行動変容とは?行動変容ステージモデルの理解と実践方法を解説



行動変容とは、人の意識や考え方を変えることで行動を変えるプロセスのことを表し、医療や介護、ビジネス・教育など様々な分野で使われています。
ビジネスにおいて、社員や部下に望ましい行動習慣を定着させるには、行動変容ステージモデルを理解し活用することが重要です。
本コラムでは、行動変容の意味や行動変容ステージモデルの理論、適切なアプローチ法などについて解説します。
行動変容とは?その意味と重要性
行動変容とは一般的な意味では「人の行動が変わること」ですが、元々は医療用語であり、現在ではビジネスや教育など様々な分野で使われています。
まずは行動変容の意味や定義、ビジネスでの使い方や例文などについて解説します。
行動変容とは?簡単に説明
行動変容とは、人の意識や考え方を変えることで行動を変える方法やプロセスを意味します。
行動変容は元々医療で使われていた言葉で、医療用語の英語版は「behavior modification」です。*
ビジネスなど一般的に「行動を変えること」という意味で使うときは、英語で「behavior change」などの言葉が使われます。
*参考:J-STAGE アレルギー/66 巻 (2017) 3 号/行動変容
健康・ビジネス・教育における行動変容
上で説明したように、行動変容は元々医療で使われていた言葉で、患者に対して病気回復や健康維持のための行動を促すことを意味します。禁煙や食生活の改善など、患者にライフスタイルや生活習慣を変えてもらうためには、ただ単に指導や知識を伝えるだけでなく、個人の心理的側面や価値観に働きかけることが必要だからです。
行動変容の変化のステージや適切なアプローチ法などが研究されるにつれ、人の行動を変えるために内面に働きかける方法として、ビジネスや教育の分野でも取り入れられるようになりました。
行動変容はビジネスにおいては、対象者について「業務において課題となっている行動をより望ましい行動に変えること」を意味します。
同じように、行動変容は学習や研修などを通じて、受け手が「何を学んだ」のかではなく、「どう変わったか」「いかに行動に反映されたか」に着目するなど、教育や人材研修の分野でも導入されています。
「行動変容を起こす」とは?ビジネスでの使い方や例文
ビジネスにおいて行動変容は「人に働きかけて大きな成果や変化を生み出す」という意味で用いられます。働きかける対象は、組織のメンバーや部下、顧客など様々です。
行動変容という言葉のビジネスでの使い方や例文をみてみましょう。
【例文】
「サステナビリティを企業文化に根付かせるためには、トップが率先して行動変容を起こす必要がある」
「定期的なフィードバックを通じて部下に行動変容を促す」
行動変容という言葉はビジネスにおいては、「行動変容を起こす」「行動変容を促す」といった表現で用いられることが多いようです。
行動変容ステージモデルの5つの段階と特徴
行動変容ステージモデルは、行動変容のプロセスを5つのステージに分類する考え方です。
行動変容ステージモデルは、対象者の関心の程度や実行の状況に応じて以下の5つのステージに分類されます。
【行動変容ステージモデル】
段階 | 本人の状態 |
---|---|
第1ステージ:前熟考期(無関心期) | 本人の課題が明確ではなく、新しい行動への取り組みに無関心で、行動を変えようという意識がない |
第2ステージ:熟考期(関心期) | 課題をおぼろげながら認識し、どのような課題に向かうかを考える |
第3ステージ:準備期 | 課題を明確にし、1カ月以内に課題を解決しようと思っており、その課題解決に向けて準備やトライアルを行う |
第4ステージ:実行期 | 設定した課題に対して、一定期間(6カ月程度)継続して、実際に新しい行動に変えて挑戦する |
第5ステージ:維持期 | 実行期で実践した新しい行動を習慣化させ、定着を意識している(新しい行動を6カ月超維持している) |
育成対象者は、各ステージを行ったり来たりしながら、最終ステージである「維持期」に至ります。一定期間以上の実践によって新しい行動が習慣化され、定着するという流れです。
例えば、研修などでの学びを効果的にしたい場合は、第2ステージや第3ステージへの働きかけを意識します。研修後のフォローアップや振り返りを兼ねた研修は、第4ステージや第5ステージで効果を発揮するでしょう。
ステージ別のアプローチ法については次の章で詳しく解説します。
行動変容ステージ別のアプローチ法
行動変容を促すには、ステージごとに適切なアプローチを行うことが重要です。
行動変容のステージごとに適切なアプローチを意識することで、スムーズな変容と長期的な定着が実現しやすくなります。
ここでは「前熟考期(無関心期)」「熟考期(関心期)」「準備期」「実行期~維持期」の各段階に応じた効果的な関わり方を解説します。
前熟考期(無関心期)
前熟考期(無関心期)とは、行動変容の必要性や重要性を自覚しておらず、変わる意思がほとんどない段階です。この時期に有効なアプローチは、「気づき」を与えることです。
なぜ行動を変えたほうがよいのか、その理由やリスクを伝えることで、関心を引き出します。例えば、健康施策の場合は、現状の生活習慣が将来の健康リスクにどのようにつながるのかを、具体的なデータや事例を交えて伝えることが効果的です。
また、この時期の対象者は元々関心がないので双方向のコミュニケーションをとること自体が難しいケースがあります。一方通行でも、興味をもってもらうよう粘り強く情報提供することや、身近な人の経験談や感情に訴えるエピソードを共有するなどの対策が必要でしょう。無関心期は最も関心が低い状態のため、まずは興味や関心を持ってもらうことが重要です。
熟考期(関心期)
熟考期は、行動を変える必要性を理解し、近い将来に行動を変えようと考え始める段階です。しかし、まだ具体的な行動には踏み出していません。この段階では、「動機付け」と「不安の解消」が重要なポイントです。
具体的なメリットや成功事例を提示し、「自分にもできそうだ」と感じてもらうことが、次のステージへ進むきっかけになります。また、行動変容に対する漠然とした不安を取り除くため、どのように始めればよいのか、わかりやすいガイドラインを提示することも効果的です。
さらに、周囲のサポート体制や同じ目標を持つ仲間の存在を伝えることで、「一人ではない」という安心感を持ってもらうことが、行動変容へのハードルを下げる要素になります。
準備期
準備期は、具体的な行動を始めるための準備を整える段階です。この時期には、「実行への自信を高める支援」が重要になります。
例えば、行動に移すのに必要な道具をそろえる、実践に向けた事前学習を行うなど、スムーズに行動に移せる環境を整えることがポイントです。また、「この方法なら無理なく続けられそう」という具体的な行動プランを一緒に考えることも効果的です。
準備期では、「これなら自分でもできる」「もうすぐ行動できる」という自信と期待感を高めるアプローチ法が求められます。
実行期~維持期
実行期は、実際に行動を始める段階、維持期は行動を続けて習慣化を目指す段階です。ここでは「継続のためのサポート」と「成功体験の積み重ね」が重要になります。
行動を始めても、途中で挫折しないよう、定期的なフィードバックや成果の可視化が効果的です。目に見える成果が出ることでモチベーションが維持されやすくなります。
また、周囲からの応援や称賛も、継続の大きな支えになります。特に維持期では、行動を続けることで得られる長期的なメリットや、次の目標へつなげるステップを提示することで、さらなる行動変容につながるでしょう。
行動変容を人材育成や研修に活用する方法
行動変容の考え方やステージモデルのアプローチ法などは、人材育成や研修に活用できます。
企業の人材育成担当者の中には、以下のような悩みを抱えている方も多いでしょう。
- 研修をしてもその内容が職場で活用されていない
- 研修を受け身で受講し、「やらされ感」がある社員がいる
- 上司が研修内容を理解しておらず、研修と現場で食い違いが出てしまう
- 研修後は「やりっぱなし」になってしまい、投資対効果が測定できない
なぜ、こうした事態が生じてしまうのでしょうか。その答えの1つは、「気づきはあるが、行動変容につながっていない」から。様々な調査機関の調査結果を見ても、このように答える方が圧倒的に多く見られます。
「研修を受けたら、気づきを得て行動変容につなげてほしい」というのが、人材育成担当者の本音でしょう。しかし、行動変容を実現させるには、ただ研修をやるだけでは不十分です。育成対象となる社員がどのように考え、新しい行動につなげていくのかを知らなければなりません。そして、研修とその前後で、各段階に応じたサポートを行うことが重要なのです。
ここでは、まず上司や育成担当者が心がけるべきポイントを解説し、研修前・研修中・研修後のステージ別に考えられる施策を紹介します。
上司・育成担当者が心がけるべきポイント
育成対象者に人材育成や研修の内容を定着させ行動変容を促すために、上司や育成担当者は以下のような点に配慮するとよいでしょう。
- とってほしい行動を組織ごとに絞り込み、明確化する
- 上司や育成担当者が率先して実践する
- フィードバックは短い間隔で行う
- フィードバックの内容を決めておく
どのような行動が望ましいか、どのような行動を優先的に習得させるかは、業務内容によって異なります。そのため、漠然と「○○できるようにして」と伝えるよりも、「こういうときは、こうしてほしい。なぜなら…」と伝えるほうが、より現実に即した行動を習得しやすくなるでしょう。
そして、その組織にとって望ましい行動であるなら、上司や育成担当者も実践できている必要があります。他の社員に教える前に、自らが行動できるよう準備しておきましょう。
またフィードバックを行う際には、短い間隔で行うことが重要です。例えば、実際の行動から1カ月たってしまうと「あのとき、こうしていたよね」と確認しても本人は覚えていない可能性があるからです。
望ましい行動が実践されたときは、短い言葉でもよいのでポジティブフィードバックを与えてください。「懸念点は早めに相談する」ことが目標である場合は、相談までに少し時間がかかったり、ほんの小さな懸念だったりしても「ちゃんと相談してくれてありがとう」などの言葉をかけることが大切です。
逆に、望ましい行動が実践できていない場合は、リマインドメールを送ったり、帰る前に注意したりするなど、改めて行動の習慣化に向けた働きかけを行いましょう。
研修前の施策:本人の自覚を促す
研修前は、行動変容ステージモデルの第1ステージや第2ステージを意識しながら、育成対象となる本人に自身の課題に気づかせる施策を行いましょう。
具体的な施策としては、以下のようなものが挙げられます。
- 知識テストを実施して定量的に課題を把握させる
- 上司から会社の期待を伝え、本人に現状とのギャップを考えてもらうなどの方法で、定性的に課題を把握する
- 行動を変えることによるメリット、変えないことによるデメリットを伝える
さらに自らの課題を明確にするには、課題となっている行動を言語化して書き出すのが効果的です。明文化することで、「次のどのような取り組みをすべきか」に意識を向けやすくなります。課題を明文化することは、上司や同僚など関係者に宣言することにもつながります。
研修での施策:新しい行動の習慣化に向けた計画と実践
行動変容ステージモデルの第2ステージ、第3ステージに相当する施策が、研修の実施です。
行動変容を促すために以下のような施策を研修中に行うようにしましょう。
- 知識をインプットした後、実践でアウトプットする機会を設ける
- 新しい行動や習慣を身につけた後のイメージをもたせる
- 研修中または終わりに、自分の行動についての計画書を作成する
研修内容はインプットだけでなく、必ず実践でのアウトプットを組み込んだ内容にしましょう。
さらに、研修内で実際に新しい行動のトレーニングを行うことで、受講者は研修後に現場で実践するイメージを持ちやすくなります。こうしたイメージの獲得は、日常業務における実践を強く後押しするもの。知識だけを伝える研修にならないよう、うまくトレーニングを組み込んでいきましょう。
研修の終わりには、新しい行動をどのように始めるか、いかに継続させるかについて、実行計画を立案させることも大切です。自身の課題と対策、そして目標を明確にして、具体的にいつ・何をするのかを宣言させることで、「やらなければならない」という意識を高められるでしょう。
効果的なアウトプットの方法やトレーニング法については以下のコラムで詳しく解説していますので参考にしてください。
コラム「アウトプットとは?意味や仕事上のメリット、トレーニング方法をわかりやすく解説」はこちら
研修後の施策:定期的な振り返りとフィードバック
研修後は、研修で学んだ新しい行動を実践し、実行計画に沿って習慣化していくサポートを行いましょう。行動変容ステージモデルでは、第3ステージから第5ステージになります。
研修後にとるべき施策について、以下に解説します。
定期的な振り返りとフィードバックを行う
まずは、本人任せで実践させるだけでなく、上司や育成担当者が定期的な振り返りやフィードバックの機会を設けましょう。
振り返りは、なるべく短い期間で多く実施します。頻繁に振り返ることで、実際に本人がどのような行動をしていたかを思い出し、改善につなげやすくなるためです。
成功と失敗のそれぞれについて環境や行動のパターンを本人に分析してもらうとより効果的です。分析のあとは、新しい行動を続けるためにすべきこと、新しい行動をもっとできるようにするためにすべきことなど、対処法を考えさせましょう。
行動変容には時間がかかります。上司や育成担当者は、本人が納得して新しい行動の習慣化に取り組めるよう見守る姿勢を大切にしてください。
ポジティブフィードバックで成功体験につなげる
新しい行動の実践に成功した場合、上司の方はぜひポジティブフィードバックを行ってください。小さな成功体験を重ね、それを本人が実感できれば、新しい行動を継続しやすくなります。より効果的な行動に向けてチャレンジしようという動機にもつながるでしょう。
成功体験はやる気を高め、新しい行動の定着と習慣化に寄与します。研修後に一定の期間が過ぎたら、実行計画で設定した目標に到達しているかどうかもチェック。目標を達成できていれば、それ自体が成功体験になります。
部下の成長を促す効果的なフィードバックのやり方については、以下のコラムでも解説しています。
コラム「成果を上げている上司が「フィードバック」時にやっている5つのこと部下の成長を加速させる方法とは」はこちら
他の受講者の前で発表する機会を与える
次の行動変容に関わる研修で、本人がそれまでに実践してきた行動や工夫を他の受講者に発表する機会を与えるという施策もおすすめです。
話を聞いた他の受講者の反応を得て自己効力感が高まり、さらには自身の発言により責任を感じて新しい行動を続けやすくなるでしょう。
まとめ|行動変容を継続し、成果を最大化しよう
行動変容の考え方は人材育成や研修の内容を定着させ、成果を最大限に引き出すために役立ちます。
最後に、ビジネスにおいて行動変容を上手に活用し、成果を最大化するために配慮すべきポイントを解説します。
行動変容ステージモデルとアプローチ法を理解し適切に活用
行動変容を成功させるためには、行動変容ステージモデルを正しく理解し、それぞれの段階に合ったアプローチを実践することが欠かせません。ステージごとに抱える課題や心理状態は異なるため、全ての人に同じ方法を使っても効果は期待できません。
特に、前熟考期や熟考期の段階では、気づきや動機付けを与える働きかけが重要です。一方で、実行期や維持期には、継続を支えるための仕組みやフィードバックが求められます。このように、ステージモデルに合わせた柔軟な対応が、行動変容を促進し維持するポイントとなるのです。
個人と組織の行動変容
行動変容は個人と組織全体の両方に関わる重要なテーマです。
個人が主体的に行動を変えるためには、自分自身の価値観や目標を明確にし、小さな成功体験を積み重ねることが必要です。
一方、組織のメンバー一人ひとりに行動変容を促すことで、組織全体を活性化できます。組織を活性化するためには、メンバー全員が変化することのメリットを理解し、安心してチャレンジできる環境を整えることが必要となるでしょう。定期的な情報提供やロールモデルの共有、社内コミュニケーションの活性化を通じて、行動変容を組織文化として定着させる取り組みも求められます。
継続的な改善が必要
行動変容は、一度きりの取り組みで終わらせるものではありません。変化を定着させ、成果を最大化するためには、定期的に振り返りを行い、改善を続けることが欠かせません。
そのためには、上司や同僚からのポジティブなフィードバックや、定期的な進捗確認が有効です。良い点はしっかり評価し、課題はともに解決策を考えることで、前向きな姿勢を維持しやすくなります。こうした継続的な関わりと支援が、長期的な行動変容を成功に導くカギとなるでしょう。
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