福利厚生とは?種類・導入方法とメリット・デメリット
本コラムでは、福利厚生の概要や目的、種類、導入するメリット・デメリット、導入方法をご紹介します。ぜひ、福利厚生の充実にお役立てください。
福利厚生とは何か
まずは、福利厚生の概要や目的、福利厚生が提供される対象について見ていきましょう。
福利厚生の概要
福利厚生とは、企業が従業員とその家族に提供する、給与や賞与以外の報酬のことです。従業員が安心して働くための雇用保険や労災保険、企業から貸与される業務用PCなども、すべて福利厚生に含まれます。
福利厚生の具体的な内容は、企業によってさまざま。従業員にとって魅力的な福利厚生を提供できれば、従業員満足度やエンゲージメントの向上につながるでしょう。
働きやすさや私生活の充実につながる重要な制度であるため、求職者にとっても見逃せないポイントです。
福利厚生を提供する目的
福利厚生を導入する大きな目的は、従業員とその家族が健康的な生活を送れることと、働きやすさの向上により満足度やエンゲージメントを高めることの2つです。
日本企業における福利厚生は、明治時代に始まったと言われています。産業革命により発展を続ける西洋に追いつこうとする企業が、鉱山や工場で働く労働者を確保するために、福利厚生を導入したのです。
人口減少が進む現在の日本では、多くの企業が福利厚生制度の充実により、優秀な人材を確保しようとしています。従業員が働きやすい環境の提供、従業員の健康的生活とプライベートの充実化をアピールすることが、求人への応募数増加につながるからです。
福利厚生の提供対象
2020年4月に改正された「パートタイム・有期雇用労働法」「労働者派遣法」によって、福利厚生は正規雇用社員と同等の業務を行う有期雇用労働者、パートタイム従事者、派遣労働者も対象であると規定されました。
したがって、
- ●正社員
- ●正社員と同様の業務を行う有期雇用労働者、パートタイム従事者
- ●派遣会社から派遣されて働く従業員
法定福利厚生と法定外福利厚生の種類
福利厚生には、大きな分類として「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2種類があります。そして、法定福利厚生には6種類、主な法定外福利厚生には10種類あります。
法定外福利厚生は独自性を出しやすい施策。非常にユニークな施策を行う企業が、インターネットやニュースで話題になることもあります。
法定福利厚生、法定外福利厚生とは
福利厚生は法定福利厚生と法定外福利厚生に大別されます。
法定福利厚生とは、法律で定められた福利厚生であり、企業における導入・実施が義務付けられています。法定福利厚生の内容は以下の6種類です。
- ●健康保険
- ●介護保険
- ●厚生年金保険
- ●雇用保険
- ●労災保険
- ●子ども・子育て拠出金
一方、法定外福利厚生は法律で定められておらず、企業が任意で導入するものです。そのため、独自の制度を設けている企業もあれば、他の企業も利用するアウトソーシング型の福利厚生サービスを活用している企業もあります。企業によっては、法定外福利厚生自体を実施していないところもあるでしょう。
近年は、従業員の定着率向上やモチベーション向上を目的として、ユニークな法定外福利厚生を導入している企業も。珍しい施策、楽しい施策などで注目を集めるケースが増えています。
一般的な法定外福利厚生の種類
法定外福利厚生は各企業で自由に決められるものですが、実際には多くの企業で提供されているものがいくつかあります。例えば、以下の10種類が、多くの企業に見られる一般的な法定外福利厚生です。
種類 | 目的 | 具体例 |
---|---|---|
住宅 | 社員の住まいに関する資金をサポートする | 住宅補助制度 |
交通費 | 通勤にかかる交通費を補助する | 通勤手当 |
健康増進 | 社員の健康維持・向上や栄養摂取をサポートする | 食事補助制度 |
出産・育児・介護 | 仕事と家庭生活の両立をサポートする | 出産・育児休業 介護支援制度 |
慶弔・災害 | 従業員に慶事や身内の不幸があった際に、従業員とその家族を支援する | 慶弔見舞金 災害見舞金 |
自己啓発 | 従業員のスキルアップやキャリア形成に向けた成長をサポートする | 書籍購入補助金 e-ラーニング |
財産形成 | 従業員の財産形成を企業がサポートする | 財形貯蓄制度 |
多様な働き方 | 自由度の高い勤務時間・場所で多様な働き方をサポートする | 在宅勤務制度 |
特別休暇 | 有給休暇以外の休暇を与えて私生活の充実をサポートする | 長期連続休暇 子どもの看護休暇 |
文化・体育・レクリエーション | 社内イベントを開催して従業員をねぎらう | 社内サークル 社員旅行 親睦会 |
企業独自のユニークな福利厚生事例
法定外福利厚生には、非常にユニークな施策として有名な事例がいくつかあります。こうした取り組みは、「面白いことをやっている会社」という印象だけでなく、独自の企業文化も伝えてくれるものです。
そのような独自の福利厚生で話題になっている企業事例を3つご紹介しましょう。
サイコロで手当の金額が決まる
株式会社カヤックでは、福利厚生としてサイコロ給を導入しています。サイコロ給とは、サイコロを振って、出た目に応じて月給に手当が付く制度。「人間には、資本主義のモノサシで測れない価値もある」として、実施しています。サイコロは社員自らが振り、運によってその月の給与が決まります。
参照元:面白法人カヤック|サイコロ給とスマイル給
カイロプラクティックやネイルケアの実施
ペブルコーポレーション株式会社は、従業員の心身の健康維持をサポートするため、2021年に福利厚生としてカイロプラクティックとネイルケアを導入しました。週に1度、著名なカイロプラクティックの施術者やネイルケアの施術者を呼び、社員は自己負担3,000円で、就業時間内に施術が受けられる制度です。
参照元:PEBBLE|新たな福利厚生施策を追加導入
15万円の旅行代金プレゼント
クルーズ株式会社は多くのユニークな福利厚生を提供しています。その中で「ルーラ制度」は特別休暇にあたる制度です。「ルーラ」とは、ロールプレイングゲームに登場するワープのための呪文。勤続7年を迎えた社員に5日間の休暇と15万円の旅行代金がプレゼントされます。導入の目的は、「長く勤めてくれている社員へのねぎらい」と、「社員を支える家族への恩返し」です。
参照元:厚生労働省|人と企業を活性化する休暇制度を導入しましょう
福利厚生導入のメリット・デメリット
福利厚生を導入することの最大のメリットは、従業員の働き方や私生活をサポートすることで、従業員のモチベーションが向上し、ひいては離職率低下につながることです。しかし、福利厚生を充実させるほど企業側の負担が増加しやすいというデメリットもあります。
利厚生を導入するメリット・デメリットを把握して、バランスのよい落とし所を探ることが大切です。
福利厚生のメリット
先に、福利厚生がもたらす3つのメリットを見ていきましょう。
(1)従業員の満足度が向上しやすくなる
福利厚生では、従業員の成長やライフステージにおけるイベント、住宅など、職場で活用できるものから私生活のサポートになるものまで、さまざまなサービスを提供できます。こうしたサービスが充実すればするほど、従業員のワーク・ライフ・バランスもより良いものとなるでしょう。
例えば、自己啓発支援制度や時短勤務、テレワーク制度など、働きやすい環境を提供することは、仕事への集中力アップや生産性向上につながります。
出産・育児休業、特別休暇、福利施設の利用などは、プライベートな時間でしっかり休養するとともに、本人にとって有意義な過ごし方もできるでしょう。私生活の充実によって働く意欲が高まり、会社に対する満足度向上にもつながります。
(2)優秀な人材を確保しやすくなる
独立行政法人労働政策研究・研修機構が2020年7月に発表した「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」によれば、回答した従業員のうち、若い世代ほど会社の福利厚生を重視して勤務先を選んでいる傾向が見られました。
<年代別 福利厚生重視度>
*「非常に重視」「ある程度は重視」の合計。()内は「非常に重視」の割合。
- ●〜20歳 … 77.7%(44.4%)
- ●20代 … 75.2%(43.9%)
- ●30代 … 74.6%(33.6%)
- ●40代 … 73.2%(29.9%)
- ●50代 … 74.4%(28.1%)
- ●60歳〜 … 71.5%(24.5%)
IT人材を対象とした2023年の民間企業によるWebアンケートでも、「とても重視する」「やや重視する」と答えた人は全体の6割を超え、20代では8割を超えています。20代が特に望む福利厚生は「住宅補助」。「スキルアップ補助」「リモートワーク補助」も人気でした。
福利厚生の充実は、こうした求職者のニーズに応え、優秀な人材の確保に欠かせない要素となっています。
参照元:独立行政法人労働政策研究・研修機構|企業における福利厚生施策の実態に関する調査
(3)離職率の低下につながる
働きやすさやプライベートの充実につながる各種制度・手当が充実すれば、従業員が健康に暮らしながら安定した生活を営めます。従業員にとって福利厚生によるメリットが大きいほど、「この会社で働き続けたい」という気持ちも高まるでしょう。
どのような福利厚生を提供すべきかについては、それぞれの企業のミッション・ビジョンや事業内容によって異なります。しかし、福利厚生を利用する従業員に「この会社で働いてきてよかった」「これからもこの会社で働き続けたい」と思えるような施策こそが、提供する側の企業に大きなメリットをもたらすのです。
福利厚生のデメリット
今度は、福利厚生の導入におけるデメリットを見ていきます。デメリットをなるべく小さくするためにも、事前に課題となりやすい点を把握しておくことが大切です。
(1)コストが増加する
福利厚生の導入には、当然ながらコストがかかります。コストには、費用面のコストと、時間的なコストがあります。
費用面では、住宅手当を導入する場合、単純計算で対象社員数×支給金額分の費用がかかります。カフェテリアプランという、毎月一定額の補助金を会社が支給し、従業員がメニューから利用サービスを選ぶ福利厚生サービスでも、やはり人数に比例した費用が発生せざるをえません。
法定福利厚生の社会保険料が年々増加していることも、費用負担増加の要因です。各企業では福利厚生の導入にどこまでコストをかけられるかが、課題となるでしょう。
時間的コストは、制度を作り、浸透させるまでにかかる期間のことです。従業員のニーズが存在し、導入しようとする施策の目的や方法が明確であれば、比較的短期間で導入できるでしょう。しかし、ニーズや目的、導入方法といった要素のいずれかが明確でないと、それらを分析・検討し、かつ従業員への説明を行わなければなりません。
福利厚生の内容によっては、従業員にすぐには利用してもらえない、導入の意図を分かってもらえないなどの課題も出てきます。「今すぐできる」と考えず、時間をかけて理解してもらい、企業文化の醸成を図る必要があるでしょう。
(2)管理負担が増加する
企業にとって、福利厚生は管理負担の増加にもつながります。制度ごとに処理方法が異なり、書類の作成や利用サービスの窓口とのやり取りなど、これまでにない事務作業が発生するからです。こうした処理をアウトソーシングすることもできますが、費用面での課題を解決する必要があるでしょう。
福利厚生は、単純に制度が多ければ良いというわけではありません。費用がかさみすぎれば事業への影響が出てしまいます。従業員の利用率を調査し、利用率が低い制度は思い切って廃止にすることも時には必要です。
また、時代や社会状況の変化によって必要とされる福利厚生も変化しますので、定期的な見直しも欠かせません。
(3)従業員のニーズに合わないと不満につながる
どのような福利厚生を提供すべきかは、企業側のミッション・ビジョンや目的だけでなく、従業員の年齢やライフスタイル、価値観によっても異なります。そのため、せっかく導入しても従業員のニーズに合っていなければ、利用頻度が低い無用な制度となってしまうでしょう。
そして、「すべての従業員が満足する福利厚生」はないという事実も重要です。どのような制度であっても、一部の従業員にとっては無用であったり、不満のタネになったりしてしまうでしょう。
こうしたデメリットをなるべく小さくするには、従業員へのアンケートやヒアリングなどを実施し、定期的な見直しを行う必要があります。
利用率、満足度、希望する福利厚生のアイデアなどを現場から吸い上げ、それらの実現に前向きに取り組むこと、実現が難しい場合でも、ニーズに合った代替策を講じることなどが、従業員の納得感につながるはずです。
福利厚生にかかるコスト(費用面)
福利厚生の導入におけるデメリットのひとつに、コストがありました。費用面でのコストが実際にどのくらいかかるかについては、経団連が実施した福利厚生費調査が参考になります。
同調査によれば、2019年度における従業員1人1か月あたりの福利厚生費は10万8,517円。このうち8万4,392円が法定福利厚生、残りの2万4,125円が法定外福利厚生でした。
もう少し詳しく見ると、法定福利厚生における項目別の割合は、厚生年金保険が最も大きく、次いで健康保険・介護保険、雇用保険・労災保険となっています。経団連の福利厚生費調査によれば、2019年度の法定福利厚生費の内訳は下表のようになりました。
法定福利厚生 | 従業員1人1か月あたり |
---|---|
健康保険・介護保険 | 31,041円 |
厚生年金保険 | 46,832円 |
雇用保険・労災保険 | 4,810円 |
子ども・子育て拠出金 | 1,671円 |
その他 | 39円 |
他方、法定外福利厚生のコストでは、住宅関連が最も大きく、ライフサポート、医療・健康、レクリエーション、慶弔関係となっています。内訳は、以下の通りです。
法定外福利厚生 | 従業員1人1か月あたり |
---|---|
住宅関連 | 11,639円 |
医療・健康 | 3,187円 |
ライフサポート | 5,505円 |
慶弔関係 | 514円 |
文化・教育・レクリエーション | 2,069円 |
共済会 | 272円 |
福利厚生代行サービス費 | 309円 |
その他 | 629円 |
新たに福利厚生を導入するには
費用面でのコストの次は、時間的なコストを考える必要があります。時間的コストを考えるには、新しい福利厚生の導入手順を押さえておきましょう。そこで、福利厚生の導入手順を5つのステップでご紹介します。
1. 導入目的を明確にする
最初のステップは、福利厚生を導入する目的の明確化です。目的をはっきりさせることで、どのような従業員を対象とするのか、それによってどのようなメリットが生まれるのか、どのくらいサポートを行うべきかなども明確になります。
例えば、在宅勤務制度の場合、「出社が難しい状況でも生産性を維持する」「出社が難しい従業員も雇用できるようにする」などが考えられます。そして、前者であれば「在宅勤務でも生産性を維持するには、どのようなサポートが必要か」、「在宅勤務が必要な従業員は、どのような人か」を検討することになります。
2. 制度を設計する
導入する目的を明確化したら、次は目的を達成できるような制度の設計です。
制度の設計では、従業員の具体的なニーズの把握が欠かせません。「他社で人気だから」と安易に取り入れるのではなく、「自社の従業員のニーズ」を掴む必要があるのです。
ニーズの把握には、さまざまな職位の従業員へのアンケートやヒアリングを実施するとよいでしょう。定期的な1on1も、業務上の課題を通してニーズを把握する絶好のチャンスです。
3. コストを試算する
そして、避けて通れない導入・運用コストを試算しましょう。試算結果をもとに、導入が実現可能であるかを判断します。はじめに想定していた内容での実現が難しい場合は、よりニーズや重要度の高い要素に絞るという手もあります。
「導入したがコストがかさんで数カ月で廃止」という福利厚生では意味がありません。最初は導入コストを抑えて安定的に運用し、必要に応じて拡充していく方法がおすすめです。
4. 就業規則の規定・マニュアルを作成する
福利厚生の制度設計ができたら、その内容や条件に基づいて就業規則を作成します。労使間で認識の齟齬が発生しないよう、対象者や利用条件、申請方法、金額などを明記してください。
また、制度を円滑に運用するため、担当者向けのマニュアルも作成しましょう。事務処理などを担う従業員のほか、管理職向けの対応マニュアル、一般従業員向けの申請マニュアルもあると、申請や活用の誤りを減らせます。
5. 従業員に周知する
福利厚生の導入後は、従業員への周知も忘れてはいけません。制度の内容を記載した資料を配布し、従業員に利用を促しましょう。資料は配布するだけで終わらず、必ず目を通してもらえるような工夫も必要です。
なお、運用開始後は、定期的に利用者数や必要などの調査を行い、費用対効果を明確にすることも大切。自社に合ったサービスに更新することで、よりバランスのとれた制度へと成長させられます。