リスキリングとは?経済産業省の補助金制度の概要、リスキリングで何を学ぶか、おすすめの資格などを解説

update更新日:2025.07.08 published公開日:2022.06.23
リスキリングとは?経済産業省の補助金制度の概要、リスキリングで何を学ぶか、おすすめの資格などを解説
目次

現代ではデジタル技術の進化やグローバル化の進展により、ビジネスの環境が大きく変わっているといわれています。そこで注目されているのが「リスキリング」です。日本でも経済産業省や厚生労働省が様々な補助金や支援策を導入しています。

本コラムでは、リスキリングとは何か、企業がリスキリングを導入するメリットや導入方法について解説しています。

リスキリングとは?意味やリカレント教育との違い

リスキリングとは、仕事をしながら新しいスキルや知識を身につけることです。

最初に、リスキリングの意味や定義、リカレント教育との違いなどについて確認しておきましょう。

リスキリングとは?意味と語源

リスキリングの語源は英語の「Re-Skilling」です。「再び」を意味する「Re-」と「技能」を意味する「Skill」を組み合わせた言葉で、スキルの習得を繰り返して行うという意味になります。

2020年1月に開催された世界経済フォーラム(WEF)において、「リスキリング革命」の推進が表明され、日本でも注目が集まるようになりました。*

現代は「第4次産業革命」と呼ばれており、これまで人が担っていた業務がAIやロボットの仕事になりつつあります。企業は生産性を上げられる一方で、元々業務を担当していた人材は仕事を失ってしまうことも考えられます。リスキリングは今後発生する新たな仕事に対応するために、スキルを体得する取り組みなのです。

*参考:World Economic Forum|The Reskilling Revolution: Better Skills, Better Jobs, Better Education for a Billion People by 2030 > Press releases

リカレント教育との違い

リスキリングとよく似た言葉にリカレント教育がありますが、リスキリングとリカレント教育にはどのような違いがあるでしょうか。

双方とも「再教育、新たなスキルを身につける」という意味では同じですが、企業が主体で行うか従業員が主体で行うかが異なる点です。リカレント教育は従業員が主体となり、社会人枠などで大学に通い学習を行います。必要なタイミングで教育機関に通い、また仕事に戻るのがリカレント教育の特徴です。

リスキリングは業務と並行してスキルを身につける点で、リカレント教育と異なると覚えておきましょう。

経済産業省による定義と政策的な位置付け

国際的にリスキリングへの注目が高まる中、日本では、2021年に経済産業省主導のワーキンググループ「デジタル時代の人材政策に関する検討会」が発足し、リスキリングの定義や重要性が報告書にまとめられました。本検討会でのリスキリングの定義は以下のようになっています。

「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」*

さらに、経済産業省は2023年からリスキリングを通じたキャリアアップ支援事業を開始。新しく訪れるDX時代に欠かせない人材戦略としてリスキリングを位置付けています。経済産業省や厚生労働省など政府のリスキリング支援策については、後ほど詳しく解説します。

*出典:経済産業省/METI|デジタル時代の人材政策に関する検討会2021年2月26日開催資料

リスキリングが注目されている理由と政府の支援策

国際的にリスキリングの重要性が認識され、国内では経済産業省や厚生労働省などがリスキリング支援策を導入しています。

ここでは、なぜリスキリングが注目されているのか、それを受けて政府がどのような支援策を行っているのかを解説します。

企業のDX化の推進

リスキリングは企業のDX化の推進を背景に注目されるようになりました。

テクノロジーの進化が人々の生活を豊かにするに伴って、そのテクノロジーを活用した「新たな価値の創造」が社会から求められるようになっています。しかし、企業ではデジタルに精通した人材が特に不足しており、現状では需要に追いついていないのが実状です。デジタルスキルを持つ人材を採用するのも解決策ですが、社内で育成する方法もあるとして、リスキリングが注目されています。

DX時代で置き去りにされないように、各企業では社員が新たなスキルを獲得することが求められているのです。

人口減少に伴う人手不足

日本では人口減少に伴って、優秀な人材の確保は今後さらに激化すると予想されています。そうなると、いかにして優秀な人材を採用し確保するかが大きな課題です。今後必要とされる人材を確保するには、膨大なコストもかかるでしょう。他社と競争して優秀な人材を獲得することも1つの方法です。しかし、社内にリスキリングの体制を整えて必要な人材を育成できれば、必要なリソースの確保が簡単になります。

SEやプログラマーなどのIT人材だけでなく、マーケティング部門でもリスキリングは必要です。海外や新しい分野に進出する企業にとっては、語学や法務や税務、会計、特許など、専門的なスキルを持つ人材の確保も課題となるでしょう。ビジネス環境の変化に対応するため、企業は人材をリスキリングできる体制を整える必要に迫られています。

経済産業省や政府によるリスキリング支援策

2022年10月、岸田首相は衆院本会議の所信表明演説において、個人のリスキリング支援に5年で1兆円を投じると表明しました。*1

これを受け、経済産業省をはじめ関係省庁が、様々なリスキリング支援策を導入しています。

関係省庁 具体的なリスキリング支援策
経済産業省 リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業
IT導入補助金(中小企業庁)
厚生労働省 教育訓練給付金
人材開発支援助成金
文部科学省 大学などのリカレントプログラム充実
社会人の学びを応援するサイト「マナパス」*2

経済産業省や厚生労働省では、リスキリングに関する助成金や補助金制度を企業向け・個人向け両面で拡充しています。リスキリングに関する助成金や補助金制度について詳しくは、「リスキリングに使える補助金・助成金制度」(ページ内リンク)で解説していますので参考にしてください。文部科学省では、生涯教育に重点を置いたリカレント教育支援策を充実させているのが特徴です。このほか、東京都や大阪府など、独自のリスキリング支援策を導入している自治体もあります。*3

*1 参考:首相官邸ホームページ|令和4年10月3日|第二百十回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説総理の演説・記者会見など

*2 参考:文部科学省:学び直しについて

*3 参考:東京しごと財団 雇用環境整備課|DXリスキリング助成金

リスキリングに取り組む企業のメリット

国内外でリスキリングの重要性が注目されていますが、社内にリスキリングの体制を敷くことは、企業にとっても大きなメリットがあります。

ここでは、企業がリスキリングに取り組むメリットを解説します。

業務効率が上がりコストパフォーマンスが向上する

リスキリングに取り組むことで社員の業務効率が上がり、コストパフォーマンスの向上が期待できます。

今後の業務に必要なスキルが身につけば、業務効率化が可能です。また、リスキリングによって得た技術で業務を自動化できれば、ルーティンワークの負荷を大幅に軽減できる可能性もあります。本来専念すべきコア業務にも力を入れられるようになるため、生産性が高まるでしょう。

モチベーションの向上や離職率の低下

リスキリングは社員のモチベーション向上や離職率の低下につながります。

社員は言われた業務を淡々とこなすだけでは、仕事へのモチベーションを感じられません。やりがいのない仕事を続けることは、社員が離職してしまう要因にもなります。しかし、リスキリングを導入して社員に学びの機会を与えれば、働くうえでのモチベーションを上げられるでしょう。

実際に、リスキリングの先駆者であるアメリカのAT&Tでは、リスキリングプログラムに参加する社員の離職率が、他の社員と比較して1.6倍も低くなっている、という報告があります。*

このようにリスキリングを導入することで、社員のモチベーションを向上させ離職率を低下させるという効果が期待できるのです。

*参考:経済産業省|デジタル時代の人材政策に関する検討会|資料2-2 石原委員プレゼンテーション資料『リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流』

教育コストの削減

従来の企業では足りない人材を外部から採用するのが一般的でした。しかし、現代は人口減少によって人材確保の難易度が高くなっています。外部から優秀な人材を採用するのも1つの方法ですが、採用コストが高くなってしまうのが悩みの種です。

社内の適切な人材にリスキリングを実施すると、新人を一から教育する必要がなくなるため、教育コストを削減できます。社員にスキルを身につけさせて戦力の底上げができれば、外部から人材を採用する頻度を下げることにもつながるでしょう。

リスキリングで何を学ぶ?リスキリングに適したスキル・資格一覧

リスキリングで何を学ぶのが正解でしょうか?近年、日本のリスキリングにおいては、デジタルスキルなど業種を問わず役立つスキルが重視されています。例えばITリテラシー、データ分析、プログラミング、マーケティング、英語、ファイナンスなどのスキルが代表的です。

リスキリングに適したスキル・資格を一覧で示すと以下のようなものがあります。

分野 資格・スキル
IT・プログラミング ITパスポート・MOS・VBAエキスパート・プロジェクトマネージャー試験
データ分析 データベーススペシャリスト試験・データ分析実務スキル検定
マーケティング マーケティング検定・中小企業診断士・MBA
英語 TOEIC・TOEFL
ファイナンス 簿記・FP・証券外務員・公認会計士
法務 ビジネス実務法務・行政書士・司法書士

これらは、実務に直結しやすく専門性の高いスキル・資格として人気があります。資格取得を目的とした講座は、リスキリングの成果を「見える化」するうえで有効です。これらに対応した通信講座やeラーニング教材も充実していますので、企業でリスキリング支援策を導入する際にもスムーズに始められます。

リスキリングに使える補助金・助成金制度

リスキリングを社内で導入・推進する際、費用面の不安から踏み出せない企業も少なくありません。そうした課題に対し、国や自治体では支援策として補助金や助成金制度を用意しています。制度を活用すれば、研修や講座の実施費用を大幅に抑えることができ、継続的な人材育成を実現できるでしょう。

ここでは、リスキリング制度導入を検討する企業向けの補助金・助成金制度を紹介します。

厚生労働省の人材開発支援助成金

厚生労働省が提供する「人材開発支援助成金」は、企業が社員に対して訓練や教育を実施した場合に、その費用の一部を助成する制度です。対象となるのは、正社員だけでなく非正規雇用者も含まれるケースがあり、研修にかかった経費や訓練期間中の賃金も支給対象です。

人材開発支援助成金は以下の6つのコースがあります。

  • 人材育成支援コース
  • 教育訓練休暇等付与コース
  • 人への投資促進コース
  • 事業展開等リスキリング支援コース
  • 建設労働者認定訓練コース
  • 建設労働者技能実習コース

特にDX関連やITスキル向上に関する訓練は重点分野とされており、eラーニングなど非対面形式も活用可能です。「人材育成支援」「教育訓練休暇等付与」「人への投資促進」「事業展開等リスキリング支援」のコースでは電子申請にも対応しています。助成金の金額や支給要件などについては、厚生労働省のホームページをご確認ください。*

*出典:厚生労働省ホームページ|人材開発支援助成金

中小企業庁IT導入補助金

中小企業庁が提供する「IT導入補助金」は、業務の効率化・デジタル化を目的としたITツール導入を支援する制度です。リスキリングとDXを同時に進めたい中小企業にとって、有効な支援策といえるでしょう。教育コンテンツを含むクラウドサービスの導入も対象となるため、間接的に従業員のスキル向上を図ることが可能です。

IT導入補助金で対象となるITツールは自由に選べるわけではなく、ホームページに登録されているもので事前に事務局の審査を受けたもののみが対象となりますので注意しましょう。詳しくは中小企業庁のIT導入補助金制度のホームページを参照してください。*

*出典:中小企業庁|IT導入補助金2024|IT導入補助金とは

リスキリングのポイントや進め方

自社でリスキリングを実行する際には、気をつけるべきポイントがいくつか存在します。

最後に、リスキリングの進め方についてポイントを紹介するので、制度や研修導入の参考にしてください。

スキルを可視化する

体制を整える前に、必要なスキルの可視化を行いましょう。スキルの可視化は以下のような点を明らかにするために実施します。

  • 社員一人ひとりがどのようなスキルを保有しているのか
  • どの仕事にどのようなスキルが必要になるのか

社員が保有するスキルを可視化することで、スキルデータベースの構築やスキルマップの作成が可能です。

新しく生まれる社内の仕事にどのようなスキルが必要かを把握することも忘れてはいけません。業務内で体得したスキル以外にも、趣味で得られたスキルを従業員から自己申告してもらうことも重要です。

第一段階として社員が保有するスキルを把握できれば、リスキリングにより体得が必要なスキルも明らかになります。

対象とする社員や部署を決める

スキルの可視化により、スキルデータベースの構築やスキルマップの作成を行ったら、リスキリングの対象となる社員や部署を決めていきましょう。

リスキリングはやみくもに行うのではなく、初めは対象者を絞って必要なところに必要なだけ実施します。定期的に対象を変えたり、少しずつ範囲を広げていったりして徐々に対象者を増やし、全体的なスキルの底上げを図ります。

社外リソースの活用も検討する

リスキリングは社内の人材を上手に活用するための人事戦略です。しかし、スキルを体得するためのコンテンツは社内で用意しなくても問題ありません。企業によって得意・不得意があるため、社内だけで解決しようとすれば教育コストが増える可能性があるためです。

社内に新規業務に関する知見やスキルを持つ人材がいない場合には、社外のリソースを活用することも大切です。無理に社内のリソースを割こうとせずに、社外の研修などを利用することも検討してください。

最適化しながら継続していく

社内にリスキリングの体制を整えるには、一度取り入れたら継続して実施することが大切です。そのためには、社員の声をヒアリングして問題点を明らかにし、改善し続けなければなりません。

また、リスキリングを継続するに当たって、社員のモチベーションを上げるコンテンツ選びも重要です。目的が曖昧であったり、スキルを体得できなかったりすると、社員のモチベーションも下がってしまいます。

スキルを体得した社員にはインセンティブを設定するなど、モチベーション管理をすることで、社内でリスキリングを浸透させられるでしょう。

リスキリングを推進したいなら研修がおすすめ

日本国内でも、大手を中心に社内にリスキリングの体制を整える企業が増えています。リスキリングの体制を整えると企業はこれまでの人材を有効活用でき、従業員の雇用も安定します。そのため、企業と従業員の双方にとってメリットのある人事戦略といえるでしょう。

社内でリスキリングを推進するのであれば、一から体制を整えてもよいですが、外部研修を取り入れるのもおすすめです。

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