インクルージョンとは?意味と企業での推進方法、具体例

update更新日:2026.07.09 published公開日:2023.07.18
インクルージョンとは?意味と企業での推進方法、具体例
目次

インクルージョンとは、多様な従業員が互いに尊重し合いながら個性を活かして活躍できる社会・組織の状態を意味します。人手不足や価値観などの多様化が進む現在、事業継続には欠かせない視点です。

本コラムでは、インクルージョンの意味や関連用語、厚生労働省の方針、推進の際に留意すべきメリット・問題点やポイント、施策の具体例など、インクルージョンの「ここが知りたい」をわかりやすく解説します。

インクルージョンとは?日本語での意味は「包摂」

初めに、インクルージョンの意味をおさえ、「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」や「インクルーシブ教育」といった基本事項も確認していきましょう。

英語「inclusion」と日本語での意味

「インクルージョン」という言葉は英語の「inclusion」から来ており、日本語では「包含すること」を意味します。論理学や数学では「包摂」ともいわれ、2つの集合のうち一方が他方の部分集合になっている状態を表す言葉です。*

社会におけるインクルージョンとは、簡単に言えば「年齢・性別・国籍・学歴・障害の有無・信条などにかかわらず、誰もが社会の一員として参加し、能力を発揮できる状態」のことです。

*参考:『ランダムハウス大辞典 第2版』小学館、1994年

ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)の理念とインクルーシブ教育、障害者権利条約

インクルージョンという概念は、1980年代のヨーロッパにおける「ソーシャル・インクルージョン(social inclusion、社会的包摂)」から始まりました。その背景には、当時、社会問題となっていたソーシャル・エクスクルージョン(social exclusion、社会的排除)があります。

1970年代のフランスでは、移民の増加と産業構造の変化から貧困状態に陥る労働者が増え、一部の人々が社会から排除されている状態でした。このソーシャル・エクスクルージョンを解決するには、「誰もが尊重され、活躍できる社会を実現する」というソーシャル・インクルージョンの考え方が必要だったのです。

ソーシャル・インクルージョンは、やがて障害者の社会参加の実現を目指す福祉分野や、障害のある子どもが障害のない子どもと一緒に学べる「インクルーシブ教育」へと拡大します。

2006年には、「地域社会へのインクルージョン」を目指す「障害者権利条約」も採択されました。障害者が一定の場所に隔離されて過ごすのではなく、自らの意思で居住地を選択し、必要な支援やサービスを利用できる権利があることを定めた条約です。日本は2007年に署名し、2014年に批准しました。*

*参考:「人権外交 障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)」(外務省)

インクルージョン推進の主な対象範囲

インクルージョンの拡大領域は福祉や教育だけではありません。ビジネスにおいてもインクルージョンの実現に向けた国際的な取り組みが進んでいます。

ビジネスにおけるインクルージョンの国際組織・具体例

ビジネスでのインクルージョンとして進む国際的取り組みの1つに、世界の500の企業やパートナーが参加する「Valuable 500」(以下、V500)という国際組織があります。2019年1月に開催された世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で発足し、日本からも主要な新聞社、大手広告代理店、製造業における大手企業など、多数の企業が参加しました。

V500の最大の特徴は、「会社で障害者を受け入れて“あげる”」のではなく、「障害者雇用の経済性」に注目した点です。社会やビジネス、経済において障害者の持つ潜在的な価値が発揮されるような改革を進めることで、より経済が活発化されるという考え方です。

V500が求めるインクルージョン経営を実現するには、何よりも「インクルージョン・マネジメント」が欠かせません。具体的には、多様な人材一人ひとりが「自分は会社の一員である」という認識を持ち、「自分らしく働けている」と実感できるように、採用活動や職場環境の調整を行うことです。

マーケティングにおいても、「インクルーシブ・マーケティング」という考え方があります。ターゲットとなる顧客や消費者として、多様な属性の人々を対象に調査を行い、戦略を立案・実行する手法です。これには、多くの人に「これは自分の価値観・スタイルに合っている」と感じてもらえるようになり、事業の持続可能性がより高まるというメリットもあります。

ただ、インクルーシブ・マーケティングを実現するには、社内のインクルージョンが実現されていなければなりません。商品・サービスの開発やアピール方針に、多様な人材の意見が必要だからです。

インクルージョン推進の主な対象領域

インクルージョンという概念は、特定の属性を持つ人々の包摂のみに限定されるものではありません。初めは特定の属性に注目した概念であっても、現在はより広い領域での取り組みが進んでいます。

主要な企業や国の取り組みで見られる対象領域を簡単にまとめたものが、下表です。

【ビジネスにおけるインクルージョンの主な対象領域】

対象領域 推進施策の具体例
ジェンダー
  • 女性差別の禁止
  • 女性の活躍推進(採用・管理職登用・役員登用)
  • 性別によらない育児・介護と仕事との両立支援
  • マタニティハラスメントの禁止と防止措置
LGBTQ+
  • LGBTQ+に関する理解の深化・差別禁止
  • LGBTQ+である人々の採用
  • 同性パートナーに関する福利厚生の適用拡大
年齢
  • 合理的な理由のなく年齢制限をする採用活動の禁止
  • 定年退職する年齢の選択
  • シニア雇用や定年後の再雇用などの促進
国籍
  • 外国人の採用
  • 異文化理解・コミュニケーションの促進
  • 外国人の管理職登用
病気・障害
  • 難病や障害のある人材の採用
  • 障害者法定雇用率の達成
  • 治療と仕事の両立支援
  • 難病や障害のある人材への合理的配慮の提供

注力する対象領域は企業によって異なります。女性の活躍推進やシニア雇用を積極的に進めている企業もあれば、外国籍の人材の採用・育成に多くのリソースを割いている企業もあります。大手企業グループのように、グループ全体の障害者雇用を担う特例子会社を設置するケースも珍しくありません。

いずれにおいても、「より多様な人々が、それぞれの能力を活かして活躍できる職場づくり」を実現していくことが重視されています。

インクルージョンのメリットと問題点・対策

ここで、インクルージョンの実現が企業にもたらすメリットを具体的に見ていきましょう。第一に挙げられるのは、人手不足の軽減・解消です。ほかにもいくつかの利点を挙げることができます。

他方、インクルージョン推進の継続的な取り組みの中で、いくつかの問題点に直面する可能性があります。最初から全ての問題点を回避することは困難ですので、何らかの対策を用意しておかなければなりません。

順番に見ていきましょう。

インクルージョンの5つのメリット

まず、インクルージョンの主なメリットは5つあります。

【インクルージョンの5つのメリット】

メリット ポイント
人手不足の軽減・解消
  • 労働条件の柔軟化で求人応募者が増える
  • 育児・介護・治療などと仕事の両立をしやすくなり、離職率低下につながる
ワークライフバランスの充実
  • 短時間勤務・在宅勤務の導入でライフステージに応じた働き方ができる
  • 家庭生活や趣味の時間とのバランスなど、価値観に応じた働き方ができる
従業員のモチベーション・帰属意識の向上
  • 個性を尊重され、適正な評価を受けられるため、会社に貢献していると実感できる
  • 組織の一員として活躍できることで、帰属意識が高まる
イノベーションの促進
  • 多様な能力・背景・価値観により、事業活動に豊かな視点が加わる
  • より多くのアイデアを得やすくなる
CSRでの法令遵守・社会貢献・企業価値向上
  • 差別禁止や活躍推進、適切な雇用管理といった法令に定められた施策を実施できる
  • 多様な人材の採用が新たな雇用創出につながる
  • 企業の社会的信用が向上し、企業価値が向上する

会社内でインクルージョンが実現されれば、商品・サービスの開発やマーケティング、営業などに豊かな視点が生まれます。顧客や消費者が“本当に求めていること”を理解したイノベーションも可能になるでしょう。

さらに、CSR(企業の社会的責任)の法令遵守・社会貢献・環境対応においても具体的な施策を推進できます。法令遵守と社会貢献で実績を上げれば、これまで以上に自社の企業価値がさらに向上するでしょう。

コラム「CSRとは?CSRの意味やメリット、企業の活動事例について解説」はこちら

インクルージョンの3つの問題点と対策の具体例

では、インクルージョンの実現に向けたプロセスで発生し得る問題点には何があり、どのように対策すればよいのでしょうか。

3つの具体的な問題点と代表的な対策を以下にまとめました。

【インクルージョンの3つの問題点と対策の具体例】

問題点 対策の具体例
アンコンシャス・バイアスと抵抗感
  • アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)を知る研修を実施する
  • インクルージョン実現のメリットを伝える
  • 「どうすれば実現できるのか」について対話を通じて一緒に考える
  • 組織としての「ありたい姿」を根気強く伝える
採用・育成のコスト増加
  • 労働条件の多様化に対応できるシステムや設備の整備を進め、業務効率化へつなげる
  • 社内の成功事例やノウハウを蓄積・共有する
コミュニケーションコストの増加
  • 「暗黙の了解」の言語化、業務標準化を進める
  • 日々のやりとりで相互理解を深める

多様な人材が活躍する職場をつくるには、時として価値観や社内体制の変革が求められます。従来と異なる働き方をするメンバーが増え、馴染みのないライフスタイルを持つメンバーも入社するでしょう。大切なのは、「どうすれば実現できるのか」を一緒に考える姿勢です。

また、変化を受け入れようとしている従業員でも、自分が持つ先入観から相手を傷つける表現を使ってしまうことがあります。いわゆる「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」です。アンコンシャス・バイアスに気づくには、「無自覚な思い込みがあるかもしれない」ということを知る機会の提供が必要です。

インクルージョン実現には、最初の段階ほど試行錯誤が続き、多くのコストがかかるでしょう。採用・育成コストや、現場におけるコミュニケーションコストです。だからこそ、問題を先送りにしてコストをかけ続けるのではなく、思い切ってシステムや設備を整備したり、「暗黙の了解」を言語化したりすることが大切。これらの取り組みを「当たり前」にできれば、生産性が戻り、さらなるイノベーションにもつなげられます。

インクルージョン推進政策や厚生労働省の方針

日本におけるインクルージョンの実現は、国の政策でも重要視されています。代表例は、2016年6月に閣議決定でされた「ニッポン一億総活躍プラン」です。

政策の背景となっている少子高齢化の進行による労働力人口の減少、将来的な経済規模の縮小、生活水準の低下といった問題は、社会の構造的課題です。それまでも国際協調の中で男女平等や障害者の権利擁護などは進められてきましたが、差し迫った人手不足からくる経済への悪影響を低減・回避するには、より積極的な取り組みが必要なのです。

国が進めてきた具体的な施策には、

  • 女性の活躍推進
  • 長時間労働の是正
  • 育児・介護・病気の治療と仕事の両立
  • 障害者の就労・社会参加の推進
  • 外国人人材の活用

などがあります。*1

これらの方針は、現在も変わっていません。

具体例としては、女性の活躍推進と育児・介護と仕事の両立に関して、男性労働者の育児休業取得を推進する「産後パパ育休」や「パパ・ママ育休プラス」が始まりました。企業にも、男性の育児休業取得率の公表が求められています。*2

障害者の就労・社会参加の推進については、障害者雇用率制度の適用範囲の拡大や法定雇用率の引き上げが続いており、より多くの企業に対して積極的な障害者雇用を求めています。*3

*1 参考:『平成30年版 厚生白書』(厚生労働省)、p.207-208、p.277

*2 参考:「育児休業制度とは」(厚生労働省 イクメンプロジェクト)

*3 参考:「障害者雇用納付金制度改正の概要」(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構)

インクルージョンとノーマライゼーション、インテグレーションの違い

ここで、インクルージョンをより適切に理解するために、「ノーマライゼーション」や「インテグレーション」との違いもおさえておきましょう。「インクルージョンのつもりで実施する施策が、実はノーマライゼーション/インテグレーションだった」となっては、推進に必要な対話で食い違いが発生する恐れがあります。3つを比較しながら理解することが大切です。

インクルージョンとノーマライゼーションの違い

ノーマライゼーション(normalization)とは、「標準化」「正常化」を意味する言葉です。マイノリティである人々が、マジョリティである人々と同等に生活・活躍できるようにすることを指します。*

ノーマライゼーションの特徴は、マイノリティである人々が社会の中で役割を持って生きられるようにするため、社会全体を変化させること。もともとは、知的障害のある人々が劣悪な隔離的環境に収容されていることを問題視したところから提唱されました。「ノーマルな生活を送れるように」という理念です。

インクルージョンとノーマライゼーションの違いは、その対象範囲にあるでしょう。インクルージョンはノーマライゼーションより広い対象範囲を持っています。知的障害のある人々も含む様々なマイノリティ、そしてマジョリティである人々がともに包摂され、同じ社会・組織で尊重されながら活躍できることを目指す概念だからです。

*参考:『ランダムハウス大辞典 第2版』小学館、1994年

インクルージョンとインテグレーションの違い

インテグレーション(integration)とは、「統合」「差別撤廃による人種統合」などを意味します。*

インテグレーションの特徴は、マジョリティの中にマイノリティを受け入れ、一人ひとりの個性・特性に応じた対応をしながら、統合された環境で活躍できるようにすることです。ただ、実際に行われたインテグレーションは、「マイノリティへの配慮」といった形で、マジョリティ/マイノリティの区別が残るものでした。「多数派が強者であり、思いやりを持って弱者である少数派を受け入れる」という構造でした。

そこで登場したのが、インクルージョンです。インクルージョンでは、インテグレーションの課題を克服すべく、マイノリティである人々が、そうでない人々と対等な人間として混じり合いながら活躍できるように環境などを調整していきます。

*参考:『ランダムハウス大辞典 第2版』小学館、1994年

インクルージョン、ダイバーシティ、エクイティの関係性

ビジネスにおけるインクルージョン推進の他社事例を見ると、多くの企業が「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」や「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)」と表現していることに気づくかもしれません。

「ダイバーシティ(diversity)」や「エクイティ(equity)」はインクルージョンとはどのように異なり、どのように関係し合っているのでしょうか。簡単にまとめると、下表のようになります。

【ダイバーシティ、インクルージョン、エクイティの意味】

用語 意味 ポイント
ダイバーシティ 多様性
  • 1950年代・60年代のアメリカにおける公民権運動から生まれた概念
  • 人種・性別による差別を是正すること
インクルージョン 包摂
  • 1980年代ヨーロッパの「ソーシャル・インクルージョン」から始まった概念
  • 誰もが社会の一員として参加し、能力を発揮できる状態にすること
エクイティ 公平性
  • 誰もが公平に機会を得られること

ダイバーシティは、1950年代・60年代のアメリカにおける公民権運動から始まりました。人種や性別で生じてきた差別の是正を表す概念です。

ダイバーシティという言葉は、その後のビジネスでも多く用いられてきました。そして、性別や人種だけでなく、様々な属性をもつ人々が互いに尊重し合いながら活躍するという観点も次第に重視されるようになります。これがインクルージョンの観点です。

他方、「エクイティ」は、「公平性」も重視する考え方です。多様な人々が一緒に働き、活躍するためには、就職・能力開発・評価における公平性が不可欠だからです。よって、「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」は、「多様な人材が一人ひとり公平に機会を得て、活躍できること」を意味するといえます。

なお、「ダイバーシティ」とだけ書いてある場合は、主に女性活躍推進や男女の育児・介護と仕事の両立、LGBTQ+、外国出身の人々に向けた支援策が紹介されるケースが多く見られます。「ダイバーシティ&インクルージョン」と記載されている場合は、これに障害や難病のある人の就業・活躍に向けた支援策が加わることが多いようです。

とはいえ、用語の使い方は企業によって多少異なります。「何のために、どのような施策を実施しているか」を見ることが何よりも大切です。

インクルージョン推進の5つの施策ポイント

会社でのインクルージョン推進を行う際は、ぜひ次の5つのポイントを意識して取り組んでみてください。一貫性をもって効果を生み出す施策を講じられるでしょう。

【インクルージョン実現に向けた5つの施策ポイント】

  1. (1)理念の決定と経営トップからの発信
  2. (2)採用基準・評価基準の見直し
  3. (3)意識変革に向けた研修・セミナーの実施と推進チームの活動
  4. (4)現場でのサポート体制の整備
  5. (5)インクルージョンサーベイでのスコア確認・改善

1つずつ解説します。

(1)理念の決定と経営トップからの発信

まずは、会社全体の方針の策定です。

インクルージョンに向けて採用活動を進めても、経営層が特定の属性のみを評価するようでは、多様な人材が活躍できる会社にはなれません。経営層自らがインクルージョンを理解し、具体的なイメージを持てるようにしましょう。

そのうえで、経営層から従業員全体に向けてメッセージを発信します。人事担当者から管理職に伝えるだけでは、会社としての“本気度”が伝わりにくいからです。社内報やパンフレット、ミーティング、オフィス内での掲示など、様々な場で「我が社は本気でインクルージョン推進に取り組む」というメッセージを繰り返し発信し、組織風土の土台を築きましょう。

(2)採用基準・評価基準の見直し

同時に進めたい施策が、人材の活躍に直結する採用・評価基準の見直しです。

採用基準の見直しでは、インクルージョン推進のために策定された理念や方針との一貫性をチェックしましょう。性別・年齢・国籍・障害の有無・価値観といった求職者本人の属性について差別的な判断が潜んでいないか、就業時間や勤務形態にどのような選択肢を設けるかといった視点が必要です。

既存従業員の評価基準の見直しでは、まず「暗黙の了解」になっていた事柄の言語化を行います。「暗黙の了解」が差別の温床になってしまうことがあるからです。ぜひ、従業員における特定の属性の構成比や平均賃金の差といった数字をチェックしてみてください。

【暗黙の了解を探るために見る数字の例】

  • 会社全体における従業員の男女比
  • 障害者雇用率
  • 採用における部門ごとの性別・国籍・年齢・障害の有無などの構成
  • 管理職における性別・国籍・年齢・障害の有無などの構成
  • 育児休業取得率における性別・国籍・年齢・障害の有無などの構成
  • 各属性における従業員の平均賃金

自社での働きやすさに関するヒアリングやアンケートも効果的です。従業員に職場の働きやすさを10段階で評価してもらったり、その理由を聞き取ったりするほか、相談窓口へ寄せられた悩みや意見も丁寧に拾いましょう。

(3)意識変革に向けた研修・セミナーの実施と推進チームの活動

社内の意識改革に向けた取り組みとしては、インクルージョン研修やセミナーの実施、インクルージョン推進チームの設置などが考えられます。

研修やセミナーの対象者は、まずは管理職、次に一般社員へと進めるとよいでしょう。

  • インクルージョンの重要性
  • 自社が行う取り組みの内容
  • 多様な人材についての理解
  • コミュニケーションで注意すべきこと

などを段階的に学べるプログラムがおすすめです。

特に、先述したアンコンシャス・バイアスの自覚と価値観の更新は必須事項です。

  • どのような人にも無自覚のバイアスがある
  • 価値観やライフスタイルは時代によって変化する
  • そうした変化に対応する必要がある

といったポイントをしっかり理解してもらうことが、インクルージョンに向けた人材の定着、ひいては事業の継続に必要だからです。

管理職を対象とする研修では、部下とのコミュニケーションにおいて「対話」が重要であることも感じてもらいましょう。ケーススタディやグループワークで具体例を通じて理解を深め、多角的な視点でコミュニケーションを見る体験を重ねると効果的です。

一般社員に向けたインクルージョン研修では、基本情報で理解を促したあと、現場での働き方の例を社内の制度やキャリアパスとともに伝えるとよいでしょう。

より当事者性を高めるには、インクルージョン推進チームの発足と活動も有効です。具体的な活動で考えられるのは、以下のものです。

【インクルージョン推進チームの活動例】

  • 多様な働き方、多様な人材の社内事例の収集と共有
  • 他社におけるインクルージョン推進事例の紹介
  • 従業員から寄せられた相談への対応
  • インクルージョン推進における課題の分析と解決策の検討
  • 経営層と連携したインクルージョン施策の実施(研修・セミナーや交流会など)

「経営層だけが重要性を訴えている」「現場任せにしている」という状況にならないよう、多くの役員・従業員を巻き込みながら進めてください。

(4)現場でのサポート体制の整備

続いて、多様な人材が活躍するためのサポート体制を整備します。下表にそのポイントをまとめました。個々の特性や要望に応じて調整していきましょう。

【多様な人材の活躍に向けたサポート体制のポイント】

人材の例 特性・要望の例 考慮する項目の例
育児・介護中の人材
  • 休業や短時間勤務
  • 急な遅刻・早退・欠勤
  • 勤務時間・内容・場所の調整
  • リモートワークの可否
  • 利用できる制度の周知
シニア人材
  • 体力の低下
  • 視覚・聴覚の低下
  • 勤務時間・内容・場所の調整
  • 小休憩時間の設定
  • 使いやすい設備などの整備
  • 読みやすい文字の大きさや聞き取りやすい話し方の採用
外国籍の人材
  • 日本語に慣れていない
  • 異文化ゆえのトラブル
  • わかりやすい情報伝達
  • 日本語や日本の慣習を学ぶ機会の提供
  • 異文化理解を促進する勉強会・交流会などの実施
  • 理解しやすい情報伝達
障害のある人材
  • 疲れやすい
  • 人混みが苦手
  • 感覚過敏がある
  • マルチタスクが苦手
  • 勤務時間・内容の調整
  • 小休憩時間の設定
  • シングルタスクでの指示
  • 理解しやすいマニュアルの作成

社内のノウハウだけで対応するのではなく、外部支援機関や相談窓口なども積極的に活用するとよいでしょう。

(5)インクルージョンサーベイでのスコア確認・改善

インクルージョンが実際に進んでいるか否かを確認するには、適切な指標の設定とモニタリングが重要です。

社内のインクルージョンに関する指標には、

  • 従業員エンゲージメント
  • 従業員・管理職の男女比
  • 男女別の平均賃金
  • 男女別の雇用率・勤続年数
  • 男女別の育児休業取得率
  • LGBTQ+である人材の雇用率・勤続年数
  • シニア人材の雇用率・勤続年数
  • 障害のある人材の雇用率・勤続年数
  • 外国籍の人材の雇用率・勤続年数

といったものが考えられます。

社外の評価機関が公表している指標も便利です。例えば、JobRainbowが実施する「D&I AWARD」では、一定の基準によって「認定スコア」を算出し、企業の取り組みを評価してきました。評価指標は「ダイバーシティスコア」と呼ばれます。*1

【ダイバーシティスコアの5つの観点】

  • ジェンダーギャップ
  • LGBTQ+
  • 障害
  • 多文化共生
  • 育児・介護

ダイバーシティスコアでは、各観点に対して「行動宣言」「教育/理解促進」「人事制度」「コミュニティ」「働き方」という5つの分類で項目が列挙されています。これらを確認することで、自社の取り組みを網羅的に評価できるでしょう。

公的な評価基準である「なでしこ銘柄」「くるみん認定・プラチナくるみん認定」なども重要です。

「なでしこ銘柄」は、経済産業省と東京証券取引所による認定制度で、女性の活躍推進のための優れた取り組みを行う上場企業が評価対象です。経済産業省の公式ページでセルフチェックシートが公開されています。*2

「くるみん認定・プラチナくるみん認定」は、厚生労働省が実施する「子育てサポート企業」の認定制度。2026年3月現在の認定基準には、女性労働者・男性労働者の育児休業取得率や、短時間正社員制度・在宅勤務などの多様な労働条件の整備といった項目が並んでいます。*3

*1 出典:「審査・評価について」(D&I AWARD 2025)

*2 参考:「女性活躍に優れた上場企業を選定「なでしこ銘柄」」(経済産業省)

*3 参考:「くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについて」(厚生労働省)

インクルージョン施策の具体例

最後に、企業におけるインクルージョン推進の具体例を2つご紹介します。1つは、情報通信業の富士ソフト株式会社(神奈川県横浜市、以下「富士ソフト」)、もう1つは百貨店事業などを展開する株式会社髙島屋(大阪府大阪市、以下「髙島屋」)の事例です。

富士ソフトの柔軟な勤務制度・休暇制度

富士ソフトでは会社の基本方針に「ゆとりとやりがい」を掲げています。多様な人材が活躍できるよう、人事労務に関わる制度において法律で定められた範囲以上の制度を整備してきました。

例えば、多様な働き方を可能にする取り組みとして次のような仕組みを設けています。

【富士ソフトの勤務制度】*1

制度 特徴
在宅勤務制度
  • 1989年に育児・介護を行う社員対象で開始
  • 現在は全社員が対象
ウルトラフレックス制度
  • 1990年にコアタイムなしのスーパーフレックスを導入
  • 現在は、フレックスタイム中の私用外出、30分単位での年次有給休暇取得(フレキシブル有休)、10分単位の休憩(リフレッシュタイム)も取得可能
短縮勤務制度
  • 育児・介護・不妊治療を理由として取得可能
  • 育児の場合は、子どもが小学3年生まで
  • 勤務時間は、4時間・5時間・6時間から選択

加えて、休暇制度やワークライフバランスの向上に向けた施策も充実しています。

【富士ソフトの休暇・休業制度】*1

制度 特徴
ヘルスケア休暇
  • 2024年7月に導入した健康管理のための休暇制度(年間12日、うち2日は有給)
  • 30分単位で取得可能
  • 体調不良だけでなく、定期通院、健康診断や再検査の受診、生理休暇に活用
  • 名称を「ヘルスケア休暇」とすることで、性別を問わない取得しやすさを実現
ライフサポート休暇
  • 生活を支援する各種休暇・休業制度の総称
  • 育児・介護分野

    • 母体保護休暇、産前産後休暇、出産休暇(配偶者の出産に活用可能)
    • 育児休業、子の看護等休暇
    • 介護休業
  • 不妊治療休暇・休業

    • 休暇は年間12日まで(無給)、30分単位で取得可能
    • 休業は最長1年間の取得が可能
マイホリデー休暇
  • 年次有給休暇取得促進施策
  • 社員の誕生日、結婚記念日、子どもの学校行事などで取得可能

様々な制度の整備とともに、具体的な目標も掲げています。以下は、富士ソフトが公表する2026年3月末までの目標です。

【富士ソフトのダイバーシティ&インクルージョンの目標の具体例】*2

  • 役職者以上の女性比率16.5%以上
  • 管理職以上の女性比率9.5%以上
  • 男性育休取得率30%以上の継続
  • 65歳までの社員について、希望者全員の再雇用
  • 65歳以上の「ハイシニア社員」の専門性を活かした雇用継続制度の導入
  • 外国籍社員の積極的採用
  • LGBTsの理解深化に向けた社員教育の実施、個別相談窓口の設置

社員の「精神的・時間的・経済的・空間的なゆとり」によるやりがいの向上を目指し、取り組みを続けています。

*1 参考:「福利厚生」(富士ソフト)

*2 参考:「ダイバーシティ&インクルージョンへの取り組み」(富士ソフト)

髙島屋の福利厚生適用拡大と障害者職場定着支援

国内外で百貨店事業などを展開する髙島屋では、性別を問わず活躍できる制度を積極的に整備してきました。

百貨店業界として直面するジェンダーによる職務の振り分けという課題にも挑戦。制服を廃止し、女性の管理職比率は3割を超えました。男性の育児休業取得率にいたっては133.3%となっています。

加えて、髙島屋ではLGBTQ+のアライ企業として、自社の福利厚生の適用対象を同性パートナーにも拡大しました。ほかにも、以下のような施策を実施しています。

【髙島屋のLGBTQ+施策の具体例】

  • 同性パートナーへの福利厚生制度の適用
  • 性的指向や性自認を理由とする差別・ハラスメント禁止を就業規則に明記
  • 性別適合手術やホルモン治療に使える有給休暇制度の導入
  • 社内外の相談窓口の設置
  • 経営層・管理職への研修実施
  • 新卒採用エントリーでの性別記載不要

ほかに、障害者雇用の取り組みも進めています。例えば、国内百貨店の各店・各事業部に「障がい者職場定着推進体制」を整備。「障がい者雇用推進者」や障害者職業生活相談員を配置して地域の就労支援機関と連携した支援を行っています。

また、横浜店・京都店・日本橋店には、ワーキングチームも設置。各店に「ジョブコーチ」と呼ばれる障害者就労支援の専門職を配置し、一人ひとりの特性や状況に応じて、業務内容・働き方の調整などをサポートしてきました。

現在、髙島屋単体での障害者雇用率は、2024年6月時点で法定雇用率を上回る2.55%。多様な業務で、障害のある従業員が店舗運営を支えています。

参考:「髙島屋グループ統合報告書2025」(髙島屋グループ)

インクルージョンの実現に向けた研修は対象者に合わせて実施を

全社的なインクルージョンを実現するには、経営層から一般社員まで、多様な価値観・多様な働き方を尊重する姿勢を持つことが重要です。そうした姿勢を持ち続けるには、実践的なノウハウも欠かせません。

ノウハウを習得するインクルージョン研修では、対象者に合わせてプログラムを作成しましょう。例えば、経営幹部対象の“全社視点”の実践に向けた研修、管理職が対象のハラスメント研修、現場で人材育成を担うOJT担当者を対象とする研修などに、インクルージョン研修を絡めることができます。

様々な企業で人材育成や人事制度改革をご支援してきたALL DIFFERENTでは、インクルージョンの実現にご活用いただける研修を多数ご用意しています。組織のインクルージョン推進に、ぜひお役立てください。