コンプライアンスとは?意味・種類と違反事例、体制強化のポイント

update更新日:2025.09.09 published公開日:2021.09.28
コンプライアンスとは?意味・種類と違反事例、体制強化のポイント
目次

近年、コンプライアンスの重要性がますます高まっています。コンプライアンス違反に伴うリスクは、決して小さなものではありません。

本コラムでは、コンプライアンスの基本・違反事例とともに、コンプライアンス強化に向けた具体的な取り組みをわかりやすく解説します。

コンプライアンスとは何か?意味と「ガバナンス」「CSR」との違い

コンプライアンスは、現在の企業経営において重要なテーマの1つです。まずは基本の意味とビジネスシーンで求められることを確認し、関係が深い概念である「ガバナンス」「CSR」との関係とともに理解を進めましょう。

コンプライアンスの意味

「コンプライアンス(compliance)」という英語の本来の意味合いは、「(命令・要求・希望などに)従うこと」。特に法令などを守るという意味から、多くのビジネスシーンでは「法令遵守」という意味で使われています。

ただし、企業活動を取り巻く法令以外に、社内の規則に違反せず、企業倫理を守るという点もコンプライアンスには含まれています。たとえ法令に違反していなくても、モラルに反する行動を取れば社会から大きな批判を受ける可能性が高いからです。

したがって、「法令遵守」のほか、「社内ルールの遵守」や「社会的良識の遵守」といった意味でコンプライアンスを理解することが大切です。

コンプライアンスとガバナンスの違い・関係性

コンプライアンスとともに言及される用語に、「ガバナンス」があります。これは「コーポレートガバナンス」のことです。

コーポレートガバナンスとは、株式・顧客・従業員・社会といったステークホルダーの多様な立場を踏まえた、透明かつ公正で迅速な意思決定を行う企業の仕組みを意味します。

コーポレートガバナンスは、有価証券報告書における記載が義務づけられるほど重要な仕組みです。東京証券取引所も「コーポレートガバナンス・コード」という、実効的なコーポレートガバナンスを実現するための主要な原則を公表しています。*

【東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(要約)】

  • 株主の権利・平等性の確保
  • 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  • 適切な情報開示と透明性の確保
  • 取締役会の責務
  • 株主との対話

コーポレートガバナンスとコンプライアンスの違いは、コンプライアンスが法令などの遵守のみを意味するのに対して、コーポレートガバナンスはコンプライアンスを含む適切な経営を実現するための仕組みであることです。

*出典:「コーポレートガバナンス・コード(東京証券取引所)」(金融庁)

コンプライアンスとCSRの違い・関係性

コンプライアンスに関連してもう1つの重要概念が「CSR」です。これは「Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)」を意味しており、利益の追求だけでなく社会の一員として責任を負うことを企業に求める概念です。

CSRには、具体的な3つの領域があります。「法令遵守」「社会貢献」そして「環境対応」です。

【CSRの3つの領域】

領域 概要
法令遵守
  • コンプライアンスのこと
  • 法令や社内規定、社会規範、企業倫理などの遵守
社会貢献
  • 企業の利益を社会に還元すること
  • 慈善活動、芸術支援、産業の少ない地域での雇用創出など
環境対応
  • 公害防止や気候変動対策のこと
  • 有害物質の適切な処理、高エネルギー効率、カーボンニュートラルなど

上の表のように、コンプライアンスはCSRの3分野の1つとなっています。

コンプライアンスの重要性

なぜ、コンプライアンスはこれほど重視されているのでしょうか。その理由は、迅速な対応が求められるビジネス環境と人材不足の中で、企業が信頼され、活動し続けていくためです。

特に意識しなければならないのが、

  1. (1)価値観やビジネス環境の変化と法改正
  2. (2)顧客・投資家・社会全体からの信頼
  3. (3)人材確保と離職防止

という3つの観点です。

(1)価値観やビジネス環境の変化と法改正

働き方や生き方の多様化、人材の多様化、新しい技術の発展、海外企業との関係性など、現在のビジネス環境は目まぐるしく変化しています。こうした変化に合わせて、法改正なども行われてきました。

こうした規制面も考慮すると、従来のやり方では法令違反になってしまう恐れもあります。法令に違反すれば、罰金や経営者・従業員への刑事罰、会社に対する損害賠償請求などにもつながってしまうでしょう。

時代に合わせて雇用慣行・行動習慣を更新していくためにも、コンプライアンスの文化醸成が大変重要です。

(2)顧客・投資家・社会全体からの信頼

コンプライアンスは、企業が顧客や投資家、ひいては社会全体から信頼されるためにも欠かせません。労働基準法や労働安全衛生法といった従業員の仕事に関わる規定に違反し続ければ、「ブラック企業」として大きな批判を受けるでしょう。

また、有価証券報告書を発行する大手企業の場合、新たな義務に対応しなければ、投資家にとって重要な情報を提供しない不誠実な企業という印象も与えてしまいます。

例えば、2023年3月には有価証券報告書発行企業に対して人的資本開示が義務づけられました。*1

2025年1月には「企業内容等の開示に関する内閣府令」などの改正案に対するパブリックコメントが募集され、株式の保有状況に関する新たな情報開示も義務づけられることになっています。*2

これらの新しいルールを把握して適切に対応できれば、現在重視されている価値観や取り組みを会社として理解していることが伝わります。「これなら安心して取引ができる」と感じてもらうためにも、コンプライアンスを重視すべきなのです。

*1 参考:「サステナビリティ情報の開示に関する特集ページ」(金融庁)

*2 参考:「『企業内容等の開示に関する内閣府令』等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について(政策保有株式の開示関係)」(金融庁)

(3)人材確保と離職防止

人材採用や既存社員の離職防止施策を進めたい場合も、ぜひコンプライアンスを意識してください。

違法な長時間労働・休日労働、ハラスメントに悩む従業員への不適切な対応(あるいは無視)などが常態化している職場では、従業員の心理的安全性が低下し、離職につながってしまいます。同時に、転職に関するWebサイトで悪い評価が増えれば、求人への応募数減少や内定辞退が増えてしまうでしょう。

採用活動に多大なコストを投じても、職場環境が悪くコンプライアンス違反が目立つようでは、人材は定着しません。「採用コストばかりが膨らみ、人材が育たない環境が常態化している」ということにならないよう、従業員が働く環境についてもコンプライアンスへの取り組みが重要なのです。

コンプライアンス違反の主な種類・パターン・事例

帝国データバンクによれば、2024年度のコンプライアンス違反による倒産件数は370件以上。コンプライアンス違反の結果、倒産だけでなく、損害賠償を求められたり刑事罰を科されたりする事例も見られます。*

そこで、どのような事例がコンプライアンス違反と判断されているのか、5種類に分けて確認しておきましょう。

*出典:「コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2024年度)」(2025年4月15日付、帝国データバンク)

不正経理や助成金の不正受給

コンプライアンス違反として最初に浮かびやすいのが、不正経理や助成金の不正受給です。

不正経理では、金融機関から融資を受けるために売上高を架空計上し、複数の銀行から6,000万円以上を詐取した事件がありました。この事件では、振り袖のレンタル事業を行っていた会社が成人式の直前に突然店舗を閉鎖し、連絡が取れない状態となったことで、消費者にも多大な影響が出ています。その後、元社長は複数件の詐欺罪で逮捕され、懲役刑を言い渡されました。*1

助成金の不正受給で特に大きな問題となったのは、2020年から発生したコロナ禍の雇用調整助成金です。東京商工リサーチによれば、2020年4月から2025年2月28日までに公表された不正受給は、累計1,620件。2024年だけでも625件ありました。*2

特に大きな金額となったのが、2025年2月に発生した結婚式場を運営する企業によるものです。不正受給額は10億1,896万円。元社長など8人が詐欺容疑で逮捕され、労働局から違約金を含めた約12億円の支払いが命じられました。当該企業は、3月に破産手続きを開始しています。*2

*1 出典:「『はれのひ』社長、二審も実刑 東京高裁、被告の控訴棄却」(2019年5月24日付、神奈川新聞)

*2 出典:「『雇用調整助成金』の不正受給公表 1,620件 公表企業の倒産は92件、倒産発生率は5.6%」(2025年3月21日付、東京商工リサーチ)

競争法違反

規制が強化されている競争法の分野では、独占禁止法をはじめ、不正競争防止法や下請法などが問題となります。

下請法に違反した場合、公正取引委員会による調査が行われ、必要に応じて勧告が行われます。2024年の勧告事例は20件ありました。*

主な違反パターンは、下表の通りです。

【下請法違反の主なパターン】*

業種 違反内容 勧告内容
製造業
卸売業
小売業など
下請業者に金型などを長期にわたって無償で保管させた
  • 下請業者に対する保管費用の支払い
  • 再発防止措置の実施
下請業者から製品を受領したあと、品質検査を実施していないのに製品に瑕疵(かし)があるとして返品した
  • 下請業者に対する返品した製品の下請代金相当額の支払い
  • 再発防止措置の実施
下請業者の責めに帰すべき理由なく、下請代金を減額した
  • 下請業者に対する減額分の金額の支払い
  • 再発防止措置の実施
下請業者への発注で発注書面を交付していなかった。加えて、保存が義務づけられている書類を保存しておらず、調査の報告命令にも従わなかった
  • 弁護士などの第三者による調査と下請業者の利益保護を行う
  • 社内の下請法遵守体制を確立し、事業再編を行う
出版業
印刷業
下請業者の納品物について、受領後の受入検査では問題なしとしていたのに、自社顧客から修正依頼を受けたことを理由に、下請業者に無償で修正させた
  • 修正にかかる費用相当額の支払い
  • 再発防止措置の実施
発注書などで示された仕様書などからは必要であることがわからない作業について、無償で修正をさせた
  • 修正にかかる費用相当額の支払い
  • 再発防止措置の実施

下請けを行う企業の利益を不当に侵害しないためにも、法令に則った適切な手続きを行わなければなりません。違反した場合、上の表になるように、適切な金額の支払いと再発防止策の実施が勧告されるでしょう。

*出典:「下請法(違反事件関係) 令和6年」(公正取引委員会)

環境法違反

環境法とは、環境の保護や維持、改善を目的として制定された法律の総称です。よく知られている法律には、水質汚濁防止法、大気汚染防止法、悪臭防止法、廃棄物処理法などがあります。

環境法関連で特に多いのが、廃棄物処理法違反です。2023年の警察庁による検挙数は産業廃棄物で654件、一般廃棄物で4,400件となっており、海上保安庁による取り締まりでも、599件中228件が廃棄物処理法違反での送致でした。*1

廃棄物処理法違反でニュースになった事件には、牧場の敷地内に子牛の死骸を埋めて有罪判決が確定した事件、廃棄物を燃やして大規模火災となった事例などがあります。

牧場の事例では、敷地内に子牛の死骸(約1.4トン)を埋めたことが不法に捨てたとして、元社長らが在宅起訴されました。判決では、懲役1年・執行猶予3年と罰金100万円がそれぞれに科され、会社にも罰金200万円の支払いが命じられています。

もう一方の火災の事例は、会社の敷地において廃棄物の木の皮およそ11キロを燃やし、消火せずにその場を離れたことが原因で周囲の住宅など16棟が焼ける大規模火災となった事件です。元社長と従業員が逮捕・起訴され、廃棄物処理法違反および重過失失火の罪に問われました。

ほかに、東京都環境局が公表している事例として、以下のものもあります。

【東京都環境局が示した事例(一部)】*2

事例の内容 違反した基準
廃プラスチック類の運搬と処理を受託した産業廃棄物処理業者が、自ら処理せずに無許可の処理業者に再委託した 無許可業者への再委託基準違反
廃プラスチック類の運搬と処分を産業廃棄物収集運搬業者に委託し、書面による契約締結も行わなかった

【委託側の違反】

  1. ①運搬業者への処分委託違反
  2. ②書面によらない運搬委託契約に対する委託基準違反

【受託側の違反】

  1. ③処分の受託違反

適切な処分を怠ると、その後、地域社会を巻き込む大きな問題に発展し得るのが環境法関連のコンプライアンス違反です。

*1 出典:『令和6年版 環境白書』(環境省)p.225、p.289

*2 出典:「産業廃棄物の不適正事例」(東京都環境局)

労働法違反

労働法違反も、よく見聞きするコンプライアンス違反の代表例です。サービス残業や賃金の支払いの遅れ、対策をしないまま行う危険な場所での作業、フォークリフトなどの不適切な運転業務などがあります。都道府県労働局は、こうした違反事例について悪質なものは書類送検し、企業名も公表しています。

2024年度に書類送検された違反事例のうち、サービス残業や賃金未払いだったものは、以下のようなものでした。

【2024年度のサービス残業・賃金未払い事例】*

違反内容 違反した法律
  • 従業員の賃金の支払いが1カ月以上遅れた
  • 従業員に最低賃金以上の賃金を支払わなかった
最低賃金法違反
  • 賃金台帳に労働日数・時間外労働時間数などの一部を記入していなかった
  • 従業員に36協定の延長時間を超える違法な時間外・休日労働を行わせた
  • 36協定を締結せずに、違法な時間外労働を行わせた
労働基準法違反

労働安全衛生法違反となる事例内容も公表されています。

【労働安全衛生法違反の事例パターン】*

  • 休業4日以上となる労働災害が発生したにもかかわらず、必要な報告を提出しなかった。あるいは、虚偽の内容の報告を提出した
  • 一定以上の高さがある足場での作業に際して、墜落防止措置を行わないまま作業させた
  • 無資格の従業員にクレーンやフォークリストの運転業務を行わせた
  • フォークリフトやドラグ・ショベルを主たる用途以外の用途で使用させた(フォークリフトのパレットに人を乗せて高所作業を行わせるなど)
  • 自然換気が不十分な作業場で、換気しないまま内燃機関をもつ機械を使用させた

「ついうっかり」を防ぐためにも、企業として日々情報のキャッチアップに努めたい領域です。

*出典:「労働基準関係法令違反に係る公表事案(令和6年4月1日~令和7年3月31日公表分)」 (厚生労働省)

個人情報保護法違反

日々ニュースになっているコンプライアンス違反には、個人情報保護法違反もあります。特に共有フォルダ・ファイルのアクセス設定ミスによる情報漏えいや、外部からの不正アクセスによって生じる情報漏えいが問題化しました。

こうした情報セキュリティ関連の事例以外にも、問い合わせへの対応や日々の業務で気をつけなければならないパターンがあります。個人情報保護委員会が公開しているヒヤリハット事例から、3つの例をご紹介します。

【個人情報保護法違反につながるヒヤリハット事例】*

  • 販売業者が販売した商品に異物混入があったと購入者から連絡があり、同意を得たうえで購入者の電話番号を製造業者に伝えた。製造業者から「代替品を送りたい」と言われ、購入者の同意を得ないまま購入者の住所を教えそうになった
  • 退職した元従業員が転職活動をしている。その応募先企業の人事担当者から元従業員の在籍確認・勤怠状況・退職理由・健康状態などを尋ねられ、教えそうになった
  • 顧客訪問で利用するために顧客の個人データが保存されたUSBメモリを適正な手続きを経て持ち出した。それを別の顧客のところに置き忘れそうになった

個人情報の第三者提供には、原則として本人の同意が必要です。話の流れで「ついうっかり」教えてしまうと、会社全体が個人情報の扱いに大きな疑問をもたれてしまいます。「不安だから、もう利用しない」ということにもなりかねません。

個人情報が保存されたデータの社外持ち出しにも十分な注意が必要です。USBメモリやノートパソコンを「自分は絶対になくさない」と感じても、ちょっとした不注意や居眠りが原因となって発生する恐れがあるからです。

*出典:「個人情報保護法 ヒヤリハット事例集」 (個人情報保護委員会)

コンプライアンス違反が発生する理由

コンプライアンス違反が発生する理由には、体制不備や経営層・従業員の認識不足などがあります。社内の体制図に法務部門が設けられている大企業でも、コンプライアンス違反が発生してしまうことは少なくありません。

違反の理由としては大きく以下の5点が考えられます。

  1. (1)法令遵守・企業倫理を軽視する企業風土
  2. (2)コンプライアンスの知識不足
  3. (3)長時間労働やきついノルマによる従業員の疲弊
  4. (4)経営層と現場のコミュニケーション不足
  5. (5)チェック体制の不備

順番に見ていきましょう。

(1)法令遵守・企業倫理を軽視する企業風土

1つ目の理由は、会社全体としてコンプライアンスの重要性を認識していないことです。

例えば、

  • ハラスメントの横行
  • 顧客や社会に対する不誠実な対応
  • データの持ち出しに関する曖昧なルール
  • 業績が思わしくない場合の粉飾決算
  • 調達がうまくいかなかったときやコスト削減目的の製品偽装

といった行動が常態化していれば、コンプライアンス軽視の企業風土と言われかねません。

「バレなければいい」という考え方で続けられてきた行動習慣は、いつか明るみに出て問題化します。表向きの行動規範や企業倫理を定めても、「守ろう」という姿勢がなければ意味がないのです。

(2)コンプライアンスの知識不足

2つ目は、経営層や従業員の知識不足です。

コンプライアンスを実践するには、事業に関連する法令の知識と、それに基づく社内規定の知識が欠かせません。これを知らずに「まあいいか」といい加減な判断をすれば、コンプライアンス違反になることがあります。

知識不足の問題は、判断の誤りだけでなく、その後の自省不足も招きます。原因・対策を検討するための知識がなく、その重大さも認識しにくいからです。罪の意識が軽いため、問題のある判断・行動を繰り返しやすいということです。

(3)長時間労働やきついノルマによる従業員の疲弊

ポスターやパンフレットでどれほどコンプライアンスの重要性を伝えても、それを実現できる現場の環境がなければ、実践は難しいでしょう。例えば、現場での長時間労働やきついノルマによる従業員の疲弊です。これが、3つ目の理由です。

無理な納期やノルマ設定があり、それを達成しなければ評価が下がる状況が発生していれば、違法な長時間労働が横行しかねません。そうした無理な目標設定のもとをたどると、経営戦略の非現実的な数値設定、現在の取引先からの理不尽な要求、現場マネジメントの不全といったケースが見られます。

また、従業員自身の「もっと業績を上げたい」という前向きな姿勢が高じて疲労が蓄積し、睡眠不足や注意力の低下が生じている場合もあります。

(4)経営層と現場のコミュニケーション不足

現場と経営層に大きな意識の違いがある場合も要注意です。経営層あるいは現場の一方だけがコンプライアンスを意識していても、他方が無頓着では、会社全体としてのコンプライアンスは危ういものになるでしょう。

この原因となるのが、コンプライアンス違反の4つ目の理由である経営層と現場のコミュニケーション不足です。

経営層が考える「やってはいけないこと」と、現場の「やらざるを得ない状況」が対立していたり、反対に、現場の「このままではまずい」という危機感を経営層が「何とかなる」と甘く見ていたりする場合、なかなか法令やルールに則った業務遂行はできません。

現場が抱える問題点と現在の法規制、社内規定などを確認したうえで話し合い、経営戦略への反映と現場のルールづくりを行うことが、全社的な取り組みには欠かせないのです。

(5)チェック体制の不備

そして、5つ目の理由が、チェック体制の不備です。明確な方針・ルールの決定や従業員教育を実施してもコンプライアンス違反が発生する場合、その原因は業務や製品のチェック不足にあるかもしれません。

コンプライアンス違反を防止する仕組みが機能していなければ、予防策の実施が属人化されてしまいます。誰のチェックも受けず、本人だけが知っているという状況が発生しやすくなるからです。

例えば、日々行うメール送信先のご入力やCCとBCCの誤認、添付ファイルの誤り、共有フォルダの不適切なアクセス設定、契約書・請求書の内容の誤りなどは、情報漏えいにつながりやすいミスです。

ノルマを終わらせるために、従業員が終業時刻後も勝手に仕事を進めていれば、会社側が把握しないサービス残業が発生するでしょう。もしかすると、上司によるハラスメントが原因になっているかもしれません。

業務の全てでダブルチェックを実施することは、業務効率のうえで難しいものです。しかし、少なくとも各業務におけるチェックリストを共有し、必ず実施する必要があります。違法な残業や休日労働の発生を防ぐには、日々の勤怠の記録の確認も重要です。

コンプライアンス違反を防ぐ体制づくりのポイント

コンプライアンス違反は発生してしまってからでは遅いため、発生させないことが何よりも重要です。社内のコンプライアンス強化体制を構築する際は、ぜひ7つのポイントを意識してください。

(1)コンプライアンス制度の対象領域を設定する

はじめに行うのは、コンプライアンスに関する会社全体の方針策定です。自社の事業活動に関わる規制や社会的責任を確認し、「公正で倫理的な事業活動を行うには、どのようなビジョン・行動規範が必要か」を検討しましょう。

具体的な規制は、業務内容によって異なります。部署ごとにコンプライアンス強化を図る領域を明確にすれば、より実践につなげやすくなるでしょう。ポイントは、ハラスメント、情報セキュリティ、労務管理、会計事務のほか、工場や建設現場といった危険な作業を伴う業務の範囲に着目することです。

これまでコンプライアンス体制を全く意識してこなかった企業においては、現状の総点検が必要です。法務担当者や経営者が中心となって、業界別のコンプライアンス研修などで基礎を学ぶところから始めましょう。

(2)関連する法令を特定する

コンプライアンスの強化領域を設定したあとは、その領域に関する法規制を確認しましょう。

代表的な領域と関連法令には、下表のものがあります。

【代表的な領域と関連する法令】

領域 関連する法令
会社経営
事業活動そのもの
民法・会社法・独占禁止法・著作権法・不正競争防止法・下請法・個人情報保護法など
消費者との関係
BtoCなど
消費者基本法・消費者契約法・特定商取引法・景品表示法・製造物責任法など
従業員の権利・健康
従業員の働き方
労働基準法・労働組合法・労働安全衛生法・労働契約法・最低賃金法・労働者災害補償保険法・労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法・パート有期労働法・育児介護休業法・障害者雇用促進法・公益通報者保護法など
情報セキュリティ 不正アクセス禁止法・特定電子メール法・サイバーセキュリティ基本法・電子署名法・刑法など
そのほか 刑法

時代の変化とともに、法改正による新制度導入や新しい法律の制定が行われる場合もあります。近年では消費税法の改正でインボイス制度が導入されたり、育児介護休業法の改正で育児休業・育児支援に関連する新しい給付金が創設されたりしました。

直近の法改正も含めて、ていねいに確認しましょう。

(3)リスクを特定して対応方針を決定する

次は、特定した法令と自社の事業活動を踏まえたリスクの洗い出しです。発生し得る法令違反・事故・不祥事といった大小様々な事態をリストアップします。

法令違反となるケースに関しては、回避するための対応方針を決めなければなりません。事故・不祥事のリスクについては、従業員の安全のためにも可能な限り回避・低減できるよう方針を定めましょう。

なお、リスクマネジメントには、取り得る対応として回避・低減・移転・受容という4つの種類があります。コンプライアンス違反を避けるために行うのは原則として回避・低減ですが、同時に移転も考えてください。移転とは、リスク発生時の影響を他の方法でカバーすること。「リスク発生時の損失に備えて保険に加入しておく」といった手段があります。

リスクの受容に関しては、コンプライアンス違反の対策では基本的に採用しません。ただ、会社の行動規範に対する違反で影響が小さいと判断される場合は、他のリスク対策を優先させるために対策を保留することは考えられます。

リスクマネジメントの詳細は、以下の関連コラムで解説しています。

コラム「リスクマネジメントとは|企業で取り組む必要性やプロセスについて」はこちら

コラム「リスクヘッジとは?意味や重要性、方法などをわかりやすく解説」はこちら

(4)相談窓口・通報窓口を設置し、周知する

コンプライアンス違反のリスクに対する方針決定とともに行わなければならないのが、相談窓口や通報窓口の設置と周知です。チェック体制の構築・強化として、窓口担当者の適切な対応マニュアルも作成しておきましょう。

窓口には、

  • ハラスメント相談窓口(設置義務あり)
  • メンタルヘルスに関する相談窓口(設置は努力義務)
  • 雇用する障害者のための相談窓口(設置義務あり)
  • 育児や介護のための休業に関する相談窓口(設置義務あり)
  • パート・有期雇用の従業員のための相談窓口(設置義務あり)

といったものがあります。

そして、コンプライアンス違反が疑われる場合の通報窓口の設置も、「内部通報制度」として従業員数300人超の企業に義務づけられています(300人以下の企業は努力義務)。

こうした窓口は、自社で設置する方法もあれば、外部委託する方法もあります。窓口業務に人員を割くことが難しいなら、対応にノウハウをもつ外部サービスを利用するとよいでしょう。

公益通報には、行政機関が設置する公的通報窓口もあります。機関によって管轄する法令が異なるため、どの法令に違反するかを明確にしたうえで、その問題が発生している証拠を提出しなければなりません。国では、まず各企業の内部通報制度を使うこと、それでも問題が解決しなかった場合に公的窓口を利用することを勧めています。

各窓口の特徴と連絡先、利用する優先順位なども併せて記載したパンフレットを作成し、従業員がいつでも確認できるようにするとよいでしょう。

参考:「組織の不正をストップ!従業員と企業を守る『内部通報制度』を活用しよう」(政府広報オンライン)

(5)企業倫理の実践に向けてコンプライアンス研修などを実施する

コンプライアンスを従業員に意識づけるには、コンプライアンス研修の実施、e-ラーニングによる学習、携行できる「コンプライアンスカード」の作成・共有などが効果的です。

コンプライアンス研修は、全従業員を対象として年1回以上、定期的に実施しましょう。コンプライアンスの重要性と違反のリスクを学ぶプログラムが一般的です。特定の業務に関わるコンプライアンス強化を図る場合は、その業務に携わる従業員を対象として、現場の実践ポイントを伝えます。

【コンプライアンス研修の内容例】

対象者 研修の内容例
管理職 ハラスメント防止
部下のメンタルヘルス
労務管理など
海外赴任者 現地の法令
現地の労働慣行など
商品・サービス開発部門 消費者関連の法令など
広報・マーケティング部門 著作権法
景品表示法など

集合研修の実施が困難な場合や、多忙で研修に参加できない従業員がいる場合は、手軽に学習を始められるe-ラーニングも活用しましょう。ただ、e-ラーニングでは受講者の主体性が成果に大きく影響する点に注意しなければなりません。理解度を確認し、実践につなげるためにも、

  • 受講後の確認テストの実施
  • 受講後のレポートの提出
  • アクションプランの作成・提出

といった施策を併せて導入してください。

さらに実践を促進するには、従業員がいつでも参照できるカードや冊子の形で、コンプライアンスに関する情報をまとめるとよいでしょう。こうした「コンプライアンスカード」の具体的な内容や大きさ、形態には、次のようなパターンが考えられます。

【コンプライアンスカードの仕様例】

内容
  • コンプライアンスの考え方
  • 守るべき規定
  • リスク発生時の対応方法
  • 相談・通報窓口の連絡先など
大きさ
  • 名刺サイズ、または従業員が携行できる大きさ
形態
  • カード形式(量が少ない場合)
  • 冊子(量が多い場合)

イントラネットなどでも簡単に確認できるようにしておくと、いざというときに便利です。

(6)リスク対策のモニタリングとフィードバックを行う

コンプライアンス強化に当たっては、現場レベルの業務のやり方・考え方を変えるべきケースも出てきます。これをうまく進めるには、リスク対策の運用状況をモニタリングし、現場にフィードバックを行うことが大切です。

モニタリングの実施方法には、

  • 対象となる部門(現場)でのセルフチェック
  • 業務監査の一環としての内部監査部門によるチェック

などがあります。セルフチェックを行う場合は、事前にリスクマネジメントで作成した対策と一貫性のあるリストを作成・共有しておきましょう。

現場へのフィードバックは、セルフチェックや監査の結果に基づいて実施します。主な項目としては、

  • 現状への評価
  • 改善すべき課題の確認
  • 改善に向けた施策の検討・決定
  • マニュアルの作成または改訂

をおさえておくと、問題の軽減や再発防止につなげやすくなります。

(7)定期的に法改正の有無などを確認する

体制づくりの最後のポイントは、定期的な法改正の有無の確認です。

繰り返しになりますが、法令は時代に合わせて改正されたり新しく制定されたりします。近年の残業時間上限規制のように、これまで特にルールがなかったものが規制されるようになることは珍しくありません。コンプライアンス強化領域に関連する法令は体制づくりの序盤で確認していますが、それだけでは不十分なのです。

「これまでのやり方をしてコンプライアンス違反になってしまった」ということがないよう、新しい法改正や制度がないか、常にアンテナを張っておきましょう。

また、新規事業の立ち上げや商品・サービスの開発・改善でも気をつけなければなりません。それまでの事業や商品・サービスでは適用されていなかった法令が適用されることもあるからです。新しいことを始める際は、必ず関連する法令のチェックが必要です。

コンプライアンス研修・セミナーにはオンライン動画研修の活用も

コンプライアンスと聞くと、漠然と「ルールを守ればいい」というイメージが浮かぶかもしれません。しかし、「具体的に、どのようなルールを守るのか」を考えるとわかるように、事業活動を続けるには多種多様な法令が関わっています。「どこから始めればいいのか」と頭を抱えてしまう人もいるでしょう。

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