マルチタスクを仕事に活かすには?メリットや実践方法を解説



業務の複雑化や人手不足が進む中、限られた時間で複数の業務を効率よく進めるマルチタスク能力が求められています。しかし、マルチタスクをうまくこなせず、作業効率や集中力が低下するケースも少なくありません。
本コラムでは、マルチタスクの意味や、メリット・デメリット、事例、効果的な活用方法についてご紹介します。
マルチタスクとは
マルチタスクは現代のビジネス環境において欠かせない働き方の1つです。「今さら、説明されるまでもない」と感じる方もいるかもしれません。しかし、その定義や背景を理解することは、社員教育や研修の導入を検討するうえで大切です。改めて「マルチタスクとは何か」を確認しましょう。
マルチタスクの意味
マルチタスクとは、「複数の仕事を同時並行で処理する」仕事の進め方のことです。「マルチ」とは「複数の」という意味があります。文字通り、同じ時間に複数の作業を行う場合もあれば、ごく短い時間で複数の作業を切り替えながら進める場合もあります。
マルチタスクは、もともとはコンピュータ用語で、1つのコンピュータが異なる処理を同時に実行することを意味していました。この概念が応用され、ビジネスシーンでは「1人の人間が異なる処理を同時に行う」という使い方で広まりました。
マルチタスクの具体例としては、次のような場面が考えられます。
- 電話を受けながらメモをとる
- 会議に出席しながら議事録をとる
- 印刷をしながら同僚と業務の打ち合わせをする
また、パソコン画面を分割表示して、複数のアプリケーションを同時に開いて作業することなども、マルチタスクの一例です。
聖徳太子はマルチタスクの達人?
2つの作業を同時に進めることは、ある程度慣れれば難しくありません。ただ、これが3つ、4つと増えていくと、集中力が途切れたり、思考が混乱したりすることもあるでしょう。無理なマルチタスクは、かえってストレスやミスの原因になるかもしれません。
そのような中で、聖徳太子は10人の相談者から同時に話を聞き、そのすべてに的確にアドバイスをしたといわれます。すると、日本で最も有名なマルチタスク能力者は、聖徳太子かもしれません。
飛鳥時代の皇族であり政治家であった聖徳太子は、推古天皇の摂政としてさまざまな偉業を成し遂げました。もし彼が変化の激しい現代に生きていたら、ビジネスの場でも多様な問題に同時並行的に対処し、大いに活躍していたことでしょう。
マルチタスクとシングルタスクの違い
マルチタスクとは、複数の業務を同時並行で進める方法です。一方で、シングルタスクとは、1つの仕事を完了させてから、次の仕事に取りかかるという仕事の進め方です。マルチタスクの対義語として扱われます。
マルチタスクのメリット
マルチタスクにはどのようなメリットがあるのでしょう。ここでは、仕事を進めるうえで重要な主な2つのメリットをご紹介します。
複数の業務を同時進行できる
マルチタスクの大きなメリットは、同じ時間内に複数の作業を進められる点です。例えば、あるプロジェクトの資料作成中に別の案件のメール対応をしたり、会議に参加しながら議事録をとったりすることなどが挙げられます。限られた時間内に、効率よく業務を進められます。
また、作業中に問い合わせに応じたり、急なトラブルに対応できたりすれば、周囲の人の業務も円滑に進み、チーム全体の効率にもつながります。
業務の全体像を把握できる
マルチタスクにより、業務の全体像を把握しやすくなります。例えば、複数の業務を並行して進めることで、資料作成・見積もり・顧客対応など、異なるタスクがどのように連動しているかが見えてきます。
これにより、自分の担当業務の目的や位置付けが把握でき、優先順位をつけやすくなります。結果として、プロジェクト全体の進行を見据えた判断が可能になり、スムーズな業務につながるでしょう。
マルチタスクのデメリット
マルチタスクには多くの利点がある一方で、デメリットも存在します。ここでは、代表的な3つのデメリットをご紹介します。
生産性が低下することがある
マルチタスクは効率的に見える一方で、頻繁にタスクを切り替えることで、生産性がかえって下がることがあります。
例えば、集中して作業をしている最中に電話やメール対応が入ると、再び元の作業に集中するまでに時間がかかることがあります。
ミスや抜け漏れが発生しやすい
複数のタスクを同時に抱えていると、重要な作業の見落としや記録ミスが発生しやすくなります。
例えば、「送ったつもりの見積書が未送信だった」「返信する予定だったメールを忘れていた」など、タスクの抜け漏れに気がつき、ヒヤリとした経験はないでしょうか。小さなミスでも、取引先や社内の信頼を損ねることがあるため、注意が必要です。
業務量がキャパシティを超える
次々に仕事をこなそうとすると、自分の処理能力を超えてしまうことがあります。キャパオーバーの状態が続くと、心身の不調や業務停滞につながる恐れもあります。
マルチタスクの進め方を業務事例で見る
ここでは、具体的な業務を例に、マルチタスクの実践方法とその効果を見ていきましょう。今回は、経理担当者の仕事として「毎月上旬に取引先100社へ請求書を郵送する業務」を考えます。
まず、マルチタスクを行わない場合の業務の進め方を確認しましょう。以下のように、「取引先に請求書を郵送する」という業務を分解してみます。
- (1)業務担当者に昨月の納品実績を確認する
- (2)その納品物と請求額が見積書の内容と相違ないか確認する
- (3)顧客マスターから取引先一覧を開き、当該企業向けの請求データを入力する
- (4)請求書をプリントアウトする
- (5)宛先企業のタックシールと切手を封筒に貼り、請求書を封入・封緘する
- (6)ポストに投函する
たった1社分の請求書を郵送するだけでも、これだけのタスクがあるのです。
毎月100社分の請求書を郵送する業務を効率的に行うには、同じようなタスクをまとめて行うとともに、確認の待ち時間やプリントアウトなどで少し余裕がある時に、できる部分から先に進めてしまうというマルチタスクが有効です。
上記の業務フローの場合は、以下のような進め方が可能です。
- (1)当月末締めで請求予定案件の業務担当者に、25日時点で納品確認メールを送っておく
- (2)納品確認が取れた分の請求書から順に作成し始める
- (3)100社分のプリントアウトを行っている間に封筒に切手を貼っておく
- (4)宛先企業のタックシールを封筒に貼ると同時に請求書を封入する
- (5)封筒を机の上に並べて一気に糊を付け封緘する
さらに、「確認」「入力」「印刷」「封入・封緘」といった各工程に優先順位を設定しておけば、臨機応変にタスクを組み合わせられます。例えば、優先度の高いタスクAと、優先度がAよりは高くないタスクBを行ったり来たりしながら、効率的に作業ができます。
【マルチタスクの実践イメージ】
タスクA(優先度・高) | タスクB(優先度・中) | |
---|---|---|
1 | 業務担当者に昨月の納品実績を確認する | 領収書を分類する |
2 | その納品物と請求額が見積書の内容と相違ないか確認する | |
3 | 顧客マスターから取引先一覧を開き、当該企業向けの請求データを入力する | |
4 | 請求書をプリントアウトする 切手を封筒に貼る |
領収書を貼る |
5 | 宛先企業のタックシールを封筒に貼り、請求書を封入・封緘する | |
6 | ポストに投函する | 他の郵送物も一緒に投函する |
具体的なマルチタスクの方法については次章で詳しく解説します。
仕事でマルチタスクを行う方法
では、どのようにマルチタスクを実践すれば効率よく作業できるでしょう。ここでは、実際にマルチタスクを進めるうえで役立つ4つの方法をご紹介します。
- タスクを細分化する
- タスクをリスト化する
- タスクの優先順位をつける
- タスクの所要時間を把握する
1つずつ見ていきましょう。
タスクを細分化する
マルチタスクは複数のタスクを同時並行的に進めることです。しかし、実際には、人間の脳は複数のことを完全に同時に進めることは困難だといわれています。では、なぜマルチタスクができるのでしょうか。
その答えは、「高速で頭を切り替えている」からです。言い換えれば、シングルタスクを非常に短時間で切り替えている状態です。そのため、1つのタスクを細分化し、短時間で処理できる単位に分けておくことが重要です。
タスクをリスト化する
タスクを細分化したら、「今どんなタスクがあるのか」「どこまで終わっているのか」を正確に把握する必要があります。しかし、複数の業務を同時に進めながら、頭の中だけで進行状況を管理するのには限界があります。
特に業務が立て込むと、「あれもやらなければ」「これも終わっていない」と情報が交錯し、重要な作業をうっかり抜かしてしまうことがあります。
そこで大切なのが、タスクをリスト化して、抜け漏れのない状態を保つことです。紙やToDo管理ツールに書き出しておくことで、タスクの可視化ができ、進捗の管理がしやすくなります。
「これは覚えておける」と思うことでも、忙しい日常業務の中では忘れてしまうことがあるでしょう。思いついたらすぐリストに追加する習慣をつけることで、抜け漏れの防止につながります。
タスクの優先順位をつける
すべてのタスクを同時に進めることは現実的ではありません。限られた時間の中で効率よく対応するには、タスクの優先順位を決める必要があります。ここでは、優先順位を決めるための2つのステップをご紹介します。
ステップ1:緊急度と重要度の2軸で評価する
リスト化したタスクには、納期や工数、取引先の要望など、さまざまな性質があります。さらに、クオリティを求められるタスクや、多くの人に影響を与える重要な業務もあるでしょう。
そこで重要になるのが、「いつまでに(緊急度)×どれだけ大切か(重要度)」の2軸で優先度を判断することです。
ステップ2:優先順位を数値で表す
タスクを緊急度と重要度で判断する場合、数値を用いて可視化すると、さらに明確に優先順位をつけられます。緊急度と重要度を5点満点で評価し、それぞれの数値を掛け合わせて「優先順位ポイント」を算出しましょう。
例えば、「新規取引先に今日中に見積書を送る」というタスクは、緊急度5×重要度5=25ポイントとなり、最優先で行うタスクと判断できます。
一方、「机まわりを片付ける」というタスクの場合は、緊急度1×重要度2=2ポイントとなり、優先順位は低めです。
ToDoリストを作成する際に数値で優先順位を明記すると、作業の順番を迷わず決められます。Excelで管理する場合は、ポイントの高い順に並べ替えることで、タスクと優先順位が明確になるでしょう。
タスクの所要時間を把握する
タスクはその内容によって、完了までにかかる時間が異なります。印刷や確認待ちなど、何らかの待機時間が含まれることもあるため、所要時間を把握しておくと、マルチタスクの組み合わせがしやすくなります。
そこで、タスクをToDoリストに追加する際に、「30分以内」「1時間程度」「半日」「1日」といった、予想される所要時間を一緒に記録することが大切です。
例えば、上司の確認待ちの間に簡単なデータ入力を進めたり、会議資料の印刷を進めたりと、隙間時間を使って別のタスクを進められます。日々の業務を柔軟に組み立てることで、作業効率が向上するでしょう。
効果的なマルチタスクで周囲と連携
マルチタスクは、1人で業務をこなすためのスキルではなく、チーム全体の業務効率や進行に影響を及ぼします。納期遅れや抜け漏れが発生すると、業務が途中で止まったり、会社に損害を与えたりする可能性もあります。そのため、個人のタスク管理だけでなく、周囲との連携が欠かせません。
マルチタスクを効果的に行うには、タスクを細分化し、優先順位を意識しながら、状況に応じて進める必要があります。ただ、実際の業務では、自己流で対応しているケースが少なくありません。結果として、業務が増えると混乱し、かえって効率が下がってしまうこともあります。
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