの施策を行わなければなりません。

(3)育成対象者の現状を把握する

人材育成の目的と対象者を十分に検討して定めても、一方的なやり方では育成効果がうまく発揮されない可能性があります。

そこで、具体的な施策の内容を決定する前に、

  • 育成対象者自身が抱える課題・悩みのヒアリング
  • 周囲の人々(上司や部下)から見た課題のヒアリング
  • 本人がもつ現在の知識・スキルのレベルの定量的把握

を行いましょう。

これらの把握により、スタートポイントを明確化し、本人のニーズや状況に合った無駄のない育成が可能となります。施策への納得感や理解も深まり、積極的に参加してくれるようになるでしょう。

なお、育成対象者の上司は、仕事の割り振りや就業時間への配慮を行える立場にあります。育成にかけられる時間の擦り合わせなどを十分に行い、協力を求めましょう。

(4)課題解決に向けた育成施策内容・手法を決定する

目的と対象者、課題と施策の方向性が定まったら、具体的な施策内容と手法を決定します。

まずは大枠としてOJTかOff-JTか、あるいは自己啓発支援かを決めるとよいでしょう。OJTの場合は、現場の上司や先輩社員を巻き込み、OJTトレーナーの状況も踏まえてゴール・取り組み内容・レベル・期限などを決めます。

Off-JTの場合は、講演会型・参画型・フィールド型のいずれかによって、準備すべき内容が異なります。講演会型は講師とプログラム、会場の準備が必要ですし、フィールド型では見学や実習を受け入れる部署との日時・担当者・内容の調整が欠かせません。参画型の場合は、定期的にメンバーが集まって活動できる時間と場所の確保が不可欠です。

自己啓発支援の場合は、どのような学習リソースがあるのかを育成対象者に提示しなければなりません。事前にオンライン講座や教材を提供するサービスと契約したり、会社として推薦する書籍・講座の一覧表、具体的な支援内容をまとめたりしておきましょう。

先述した種類と主な目的の一覧を活用しつつ、「どの手法が一番効果的か」を見定めながら、最終目標と中間目標を具体化してください。

(5)人材育成計画を周知し、メリットも説明する

最後に、人材育成計画を社内に周知しましょう。人材育成の効果を高める一番の方法は、育成対象者自身の準備や心構えを促すこと。施策の目的に対する納得感、今後取り組むべき内容の理解が重要です。

育成対象者の学びとの食い違いを防ぐため、人材育成計画の内容を対象者の上司にも必ず共有します。育成施策を実施することが組織にとってどのようなメリットになるのか、学習・訓練にかかる時間確保の必要性、育成対象者が実際に学習する内容などです。

ただ、以上のような手順を自社だけで進めるには、時間や人手の面で難しい場合があるかもしれません。そのようなときは、ALL DIFFERENTが作成した「業界別 教育体系 無料サンプル」をぜひご活用ください。資料にない業界でも、自社に合う形でカスタマイズしてご活用いただけます。

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人材育成で使える理論・フレームワーク3選

より効果的な人材育成を行うには、学習・教育に関する理論やフレームワークが役立ちます。今回は、そうした多数の理論・フレームワークから厳選した3つの理論・フレームワークである「経験学習モデル」「行動変容ステージモデル」「社会人基礎力」をご紹介しましょう。

経験学習モデル

「経験学習モデル」とは、経験したことを効果的に学びへ転換するための理論・フレームワークです。経験を通じて学びを進めるもので、デイビッド・コルブが提唱しました。具体的には、次の4つのプロセスにより学習サイクルを回していきます。

【経験学習モデル】

プロセス 概要
具体的経験 育成対象者の能力よりも少し高いレベルの業務を与える(ストレッチアサインメント)
内省的観察

具体的経験を多面的に振り返る

「具体的にどのような行動をしたのか。それはなぜか」

「成功/失敗したことは何か。それはなぜか」など

抽象的概念化

内省的観察で得られた気づきをもとに、次の具体的な行動を明確にする

教訓の抽出やルールの設定、「次はどうすればよいか」など

能動的実験

抽象的概念化で得られた学びを実践で試してみる(教訓やルールを具体的な行動に結びつけて実践してみる)

これが新しい「具体的経験」となり、4つのプロセスのサイクルが回っていく

経験学習モデルを人材育成施策に応用する場合、特にOJTでの活用が効果的です。育成対象者の知識・スキルレベルを事前に測定し、それよりも少しだけ高いレベルの業務を与えて、業務終了時にフィードバック面談を行うという流れです。フィードバック面談では、内省的観察や抽象的概念化を指導者が支援しながら進めましょう。

Off-JTの場合でも、研修終了後から次の研修開始時までに取り組む“宿題”を与えることで、経験学習モデルを回すことができます。この場合、宿題で具体的経験を積み、研修の中で内省的観察・抽象的概念化を行います。グループディスカッションによって他の受講者から意見をもらえれば、相互の学び合いにより深い気づきを得られるでしょう。

行動変容ステージモデル

「行動変容ステージモデル」とは、プロチャスカによって提唱された行動変容を促す理論・フレームワークです。もともとは禁煙やアルコール依存症の治療など、生活習慣の改善を目的として活用されてきましたが、人材育成にも応用できるモデルとなっています。

行動変容ステージモデルを活用するには、下表のような点に気をつけるとよいでしょう。

【行動変容ステージモデル】

ステージ 本人の状態 育成担当者による支援
第1ステージ
前熟考期
まだ課題が明確でなく、新しい取り組みに対しても無関心
  • 会社からの期待を伝え、現状とのギャップ、課題に気づいてもらう
  • 行動を変えるメリット、変えないデメリットを伝える
第2ステージ
熟考期
課題を認識し始め、どうするべきか考える
  • 本人が「自分で決めた」「自分で宣言した」という自己決定感を得られるようにする
  • 自身の課題に対して取り組むべき「新しい行動」は何かを本人と話し合う
第3ステージ
準備期
課題が明確になり、課題解決に向けて準備やトライアルを行う。徐々に前向きな姿勢が見られるようになる
  • 本人が毎日実践することを目標としたトライアル期間を設け、短い間隔で振り返りを行う
  • 周囲から声かけを行ってもらえるよう協力を仰ぐ
第4ステージ
実行期
準備期で試しに行ったことに対して、本格的に取り組み、行動変容による成功体験を得る
  • 本人の変化や成功体験を実感できるよう、ポジティブなフィードバックを行う
  • 行動の継続を支援する
第5ステージ
維持期
行動が定着するよう意識して行動する
  • 本人が実践してきたことを他者に語る場を設定し、言語化を促す
  • 周囲の反応から自己効力感と行動継続のモチベーションを得られるようにする
  • 行動の継続、習慣化を支援する

行動変容ステージモデルは、こうした5つのステージを行ったり来たりしながら、本人の行動変容を試みる仕組みです。「行ったり来たりする」という点を育成担当者が知っているだけでも、成果を急がず、じっくり人材育成に向き合うことができます。

育成対象者本人にとって、行動変容を求める人材育成施策は、戸惑いや課題の理解に困難を感じることが多いもの。行動変容ステージモデルにしたがって段階的に学習内容を設定することで、より納得してもらいながら進められるでしょう。

社会人基礎力

「社会人基礎力」とは、経済産業省が2006年から提唱している概念です。「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として、3つの能力と、12の能力要素を定義しています。

【経産省が定める社会人基礎力】

能力 能力の概要 能力要素 能力要素の意味
前に踏み出す力
(アクション)
一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力 主体性 物事に進んで取り組む力
働きかけ力 他人に働きかけ、巻き込む力
実行力 目的を設定して確実に行動する力
考え抜く力
(シンキング)
論理的に答えを出すこと以上に、自ら課題提起し、解決に向けたシナリオを描く、自立的な思考力 課題発見力 現状を分析し、目的や課題を明らかにする力
計画力 課題解決に向けたプロセスを明らかにし、準備する力
創造力 新しい価値を生み出す力
チームで働く力
(チームワーク)
目標達成に向けて、グループ内の協調性だけでなく、多様な人々とのつながりや協働を生み出す力 発信力 自分の意見をわかりやすく伝える力
傾聴力 相手の意見を丁寧に聴く力
柔軟性 意見や立場の違いを理解する力
状況把握力 自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力
規律性 ルールや約束を守る力
ストレスコントロール力 ストレスの発生源に対応する力

経済産業省は、それぞれの人が自身の能力・状況を認識し、振り返りながら、「どう活躍するか」「どのように学ぶか」「何を学ぶか」のバランスを取りつつ、能力向上とキャリア形成につなげることを重視しています。*

*参考:経済産業省|人生100年時代の社会人基礎力

人材育成施策の企業成功事例

本コラムの最後に、ALL DIFFERENTが人材育成をご支援した企業の中から3社の事例をご紹介します。世代間の育成方法のギャップ、人材育成における拠点間格差や社員の定着率の低迷、経営層の巻き込みといった点に課題を感じている方は、ぜひご覧ください。

製造業における指導力向上

1つめの事例は、製造業における指導力向上です。「背中を見て覚えろ」という価値観から、業務の「標準化」へのシフトに成功しました。

人材育成における課題

同社の課題は、「新入社員への指導方法がわからない」というものです。

要因は、2つありました。1つは、ベテラン社員が「背中を見て覚えろ」で育った世代であること、もう1つは、長年若手がいない職場だったことです。

職人気質が強く、「目で見て、感覚で覚えろ」といった指導が中心でした。

解決策

新入社員に対する指導のノウハウを獲得するには、指導者としての知識・スキルだけでは不十分です。

そのため、そもそもの仕事の進め方、コミュニケーションの取り方など、ビジネスやマネジメントの基本知識・スキルの習得ができる仕組みづくりを行いました。

人材育成施策の結果

こうした取り組みにより、全社員にとっての「当たり前」の基準が向上するなど、知識・スキルの向上がまずは見られました。

さらに、工場では「標準化」の動きも。誰でも同じ作業ができるよう、作業手順書を作成して業務を指導。解釈の個人差が生じない、誰にとってもわかりやすい指標を用いて文書化することで、新入社員であっても基準を満たせる作業を再現できるようになりました。社内の技術伝承にも、こうした施策が寄与しています。

参考事例「社員一人ひとりの学びで、会社の"当たり前基準"を上げる」の詳細はこちら

システム開発業における全社横断型人材育成

2つめの事例も、製造業の企業です。こちらの会社では、人材育成施策として内製する方針だった研修プログラムや実施に課題がありました。

人材育成における課題

同社の主な課題は、人材育成の拠点間格差と社員の定着率です。

研修は内製の方針でしたが、全拠点で全階層を対象に研修プログラムを内製することは難しく、拠点間格差が発生していました。

また、事業拡大を目指して必要な人員確保のための採用活動にも力を入れていましたが、社員の定着率が思わしくなく、課題となっている状況を打破することができませんでした。

解決策

こうした2つの課題の解決に向けて実施したのは、勤務地を問わず、全社員が共通のカリキュラムを受講できる環境の整備です。

そのために、まずは全社横断の体系的な育成の仕組みを構築。外部の公開型研修・動画研修の導入により、どの拠点の社員であっても必要な研修をしっかり受けられるようになりました。

また、従来は若手向けの研修のみが実施されていたため、新たに管理職やスタッフ職など、職階・職種に適したプログラムも導入。ほぼ全ての社員が研修を受講できるような体制を整えました。

人材育成施策の結果

育成担当者の方によれば、外部の研修サービスを導入することで、職階・職種を問わず仕事に必要な研修の受講が可能となり、社内の体系的教育制度構築の大きなきっかけを作ることができたとのこと。初年度には約8割の社員が年2回の研修受講目標を達成し、2年目においても、半期の時点で約半数の社員が研修の受講を終えたそうです。

一連の施策が、社内における「学びの必要性」の啓蒙にも役立ったとしています。

参考事例「全社横断のヒューマンスキルの教育体系を構築できた」の詳細はこちら

情報通信業における経営層の意識変革

最後の事例は、情報通信業の企業における人材育成です。経営層や管理職の「チーム」への意識が希薄であることから、職務内容に関する課題が発生していました。

人材育成における課題

同社の課題は、組織の機能不全や退職予備軍の増加です。その根本的な原因には、経営者・幹部・管理職における「チームをつくる」という意識・知識・スキルの希薄さ。さらに、チームを意識しない経営が「役職者としての仕事ができない」といった組織の機能不全を招き、社員のエンゲージメントやモチベーションを下げ、退職予備軍を増やす結果となっていました。

解決策

1つめの解決策は、「対話を重ねて信頼関係を築く」ことです。3人で創業した同社でも100人超にまで成長すると、チームビルディングが欠かせません。チームビルディングには、指示の出し方や言葉の選び方、そして何よりメンバー間の信頼関係が重要。そのため、経営層を対象に“個人力経営”から脱却するためのマネジメントトレーニングを実施しました。

2つめは、役職の転換点を捉える「リーダーシップパイプラインモデル」の導入です。リーダーシップパイプラインモデルとは、一般社員から係長、課長、部長、役員などへステップアップする際に生じる転換点や課題を抽出し、解決にむけた適切な方法を組織全体で設計すること。これにより、「取締役が係長の仕事をする」という事態を解消するリーダー育成システムを構築しました。

人材育成施策の結果

「対話を重ねる」トレーニングは、課題の表層的な部分のみでなく、課題の背景を深掘りすることにつながりました。互いに忌憚(きたん)なく意見を出し合いつつも、まずは「相手の話を“聴く”こと」「一回は受け止める」ことを共通認識とし、より活発な意見交換につなげられました。

リーダーシップパイプラインモデルについては、導入後に役職に応じた仕事の分担が可能に。例えば、新人教育について役職者が「(自分の)時間がない」と判断していたものが、「部下に任せて育成する」という権限委譲の考え方に変化しています。経営層の意識改革により組織全体も大きく変わりました。

参考事例「幹部向けマネジメントトレーニングで経営陣の意識を変革。
対話と信頼関係を軸に"異才一体"の実現を目指す」の詳細はこちら