DX人材とは?必要スキルと採用・育成方法のポイント

published公開日:2023.11.30
目次
不足するDX人材を確保するには、採用だけでなく育成の視点も必要です。技術革新を含む激しい変化が当たり前となったVUCAの時代、企業が生き残るにはDX(デジタル・トランス・フォーメーション)推進が不可欠。一方で、DX推進にはデジタル技術やデータ活用に精通したDX人材が欠かせません。

本コラムでは、経済産業省の資料をもとに、DX人材の定義や類型、求められるスキル、DX人材の育成ポイントを解説します。

DX人材とは‍何か

DX人材は、企業がDXを推進するうえで欠かせない存在です。ただ既存業務にデジタル技術を取り入れるだけでなく、その技術を活用して新たな仕組みや価値につなげる必要があるからです。

まずはDX人材という言葉の定義や人材の類型を確認していきましょう。

DX人材の定義と類型

DX(デジタル・トランス・フォーメーション)は、デジタル技術を活用してビジネスモデルを変革し、競争力を向上させる取り組みです。DXには、新しいテクノロジーやデジタルプラットフォーム、データ分析、クラウドコンピューティング、AI(人工知能)などの要素が含まれます。

DXを実施・推進する人材は、「DX人材」と呼ばれ、デジタル・トランス・フォーメーションの成功に欠かせない役割を果たします。また、経済産業省では、すべてのビジネスパーソンにDXに関連するデジタルスキルとデジタルリテラシー(DXリテラシー標準)を習得すべきだと求めるとともに、DX人材の役割とスキル(DX推進スキル標準)を明確にしています。

DX推進を担う人材は、下記の5つの類型にまとめられています。

人材類型 役割
ビジネスアーキテクト DXの目的を設定したうえで関係者をコーディネートし、協働関係構築を進めながら、目的実現のために一貫した取り組みを行う
デザイナー ビジネス・顧客・ユーザーの視点を持ち、製品・サービスの方針や開発のプロセスを策定し、それらに沿った製品・サービスのあり方のデザインを行う
データサイエンティスト データ活用によって、データを収集・解析する仕組みの設計・実装・運用を行い、業務におけるDX推進や新規ビジネスの実現を目指す
ソフトウェアエンジニア デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を行う
サイバーセキュリティ デジタル環境におけるサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を行う

これらの人材類型は、相互に協力しあいながら組織全体のDX化を推進します。DXは継続的な取り組みになるため、異なる専門分野の人材が連携して成功に導く必要があります。

DX人材が行う業務や対応領域

DXを推進するためには、デジタル技術を活用できる人材が必要です。

経済産業省による「デジタルスキル標準」には、DX推進を担う人材を5つの人材類型とさらに細分化されたロールに分けており、ロールそれぞれに求められる役割や領域があります。それらは、企業がDX戦略を策定する際に、適切な人材配置や役割分担を検討する際の参考となるでしょう。

人材類型・ロールごとの役割と対応領域

人材類型 ロール DX推進において担う役割・領域
ビジネスアーキテクト ビジネスアーキテクト(新規事業開発) 新しい事業、製品・サービスの目的を見いだし、実現方法を策定して関係者をコーディネートし、一貫した推進を通じて目的実現をリードする
ビジネスアーキテクト(既存事業の高度化) 既存事業の目的を見直して実現方法を策定し、関係者をコーディネートして一貫した推進を通じて目的実現をリードする
ビジネスアーキテクト(社内業務の高度化・効率化) 社内業務における課題解決の目的や定義、実現方法を策定し、関係者をコーディネートして一貫した推進を通じて目的実現をリードする
デザイナー サービスデザイナー 顧客価値の定義と製品・サービスの方針策定、実現のための仕組み・デザインを担当する
UX/UIデザイナー バリュープロポジションに基づいた製品やサービスの顧客・ユーザー体験を踏まえて情報設計やデザインを行う
グラフィックデザイナー ブランドのイメージを具現化し、デジタルグラフィックやマーケティング媒体のデザインを行う
データサイエンティスト データビジネスストラテジスト データの活用戦略を考え、具体化と実現を主導して顧客価値を拡大する業務変革やビジネス創出を実現する
データサイエンスプロフェッショナル データの処理と解析を通じて有益な知見を導き出し、業務変革やビジネスの創出に貢献する
データエンジニア データ分析環境を設計・実装・運用し、顧客価値を拡大する業務変革やビジネス創出を実現する
ソフトウェアエンジニア フロントエンドエンジニア ユーザーインターフェースの実現に責任を持ち、デジタル技術を活用したサービスを提供する
バックエンドエンジニア サーバーサイドの機能を実現し、デジタル技術を活用したサービスを提供する
クラウドエンジニア/SRE ソフトウェアの開発・運用環境を最適化し、信頼性を向上させる
フィジカルコンピューティングエンジニア 現実世界(物理領域)のデジタル化を担い、デバイスを含むソフトウェア機能の実現に貢献する
サイバーセキュリティ サイバーセキュリティマネージャー デジタル活用に伴うサイバーセキュリティリスクを評価し、対策の管理・統制を通じて信頼感向上に貢献する
サイバーセキュリティエンジニア デジタル活用関連のサイバーセキュリティ対策を導入・保守・運用し、ビジネスの安定的な提供に貢献する

役割分担の際には、企業の状況や目的によって、適切な人材配置や役割分担を検討しましょう。また、1つの役割を1人の人材が担うこともあれば、複数のメンバーで分担したり、異なる類型同士で連携する場合もあります。しかし、DX推進の際は、何のために何をすべきか・何をしたいかを明確にし、目的や目標を見失わないことが大切です。

IT人材との違い

IT人材とDX人材は、どちらも情報技術に関する知識やスキルを持つ人材ですが、その役割や人材確保の目的には違いがあります。

IT人材は、主に既存のシステムやプロセスの導入・運用・保守・改善などを行うために、技術的解決策を提供する人材です。対して、DX人材は、主にデジタル技術を活用して、ビジネスモデルや価値の創出・変革を目指す人材です。非常に簡単に言えば、IT人材は既存ビジネスやシステムを扱う人材であり、DX人材は新しいビジネスや価値観の創出を行う人材といえるでしょう。

IT人材とDX人材は、どちらか一方だけがいればいいわけではありません。自社に合わせて双方のバランスをとることで、より自社製品・サービスの競争力を高めることがポイントです。

DX人材に求められるマインドセットやスキル

DX人材だけでなく、すべての人が持っておきたいDXリテラシーもあります。ここでは、DXリテラシーとDX人材に求められるスキルを紹介します。

全てのビジネスパーソンに求められるDXリテラシー

DXリテラシーとは、経済産業省のデジタルスキル標準に記載された、すべてのビジネスパーソンに必須とされるものです。仕事に携わる一人ひとりが身につけることで、DX化に向け行動できるようになるとされています。

必要なマインドセット

DXリテラシー標準におけるマインドセット(考え方)には、以下のものがあります。

  • 変化への適応:環境や仕事の変化を受け入れ、自己主導で学び、適応すること。新たな価値観やスキルを獲得しつつ、既存の価値観も尊重する

  • 事実に基づく判断:勘や経験だけでなく、客観的な事実やデータに基づいた判断を行う。適切なデータの使用と入力に注意する

  • 常識にとらわれない発想:既存の概念や価値観にとらわれず、顧客やユーザーのニーズに対応する新しいアイデアを考える。従来の進め方を疑い、改良を模索する

  • 反復的なアプローチ:失敗を許容できる小さなサイクルで取り組みや改善を行い、顧客やユーザーのフィードバックを受けて改良。失敗を学びの機会と認識する

  • コラボレーション:異なる専門性を持つ人々と協力し、多様性を尊重。価値創造のための協力の必要性を理解する

  • 柔軟な意思決定:価値創造のために必要な柔軟な意思決定を行い、既存の価値観にとらわれない。倫理的な問題にも注意する

  • 顧客・ユーザーへの共感:顧客やユーザーのニーズや課題を理解し、その立場から発想する。自身の環境での影響を考える

  • 生成AIの利用:問いを立てたり仮説を検証したりするスキルと組み合わせて利用し、生産性向上や将来の変化に対応するために学び続ける。事実誤認や倫理的な問題には注意する

必須スキル

これらのスキルはデジタルリテラシーを向上させるためのものです。データやデジタル技術を効果的に活用してDXを推進するのに役立ちます。

データに関連するスキル
社会におけるデータ ・数値だけではなく、複数のデータ(文字、画像、音声など)が存在し、それらが社会でどのように蓄積され、活用されているかを知っていること
データを読む・説明する ・データの分析方法と結果の読み方を理解し、分析結果を説明できること
データを扱う ・デジタル技術とサービスにおけるデータの入力と整備方法を理解すること
・データ抽出・加工に関する手法やデータベース技術の重要性を理解すること
データによって判断する ・データを用いた分析アプローチの設計やモニタリングの手法を理解すること
・適切なデータを利用し、データに基づく判断が有効であると理解すること
AIに関連するスキル
AIの基礎知識 ・AIの背景や仕組み、成長要因を理解すること
・AIの得意領域と制約を知ること
デジタル技術に関連するスキル
クラウドに関する知識 ・クラウドの仕組み、クラウドサービスの提供形態、データ保護方法を理解すること
ハードウェアとソフトウェア ・コンピュータやスマートフォンの動作仕組みを理解すること
・企業内のシステム構築方法やハードウェア構成を知ること
ネットワーク ・ネットワークの基礎的な仕組みや通信プロトコルを理解すること
・インターネットの仕組みと代表的なサービスを知ること
ツール利用に関連するスキル
ツールの利用方法 ・日常業務において、状況に応じて適切なツールを選択できる知識を持つこと
デジタル倫理に関連するスキル
モラル ・SNSを含むインターネット上での適切なコミュニケーションのモラルを持つこと
・データ分析における禁止事項やデータの適切な利用方法を知ること
コンプライアンス ・プライバシーや知的財産権、著作権に関する法律や規制を知ること
・自身の業務が法規制や利用規約に適合していることを確認できること

DX推進を担う人材に求められるスキル

すべてのビジネスパーソンに求められるものがDXリテラシーでしたが、ここではDX人材に必要なスキルについて紹介します。

人材類型全てに共通するスキル

DX人材類型に共通するのは、以下の5つのカテゴリーに分かれた下記のスキルです。

  • 1. ビジネス変革:戦略・マネジメント・システム/ビジネスモデル・プロセス/デザイン
  • 2. データ活用:データ・AIの戦略的活用/AI・データサイエンス/データエンジニアリング
  • 3. テクノロジー:ソフトウェア開発/デジタルテクノロジー
  • 4. セキュリティ:セキュリティマネジメント/セキュリティ技術
  • 5. パーソナルスキル:ヒューマンスキル/コンセプチュアルスキル

各人材類型におけるスキルの種類と重要度

各人材類型には、先ほど述べた5つのカテゴリーのスキルをより具体的にした技術や知識が必要であるとされています。それぞれに求められるスキルのうち、重要度の高いものを見ていきましょう。

ビジネスアーキテクトに求められる重要度の高いスキルは、以下となります。主に、ビジネス変革に関するスキルが求められており、さらにAIに関するスキルも重要視されているのが特徴です。

ビジネス戦略策定・実行 プロダクトマネジメント
変革マネジメント システムズエンジニアリング
エンタープライズアーキテクチャ プロジェクトマネジメント
ビジネス調査 ビジネスモデル設計
ビジネスアナリシス 検証(ビジネス視点)
マーケティング ブランディング
顧客・ユーザー理解 価値発見・定義
データ理解・活用 データ・AI活用戦略

デザイナーに必要とされるスキルは以下となっています。加えて、サービスデザイナーにはビジネス変革のスキルが、UX/UIデザイナーはソフトウェアのチーム開発スキル、グラフィックデザイナーにはデザインスキルが求められます。

ビジネス戦略策定・実行 マーケティング
プロダクトマネジメント 顧客・ユーザー理解
変革マネジメント 価値発見・定義
ビジネス調査 設計
ビジネスモデル設計 検証(顧客・ユーザー視点)
ビジネスアナリシス チーム開発
検証(ビジネス視点)

データサイエンティストは、共通するスキルもありますが、他の人材類型に比べ、ロールにより重要視されるスキルに違いがあります。そのため、ロールごとのスキルを以下にまとめました。

データビジネスストラテジスト データサイエンス
プロフェッショナル
データエンジニア
ビジネス戦略策定・実行 検証(顧客・ユーザー視点) システムズエンジニアリング
プロジェクトマネジメント データ理解・活用 エンタープライズアーキクチャ
ビジネス調査 データ・AI活用業務の設計・事業実装・評価 データ理解・活用
ビジネスモデル設計 数理統計・多変量解析・データ可視化 データ活用基盤設計
ビジネスアナリシス 機械学習・深層学習 データ活用基盤
実装・運用
検証(ビジネス視点) コンピュータサイエンス コンピュータサイエンス
顧客・ユーザー理解 チーム開発 チーム開発
価値発見・定義 ソフトウェア設計手法
検証(顧客・ユーザー視点) ソフトウェア開発プロセス
データ理解・活用 バックエンドシステム開発
データ・AI活用戦略 クラウドインフラ活用
データ・AI活用業務の設計・事業実装・評価 サービス活用
チーム開発 その他先端技術
プライバシー保護 インシデント対応と事業継続
プライバシー保護
セキュア設計・開発・構築

ソフトウェアエンジニアに求められる重要度が高いスキルは以下となっています。開発はもちろんのこと、DX推進に向けたプロダクトやプロジェクトのマネジメントスキルも含まれています。

プロダクトマネジメント プロジェクトマネジメント
システムズエンジニアリング データ活用 データ・AIの戦略的活用
データ理解・活用 設計
AI・データサイエンス 検証(顧客・ユーザー視点)
データ活用基盤設計 データ活用基盤実装・運用
ソフトウェア設計手法 ソフトウェア開発プロセス
Webアプリケーション基本技術 チーム開発
フロントエンドシステム開発 バックエンドシステム開発
クラウドインフラ活用 SREプロセス
フィジカルコンピューティング セキュア設計・開発・構築
セキュリティ運用・保守・監視 サービス活用

サイバーセキュリティには、共通スキルとマネージャー・エンジニアで異なるスキルが求められています。

共通スキル
クラウドインフラ活用
プライバシー保護
インシデント対応と事業継続
セキュア設計・開発・構築
セキュリティ体制構築・運営
セキュリティ運用・保守・監視
ロールごとのスキル
サイバーセキュリティマネージャー サイバーセキュリティエンジニア
ビジネス戦略策定・実行 コンピュータサイエンス
変革マネジメント チーム開発
プロジェクトマネジメント ソフトウェア設計手法
データ理解・活用 ソフトウェア開発プロセス
データ・AI活用戦略 Webアプリケーション基本技術
データ・AI活用業務の設計・事業実装・評価 フロントエンドシステム開発
セキュリティマネジメント バックエンドシステム開発
SREプロセス
サービス活用
フィジカルコンピューティング
その他先端技術

DX人材が求められる背景

現在、世界中で大規模な技術革新が進行し、新たなデジタル技術による製品やサービスが急速に発展しています。

経済産業省の2018年「DXレポート」によって、多くの経営者が新技術の活用とビジネスモデルの変革の重要性を認識しました。しかし、既存の部門ごとに独立したシステムがデータ活用とDXを妨げており、この問題が解決しない場合、2025年以降に最大12兆円の経済損失が発生する可能性が警告されています(2015年の崖)※。

そのため、経営改革とDX人材の育成は急務です。企業がDXを実現するためには、経営層から一般の従業員まで全てのビジネスパーソンがDXに関するリテラシーを身につけて専門性を高めるのはもちろん、DXを推進する人材も確保・育成しなくてはいけません。つまり、全社的にDX化に取り組む必要があるのです。

DX人材を確保する方法

DX人材を確保するには、「採用する」か「育成する」かの2つが主要な選択肢となります。

採用する場合

デジタルスキルやデジタルリテラシーの高い人材が社内にいない場合や、即戦力となるDX人材をすぐに確保しなければならない場合、求めるスキルやリテラシーを既に持っている人材の採用を検討するとよいでしょう。

ただし、DX人材の需要は大きな高まりを見せています。通常の求人広告による採用だけでは、求めるDX人材の確保は困難かもしれません。

別の選択肢としては、ダイレクトリクルーティングによる人材確保もあります。ダイレクトリクルーティングとは、人材データベースから理想的な求職者を自社で探し、直接連絡して採用する方法です。

いずれの方法でも、求めるスキルや適性などを明確にし、採用ターゲットを具体的に定義することが最も重要です。

自社で育成する場合

DX人材を確保するもう1つの方法は、自社で育成することです。実際の現場で働く従業員を育成候補とするため、自社における課題や解決の方向性などを理解してもらいやすく、DX推進を自分事として取り組んでくれるでしょう。

ただし、当然ながら、スキル習得には時間とコストがかかります。より効率的・効果的に育成するには、自社の事業でどのようなDXが必要か、それにはどのようなスキルが求められるかをしっかり定義しましょう。育成担当者が不足している場合は、外部の専門家や研修の活用も有効です。

DX人材を育成するメリット・デメリット

繰り返しになりますが、社内でDX人材を育成するには、時間もコストもかかります。それでも、社内でDX人材を育成することには、大きなメリットがあります。育成のメリットとデメリットを比較し、採用か育成かの判断を行いましょう。

DX人材を育成するメリット

社内でDX人材を育成するメリットの1つは、育成担当者と対象者が自社の従業員であるため、自社の事業に特化したDXを実現しやすい点です。これは、自社の製品やサービス、顧客の傾向、必要なデータなどを熟知しているためです。そのため、顧客のニーズに合致した新製品の開発や効率的なサービス提供のプロセスの最適化が行えるでしょう。

2つめは、信頼関係を築きやすいことです。部署間の調整がスムーズに行えるのもメリットでしょう。DX人材として育成される従業員がDX推進のプロジェクトに参加し、真摯に取り組むことでチームワークが発揮され、成功への道が開けます。また、意思決定の迅速化や問題解決の効率化にも寄与します。

3つめのメリットは、一貫性のあるシステムを構築しやすいことです。自社のニーズを理解しているため、統一されたデータフローを確立するのに役立ちます。一貫性があることによって、データの正確性と信頼性が高まり、組織内での情報共有がスムーズになるでしょう。結果として、業務効率が向上し、新しいサービスの開発や柔軟な働き方が可能になります。

DX人材を育成するメリット

働きやすさやプライベートの充実につながる各種制度・手当が充実すれば、従業員が健康に暮らしながら安定した生活を営めます。従業員にとって福利厚生によるメリットが大きいほど、「この会社で働き続けたい」という気持ちも高まるでしょう。

どのような福利厚生を提供すべきかについては、それぞれの企業のミッション・ビジョンや事業内容によって異なります。しかし、福利厚生を利用する従業員に「この会社で働いてきてよかった」「これからもこの会社で働き続けたい」と思えるような施策こそが、提供する側の企業に大きなメリットをもたらすのです。

DX人材を育成するデメリット

デメリットの1つめは、的外れなスキルの習得リスクです。DX人材の育成計画を策定するチームがDXについて理解不足だと、自社にそぐわない的外れなスキルを身につけさせてしまう可能性があります。そうなれば、リソースの無駄遣いや効果的な育成プロセスの妨げになるでしょう。

組織全体の協力とリソースの確保が難しい点が2つめのデメリットです。DXはIT技術だけでなく、マネジメントや実行力、問題解決力など幅広いスキルを必要とします。これらのスキルを兼ね備えた人材を育成するためには、経営層や管理職などが協力しなければなりません。しかし、企業の状況によっては、必要なリソースを割くことが難しい場合があります。組織全体の協力が得られない場合、DX人材の育成が効果的に進まない可能性があるでしょう。

DX人材育成のポイント

DX人材の育成では、まず人材育成計画を立てるとともに育成対象となる人材を決定しましょう。その後、座学でスキルやマインドセットを学習し、OJTによるアウトプットで実践へとつなげます。

1. DX人材育成の計画を策定する

DX推進の目的に合わせた人材育成計画を策定します。以下の4つの要素に重点を置き、具体的な育成目標を明確にしましょう。

  • 1. DX推進の目的とDX人材の役割は何か
  • 2. いつまでに育成するのか
  • 3. どのようなマインドセットやスキルが必要か
  • 4. 何人くらい育成するのか

DX推進の目的やDX人材に求められるスキル等は、企業それぞれのミッション・ビジョン、事業内容によって異なります。その一方で、経済産業省が示した「デジタルスキル標準」のように、全てのビジネスパーソンに求められるスキルや、人材類型ごとに求められるスキルなどもあります。

まずはDX推進の大枠を理解し、それを自社の状況に落とし込みましょう。公的なリソースや外部専門家の力などを上手に活用しつつ、DX人材の育成計画を立ててください。

2. DX推進の目的を達成できる人材を選出する

育成計画ができたら、DX推進の目的を達成できる人材を選出します。

デジタルスキルやデジタルリテラシーに適性があるというだけでは不十分。DX推進に意欲的に、かつ問題意識を持って取り組む人材なら理想的でしょう。また、各部門の業務に精通している人材であれば、部門横断的な課題発見と改善がしやすくなります。

複数の人材を対象とする場合は、異なる経験や視点を持つ人材を選んでください。多角的な検討や提案につながり、新たなアイデアやビジネスモデル創出につなげることができるでしょう。

3. 座学でスキル・マインドセットを学ばせる

選出した人材には、座学によってDXに必要なスキルとマインドセットを学ばせます。また、デジタル技術に関するリテラシーの知識も不可欠です。

座学で利用できるものの1つに、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が運営する「マナビDX」というデジタル人材育成プラットフォームがあります。民間や大学が提供する講座を選んで受講できるものです。講座には、動画やe-ラーニング、対面式セミナーなどの形式があります。

AI・機械学習やプログラミング、サイバーセキュリティ、マネジメントなど、DXリテラシーのスキル向上に役立つコンテンツが用意されているため、自分が必要とする項目を選べるのが特徴です。無料・有料の講座があり、一部講座は受講料の補助が受けられるため、DX人材育成のコストを抑えられます。その他、DX関連の書籍や社内研修などで学ぶこともできるでしょう。

4. OJTにより実践力を養う

座学で習得したスキルやマインドを定着させるため、インプットを行うとともにアウトプットする機会も設けましょう。具体的には、既にデジタルスキルを習得している育成担当者によるOJTの中で、実際に実務を経験しつつ実践力も養います。

OJTを実施する際は、「育成目的と習得すべきスキルは何か」を育成担当者が十分に理解していなければなりません。育成の方向性がぶれないよう一貫した指導、アドバイスを行うことで、企業が求めているDX人材を効果的に育成することができます。

また、OJTでは最初から大きなプロジェクトを任せるのではなく、小さなプロジェクトで成功体験を重ねることも大切です。システム開発におけるアジャイル開発のように、社内限定の小規模プロジェクトなどを対象として、現場での活用につなげていくとよいでしょう。

5. 社外とのネットワークを構築する

デジタル技術は流動的で常に進化しているため、社外のネットワークを構築することも重要です。

社外ネットワークを活用してパートナーシップを築くことで、新たな視点やアイデアが手に入るでしょう。最新情報や戦略策定に必要な情報が集まってくるため、市場の変化にも早期に対応できます。さらに、他組織や専門家との協力や共同プロジェクトを通して知識共有が促進されれば、より精度の高いDX人材の育成ができるでしょう。

パートナーシップ先には、業界内の競合他社やスタートアップ企業、大学・研究機関、地方自治体・政府機関などがあります。