新入社員研修とは?目的、期間、実施内容とカリキュラム作成のポイント


新入社員研修は、学生から社会人への意識転換と、基本的なビジネススキルの習得を目的とした教育プログラムです。様々なプログラムを通じて、新入社員が職場で活躍するための土台を築きます。
本コラムでは、新入社員研修の目的や期間、カリキュラム例、効果的な実施方法について詳しく解説します。
新入社員研修とは
新入社員研修とは、会社に新しく入った社員を対象とした教育プログラムのことです。入社に当たって必要な知識やスキル、働く心構えを身につけ、自社への理解を深めるために行われます。
新卒者向けの研修では、
- 「学生」と「社会人」の違いを具体的に認識すること
- 社会人に必要とされる基礎的なビジネス知識を習得すること
この2つが主な目的になります。
新入社員研修は中途採用者にも行われることがありますが、今回はより一般的な新卒者向けの研修に焦点を当ててご説明します。
新入社員研修を行う5つの目的
新入社員研修を実施する目的は企業によって様々ですが、主なものとして次の5つが挙げられます。
(1)学生から社会人への気持ちの切り替え
新入社員にとって最も大切なのが、学生から社会人への気持ちの切り替えです。新入社員の中には、まだ学生気分が抜けきらない人も少なくありません。そのため、研修を通じて社会人としての役割を理解し、意識を変えていく機会を設けます。
研修を受けることで会社の一員として働く自覚が生まれ、自分を成長させようという気持ちの変化にもつながります。
(2)会社の理念・事業内容への理解を深める
自社の理念や事業内容について学ぶことも、新入社員研修の重要な目的の1つです。
企業理念とは、例えば「お客さま第一主義」「品質へのこだわり」のように、会社が大切にしている価値観や行動指針のことです。自社の理解が深まれば、新入社員は迷ったときに「会社ならどう判断するか」を自分で考え、行動できるようになります。
研修では、さらに社内ルール、就業規則についても詳しく学びます。
(3)基本的なビジネスマナーを身につける
新入社員研修では、敬語や電話での対応などの基本的なマナーから、報告・連絡・相談の重要性まで、業務に直接関わるスキルを習得します。
ビジネスマナーは、仕事を円滑に進めるために欠かせないものです。研修後、配属先の部署で適切に振る舞えるよう、研修中にしっかり身につけることが大切です。
(4)社内での人間関係を構築する
研修中に同期や先輩社員とのコミュニケーションを積極的に行うことで、社内での人間関係を構築していきます。こうした取り組みも、研修の重要な目的の1つとなっています。
良い人間関係は、仕事の効率アップやモチベーション向上にも影響してくるため、新入社員にとって欠かせない要素といえるでしょう。
(5)業務に必要な専門スキルを習得する
職種によっては、新入社員研修の段階で専門的な知識やスキルを学ぶ場合もあります。基礎業務への理解を深め、実際の仕事に取り組むまでの準備をしておくことで、事業全体の理解が深まり、自分の仕事の意味を把握しやすくなります。
また、自身がどのように会社に貢献していけばよいか、組織で求められる役割を理解することにもつながるでしょう。
新入社員研修を行う時期と準備期間
続いて、新入社員研修を行う一般的な時期、準備期間について見ていきましょう。
新入社員研修を行う時期
新入社員研修は、入社当日から翌日にかけて実施されるのが一般的です。入社直後に行うことで、新入社員が先入観を持たずに企業理念や業務内容を受け入れやすくなります。
企業によっては、「社会人の基礎知識を知ってもらう」「内定者のモチベーションを維持する」といった目的で、内定式後の10~11月や入社前の2~3月に内定者研修を実施する場合もあります。
コラム「内定者研修のコツとは?企業と内定者の信頼関係を築こう!」はこちら
新入社員研修の準備期間
4月入社向けの新入社員研修の企画や準備は、一般的に10月から12月頃に検討を始める企業が多いでしょう。内定者が決定したあと、社内のニーズや内定者の特徴を考慮しながらカリキュラムを組み立てていきます。
1月を目途に研修の目標やアウトラインを決定し、その後研修期間や内容の設定、研修会場の確保を進めるのが一般的な流れです。
新入社員研修カリキュラムの作成フローについては、後ほど詳しく解説します。
新入社員研修で学ぶ主な内容
実際の研修では、新入社員は主に次のような内容を学びます。
社会人としての心構えと意識改革
研修で最初に取り組むのが、社会人としての心構えと意識改革です。
具体的には、
- 社会人に求められる行動レベルはどのようなものか
- 学生と社会人の本質的な違いは何か
- 組織の一員として関係者に対する責任の重さ
などの内容について考え、自己紹介やグループワークを通じて理解を深めていきます。
基本的なビジネスマナー
研修では、身だしなみ、挨拶、敬語の使い方、電話応対、名刺交換といった基本的なビジネスマナーを身につけていきます。重要なのは、「相手に与える印象はどのような要素で決まるのか」という根本的な仕組みを理解することです。
具体的な研修内容は以下の通りです。
- 分離礼のトレーニング
- 表情、声量のトレーニング
- 名刺交換の実習
- 電話対応の基本
- メモを取る練習
仕事の進め方と報連相
仕事の進め方の全体像を理解し、プロジェクトの管理方法を習得します。特に報告・連絡・相談の重要性と実践方法は、業務を円滑に進めるための基礎スキルであるため、重点的に学びます。
- 仕事に取りかかる前の上司への確認事項や状況確認、報告の仕方、相談方法など
- タスク管理とスケジューリング
- 優先順位の付け方
コミュニケーション力の向上
対人コミュニケーション力として、聴く力と話す力の両方を実践的に学んでいきます。聴くことの重要性や「聞く」と「聴く」の違い、口頭と文書のコミュニケーションの違いを理解し、実際の場面で活用できるスキルを身につけることが重要です。
- 傾聴スキルのトレーニング
- 結論から話す「PREP法」の実践
論理的思考力と問題解決力
思考についての基本概念や、思考スキルの汎用性などを学びます。さらに、実際の業務に則した問題を解くことで、考える力を鍛えます。
- 思考の定義と重要性を学ぶ
- 思考のトリガーを知る
- 演繹法・帰納法の理解
文書作成とPCスキル
ビジネス文書の目的を理解し、ビジネス文書のマナーを学びます。また、ExcelやPowerPointなどの基本的なPCスキルも実践的に習得します。
資料作成においては、成果物の完成度よりも、プレゼンテーションの目的を正しく理解することが重要です。
情報収集・分析力
文章とデータ(数字・グラフ)を正しく解釈し、分析につなげる方法を学びます。どのような情報にどんな意味があるのかを理解し、情報同士の関係性を見る力を身につけます。
- 文章を正しく読む方法
- 数値の種類と特徴の理解
- 情報の調べ方や手段
コンプライアンス
コンプライアンスの定義を理解し、該当する範囲や起こりうる状況例などを学びます。法的な責任を問われる可能性についても理解し、リスクに気づく力と行動を判断する力を養います。
内省と習慣化
内省の実践方法を学び、自分の仕事を振り返って学んだことを整理する力を身につけます。良い習慣が身についている人とついていない人の違いを理解し、内省を日常的に行うための自分なりのルールを作成します。
- 抽象的概念化スキルの向上
- 内発的動機付けの重要性
- 習慣化のメリット
新入社員研修でよく用いられる7つの手法
新入社員研修は、目的や内容によって様々な手法が用いられます。ここでは、多くの企業が取り入れている代表的な7つの手法について、それぞれの特徴を詳しく解説します。
(1)OJT
OJTは「On the Job Training」の略で、実際の配属先で具体的な業務を担当しながら必要な知識やスキルを身につけていく育成方法です。豊富な経験を持つ上司や先輩社員が、実際の業務を通じて新入社員の能力向上をサポートします。
実際の業務を通じて実用的なスキルを習得できる、またリアルタイムでフィードバックを得られるなどのメリットがあります。
ただし、OJTの担当者が計画性なく指導を行ったり、業務の忙しさから新入社員を放置してしまったりなど、指導者によって内容や質にばらつきが生じやすい点には注意が必要です。
コラム「OJTとは?意味・目的・メリット、“放置”を防ぐ進め方のポイント」はこちら
(2)Off-JT
Off-JTは「Off the Job Training」の略で、通常の職場環境から離れた場所で行う研修です。外部からの専門講師を招いた集合研修や外部セミナー、オンライン研修やe-ラーニングなど様々な形式があります。
Off-JTでは、業務外の専門知識やスキルを講習形式で体系的に効率よく学ぶことができます。企業側からしても、複数の社員に対して同時に実施できるため、教育効果を均一化しやすいという利点があります。
コラム「Off-JTとは?OJTとの違い、Off-JT研修のやり方や具体例を解説」はこちら
(3)グループワーク
グループワークは、参加者を少人数のチームに分けて、共同で課題に取り組む学習方法です。チームで協力して作業を進める方法と、成果をプレゼンテーションする方法の2種類があります。
仲間と連携して問題を解決していくため、対人コミュニケーション力や論理的な思考力、問題解決力を養うことができます。
(4)ケーススタディ
ケーススタディは、実際の事例を分析・検討することで、問題解決に必要な法則やコツを受講者自らが発見するというアプローチの手法です。
進め方としては、まず文書や動画で事例が提示され、参加者は問題の要因や対策を個人またはチームで検討します。それぞれに意見を発表し、講師役がそれに対しアドバイスをしながら要点を整理するという流れになります。
実際に発生した事例をベースに学習するため、トラブルやクレーム対応、商談でのプレゼンテーションなどを模擬体験できるのがメリットです。
(5)ロールプレイング
ロールプレイングは、「役割(role)」と「演技(play)」を融合した実践的な学習方式で、参加者に特定の立場を演じてもらう体験型ワークショップです。実際の業務シーンを想定し、参加者が様々な立場を演じることで技能や知識を習得していきます。
営業活動や接客業務、電話対応といった対人スキルが重要な内容の研修において特に効果を発揮し、ビジネスマナーの定着や営業トークの練習にも最適です。
実務に近い環境で繰り返し練習することで、即戦力となる技能を自然と習得でき、現場で同様の場面に遭遇しても迅速に対応する実践力が身につきます。
コラム「ロールプレイングの種類と進め方、ビジネス研修での活用事例」はこちら
(6)メンター制度
メンター制度は、豊富な経験を持つ先輩社員(メンター)が、経験の少ない後輩社員(メンティー)に対して、業務指導や心理的なサポートをする人材育成の仕組みです。
メンターは直属の上司ではなく、別部署の先輩社員が務めることが多いようです。社内での人間関係や業務に関する相談に応じたり、キャリア開発のサポートを行ったりします。
メンター制度を取り入れることで、メンティー社員の早期戦力化や退職防止などの効果が期待できます。また、メンター社員自身も、指導力やコミュニケーション力、責任感の向上など、リーダーシップ能力の成長が促進されるという利点があります。
コラム「メンター制度とは?会社組織の活性化とロイヤルティ向上をもたらす教育制度」はこちら
(7)レクリエーション
新入社員研修でのレクリエーションは、簡単なゲームや活動を通じて参加者の緊張をほぐし、交流を活発にするための手法です。研修開始前のアイスブレイクや講義の間の気分転換として有効で、自己紹介ゲーム、ジェスチャーゲーム、クイズ大会などがよく活用されます。
チームワークに必要な報告・連絡・相談の方法や、プロジェクトにおけるPDCAサイクルの実践など、業務に必要な考え方を楽しみながら習得できるという利点があります。
ただし、ゲーム自体が目標になってしまわないよう、事前に目的や狙いを明確に伝え、終了後には内容の振り返りをすることが大切です。
新入社員研修カリキュラムの作成フロー
新入社員研修の学習効果を上げるには、目的に合ったカリキュラムを用意する必要があります。ここでは、研修カリキュラムの作成手順とポイントを5つのステップで解説します。
ステップ1:組織戦略と現場のニーズを把握する
カリキュラム設計は、組織の戦略目標と現場の実態を正しく把握することから始まります。まず、会社が将来的に目指している方向性を確認し、その達成に向けて求められる人材像を設定しましょう。
そして、新入社員の配属先となる各部署への聞き取り調査を行います。管理職からは必要なスキル水準や担当業務について、昨年入社した社員からは実際に直面した困難や役立った知識などの情報を集めましょう。両方の意見を参考にすることで、より実用的なカリキュラムを作ることができます。
ステップ2:新入社員の到達目標を明確にする
続いて、新入社員が研修完了時点で身につけるべき目標を決定します。
新入社員でも理解しやすい表現を使うことが大切です。なるべく業界用語や曖昧な言葉を避け、具体的で想像しやすい内容にすることで、新入社員が目標を「自分ごと」として捉えられるようになります。
営業職であれば、「月間10件の新規開拓、四半期で契約3件獲得」といった数値目標だけでなく、「お客さまの課題を解決し、事業成長のパートナーとして信頼関係を築く」という目的を併せて伝えるのがポイントです。
ステップ3:必要スキルを洗い出して整理する
設定した目標を達成するために必要なスキルや知識を、以下の5つの分野に分けて体系的に整理します。
【新入社員に求められるスキル・知識の分類例】分野 | 主な内容 |
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社会人基礎力 |
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ビジネスマナー・コミュニケーション |
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業務遂行スキル |
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思考・問題解決スキル |
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専門知識・技術スキル |
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分類してから整理することで、必要なスキルをもれなくチェックできます。
ステップ4:育成方法とスケジュールを決める
研修のテーマが決まったら、習得するスキルに応じた育成方法を選択し、具体的な研修プログラムを作成していきます。
スケジュールを組む際は、内容を詰め込みすぎないように注意しましょう。適切なタイミングで、適切な学習を提供することがポイントです。
新入社員が1日を振り返って「今日はこれを身につけた」と実感できる程度の分量に調整するとよいでしょう。
ステップ5:研修内容を社内に共有し合意を得る
カリキュラムが完成したら、研修内容を、新入社員と研修を行う管理職・社員に共有します。
新入社員には、研修開始前のオリエンテーションでまずは会社のビジョンと方向性を説明し、新入社員に求める成長目標を具体的に伝えます。その後で目標を達成するための学習プログラムの内容と構成を詳しく紹介します。
このように段階的に説明することで、新入社員は「なぜこのプログラムを受けるのか」という研修の目的を理解しやすくなります。また、自分の将来のキャリア形成にどのような効果があるのかを具体的にイメージしやすくなり、研修への参加意識も高まります。
現場の社員や管理職には、事前に研修カリキュラムの詳細内容と育成方針を共有し、研修後の新入社員をどのようにサポートしてほしいかについて具体的に依頼しましょう。研修で学んだスキルを実務で活かすには、現場での指導方法や評価基準についても、前もって調整しておくことが重要です。
新入社員研修後に実施するフォローアップのポイント
新入社員の成長を継続的に促すために、新入社員研修終了後には通常フォローアップ研修を行います。適切なタイミングで振り返りをすることで、知識の定着やモチベーション維持、早期離職防止などの効果が期待できます。
フォローアップ研修の実施時期
新入社員のフォローアップ研修は、入社して半年から1年程度実務経験を積んだ頃に実施することが多いでしょう。新入社員がこれまでの経験を整理し、自分自身の成長を客観的に評価する良いきっかけになります。
入社後の半年から1年という時期は、新入社員自身が成長を実感できる一方で、職場での課題や悩みが明確になる時期でもあります。この成長過程において、企業側は社員一人ひとりのニーズを把握し、適切にサポートすることが求められます。
フォローアップ研修の具体的な内容
フォローアップ研修では、これまでの業務経験を通じて身につけたスキル、今後の課題、日頃心がけていることなどを、他部署の同期と意見交換する機会を設けます。
異なる部署の同期と対話することで、自分の視点では気づかなかった成長や課題を発見するきっかけにもなり、より深い自己理解につながるでしょう。
さらに、2年目社員として期待される役割と責任を伝えることも重要です。課題としては、例えば以下のようなものが挙げられます。
- 後輩の手本となる行動とは何か
- 業務の質とスピードを向上させるにはどうすればよいか
- 主体的な取り組みができているか
こうした課題の解決に向けて、2年目に実行すべき計画も作成します。
このようにフォローアップ研修で次のステップを明確にしておくと、今後の目標が定まり、2年目以降もさらなる成長が期待できるでしょう。
ALL DIFFERENTでは、多様なニーズや課題に応える研修プログラムを豊富にご用意しています。詳しくは、ページ下部の「関連する研修」よりご確認ください。