慶弔休暇とは?読み方・日数・給料などの基礎知識と制度設計のポイント



慶弔休暇は、結婚や出産、親族との別れなど、人生の節目となる慶事や弔事の際に取得できる休暇制度です。本コラムでは、慶弔休暇の申請から承認までの流れ、給与や慶弔金の取り扱い、就業規則への反映方法まで、従業員と企業、双方の立場でおさえておくべきポイントをわかりやすく解説します。
慶弔休暇とは
はじめに、慶弔休暇の基本的な意味や種類、特徴について見ていきましょう。
慶弔の意味と読み方
慶弔休暇(読み方:けいちょうきゅうか)は、結婚や出産などの慶事、親族の死亡などの弔事に際して取得できる特別休暇です。慶事は喜びごと、弔事は悲しみごとを指し、人生の大切な節目に会社が認める休暇制度となっています。
慶弔休暇の種類と対象事由
慶弔休暇の具体的な例は以下の通りです。
区分 | 取引先 |
---|---|
慶事 |
など |
弔事 |
など |
慶弔休暇の法的な位置づけと特徴
慶弔休暇は、年次有給休暇や産前産後休暇のように労働基準法で定められた法定休暇ではなく、企業が福利厚生の一環として独自に設けている特別休暇です。そのため、休暇日数や給与の扱いは、企業の規定によって異なります。
ちなみに、災害による被害は慶弔休暇とは別枠で扱われるのが一般的です。多くの企業が災害時の特別休暇や見舞金制度を個別に設けています。
慶弔休暇の種類と日数の目安
慶弔休暇を取得できる日数は、企業によって基準が異なります。ここでは、慶事・弔事における一般的な休暇日数の目安について解説しましょう。
慶事の場合の休暇日数
慶事に関する休暇日数は、以下のような日数が一般的です。
慶事の種類 | 休暇日数(目安) |
---|---|
本人の結婚 | 3~5日 |
子供の結婚 | 1~2日 |
配偶者の出産 | 1~3日 |
結婚休暇は、本人または子が結婚する際に取得できます。ただし、その他の親族の結婚については、企業の規定により判断が分かれることが多いようです。
出産休暇は、配偶者が出産するときに取得します。一方、女性従業員本人の出産に関しては、法定の産前産後休暇や育児休暇の対象となるため、慶弔休暇とは区別されます。
近年では、本人や家族の誕生日に取得できる「バースデー休暇」や、結婚記念日などの「アニバーサリー休暇」などを設ける企業も増えているようです。
弔事(忌引き)の場合の休暇日数
弔事に関する休暇は、家族や親族の葬儀に際して取得できるもので、「忌引き」とも呼ばれます。亡くなった方との続柄により、取得できる日数が次のように定められています。
弔事の種類 | 関係 | 休暇日数(目安) |
---|---|---|
配偶者が亡くなった場合 | - | 7~10日 |
父母・子が亡くなった場合 | 1親等 | 5~7日 |
祖父母・兄弟姉妹が亡くなった場合 | 2親等 | 2~3日 |
伯叔父母・曽祖父母・甥姪が亡くなった場合 | 3親等以上 | 0~1日 |
配偶者が亡くなった場合は、従業員本人が喪主となって葬儀全般を取り仕切ることが多いため、最も長い休暇が認められています。葬儀の準備や各種手続きに加え、精神的な負担も考慮された日数となっています。
父母や子の場合は通常5~7日の休暇が付与され、配偶者の父母も同じ扱いとなることが一般的です。ただし、喪主を務める場合や遠方での葬儀の際は、追加で休暇が認められることもあります。
慶弔休暇の対象外となるケース
慶弔休暇の対象範囲は、主に3親等以内の親族に限られています。慶弔休暇の対象範囲は、原則として3親等以内の親族に限定されています。親しい間柄であっても、遠縁の親族や血縁関係のない方の葬儀は、通常、対象外となります。
これは、慶弔休暇が会社の福利厚生制度の一環として運用されており、公平性を保つため一定の基準に基づいて運用する必要があるからです。
慶弔金制度と給与の取り扱い
慶弔金は企業が従業員に支給する特別手当で、慶事の際は「お祝い金」、弔事の際は「弔慰金」と呼ばれます。これらは総称して「慶弔見舞金」や「慶弔費」とも表現されます。
慶弔休暇中の給与支給(有給・無給の区分)
慶弔休暇中の給与支給については、企業ごとに対応が異なります。一般的な基準は以下の通りです。
区分 | 対応 |
---|---|
有給の場合 | 通常通りの給与を全額支給 |
無給の場合 | 慶弔見舞金による補填 |
一部有給の場合 | 規定日数内は有給、超過分は無給扱い |
多くの企業では、以下のいずれかの方式を採用しています。
- 休暇期間中も通常通りの給与を支給する完全有給制
- 無給とし、代わりに慶弔見舞金で補填する方式
- 規定日数までは有給とし、超過分を無給とする併用方式
慶弔金と香典との違い
慶弔金(慶弔費)と香典は、どちらも慶事や弔事に関わる金銭ですが、その性質は大きく異なります。前者は、企業が従業員の慶弔時に支給する福利厚生制度の1つです。一方後者は、葬儀の際に霊前に供えるものです。
葬儀に関する慶弔費は「死亡弔慰金」や「弔慰金」と呼ばれ、家族の死亡時には従業員本人へ、従業員本人の死亡時には遺族へ支給されます。
なお、香典袋には「御霊前」と「御仏前」の2種類があります。仏教では四十九日を境に使い分け、お通夜や葬儀では「御霊前」を、四十九日以降の法要では「御仏前」を使用することが一般的です。
慶弔金の相場と支給基準
慶弔金の支給額は企業ごとに異なるものの、一般的な相場は以下のようになっています。
慶弔費の種類 | 金額相場 |
---|---|
結婚祝い金 |
本人:1~5万円 子ども:1~3万円 |
出産祝い金 | 1~5万円 |
死亡弔慰金 |
本人:5~100万円 家族:1~5万円 |
傷病見舞金 | 1~3万円 |
従業員本人への支給額に比べ、家族への支給額は低めに設定されることが多いようです。
慶弔休暇制度の導入状況
慶弔休暇の日数と慶弔金の目安について確認したところで、次は企業における慶弔休暇制度の導入状況を見ていきましょう。
2020年に労働政策研究・研修機構が行った調査では、慶弔休暇制度の導入率は84.4%で、特別休暇の中で最も高い値となっています。他の特別休暇と比較すると、以下のような状況です。
休暇の種類 | 導入率 |
---|---|
慶弔休暇 | 94.9% |
年末年始休暇 | 60.1% |
夏季特別休暇 | 48.2% |
病気休暇 | 36.1% |
また、導入企業の81.3%が休暇中の賃金を全額支給しており、夏季特別休暇(78.0%)や年末年始休暇(76.9%)と比べても高水準であることがわかります。
慶弔休暇の申請から取得までの流れ
続いて、実際に慶弔休暇を取得する際の流れを見ていきましょう。
慶弔休暇を取得する際は、企業が定める手続きに沿って申請を行います。一般的な申請手順と必要書類、申請時の注意点について解説します。
申請の基本的な手順
所定の申請書類に必要事項を記入し、直属の上司と人事部門へ提出します。申請書には以下の情報を明記します。
- 申請者名
- 所属部署
- 申請理由
- 取得希望日
- 休暇中の連絡先
申請書類が用意されていない企業では、メールや口頭での申請も認められています。その場合も、上記の情報を漏れなく伝えるようにしましょう。
申請のタイミングと必要書類
慶事の場合は、予定が決まり次第、早めに申請することが望ましいとされています。一般的な目安として、休暇取得の1カ月前までに申請し、招待状や婚姻届の写しなどの証明書類を添えて提出します。
弔事の場合は、まず電話やメールで事前連絡を入れ、出社後に正式な申請手続きを行います。会葬礼状などの証明書類は、後日の提出で構いません。
慶弔休暇を申請する際の注意点
慶弔休暇のスケジュールが前もってわかっている場合は、事前に業務の進捗状況を文書で整理し、重要案件や締め切りを確認しておきましょう。データや資料の保管場所を休暇中の代理担当者としっかり共有しておくことが大切です。取引先がある場合は、不在期間と代理担当者を伝え、業務に支障が出ないよう特に注意を払いましょう。
また、代理担当者の権限範囲を明確にし、重要な判断が伴う案件は、対応方針を決めておくと安心です。
慶弔休暇に関する企業の運用と実務対応
企業の人事担当者は、社内外の慶弔事に対して適切かつ迅速な対応が求められます。ここでは、企業の対応から具体的な実務、経理処理までを解説します。
慶弔対応の基本手順
慶弔対応を行う際は、まず以下の基本情報を確認します。
確認項目 | 内容 |
---|---|
対象者 | 慶弔の当事者は誰か |
事由 | 慶事・弔事の具体的な内容 |
日時 | 式典などの日程 |
場所 | 会場の所在地 |
対応内容 | 必要な手配や準備 |
これらの情報を把握したうえで、社内外の関係者への連絡や必要な手配を進めていきます。
慶事への対応
一般的に、社員の結婚式の場合は、出欠の連絡を行い、祝儀や祝電を準備します。出産の場合は、お祝い金、お祝いメッセージ、贈り物などを手配します。取引先のお祝いの場合は、花や品物などを手配することが多いようです。
弔事への対応
社員やその家族が亡くなった場合は、葬儀について確認し、供物や供花、香典、弔電などの手配を行います。葬儀へ参列することもあります。
社内への連絡は、メール、社内報、掲示板などを活用します。弔事の場合は、故人や遺族の気持ちやプライバシーへ配慮して行いましょう。
慶弔費の経理処理
慶弔費の経理処理は、支給対象ごとに以下のように区分されます。
支給対象 | 勘定科目 | 経費算入 |
---|---|---|
従業員・役員 | 福利厚生費 | 可能(社会通念上妥当な金額に限る) |
取引先 | 交際費 | 原則不可(資本金1億円以下の中小法人を除く) |
従業員や役員への慶弔費は、福利厚生費として処理します。ただし、社会通念上妥当な金額(祝儀30,000~50,000円、香典5,000~10,000円程度)を超える場合は、給与(課税対象)と見なされる可能性があるため注意しましょう。
取引先への慶弔費は交際費として処理します。領収書が発行されない場合は、以下のような書類で支払いを証明します。
- 出金伝票
- 慶弔費精算書
- 式典の招待状
- 会葬礼状
慶弔休暇制度 導入のポイント
慶弔休暇制度は、企業の福利厚生として広く普及していますが、導入の際は適用条件や申請方法、就業規則への反映など、慎重な検討が必要です。
最後に、慶弔休暇制度の導入に向けた主なポイントを解説します。
慶弔制度の適用範囲
慶弔休暇制度の設計では、以下の項目を明確に定める必要があります。「どのような行事や出来事を対象にするか」「慶弔休暇を何日付与するか」「有給か無給か」「親族とは何親等までを対象とするか」などを定義します。
【慶弔休暇の適用に関する検討事項(例)】
対象者 |
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申請時期 |
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取得条件 |
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対象者を決める際は、同一労働同一賃金の観点から慎重な判断が求められます。例えば、正社員と同様の勤務形態の非正規従業員に対しては、同等の制度適用を検討する必要があります。
休暇の優先順位
特別休暇は企業が独自に設定できる法定外休暇ですが、特定の事由に対応する特別休暇がある場合は、まずその特別休暇を使用することが一般的です。例えば、親戚の弔事で休みを取る場合は、年次有給休暇ではなく慶弔休暇を優先的に使用することが望ましいとされています。
また、慶弔休暇だけでは不十分な場合、年次有給休暇と組み合わせて取得することも可能です。新婚旅行で長期休暇を取りたい場合や、遠方での葬儀で移動時間が必要な場合は、慶弔休暇と年次有給休暇を組み合わせて取得するケースも見られます。
運用に当たっては、以下の点に留意しましょう。
- 休暇の目的に応じた適切な制度利用を促す
- 従業員の意向を尊重する
- 休暇の取得理由や状況に応じて柔軟に対応する
特別休暇と年次有給休暇の使い分けは、制度の趣旨を踏まえながらも、最終的には従業員の意思を尊重する形で運用することが重要です。
申請方法の規定
就業規則には、申請時に必要な書類や手続きを明確に定めます。記入漏れや間違いがないよう、以下のようなフォーマットを用意しておくとよいでしょう。
項目 | 内容 |
---|---|
基本情報 | 申請者名、取得希望日・期間、申請理由など |
添付書類 | 入籍届、結婚式の招待状、出生証明書、会葬礼状など |
連絡先 | 休暇中の緊急連絡先 |
就業規則への反映
制度の詳細が決まったら、就業規則に慶弔休暇制度に関する事項を追加します。就業規則を変更する際は、従業員代表の意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です(労働基準法89条、90条、92条)。
就業規則はいつでも従業員が参照できるように掲示、もしくは交付して周知しましょう(労働基準法106条)。