人材育成とは?人材育成で大切なことや成功事例、マネジメントの考え方を解説
更新日:2025.11.12
公開日:2021.02.01

人材育成とは、会社が社員の能力やスキルを高めることを意味します。
人材育成では課題や目標設定を明確にして計画を立てることが大切です。
本コラムでは、人材育成の定義や目的、人材育成で大切なことや成功事例などをわかりやすく解説します。
人材育成とは何か【基本の考え方】
人材育成の大きな意味合いは、何となくご存じの方も多いでしょう。ただ、「なぜ人材を育成するのか」と問われると、答えにくいかもしれません。
まずは人材育成とは何かについて、その定義と目的、「人材開発」「教育訓練」との違いを見ていきましょう。
人材育成の定義や英語の表現
人材育成とは、社員が自社で活躍し続けるために必要な知識やスキル、マインドを計画的に伸ばしていく活動を指します。なぜ重要かというと、企業の成長には優秀な人材の存在が欠かせないからです。
例えば、新入社員には基本的な業務スキルを、中堅社員にはリーダーシップを育む機会を提供することが挙げられます。こうした取り組みにより、社員が自分の可能性を最大限に発揮できるようになります。人材育成は、企業の未来を支える重要な投資です。
人材育成という言葉を英語にする場合には、一般的には「human resources development」、より具体的な研修やトレーニングを表す「personnel training」「employee training」などの言葉が使われます。
「human resources」とは、人を企業の大事な資本「人的資本」と捉え、人と組織のケイパビリティを重視した考え方であると言えます。
人材育成の主な目的と重要性
企業の人材育成における最も大きな目的は、企業活動や売上、経営に貢献する人材を育成することです。具体的には、企業の存続とミッション・ビジョン、経営目標の実現に寄与する人材の育成です。
ビジネス環境が激しく変化している現代で、企業が生き残るために人材育成は欠かせない戦略になっています。
人材育成を戦略的に行い、社員に新しい知識やスキルを習得させなければ、企業に必要な生産性や競争力を確保できなくなっているのです。
さらに、人材獲得競争が激化している中で、育成に力を入れることで社員の満足度や定着率が向上し、優秀な人材の流出を防げるというメリットもあります。
企業が持続的に成長し競争力を高めるために、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出す人材育成が求められています。
人材育成と人材開発、教育訓練の違い
人材育成と人材開発、教育訓練は似ていますが、目的と範囲に違いがあります。
人材育成は、日常業務に必要なスキルだけでなく、主体性や考える力など幅広い成長を支援します。一方、人材開発は将来の管理職や専門職など、長期的視点で人材の能力を高める活動を指します。
「教育訓練」とは、特定の業務や技能の習得に重点を置いた短期的な指導のことです。
人材育成と教育訓練の主な違いは、教育訓練が限定された技能やスキルを身につける取り組みなのに対し、人材育成では広範囲のスキル向上やノウハウ習得なども施策に含む点と言えるでしょう。
人材育成の具体的な方法と進め方
人材育成を効果的に進めるには、目的に応じて適切な方法を選ぶことが重要です。
人材育成の主な手法には、OJT、Off-JT、自己啓発の3つがあり、これらの手法を組み合わせることで、即戦力を育成し、社員の自信や意欲を高めることができます。
| 手法 | 概要 |
|---|---|
| OJT | 実際の業務を通じてスキルや知識を習得する |
| Off-JT | 職場以外の場所でスキルや知識を習得する |
| 自己啓発 | 社員が自らの意思でスキルや知識を習得する |
ここでは、それぞれの特徴と進め方について具体的に解説します。
OJT(On the Job Training)の例とメリット
OJTは、実際の業務を通じてスキルや知識を習得する方法です。例えば、新人社員が先輩と一緒に業務を行い、直接指導を受けるケースが挙げられます。
OJT(On the Job Training)は、現場の人材育成で最も多く行われる人材育成の手法です。業務知識や技術は、実際の業務経験からでないと学べないことが多くあります。
OJTでは現場での経験を通じて即戦力が身につきます。主に新人・若手社員を対象に、期限・到達目標・手段を体系的に整理したうえで、徐々に業務の難易度を上げながら実施するのがポイントです。
育成対象者を指導するOJTトレーナーの役割は、管理職や先輩社員(中堅社員など)が担います。これにも「部下・後輩指導によって教える側の学びを促進する」という効果があります。
OJTの重要性や効果的なやり方については、以下のコラム記事にまとめていますので参考にしてください。
コラム「OJTとは?意味・目的・メリット、“放置”を防ぐ進め方のポイント」はこちら
Off-JT(Off the Job Training)の例と進め方
Off-JTは、職場を離れて研修や講座に参加し、知識や技術を体系的に学ぶ方法です。例えば、ビジネスマナー研修やマネジメント研修、外部セミナーなどがあります。
Off-JTのメリットは、現場では得にくい専門的な知識を補える点です。理論と実践のバランスを整え、社員の視野を広げたり、業務だけに偏らない幅広いスキルを身につけられたりする点が大きな魅力です。
Off-JTは、年次・職種・職位別に、定期的に実施するのが一般的です。目的に応じた方法を選択しなければ十分な効果を得られないので注意しましょう。
以下が、Off-JTの主な種類と目的です。
【Off-JTの種類と目的】
| 種類 | 実施例 | 主な目的 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 講演会型 |
講習会 講演会 シンポジウム |
体系的な知識の獲得 | 主に講師の話を聴講する |
| 参画型 |
プロジェクト 研究会 |
実践を通じた知識・スキルの獲得 | 特定の目的を持つチームに入って活動する |
| フィールド型 |
実地研修 工場見学 |
実務能力の向上 | 実際に現場を訪れて知識・スキルを習得する |
例えば、講演会型で体系的な知識を習得したあと、参画型やフィールド型で実践的な知識・スキルを習得するという流れにすれば、インプットとアウトプットをバランス良く組み合わせられるでしょう。
もちろん、これらとOJTを連動させることで、育成対象者の学びをより加速させることも可能です。
Off-JTの研修のやり方や具体例などについて、以下のコラム記事も参考になります。
コラム「Off-JTとは?OJTとの違い、Off-JT研修のやり方や具体例を解説」はこちら
自己啓発の例と進め方
自己啓発は、社員が自らの意思でスキルや知識を高める取り組みです。なぜ大切かというと、自主性を育み、長期的な成長を促進するからです。
例えば、資格取得の勉強や語学学習、外部講座の受講などがあります。これにより、業務に必要な能力だけでなく、キャリア全体を支える力が養われます。
ただ、自己啓発は従業員の自主性に任せる部分も大きくなります。
そのため、
「忙しくて時間がない」
「費用がかかりすぎる」
「何に取り組めばいいのかわからない」
といった問題が発生する可能性があります。
企業や人事部が、こうした育成対象者の課題にしっかり答えることが、自己啓発支援の成功の鍵です。
具体的には、次のような施策が考えられます。
【自己啓発支援における課題と対策】
| 課題例 | 対策 |
|---|---|
| 忙しくて時間がない |
業務負担を減らす 特定の日の時短勤務を認める 通勤時間やすき間時間を活用しやすいオンライン学習の導入・案内を行う |
| 費用がかかりすぎる | 書籍購入補助、検定の受検料補助、講座の受講費補助などの金銭的援助を行う 経済産業省の「リスキル講座」や厚生労働省の「教育訓練給付制度」「人材開発支援助成金」といった制度を活用する |
| 何に取り組めばいいのかわからない | 評価面談などで求められるスキルを提示する 具体的なキャリアプラン、キャリアパスを話し合う 「あるべき姿」と現状のギャップを認識する機会を与え、取り組むべき課題の明確化を図る |
企業側が、「どうすれば社員は主体的に学べるのか」という観点で環境整備を行うことが大切です。
人材育成で大切なこととは?
効果的な人材育成施策には、目的と手法の整合性、育成対象者と周辺のメンバーの理解など、様々な要素が関わっています。
複雑に絡み合うこれらの要素を上手に扱うために、以下のようなポイントをおさえておきましょう。
持続可能な体系的教育
人材育成は、本来長期にわたって段階的に実施するものです。短期的・場当たり的なやり方では、育成対象者が十分に動機付けられず、学んだあとの実践サポートも困難でしょう。
一貫した持続的な人材育成施策を行うには、階層・役割ごとの人材要件の確認と、人材要件を満たすための育成計画策定が重要です。
学習内容を実践につなげるサポート体制
サポート体制を整えることは、育成効果を最大化する大切なポイントです。
研修などで吸収した知識・スキルを実践につなげるためのサポート体制も重要です。
研修で学んだことを実際の仕事にどう応用するかは、個人だけで解決するのが難しいものです。
例えば、研修後に上司や先輩が定期的に面談を行い、実践状況を確認しフィードバックする仕組みなどを用意しましょう。
また、このような仕組みを十分に機能させるためには、管理職やOJTトレーナーが育成対象者の学習内容を正しく把握できる体制も必要です。
育成対象者に対して積極的に仕事を割り振り、学びを活かせる機会をつくるだけでなく、育成担当者への説明や講習などを含めてサポート体制を充実させるとよいでしょう。
学びと成長の見える化
人材育成施策は長期にわたるものであり、育成対象者も時間をかけて成長していきます。その中で、ときには「本当に成長しているのだろうか」と疑問を感じる場面が出てくるでしょう。
ここで重要な施策が、“学びと成長の見える化”です。例えば、ALL DIFFERENTがご提供しているビジネススキル診断テスト「Biz SCORE」シリーズでは、数値化が難しいとされてきた様々なビジネススキルを定量的に診断することができます。誰の目で見ても誤解の余地がなく、各人のスキルレベルの測定と成長、必要な学びの選定に役立ちます。
また、定量的な評価は、人事評価制度や目標管理制度への反映にも有用です。現場の育成担当者が抱きやすい「頑張って部下・後輩を育成しているのに、育成関連の評価項目がなく、給与やポジションに反映されない」といった不満を解消するためにも、育成関連項目を制度に導入し、納得感のある評価を行いましょう。
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経営層・部門責任者・人事部門の連携
人材育成を社員と組織両方にとって有益なものにするためには、経営層・部門責任者・人事部門との連携が欠かせません。
例えば、経営層がビジョンを示し、部門責任者が具体的な育成計画を実行し、人事部門が全体を調整する役割を担います。三者が協力することで、組織全体の目標と人材育成施策が一致し、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出せるのです。
経営層・部門責任者を巻き込むには、できる限り早い段階で施策についての積極的な情報発信と提案活動を行うとともに、人材育成施策実施後の報告を行いましょう。
施策についての情報発信と提案では、企業のミッション・ビジョンを実現するうえでの人材育成の位置付けを説明し、三者間で共通認識をつくる対話が重要です。
人材育成計画の立て方
では、いよいよ人材育成計画の立て方に話を進めていきましょう。人材育成計画作成のステップは5つあります。
- (1)自社に必要な人材要件を確認する・見直す
- (2)人材育成の目的と対象者を明確化する
- (3)育成対象者の現状を把握する
- (4)課題解決に向けた人材育成施策の内容・手法を決定する
- (5)人材育成計画を周知し、メリットも説明する
1つずつ解説します。
(1)自社に必要な人材要件を確認する・見直す
まずは、自社が求める人材の「あるべき姿」を確認しましょう。
ここで必要となるのは、具体的な人材要件です。人材要件は、主に以下の項目で構成されます。
【人材要件の5項目】
| 要件 | ポイント |
|---|---|
| 年齢 | 企業の継続的な発展のため、どの世代にも人材がそろうようにする |
| 業務経験 | その業務経験を積めるよう、人材育成施策を実施する |
| 能力・資質・意欲 |
階層ごとに求められる具体的な知識・スキルの内容やレベルを定義する 自社のミッション・ビジョンと連動させる これらの知識・スキルを習得できるよう、人材育成施策を実施する |
| 資格・免許 |
業種に応じて、業務遂行に必要な資格・免許の取得を選定する 人材育成施策として、取得支援を行う |
| 雇用形態 |
従事する業務内容と雇用形態の対応関係を確認したり、見直したりする 業務内容や雇用形態に応じて、人材育成施策の内容を調整する |
人材要件は採用活動で注目する場合が多いかもしれません。しかし、企業が最終的に求める人材の姿は、既存社員に対しても同じです。今いる人材の成長にとっても、人材要件は大切な土台なのです。
(2)人材育成の目的と対象者を明確化する
次に、育成の目的と対象者をはっきりさせることが必要です。
誰を育成対象とするかによって目的は異なりますし、目的があいまいだと、育成の効果が薄れやすくなります。
例えば育成対象者から考える場合、新卒の新入社員なら、報連相やあいさつの仕方、名刺の渡し方、電話応対・来客対応、上座・下座の区別などを知っておいてもらわなければなりません。会社の一員として働くための知識(ルール、ミッション・ビジョン、事業や商品・サービスの概要など)の習得も必要です。
反対に目的から考える場合、組織のマネジメントに課題が見られるのであれば、育成対象者は管理職となります。一般的には、組織マネジメントスキルの強化、ハラスメント研修、上位計画と連動したアクションプランの作成スキル向上などの施策を行わなければなりません。
(3)育成対象者の現状を把握する
人材育成の目的と対象者を十分に検討して定めても、一方的なやり方では育成効果がうまく発揮されない可能性があります。
そこで、具体的な施策の内容を決定する前に、
- 育成対象者自身が抱える課題・悩みのヒアリング
- 周囲の人々(上司や部下)から見た課題のヒアリング
- 本人が持つ現在の知識・スキルのレベルの定量的把握
を行いましょう。
これらの把握により、スタートポイントを明確化し、本人のニーズや状況に合った無駄のない育成が可能となります。施策への納得感や理解も深まり、積極的に参加してくれるようになるでしょう。
なお、育成対象者の上司は、仕事の割り振りや就業時間への配慮を行える立場にあります。育成にかけられる時間の擦り合わせなどを十分に行い、協力を求めましょう。
(4)課題解決に向けた人材育成施策の内容・手法を決定する
目的と対象者、課題と施策の方向性が定まったら、具体的な施策内容と手法を決定します。
まずは大枠としてOJTかOff-JTか、あるいは自己啓発支援かを決めるとよいでしょう。OJTの場合は、現場の上司や先輩社員を巻き込み、OJTトレーナーの状況も踏まえてゴール・取り組み内容・レベル・期限などを決めます。
Off-JTの場合は、講演会型・参画型・フィールド型のいずれかによって、準備すべき内容が異なります。講演会型は講師とプログラム、会場の準備が必要ですし、フィールド型では見学や実習を受け入れる部署との日時・担当者・内容の調整が欠かせません。参画型の場合は、定期的にメンバーが集まって活動できる時間と場所の確保が不可欠です。
自己啓発支援の場合は、どのような学習リソースがあるのかを育成対象者に提示しなければなりません。事前にオンライン講座や教材を提供するサービスと契約したり、会社として推薦する書籍・講座の一覧表、具体的な支援内容をまとめたりしておきましょう。
先述した種類と主な目的の一覧を活用しつつ、「どの手法が一番効果的か」を見定めながら、最終目標と中間目標を具体化してください。
(5)人材育成計画を周知し、メリットも説明する
最後に、人材育成計画を社内に周知しましょう。人材育成の効果を高める一番の方法は、育成対象者自身の準備や心構えを促すことです。施策の目的に対する納得感や今後取り組むべき内容の理解が重要となります。
育成対象者の学びとの食い違いを防ぐため、人材育成計画の内容を対象者の上司にも必ず共有します。人材育成施策を実施することが組織にとってどのようなメリットになるのか、学習・訓練にかかる時間確保の必要性、育成対象者が実際に学習する内容などです。
ただ、以上のような手順を自社だけで進めるには、時間や人手の面で難しい場合があるかもしれません。そのようなときは、ALL DIFFERENTが作成した「業界別 教育体系 無料サンプル」をぜひご活用ください。資料にない業界でも、自社に合う形でカスタマイズしてご活用いただけます。
人材育成計画の課題と目標設定のコツ
人材育成を成功させるためには、明確な課題と目標を設定することが重要です。目標があいまいだと、育成計画の効果が低下し、社員の成長も期待通りに進みません。
課題と目標をしっかり決めることで、社員一人ひとりが進むべき方向を理解し、自信を持って行動できます。
ここでは、課題・目標設定が重要な理由や、階層別にどう設定するかについて解説します。
人材育成計画において課題・目標設定が重要な理由
人材育成計画で目標と課題を設定する理由は、社員の成長を具体的に導くためです。目標が明確であれば、社員は何を目指すべきか理解しやすくなります。目標を明確にするためには、現状と課題を整理する必要があります。
例えば、「自分一人で資料作成ができない」という課題があった場合、「3カ月以内に部内の資料作成を〇回実施して構成力や論理的思考力を高める」「半年以内に提案資料を自分で作成できるようになる」といった具体的な目標を設定します。
現状と課題を整理したうえで、目標設定を行うことで「なぜこの目標が必要か」「どのスキルを重点的に伸ばすか」が明確になるのです。
階層別の課題・目標設定
階層別に目標や課題を設定することは、効果的な人材育成に欠かせません。なぜなら、職位や経験に応じて求められるスキルや役割が異なるからです。
まずは階層別の現状と課題をきちんと整理することが重要です。
例えば、近年の外部環境の激しい変化により、事業・製品のライフサイクルは短期化し、組織のスリム化・フラット化も進んできました。雇用する人材や雇用形態も多様化しています。そして何より、テクノロジーの変化への対応が喫緊の課題となっている企業も多いでしょう。
これらの背景から、以下のような階層別の課題が抽出できます。
【階層別の課題一覧】
| 階層 | 課題 |
|---|---|
| 管理職層 |
成果要求の高まり 育成意識と育成スキルのバラツキ 過去の育成手法が通用しないことによる戸惑い |
| ベテラン層 |
変化への対応スピードの遅れ 過去の成功体験のアンラーニングの遅れ 学びの習慣化の不足 |
| 中堅層 |
成果要求の高まり 業務負担の増加と後輩育成時間の不足 リーダーシップ不足 |
| 若手・新人層 |
“一人前”になるまでの期間短縮要求の高まり 職場の人員構成のアンバランス(少ない先輩・トレーナー) 失敗から学ぶ機会の減少 |
階層別の課題を整理したら、それに基づき、具体的な目標や研修施策を考えていきます。
例えば、管理職層における「育成意識と育成スキルのバラツキ」については、部下育成に関わる知識・スキルを習得するという目的が設定できます。
若手・新人層に見られる「職場の人員構成のアンバランス」については、採用活動に力を入れると同時に、中間層やベテラン層に対して後輩育成スキルの向上を図る研修を行うとよいでしょう。
このように、代表的な課題と自社の状況を突き合わせながら施策を考えていくと目的が明確になり、具体的な人材育成計画を立てやすくなります。
階層別の人材育成についてまとめた比較一覧表もご用意しておりますので、ぜひ施策の具体化にお役立てください。
人材育成とマネジメント
企業が持続的に成長し競争力を高めるためには、人材育成とマネジメントの両立が不可欠です。優れたマネジメントは、社員一人ひとりの能力を引き出し、組織全体のパフォーマンス向上を実現します。しかし、「どのように育成を進めるべきか」「育成担当者に必要なスキルは何か」など、多くの課題を抱える企業が多いのが現状です。
ここでは、人材育成を成功させるためのマネジメントの考え方や、育成担当者が取得しておきたい資格について詳しく解説します。
人材育成マネジメントとは
人材育成マネジメントとは、従業員の能力やスキルを計画的に伸ばし、組織全体の成長につなげる取り組みを指します。
なぜ重要かというと、個人の成長が企業の競争力強化や業績向上に直結するからです。例えば、体系的な研修やOJT、メンタリングなどを通じて、即戦力となる人材を育てることができます。
また、育成の成果を適切に評価し、フィードバックを繰り返すことで、社員のモチベーション維持と定着率向上を実現できます。こうした一貫した取り組みは、企業の持続的成長を支える重要な経営戦略の1つです。
会社で「人材育成できる人」を育てるために大切なこと
「人材育成できる人」を育てるには、企業全体で「人を育てる文化」を根付かせることが大切です。なぜなら、育成を担う人が育たなければ、持続的な人材成長は難しいからです。
こうした課題の解決は、管理職やOJTトレーナーが単独でできるものではありません。人事部門や経営層が関与して
- 優先すべき事項を決定する
- 既存業務の低減(業務効率化や外注)を図る
- 会社として管理職やOJTトレーナーに期待する役割を明確に伝える
- 管理職に対して育成スキル向上の研修を実施し、部下との効果的なコミュニケーション方法や指導法を学ばせる
などの対策を実施しましょう。
外部研修なども活用しながら、自社の“人を育てる人”を積極的に育成することが、企業全体の成長につながります。
人材育成に役立つ資格
人材育成を担当する人にとって、資格取得は信頼性や専門性を高める有効な手段です。資格を通じて理論や実践的な知識を体系的に学べます。
人材育成に役立つ資格の例としては以下のようなものが挙げられますので参考にしてください。
| 資格名 | 概要 | 運営団体 |
|---|---|---|
| キャリアコンサルタント | 個人のキャリアプランニングを支援する国家資格 |
キャリアコンサルティング協議会 https://www.career-shiken.org/ |
| メンタルヘルスマネジメント検定 | 働く人たちの心の健康管理や、ストレス対処法について学べる資格 |
大阪商工会議所 https://www.mental-health.ne.jp/ |
| 産業カウンセラー | 心理学的手法を用いて企業で働く人たちのメンタルや職場環境改善をサポートするカウンセラー資格 |
一般社団法人日本産業カウンセラー協会 https://www.counselor.or.jp/ |
キャリアコンサルタントは職業能力開発促進法に基づき、厚生労働大臣の登録を受けてキャリアコンサルティング協議会が実施する国家資格試験です。
メンタルヘルスマネジメント検定と産業カウンセラーは民間資格ですが、前者は日本商工会議後援により大阪商工会議所が運営、後者は一般社団法人日本産業カウンセラー協会60年以上の運営実績がある資格です。
人事部門だけでなく、人材育成担当者がこれらの資格を取得することで、より質の高い指導や人材育成の効果が期待できます。
人材育成の具体例と成功事例
本コラムの最後に、ALL DIFFERENTが人材育成をご支援した企業の中から3社の事例をご紹介します。
世代間の育成方法のギャップ、人材育成における拠点間格差や社員の定着率の低迷、経営層の巻き込みといった点に課題を感じている方は、ぜひご覧ください。
製造業における指導力向上
1つ目の事例は、製造業における指導力向上です。「背中を見て覚えろ」という価値観から、業務の「標準化」へのシフトに成功しました。
人材育成における課題
同社の課題は、「新入社員への指導方法がわからない」ということでした。
課題の要因は、2つ。1つは、ベテラン社員が「背中を見て覚えろ」で育った世代であること、もう1つは、長年若手がいない職場だったことです。
職人気質が強く、「目で見て、感覚で覚えろ」といった指導が中心でした。
解決策
新入社員に対する指導のノウハウを獲得するには、指導者としての知識・スキルだけでは不十分です。
そのため、そもそもの仕事の進め方、コミュニケーションの取り方など、ビジネスやマネジメントの基本知識・スキルの習得ができる仕組みづくりを行いました。
人材育成施策の結果
こうした取り組みにより、全社員にとっての「当たり前」の基準が向上するなど、知識・スキルの向上がまずは見られました。
さらに、工場では「標準化」の動きも。誰でも同じ作業ができるよう、作業手順書を作成して業務を指導。
解釈の個人差が生じない、誰にとってもわかりやすい指標を用いて文書化することで、新入社員であっても基準を満たせる作業を再現できるようになりました。社内の技術伝承にも、こうした施策が寄与しています。
参考事例「社員一人ひとりの学びで、会社の"当たり前基準"を上げる」の詳細はこちら
システム開発業における全社横断型人材育成
2つ目の事例も、製造業の企業です。こちらの会社では、人材育成施策として内製する方針だった研修プログラムや実施方法に課題がありました。
人材育成における課題
同社の主な課題は、人材育成の拠点間格差と社員の定着率です。
研修は内製の方針でしたが、全拠点で全階層を対象に研修プログラムを内製することは難しく、拠点間格差が発生していました。
また、事業拡大を目指して必要な人員確保のための採用活動にも力を入れていましたが、社員の定着率が思わしくなく、課題となっている状況を打破することができませんでした。
解決策
こうした2つの課題の解決に向けて実施したのは、勤務地を問わず、全社員が共通のカリキュラムを受講できる環境の整備です。
そのために、まずは全社横断の体系的な育成の仕組みを構築。外部の公開型研修・動画研修の導入により、どの拠点の社員であっても必要な研修をしっかり受けられるようになりました。
また、従来は若手向けの研修のみが実施されていたため、新たに管理職やスタッフ職など、職階・職種に適したプログラムも導入。ほぼ全ての社員が研修を受講できるような体制を整えました。
人材育成施策の結果
育成担当者の方によれば、外部の研修サービスを導入することで、職階・職種を問わず仕事に必要な研修の受講が可能となり、社内の体系的教育制度構築の大きなきっかけをつくることができました。
初年度には約8割の社員が年2回の研修受講目標を達成し、2年目においても、半期の時点で約半数の社員が研修の受講を終えたそうです。
一連の施策が、社内における「学びの必要性」の啓蒙にも役立ったとしています。
参考事例「全社横断のヒューマンスキルの教育体系を構築できた」の詳細はこちら
情報通信業における経営層の意識変革
最後の事例は、情報通信業の企業における人材育成です。経営層や管理職の「チーム」への意識が希薄であることから、職務内容に関する課題が発生していました。
人材育成における課題
同社の課題は、組織の機能不全や退職予備軍の増加です。
その根本的な原因には、経営者・幹部・管理職における「チームをつくる」という意識・知識・スキルの希薄さがありました。
さらに、チームを意識しない経営が「役職者としての仕事ができない」といった組織の機能不全を招き、社員のエンゲージメントやモチベーションを下げ、退職予備軍を増やす結果となっていました。
解決策
1つ目の解決策は、「対話を重ねて信頼関係を築く」ことです。
3人で創業した同社でも100人超にまで成長すると、チームビルディングが欠かせません。チームビルディングには、指示の出し方や言葉の選び方、そして何よりメンバー間の信頼関係が重要。そのため、経営層を対象に“個人力経営”から脱却するためのマネジメントトレーニングを実施しました。
2つ目は、役職の転換点を捉える「リーダーシップパイプラインモデル」の導入です。リーダーシップパイプラインモデルとは、一般社員から係長、課長、部長、役員などへステップアップする際に生じる転換点や課題を抽出し、解決にむけた適切な方法を組織全体で設計することです。
これにより、「取締役が係長の仕事をする」という事態を解消するリーダー育成システムを構築しました。
人材育成施策の結果
「対話を重ねる」トレーニングは、課題の表層的な部分のみでなく、課題の背景を深掘りすることにつながりました。
互いに忌憚(きたん)なく意見を出し合いつつも、まずは「相手の話を“聴く”こと」「一回は受け止める」ことを共通認識とし、より活発な意見交換につなげられたそうです。
リーダーシップパイプラインモデルについては、導入後に役職に応じた仕事の分担が可能になった、というメリットありました。
例えば、新人教育について役職者が「(自分の)時間がない」と判断していたものが、「部下に任せて育成する」という権限委譲の考え方に変化しています。経営層の意識改革により組織全体も大きく変わりました。
参考事例「幹部向けマネジメントトレーニングで経営陣の意識を変革。
対話と信頼関係を軸に"異才一体"の実現を目指す」の詳細はこちら

