ストレス耐性を上げるには?低い人と高い人の特徴、チェック方法とメンタルヘルス対策

update更新日:2025.06.18 published公開日:2024.06.13
ストレス耐性を上げるには?低い人と高い人の特徴、チェック方法とメンタルヘルス対策
目次

ストレス社会といわれる現代のビジネスパーソンにとって、ストレスにうまく対処し、心身のバランスを保つ能力はとても重要です。

本コラムでは、ストレス耐性の概念からストレス耐性が低い人と高い人の特徴、企業が取り組むべきメンタルヘルス対策のポイントをご紹介。さらに、ストレスのチェック方法、ストレス耐性を上げるためのセルフケアについても詳しく解説します。

ストレス耐性とは

はじめに、厚生労働省のe-learning資料をもとに、ストレス耐性とは何か、その概要を見ていきましょう。

ストレス耐性とは、ストレス要因(ストレッサー)に直面した際に、心身のバランスを維持しながら適応しようとする能力を指します。医学的には、ストレッサーには物理的、社会的、内的要因など多様な要素があり、これらによる刺激が生物学的反応としてストレス反応を引き起こします。

近年、経済や産業構造の変化を背景に、職場でのストレスに起因するメンタルヘルス不調が社会問題として注目を集めてきました。厚生労働省が令和5年に実施した調査によれば、仕事や職業生活で強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は8割を超え、メンタルヘルス不調による労災認定件数も増加傾向にあります。*

同省は、企業に対してストレスチェック制度の適切な運用を促し、職場環境の改善など具体的な対策を講じるよう求めています。社員のストレス耐性への配慮は、企業が取り組むべき重要課題となっているのです。

*出典:「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要(個人調査)」(厚生労働省)

ストレス耐性に関わる6つの要素

ストレス耐性には、以下6つの要素が深く関係しています。

  1. (1)感知能力
  2. (2)回避能力
  3. (3)根本の処理能力
  4. (4)転換能力
  5. (5)経験値
  6. (6)ストレス容量

それぞれの要素を詳しく見ていきましょう。

(1)感知能力

感知能力は、ストレスのサインをいち早く察知する力です。感知能力が高い人は、心身の変化や周囲の状況から、ストレスの存在を素早く感じ取ることができます。

例えば、頭痛や不眠、イライラ感といった初期症状に早く気づくことで、適切な休息を取ったり、ストレス解消法を実践したりと、早期の対処が可能になります。

(2)回避能力

回避能力は、ストレスの原因となる状況や人間関係から適切な距離を保つ力です。全ての事柄に全力で向き合うのではなく、状況に応じて関わり方を調整することで、心身の健康維持につながります。

ただし、過度な回避行動は問題解決を先送りにしてしまう可能性がある、という点には注意が必要です。

(3)根本の処理能力

根本の処理能力とは、ストレスや問題の本質を的確に分析し、根本的な解決に向けて行動する力のことを指します。表面的な対処療法ではなく課題の根源に向き合うことで、あらゆる状況下での問題解決力が向上します。

例えば、業務過多の問題に直面した際、単に残業で乗り切るという一時的な対応ではなく、

  • 業務の優先順位付けや取捨選択
  • 作業プロセスの見直し

といった本質的な解決策を検討・実行することが、根本的な処理能力の発揮といえます。

(4)転換能力

転換能力は、困難な状況をポジティブな視点で捉え直す力です。ストレスフルな出来事に直面しても、それを自己成長の機会や新たな可能性として受け止めることができます。

この能力が高い人は、難しいプロジェクトに直面した際も、「自分の能力を試せるチャンス」として積極的に捉えることができます。たとえ失敗したとしても、その経験を貴重な学びとして、次のステップに活かすことができるのです。

(5)経験値

経験値も、ストレス耐性に関わる重要な要素の一つです。これは、過去に直面したストレスフルな状況と、その克服プロセスから得られた貴重な学びの集積といえます。

例えば、

  • はじめてプロジェクトのリーダーを任されたときの不安感
  • 重要な商談での失敗
  • メンバーとの意見対立によるトラブル

このような困難を1つ1つ乗り越えていく過程での経験が、ストレスへの対応力として活きてくるのです。

(6)ストレス容量

ストレス容量とは、心身がストレスを受け止められる許容量、ストレスに耐えられる限界値のことを指します。

この容量が大きい人は、相当なストレスを受けても精神的・身体的な安定性を維持しやすく、困難な状況に直面しても冷静な判断と対応が可能です。反対に、容量が小さい人は、日常の些細な出来事でも強いストレスを感じやすい傾向にあります。

重要なのは、このストレス容量が固定的なものではないという点です。その時々の体調や周囲の環境、精神状態などによって大きく変動します。

ストレス耐性とレジリエンスの違い

ストレス耐性について理解を深めるために、よく混同されがちなレジリエンスという概念との違いを確認しておきましょう。ストレス耐性とレジリエンスは、ともにストレスへの抵抗力を表す概念ですが、少し異なる意味合いがあります。

ストレス耐性は、上記の「ストレス耐性を決める6つの要素」で述べたように、ストレスに対する抵抗力や対処能力全般を指します。

一方、レジリエンスは、ストレスフルな状況に直面したときの「立ち直る力」や「回復力」を指す概念です。つまり、レジリエンスとは、ストレスにさらされても心身の健康を維持・回復し、困難な状況に負けない能力のこと。ストレス耐性とレジリエンスは、互いに関係しているといわれています。

レジリエンスが高い人ほどストレスからの立ち直りが早く、逆にレジリエンスが低いと、ストレスからなかなか立ち直れず、落ち込みが長引いてしまうという特徴があります。

コラム「仕事の成果を左右するストレスからの"回復力" 『レジリエンス』を高める3つの方法とは?」はこちら

ストレス耐性が低い人と高い人の特徴比較

ストレスへの対処能力には個人差があり、ストレス耐性の低い人と高い人では、困難な状況に直面した際の受け止め方や反応が異なります。それぞれどのような特徴があるのか、考え方や行動の違いを見ていきましょう。

ストレス耐性が低い人の4つの特徴

ストレス耐性が低い人の主な特徴として、以下の4つが挙げられます。

①自己否定的な思考パターン

ストレス耐性が低い人は、ストレスフルな出来事に遭遇すると自己否定的になりやすいという特徴があります。気持ちが落ち込みやすく、些細なミスでも「自分は無能だ」と考えてしまいます。上司に指摘されると、すぐに「自分はダメな社員だ」と思い込んでしまう傾向も。つまり、ネガティブな思考に陥りやすいということです。

②悲観的な予測による行動

また、「この仕事は絶対にうまくいかない」「きっと失敗するに違いない」など、ネガティブな先入観に基づいて判断するという特徴が挙げられます。何事も悲観的に捉えがちで、根拠のない不安を抱えて行動することも多いでしょう。その結果、不必要な失敗を招いてしまいます。

③現実逃避の傾向

「この問題から早く逃れたい」「現実から目を背けていたい」など、現実の問題から目をそらして不安から逃げようとする傾向があります。しかし、この現実逃避は問題の解決を遅らせるだけです。

④一人で抱え込む習慣

ストレス耐性が低い人は、何でも一人で抱え込み、周りに助けを求めることが苦手です。ストレスへの対処を自分一人で行おうとして、逆にストレスを蓄積させてしまうのです。「人に弱みを見せたくない」「相談したら迷惑をかけてしまう」など、周囲のサポートを得ることに消極的な姿勢が問題解決を遅らせることにつながり、事態の悪化を招く恐れもあるでしょう。

このように、ストレス耐性が低い人はネガティブな思考に陥りやすく、不安を理由に現実逃避しがちであり、また周囲に助けを求めることが苦手。その結果、ストレスをうまく発散できずに蓄積させてしまう傾向にあります。

ストレス耐性が高い人の4つの特徴

一方、ストレス耐性の高い人の特徴は、以下の4つが挙げられます。

①前向きな思考

ストレス耐性が高い人は、困難な課題に対し、脅威ではなくチャンスだと思える前向きな姿勢を持っています。例えば、新しいプロジェクトを任されたとき、「自分の能力を試す良い機会だ」「この経験を通じて成長できる」など、ポジティブな捉え方ができます。

②自分軸での行動

そして、他人からの評価に左右されることなく、自分の信念に基づいて行動する点が挙げられます。もし指導や注意を受けても人格の否定とは捉えないため、フィードバックをもとにポジティブな自己対話を行いながら、問題解決のための行動を続けられます。

③楽観的思考

さらに、物事を良い意味で楽観視できるという点も特徴的です。失敗しても深く落ち込まず、うまく気分を切り替えて先に進んでいけます。こうした切り替えの早さと行動力が成功に向けたチャンスを生み、ストレスへの対処方法の蓄積にもつながります。

④協力関係の構築力

ストレス耐性が高い人は、どのような課題にも前向きに取り組むため、周囲の協力を得やすく、結果として問題解決能力が高いという特徴があります。ポジティブで根拠のない自責思考・他責思考を持たないため、サポートを得やすい環境を作り出せるのです。

以上のように、ストレス耐性の高い人は、困難な状況を前向きに捉え、自分の信念に基づいて行動し、楽観的な思考を持ち、周囲の協力を得ながら問題解決に取り組むことができます。ストレス耐性を高めるためには、このような姿勢を身につけることが重要といえるでしょう。

ストレス耐性を上げるためのメンタルヘルス対策とは

ストレス耐性が高いと、ストレスフルな状況に直面しても、心身の健康を回復・維持しやすくなります。では、ビジネスパーソンがストレス耐性を上げて仕事のパフォーマンスを発揮し続けるには、何をすればよいのでしょうか。

答えは、心の健康を保ち、ストレス関連疾患を予防するための「メンタルヘルス対策」を行うことです。

メンタルヘルス対策は、目的別に見ると次のような分類ができます。*1

分類 目的 内容
一次予防 メンタルヘルス不調の未然防止 ストレスマネジメント教育・職場環境の改善(コミュニケーションの活性化、業務負担の軽減など)
二次予防 早期発見と適切な対処 ストレスチェックの実施・相談窓口の設置・社内外の相談機関の情報提供
三次予防 求職者の職場復帰支援と再発防止 復職プログラムの実施・職場環境の調整・定期的な面談

こうした予防策を効果的に実施するには、以下の4つのアプローチを組み合わせることが不可欠です。*1

ケアの種類 内容
セルフケア 従業員が自らのストレスに気づき、対処する能力を身につける
ラインケア 管理監督者(上司)が部下の状態の変化に気づき、対応する(相談に乗る、職場環境を改善するなど)
事業場内産業保健スタッフなどによるケア 産業医や保健師などの専門スタッフが、専門的な立場からのアドバイスや支援を提供する
事業場外資源によるケア 外部の専門機関と連携して対策を行う(社外窓口による相談サービスの活用、職場復帰支援の委託など)

メンタルヘルス対策の実施には、目的に応じた多角的なアプローチと、本人、上司や同僚、人事部、産業医、保健師など関係者の連携が欠かせません。状況に応じた適切な予防策をとることで、万が一メンタルヘルスが不調になっても、早期回復につなげることができるからです。

また、メンタルヘルス対策には、中長期的な視点での計画、継続的な取り組みも大切です。対策の目的や実施方法、体制、そして従業員への教育や情報提供の方法などを具体的に盛り込んだ計画を策定してください。

厚生労働省が企業に義務付けている「心の健康づくり計画」を活用して、効果的にメンタルヘルス対策を進めていきましょう。*2

*1 出典:「Ⅰ メンタルヘルス対策のポイント」(厚生労働省)を加工して作成

*2 参照:「職場における心の健康づくり」(厚生労働省)

企業が行うべきメンタルヘルス対策

メンタルヘルス対策には、企業側で行うべき施策と社員本人ができるセルフケアを両方取り入れることが重要です。企業が行うべき主な施策として、メンタルの不調を相談しやすい体制構築、研修の実施、働きやすい職場環境づくり、ストレスチェック制度の導入が挙げられます。

企業が行うべきメンタルヘルス対策の具体例を見ていきましょう。

社内の担当者・担当窓口の設置と周知

職場やプライベートでの悩み、ストレスなど、ビジネスパーソンは様々な要因からメンタルヘルス不調に陥るリスクがあります。しかし、相談する場所がわからなかったり、相談することに抵抗を感じたりして、一人で問題を抱え込んでしまうことが多いのも事実です。社内に相談窓口を設置すれば、気軽に相談できるため、メンタルヘルス不調の早期発見・早期対応に役立ちます。

相談窓口の設置に当たっては、メンタルヘルスに関する知識を持つ担当者を選び、相談受付の方法や対応手順を明確にしておくことが大切です。相談内容の取り扱いにも配慮し、個人が特定できない形で情報を集約することで、社内のメンタルヘルス対策に活用できます。例えば、同じような悩みを抱える従業員が多ければ、職場環境の改善やストレスマネジメント研修を実施するなど、予防的な取り組みにもつなげられるでしょう。

一方で、相談内容が人事問題や医療的な対応を必要とする場合は、相談窓口だけで対処するのではなく、人事部や産業医、外部の専門機関との連携が不可欠です。そのため、事前に連携体制を築いておくことが重要となります。

また、従業員が安心して相談できるよう、プライバシーの保護と相談したことによる不利益な扱いがないことを保証し、周知徹底する必要があります。相談窓口の信頼性を高めることで、従業員が利用しやすい環境を整えましょう。

社内の相談窓口設置が難しい場合は、外部の専門機関への委託も検討してください。

ストレス耐性向上のための研修実施

メンタルヘルス対策においては、管理職だけでなく、非管理職も含めた組織全体での取り組みが重要です。中でも効果的な手段の一つが、研修を実施し、従業員一人ひとりがストレス耐性を高めるスキルを身につけることです。

研修では、先述したストレス耐性に関わる6つの要素((1)感知能力、(2)回避能力、(3)根本の処理能力、(4)転換能力、(5)経験値、(6)ストレス容量)について理解を深め、ストレスへの対処方法を増やすことを目指しましょう。

具体的な対処方法については、研修内のグループワークやディスカッションを通じて、参加者同士が意見交換を行い、それぞれが自分に合った気づきを得られるようにすると効果的です。

また、周囲に過度なストレスを与えないためのコミュニケーション方法を学ぶ必要もあります。職場におけるコミュニケーション不全がストレスの原因となることは少なくありません。コミュニケーションを改善するには、上司と部下、同僚間のコミュニケーションを円滑にするノウハウやスキル習得が欠かせないのです。

こうした研修を通じて、組織全体で「過度なストレスを与えない」「過度なストレスを受けていると思われるメンバーに気づき、サポートする」ためのスキルを磨いていきましょう。

職場環境改善の取り組み

従業員のメンタルヘルスを守るには、相談窓口の設置やストレス耐性向上のための研修だけでなく、職場環境そのものを改善していく取り組みも欠かせません。

具体的には、次のような施策が考えられます。

対策 内容 効果
長時間労働の是正
  • 業務の効率化
  • 人員配置の見直し
  • 時間外労働の上限設定
  • ノー残業デーの導入
  • 従業員の心身の負担軽減
  • 睡眠時間の確保
  • メンタルヘルス不調のリスク軽減
  • 集中力・パフォーマンスの向上
休暇取得の促進
  • 休暇取得を促進する制度の整備
  • 上司が率先して休暇を取得
  • 休暇取得状況のモニタリング
  • 心身の疲れのリフレッシュ
  • ワークライフバランスの向上
  • ストレス軽減
働き方の多様化
  • テレワーク・フレックスタイム制の導入
  • ライフスタイルに合わせた働き方の実現
  • ワークライフバランスの向上
  • ストレス軽減
ハラスメント対策
  • ハラスメント防止方針の明確化と周知
  • 相談窓口の設置
  • ハラスメントに関する教育・研修の実施
  • 懲戒処分の明確化
  • 従業員の安全と安心の確保
  • 職場環境の改善
  • メンタルヘルス不調のリスク軽減

特に見落としやすいのが、従業員の睡眠時間です。従業員の十分な睡眠は、健康維持だけでなく、集中力やパフォーマンスの向上など、仕事の成果にも直結します。そのため、長時間労働を是正し、睡眠時間を確保することは、メンタルヘルス対策の重要課題です。

上記のような取り組みを実践することで、従業員の心身の負担を軽減し、メンタルヘルス不調のリスクを低下させることができます。企業文化や風土の改善にも取り組み、従業員が安心して働ける環境づくりを推進しましょう。

これらの対策の効果を測定し、従業員の声を反映しながら、継続的な見直しと改善を行うことも大切です。

ストレスチェック制度の導入

企業が行うべきメンタルヘルス対策として、ストレスチェック制度の導入や従業員のストレス状態の定期的な把握も必要不可欠です。

厚生労働省は、職場におけるストレスチェックを支援するために、以下のようなツールを提供しています。

ツール名 説明
厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム ストレスチェックの受験・結果出力・集団分析などを無料で実施できる企業向けプログラム*1
5分でできる職場のストレスセルフチェック 所要時間約5分、57問の質問に答えるだけで職場ストレスが測定できるWebコンテンツ*2

これらのツールを活用すれば、社員のストレス状態をより詳細に把握できるでしょう。高ストレス者に対しては、医師による面接指導を実施するなど、適切なフォローを行ってください。

*1 参照:「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム ダウンロードサイト」(厚生労働省)

*2 参照:「5分でできる職場のストレスセルフチェック」(厚生労働省)

ストレス耐性を上げるセルフチェックとセルフケア

ここからは、ストレスマネジメントに効果的なセルフケアをご紹介します。

セルフケアの習得で具体的に身につける力は、以下の3つです。

  • ストレスの原因を理解し、適切に対処する力
  • 心身の健康を維持し、ストレスによる悪影響を最小限に抑える力
  • ストレス耐性を高め、困難な状況でも柔軟に対応できる力

まずは自分自身のストレス要因を理解することから始めましょう。日々の生活の中で、どのような出来事や状況がストレッサー(ストレスの原因)となり、それがどのように心身に影響を与えているのか。この理解が効果的なセルフケアの第一歩となります。

ストレッサーの種類と心身への影響

ストレス反応の原因となるストレッサーを正しく認識するには、大まかな種類をおさえておくと便利です。ストレッサーは、以下の4種類に分類されます。

【ストレッサーの4分類】

種類 説明
物理的ストレッサー 騒音、混雑、温度、光など、物理的な環境による刺激 満員電車、騒々しい職場、不快な温度・湿度、眩しい光
社会的ストレッサー 対人関係、仕事、家庭、経済など、社会生活における要因による刺激 人間関係のトラブル、仕事のプレッシャー、経済的困窮、家族の問題
内的ストレッサー(心理的なもの) 性格、考え方、過去の経験など、個人の心理的要因による刺激 完璧主義、悲観的な考え方、過去のトラウマ、ストレス耐性の低さ
内的ストレッサー(生理的なもの) 身体の状態や機能の変化、または身体的負担による刺激 疲労、睡眠不足、病気、怪我、慢性痛など

私たちは日常生活の中で、このように多くのストレッサーにさらされています。ストレッサーに対する反応は、身体面、行動面、心理面の3つの側面から捉えるとわかりやすいでしょう。

【ストレッサーによる心身への影響】

反応 具体例
身体面 頭痛、肩こり、胃痛、動悸、不眠、疲労感など
行動面 飲酒量・喫煙量の増加、仕事でのミス・事故の増加など
心理面 イライラ、不安、抑うつ気分、集中力の低下、意欲の減退など

ストレッサーに日常的にさらされ続けていると、心身に深刻な影響が出るかもしれません。自分が何にストレスを受けやすいのかを認識し、ストレッサーとの上手な付き合い方を見つけ、ストレス耐性を高める第一歩を踏み出しましょう。

出典:「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳」

出典:「セルフメンタルヘルス」(厚生労働省)

ストレスのセルフチェック

自分のストレス状態を把握することは、ストレスマネジメントに不可欠です。日々の生活の中で、ストレスを感じているサインを見逃さないように、定期的にセルフチェックを行いましょう。

以下のチェックリストで当てはまる項目が多い場合は、既にストレスが蓄積されているかもしれません。

【ストレスのセルフチェックリスト】

  • 身体面のチェック

    • 頭痛、肩こり、胃痛などの身体症状がある
    • 疲労感が強く、だるさを感じる
    • 不眠や睡眠の質の低下がある
  • 精神面のチェック

    • イライラ、不安、落ち込みなどの感情の変化がある
    • 集中力の低下や物事に対する意欲の減退がみられる
    • ゆううつな気分が続く
  • 行動面のチェック

    • 飲酒量や喫煙量が増加している
    • 仕事のミスや事故が増えている
    • 人付き合いを避けるようになった

蓄積されたストレスを軽減するには、次項で紹介するストレス解消法を試したり、周囲の人や専門家に相談したりするなど、何らかの対処が必要です。

ストレスコーピングの種類と選び方

ストレスフルな問題や状況に対処するための方法として「ストレスコーピング」を行いましょう。ストレスコーピングには、大きく分けて以下6つのタイプがあります。

コーピングの種類 説明
問題焦点型コーピング ストレスの原因となる問題に直接アプローチし、解決策を見いだす方法。問題解決のために情報を収集したり、行動計画を立てたり、周囲に協力を求めたりする。ときには、問題から一時的に距離を置くことで、冷静に状況を分析し、解決の糸口を探ることもある。
社会的支援探索型コーピング 周囲の人々に相談し、アドバイスや助言を求める方法。信頼できる人とのコミュニケーションを通じて、悩みや不安を共有して共感を得たり、心理的な負担を軽減したりすることができる。
認知的再評価型コーピング ストレスフルな状況を別の角度から捉え直し、新たな対処法を模索する方法。例えば、「失敗は成功のもと」と捉えて、失敗から学びを得ようとしたり、「自分だけが大変なわけではない」と考えることで、ストレスを相対化したりする。柔軟な発想の転換が鍵。
情動焦点型コーピング 問題自体の解決が難しい場合に、ストレスによって生じた感情を上手にコントロールする対処方法。「怒りや不安、悲しみなどの感情を発散させてストレス反応を軽減する」「感情を自分の中に留めて冷静さを保つ」など、状況に応じて、適切な方法を使い分けることが重要。
気晴らし型コーピング スポーツ、趣味、レジャー、旅行など、ストレス解消を目的とした活動全般。ストレスの多い状況から離れて、楽しいことやリラックスできることに取り組むことで気分転換を図り、ストレスから一時的に解放される。
リラクセーション型コーピング 瞑想、ヨガなど、心身をリラックスさせる技法を活用する方法。ストレス反応によって生じる身体的な緊張や興奮を和らげ、心身のバランスを取り戻すことを目的とする。

過度なストレスがかかっている状態では、視野が狭くなり、冷静な判断がしにくくなる場合があります。一人で考え込まずに、他の人に相談したり客観的な視点から対処方法を助言してもらったりすることも効果的です。

さらに、ストレスコーピングは、複数のタイプを組み合わせることで、より効果が高まります。

企業の施策でも、それぞれの社員が自身に合ったやり方を見つけて実践できるように、ストレスコーピングに関する研修や情報提供を行うとよいでしょう。

ストレス対応のための思考フレームワーク

最後に、ストレスとうまく付き合うための思考フレームワークを3つご紹介します。日々の生活やビジネスシーンで実践することで、ストレス対処の幅を広げられるはずです。

ABC理論による状況分析

ABC理論とは、ストレス状況に対する考え方を整理し、より効果的な対処法を見つけるためのフレームワークです。ABC理論では、ストレスフルな状況を次の3つの要素に分類します。

  • A(Activating Event):ストレスの原因となった出来事

    例:上司から厳しい指摘を受けた、重要な商談で失敗した

  • B(Belief):その出来事に対する受け止め方や解釈

    例:「自分は無能だ」「もう取り返しがつかない」といった考え方

  • C(Consequence):その考え方がもたらす結果

    例:落ち込んで仕事に手がつかない、人間関係を避けるようになる

ABC理論を実践する際は、3つのステップで考えていきます。はじめに出来事(A)を客観的に見つめ直し、次に自分の考え方(B)を振り返ります。最後に、その考え方が引き起こした結果(C)を分析します。

この分析を通じて、同じ出来事でも受け止め方を変えることで、異なる結果を生み出せることに気づけます。例えば、上司からの指摘を「成長のためのフィードバック」と捉え直すことで、前向きな行動につながるでしょう。

SOC(首尾一貫感覚)の活用

SOC(首尾一貫感覚)とは、状況を理解・把握し、適切に対処できる感覚のことです。この考え方は、以下の3つの要素で構成されています。

【SOCの3つの要素】

要素 説明
把握可能感 状況を理解し、「腑に落ちる」「納得できる」と感じられる感覚です。何が起きているのかを冷静に理解し、整理できる力につながります。
処理可能感 直面する問題に対して「なんとかなる」と感じられる自信です。自分の持つリソースや周囲のサポートを活用しながら、問題解決への確信を持てる状態を指します。
有意味感 逆境にも意味を見いだし、「取り組む価値がある」と感じられる感覚です。課題に向き合うことで得られる成長や学びを認識し、前向きに取り組める力となります。

これら3つの感覚を高めることで、ストレス耐性が向上し、困難を乗り越える力が身についていきます。

メタ認知によるストレス管理

メタ認知とは、自分の思考や行動を客観的に観察し、理解する能力です。この能力を活かすことで、ストレス管理をより適切に行えます。具体的には、以下の3つの視点から考えてみましょう。

まず、自分のストレスパターンを知ることです。日々の仕事や人間関係の中で、例えば「締め切りに追われると不安になる」「上司からの指摘を必要以上に気にしてしまう」といった自分特有の傾向に気づくことができます。

次に、ストレスを感じたときの自分の変化を把握します。心拍数の上昇やイライラ感、集中力の低下など、心と体の反応を冷静に観察することで、早期対処が可能になります。

そして3つ目は、客観的に判断して、ストレス対処法を見つけることです。前述したストレスコーピングの方法を参考に、自分に合った方法を実践してみましょう。継続的な観察を重ねることで、最も適した対処法が見えてきます。

このようにメタ認知を意識的に活用すれば、ストレス耐性が高まり、より柔軟に対応できるようになるでしょう。メタ認知について詳しく学びたい方は、以下の関連コラムもご参照ください。

コラム「メタ認知とは|ビジネスでの重要性とトレーニング方法」はこちら