バーンアウトとは?バーンアウト症候群の診断からうつ病との違い、対策方法



熱心に仕事をしていた人が突然意欲を失い、業績も急激に低下したということはありませんか。それは、バーンアウト(燃え尽き症候群)かもしれません。
バーンアウトは感情労働や仕事上の人間関係のストレスなどで精神が疲弊してしまう症状です。職場での理解がないと、うつ病との違いがよくわからず混同されてしまったり、単なる甘えと認識されてしまったりする恐れがあります。
本コラムでは、バーンアウトの症状や診断方法、立ち直り方や回復過程で気をつけるべきポイントなどを解説します。
バーンアウトとは
「バーンアウト(burnout)」とは、それまで熱心に物事に取り組んできた人が、突然燃え尽きたように意欲を失ってしまう状態を意味します。
バーンアウトは感情労働の疲弊や人間関係のストレスなどから生じ、近年では対人サービス職だけでなく様々な職種で増加しているため注目されています。
まずはバーンアウトとは何か、最近注目されている背景、うつ病との違いなどについて解説します。
バーンアウト症候群の定義
バーンアウトは英語で「burnout」と表し、日本語では「燃え尽き症候群」とも訳されます。
仕事やスポーツ、学生生活、ときに家庭生活でも見られ、過度な心身の疲労、特に精神面での疲弊により、それまで意欲的に働いていた人が急に働く意欲を喪失してしまう状態をいいます。
バーンアウトという言葉をはじめて論文で取り上げたのは、アメリカの精神心理学者であるハーバート・フロイデンバーガーです。1970年代に対人サービスに従事する人が増え、多くの労働者に燃え尽きたように意欲を失う様子が見られたことが研究の背景にありました。
その後、社会心理学者のクリスティーナ・マスラークを中心とする研究グループがバーンアウトの定義を確立。「情緒的消耗感」「脱人格化」「個人的達成感の低下」という3つの尺度から重症度を評価するMBI(Maslach Burnout Inventory)を作成しました。マスラークの業績やMBIの内容については、後ほど詳しく説明します。
参考:久保真人・田尾雅夫(1991)「バーンアウト―概念と症状、因果関係について」
バーンアウトが注目される背景と現代社会の影響
バーンアウトは当初、対人サービス従事者に多く見られると考えられてきました。具体的には、医療職や福祉職、教師など、いわゆる感情労働を伴う職種です。
感情労働とは、英語の「Emotional labor」の訳で、肉体や頭脳だけでなく「感情の抑制や鈍麻、緊張、忍耐などが絶対的に必要」である労働を意味します。
感情労働は特にサービス業に携わる人に顕著ですが、現在ではこれらの職種に限らず、より多様な職種で感情労働や精神的なストレスによるバーンアウトが見られるとされています。
2022年にはWHOが発行する疾病分類にバーンアウトが盛り込まれ、職種や業界を問わず「Problems associated with employment or unemployment(雇用または失業に関連する問題)」として分類されました。*
バーンアウトは特に人間関係を原因としたストレスに起因するといわれています。バーンアウトが近年注目されている背景としては、産業社会の高度化やサービスの多様化によるヒューマンサービスの増加、少子高齢化による慢性的な労働力不足などの要因が挙げられるでしょう。
バーンアウトとうつ病の違いとは?
バーンアウトにより休職や離職する人が増加するのに伴い、うつ病との違いが議論されるようになりました。
バーンアウトとうつ病の違いは、バーンアウトが特に職業上のストレスからくる仕事への不適応を表す状態であるのに対し、うつ病はその原因や症状が職業上かプライベート上かは関係なく、明確な精神的疾患であるという点です。
上で説明した通り、WHOではバーンアウトを「Problems associated with employment or unemployment(雇用または失業に関連する問題)」と分類しており、あくまで「仕事上の現象・状態」であるとしています。
一方で、うつ病はWHOの国際疾病分類で「精神および行動の障害」に分類されており、国際的な精神疾患の基準である米国精神医学会のDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)でも診断基準が示されている精神疾患です。*1*2
バーンアウトとうつ病の症状には似たところがあり、診断が難しいケースもありますが、主な違いをまとめると以下のようになります。
バーンアウト |
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---|---|
うつ病 |
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バーンアウトの症状は他者への攻撃や不満などの形で現れるのに対し、うつ病は自分自身を責めたり長期的に落ち込んだりといった症状がでやすいという違いがあります。しかし、性格や環境によっては似た症状となることもありますので、どちらか迷う場合には専門家の診断を受けるようにしましょう。
バーンアウト症候群の診断方法と主な症状
バーンアウト症候群では早期発見と対処が重要です。
診断方法としては「マスラーク・バーンアウト・インベントリー(MBI)」が一般的で、主な症状として「情緒的消耗感」「脱人格化」「個人的達成感の低下」が挙げられます。
ここでは、具体的な診断方法と症状の詳細、自己診断に役立つチェックリストの使い方を解説します。
バーンアウトの診断方法:マスラーク・バーンアウト・インベントリー(MBI)とは
「マスラーク・バーンアウト・インベントリー(MBI)」は、バーンアウトを測定するための代表的な診断ツールです。
カリフォルニア大学バークレー校の名誉教授を務めたクリスティナ・マスラークが開発しました。マスラークは、2020年の米国科学アカデミー賞をはじめとして、多くの受賞歴がある心理学者です。
MBIでは、バーンアウトを次の3つの測定項目から評価します。
測定項目 | 測定する内容 |
---|---|
情緒的消耗感 | 精神的な疲労やストレス |
脱人格化 | 職場の人間関係に対する無関心や否定的な態度 |
個人的達成感の低下 | 仕事に対する自信や満足感 |
これらの項目に基づき、質問形式で回答を得て診断を行います。MBIを用いることで、個人や組織レベルでバーンアウトのリスクを数値的に把握でき、早期介入の指針となります。*
*参考:久保真人(2007)「バーンアウト(燃え尽き症候群)―ヒューマンサービス職のストレス」
バーンアウトの3つの症状
MBIでの測定項目に挙げられているように、バーンアウトには3つの代表的な症状があります。
3つの症状は段階的に進行することもあれば、それぞれが相互に関連し合い進行することで深刻な問題となるケースもあります。
3つの症状についてどんな特徴があるのか詳しくみていきましょう。
情緒的消耗感
「情緒的消耗感」は、「仕事を通じて情緒的に力を出し尽くし、消耗した状態」と定義されます。仕事であれば、熱心に業務に取り組んできた結果、精神的に疲れ果ててしまった状態です。
これは、ただ「疲れている」ということではありません。顧客や周囲の人に共感し、思いやりをもって対応してきたり、仕事へのモチベーション維持・向上やより良い成果を求めて熱心に取り組んできたりした結果、心のエネルギーを使い果たしてしまうのです。
仕事に真面目に取り組んでいる人ほど、対人サービスの現場で顧客や患者に対して感情的なやりとりを繰り返していく中で疲弊してしまうのが情緒的消耗感であり、バーンアウトの主症状であるといわれています。
脱人格化
情緒的消耗感が生じると、心のエネルギーを節約しようとして「脱人格化」が生じます。脱人格化は、「クライアントに対する無情で、非人間的な対応」と定義されています。もともと対人サービス従事者についての研究で定義されたことを考慮すれば、「クライアント」については、より解釈を広げて「上司や同僚」なども含めてよいでしょう。
脱人格化の状態では、他の人々との共感的な交流を避ける傾向が見られます。周囲の人に思いやりのない言動をする、相手の名前を呼ばなくなるなどの行動が出てきたら要注意です。
個人的達成感の低下
情緒的消耗感や脱人格化が起こると、当然、周囲との人間関係が悪化し、うまくコミュニケーションができなくなります。仕事への集中力も低下して、これまでの業績や成果からは考えられないような仕事の質の低下も起きやすくなってしまいます。
こうした「仕事がうまくいかない」状態が、「個人的達成感の低下」を生む要因です。自分が期待する成果を上げられず、さらに意欲ややりがいを失い、プライドも傷ついてしまいます。
個人的達成感の低下による気分の落ち込みが激しい場合は、「うつ病」の症状と似てきます。素人では判断が難しいケースもありますので、心療内科など専門家への相談・カウンセリングを早めに行いましょう。
バーンアウトの自己診断に役立つチェックリスト
バーンアウト予防には、本人が自身の状況を定期的にチェックできるリストも有用です。
バーンアウトのチェック項目としては冒頭でご紹介したMBIが広く使われていますが、より日本の労働環境に合った尺度として、久保真人教授らが作成したJBS(Japanese Burnout Scale)があります。
JBSの項目は広く公開されているため多くの現場で活用されてきました。実際にバーンアウトしている人の特徴とも適合性が高いとされており、信頼のおける尺度のひとつです。
【日本版バーンアウト尺度(JBS)】*
項目 | 内容 | 分類 |
---|---|---|
1 | こんな仕事、もうやめたいと思うことがある。 | E |
2 | われを忘れるほど仕事に熱中することがある。 | PA |
3 | こまごまと気配りすることが面倒に感じることがある。 | D |
4 | この仕事は私の性分に合っていると思うことがある。 | PA |
5 | 同僚や顧客の顔を見るのも嫌になることがある。 | D |
6 | 自分の仕事がつまらなく思えてしかたのないことがある。 | D |
7 | 1日の仕事が終わると「やっと終わった」と感じることがある。 | E |
8 | 出勤前、職場に出るのが嫌になって、家にいたいと思うことがある。 | E |
9 | 仕事を終えて、今日は気持ちのよい日だったと思うことがある。 | PA |
10 | 同僚や顧客と、何も話したくなくなることがある。 | D |
11 | 仕事の結果はどうでもよいと思うことがある。 | D |
12 | 仕事のために心にゆとりがなくなったと感じることがある。 | E |
13 | 今の仕事に、心から喜びを感じることがある。 | PA |
14 | 今の仕事は、私にとってあまり意味がないと思うことがある。 | D |
15 | 仕事が楽しくて、知らないうちに時間がすぎることがある。 | PA |
16 | 体も気持ちも疲れはてたと思うことがある。 | E |
17 | われながら、仕事をうまくやり終えたと思うことがある。 | PA |
上の表では、「E:情緒的消耗感」「D:脱人格化」「PA:個人的達成感(逆転項目)」となっています。
PAに該当する項目は「個人的達成感」の逆転項目です。そのため、PAの項目では、「いいえ」や「あまりそう思わない」などが増えるほど、バーンアウトの可能性が高いという評価になります。EやDとなっている項目は、「はい」「わりとそう思う」などの回答が増えるほど危険です。
こうしたチェックリストをセルフチェックや職場での簡易チェックなどに役立てるとよいでしょう。
*参考:久保真人(2007)「バーンアウト(燃え尽き症候群)―ヒューマンサービス職のストレス」より作成、ビジネスパーソンに活用しやすいよう、「患者」を「顧客」に変更
バーンアウトの原因となりやすい人の特徴
バーンアウトの大きな要因は、大きく「個人要因」と「環境要因」に分けられます。
「個人要因」は、バーンアウトを起こした本人の性格や特性に注目したもの、「環境要因」は本人以外の要素に注目したものです。
ここではバーンアウトの原因となる2つの要素と、バーンアウトになりやすい人の特徴について解説します。
個人要因
バーンアウトになる個人要因としては、「真面目で仕事熱心である」「完璧主義である」などがあげられます。
「求められている成果以上のものを出さなければ」「期待されている役割以上の働きをしなくては」など、責任感や完璧主義が強い傾向の人は、バーンアウトにつながりやすいといえるでしょう。
また、後から述べるように、男性より女性、年齢では若い人の方が、バーンアウトになりやすいという傾向があります。
環境要因
環境要因では、仕事の量だけでなく質も本人にとって過重な負担になっている場合、バーンアウトしやすくなります。具体的には、長時間労働の多さや厳しいノルマ、役割のあいまいさなどです。
長時間労働や厳しいノルマについては、本人の体力や能力との関係を無視できません。一律に同じ基準で課し、それが一部の従業員にとって体力や実力を大きく超えるものである場合、バーンアウトが発生しやすくなります。
役割のあいまいさも、バーンアウトしやすい環境を作ってしまいます。「誰が何をやるのか」が不明瞭なため、あれもこれもと自分が引き受ける従業員が出てしまうためです。具体的な目標の立てにくさにつながり、達成感も得にくいでしょう。
同時に、従業員が自律的に仕事を進められない環境も危険です。管理職や先輩から一方的に指示を出すだけでは、実際に業務にあたる側の事情や能力を無視した職場環境になってしまうためです。
参考:久保真人(2007)「バーンアウト(燃え尽き症候群)―ヒューマンサービス職のストレス」
バーンアウトになりやすい人の特徴
前述したバーンアウトになりやすい人の特徴を個人要因と環境要因に分けてまとめたものが、下の表です。
【バーンアウトの個人要因と環境要因】
個人要因 (本人の性格や特性における特徴) |
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環境要因 (本人を取り巻く環境の特徴) |
|
また、年齢や性別で比較すると、若者や女性のほうが、年代が上の従業員や男性よりもバーンアウトしやすい傾向があるとされています。
特に年齢については、社会経験や業務経験の少なさが要因の1つと考えられます。経験が少ないと、自分自身や職場環境、会社のサポート体制に必要以上の高い期待を抱いてしまったり、受けたストレスへの適切な対処法がわからずため込んでしまったりするためです。
統計で見るバーンアウトと職場でのデメリット
バーンアウトに悩んでいるのは、日本人だけではありません。
アメリカの調査会社Future Forumが実施した世界の1万人以上の労働者を対象とする調査結果でも、42%の労働者がバーンアウトを経験したと回答しました。この割合は近年高い傾向が続いていましたが、前回調査からさらに2%増えたとのことです。
どのような人々がバーンアウトしているのかを分析すると、「柔軟な働き方」がひとつのポイントになっているようです。職場における柔軟な働き方について、満足している労働者ではバーンアウトの割合が37%だったのに対して、不満を感じている労働者では半数を超える53%がバーンアウトしていました。
そして、バーンアウトが会社にもたらすデメリットも示唆されています。バーンアウトしている労働者とそうでない労働者を比較したとき、下表のような違いが見られたのです。
【統計で見るバーンアウトのデメリット】*
全体的な満足感 | バーンアウトしている人のほうが、約1.8倍低い |
---|---|
転職活動の意向 | バーンアウトしている人のほうが、今後1年間に「確実に」転職活動をする傾向が、約3.4倍強い |
企業や同僚との関係 | バーンアウトしている人のほうが、企業理念に共感できなかったり人間関係にネガティブな感情を抱いていたりする傾向が、約2倍強い |
これらのほかにも、バーンアウトの症状から次のようなデメリットが会社に生じます。
- 仕事の進捗が遅れる
- 仕事の質が低下する
- 職場の人間関係が悪化する
- 気分が大きく落ち込み、欠勤が増える
- 休職や退職につながり、人手不足を招く
世間ではまだまだバーンアウトについての認知度が低く、単なる甘えだと誤解されてしまうケースもあるようです。しかし、バーンアウトは仕事による過度な負担が心身にかかり消耗しきってしまうことが原因ですので、甘えとは全く異なります。
仕事に意欲的な人や頑張っている人ほどバーンアウトになってしまうリスクがあり、職場のメンバーがバーンアウトになってしまうとチームワークや人員確保の面で大きなデメリットが生じます。大切な人材に活躍し続けてもらうためにも、会社や組織全体での対策が重要です。
*出典:Future Forum “Future Forum Pulse Winer 2022-2023 Snapshot”
バーンアウト症候群の立ち直り方と対処法
バーンアウト症候群から立ち直るには、自分に合った方法で時間をかけながら進めることが大切です。
ここでは、バーンアウトを感じた場合の対処法、回復期間の目安と専門家に相談するタイミング、さらに回復過程での注意点について解説します。
バーンアウトを感じた場合の対処法
バーンアウト対策を講じるには、バーンアウトした本人がどのような過程を経て立ち直っていくのかをおさえておきましょう。
ポイントは、仕事と距離をとり、十分に休養することです。
以下に6段階に分けてバーンアウトを感じた場合の対処法を紹介します。*
*参考:久保真人(2007)「バーンアウト(燃え尽き症候群)―ヒューマンサービス職のストレス」
①問題を自覚する
最初の段階で大切なことは、本人がバーンアウトしていることを自覚することです。
仕事熱心な従業員の場合、現在の不調を「ただ疲れているだけ」と認識している可能性があります。しかし、バーンアウトの原因は単純な疲労ではなく、心のエネルギーの枯渇です。これまで過度な負担がかかっていたこと、それによって精神的に大きく消耗していることを認めることが、第一歩となります。
本人による自覚が難しい場合、家族や上司、同僚からアドバイスすることも有効です。
②仕事から離れる
問題の自覚ができたら、次は仕事から距離をとります。熱心に取り組んできた状態から、少し冷静な視点をもつということです。
目の前に仕事があると、焦りが募ってなかなか距離を取れないかもしれません。そのため、休暇や休職制度を活用して、仕事そのものから離れる方法をとらなければならない場合もあります。バーンアウトになりやすい人の特徴として真面目で仕事熱心なタイプが多いため、休職することに罪悪感を感じ、かえって症状を悪化させてしまうリスクもあります。
「自分が仕事を休めば、周囲に迷惑がかかる」と感じるタイプなら、まずは産業医や保健スタッフに相談したり、カウンセリングを受けたりするのもよいでしょう。
職場の上司や同僚にできることは、ノルマや目標の見直し、専門家への相談をすすめることなどです。
③休養して健康を取り戻す
休暇や休職制度の利用などで休養できるようになったら、しっかりと睡眠・食事をとり、健康の回復に努めます。焦らず、リラックスして過ごすことが大切です。
心身が回復してくると、これまで忘れていた趣味や新しい活動に楽しみを感じられるようになるでしょう。
本人が仕事から心理的な距離をとるべき期間ですので、職場の人は「あなたがいなくてプロジェクトがうまく進まない」など、不安や罪悪感を引き起こすようなことを言ってはいけません。
休職する場合、バーンアウトからの回復期間は平均3カ月半といわれています。とはいえ、個人差が大きいものですので、しっかり回復できるように本人のペースを優先しましょう。
④これまでの生活の課題を分析する
休養する中で、バーンアウトする前の働き方について、自分自身で振り返る期間が訪れます。生活の中に占めていた仕事の量、プライベートでも仕事のことばかり考えていたことなど、本人にとってつらい気持ちになることもあります。
しかし、こうした振り返りが「自分にとって何が大切なのか」の見直しにつながり、今後の働き方につながります。バーンアウトから立ち直るためにも、欠かせないステップです。
1人で考えることがつらい場合は、家族や医師、カウンセラーと話しながら課題と改善策を見いだしていくとよいでしょう。
⑤社会復帰を目指す
バーンアウト前の生活の問題点と改善策が見えたら、いよいよ社会復帰を目指す段階です。
休職前の職場に復帰する場合もあれば、別の部署への異動や、転職を検討する場合もあるでしょう。転職するケースでは、新たな仕事のために学び直しを行う人もいます。
この段階で会社としてできることは、本人のスキルやワークライフバランスの希望を考慮し、業務内容・業務量・職場における役割・働き方を本人と相談しながら調整することです。バーンアウト前の状況のままでは、再発しかねません。過度な負担がかからないよう、仕事内容や働き方について、慎重に調整しましょう。
⑥新しいライフスタイルを実践する
無事に職場復帰できたら、本人が無理な働き方をしていないかを職場の上司や人事担当者は適宜確認するとよいでしょう。
本人にとって、バーンアウトからの復帰は、新しいライフスタイルの実践を意味します。これまでの仕事一辺倒だった生活から、プライベートの時間を確保し適切に休養できる生活に慣れていく段階です。
復帰後に「働きすぎているのでは」と感じられるなら、周囲から本人に声かけを行うとよいでしょう。同時に、次項で紹介するバーンアウト対策や周囲の接し方も意識してみてください。
休職者の職場復帰支援の方法については以下のコラムも参考になります。
コラム「復職に必要な対応とは?休職者の職場復帰支援の注意点」はこちら
バーンアウトの回復期間と専門家に相談するタイミング
バーンアウトからの回復期間は、症状の程度によって異なります。軽症であれば十分な休息と気分転換により1~2週間程度で改善が期待できます。しかし、中等症以上では長期的な休職や職場環境の見直しが必要となり、数カ月以上かかることもあります。重症の場合には、専門家による治療やカウンセリングが必須です。
以下のような状況が続く場合には専門家への相談を検討しましょう。
- 感情が常に不安定で、自力で対処できないと感じる
- 仕事や生活に支障をきたしている
- 身体症状(不眠、頭痛、食欲不振など)が長期間続く
いきなり心療内科を受診するのにためらいを感じる人も多いでしょう。企業側が、職場内の相談窓口や産業医のカウンセリングなど、利用しやすい制度やサービスを準備しておくと効果的です。
バーンアウト回復過程で気をつけるべきポイント
回復過程では、以下のポイントに注意しながら進めることが重要です。
- 無理をしない
- 生活リズムを整える
- 専門家のサポートを受ける
バーンアウトの回復過程では、焦らず自分のペースで進むことが大切です。回復には時間がかかる場合があるため、焦って元の生活に戻ろうとすると逆効果になることもあります。
規則正しい生活やバランスの良い食事、適度な運動を取り入れましょう。身体の健康を回復させることで、精神面の改善にもつながります。
心理カウンセラーや医師のアドバイスを取り入れることで、より効果的に回復を目指せます。定期的なチェックを受けることで、自分の状態を客観的に把握できるでしょう。
バーンアウトの回復は一朝一夕にはいきませんが、適切なケアとサポートを受けることで、徐々に改善していくことが大切です。
バーンアウトを予防するための職場の取り組み
従業員や部下がバーンアウトしないために、企業や職場ではどんな予防策が有効でしょうか。
最後にバーンアウト予防のための声かけや接し方、特に新入社員で気をつけたいポイントなどを解説します。
バーンアウト予防の3つのポイント
職場内でバーンアウトを予防するためには、特定のメンバーに業務量や精神的負担が過重にならないようにする必要があります。
バーンアウト予防のため気をつけるべき3つのポイントを紹介します。
働きすぎを防ぐ
まず従業員の働きすぎに気をつけてください。個人要因にあるような「真面目で仕事熱心」「完璧主義」「他の人との感情的交流が深い」といった特性をもつ従業員は働きすぎる可能性があります。長時間労働になっていないか、休暇は十分とれているかなどを複数の目でチェック・管理できる仕組みを整えましょう。
裁量労働制の管理職や従業員などについても働きすぎの状態になっていないか、上長や人事部などが定期的にチェックすることが大切です。
役割・目標は本人の実力に応じて設定し明確化する
各メンバーの役割や目標は、本人の知識・スキルに合ったものにし、言語化して明確にしましょう。自身の担当範囲を認識することで、必要以上に仕事を抱え込むリスクを減らせますし、心理的負担の軽減にもつながります。もし目標達成状況が思わしくないようなら、本人に過重な負担が生じていないか、1on1面談などでヒアリングしましょう。
適切な人間関係構築のサポートと権限付与を行う
仕事に必要な人間関係の構築や権限付与も重要です。指示を仰いだり協力を要請したりする相手が誰なのかわからない、あるいは話しかけにくい状況は、本人に意欲があればあるほど、余計に精神的負担が大きくなります。
必要なシステムやファイルにアクセスできない、決定権がなく自律的に仕事ができないなども、大きなストレスの原因となります。
定期的な面談やアンケートなどで、職場で必要なコミュニケーションがとれているか、適切な権限が付与されているかなどをチェックするとよいでしょう。
バーンアウトの兆候がないかの定期的チェック
バーンアウト予防の鍵は、職場全体で早期に兆候を察知し、対応することです。
例えば、定期的なヒアリングを実施し、従業員が抱えるストレスや不安を把握することが重要です。また、精神的なケアを含めた健康支援プログラムの導入や、カウンセリングの機会を設けることで、バーンアウトリスクを大幅に減らすことができます。本人に状況を聞くだけでなく、産業医や保健スタッフ、メンタルヘルス対策担当者など複数の目で、バーンアウトの兆候がないかを定期的にチェックしましょう。
「業務時間が常に長い」「仕事の質が大きく低下した」「人間関係が悪化している」などの大きな変化が見られる場合、既にバーンアウトしかけている可能性があります。
もし過重な負担がかかっている場合は、早期に環境を再調整しましょう。
新入社員で特に気をつけたいポイント
新入社員には、よりきめ細やかなサポートが必要です。特に新卒の新入社員は社会人経験が少なく、自身の能力や職場に対して大きな期待を抱いているため、リアリティ・ショック(理想と現実のギャップによるショック)を受けやすいといえます。
最後に、新人への対応で気をつけたい4つのポイントを見ていきましょう。
新入社員への接し方や対応方法については以下のコラムも参考になります。
コラム「新入社員が伸びる職場をつくる4つのポイント ~カギは「リアリティショック」からの脱却にあり~」はこちら
期待する役割や目標、会社のサポート体制を丁寧かつ正確に説明する
期待する役割や目標については、組織の中での役割やそれを行うことの重要性、期待する仕事内容や成果を丁寧に説明しましょう。同時に、会社に対して高すぎる期待を抱かないよう、職場でできるサポート内容や利用可能な制度も、正確に伝えなければなりません。
業務範囲やレベルの適切さを確認する
新入社員が業務で混乱しているようなら、業務を進める手順やツールの扱い方を教えるとともに、取り組む業務の範囲やレベルが適切かを確認しましょう。困ったときに誰に相談すればよいかも伝えると安心です。ただ、相談相手となる従業員に過度な負担がかからないように注意してください。
ノルマ達成に必要な知識・スキルが不足している場合は、まずはそれらの習得を目標に設定するほうが無理なく取り組めます。
新入社員でOJT教育を行う際のポイントについては以下のコラムも参考になります。
コラム「新入社員の現場教育|OJT制度を"短期的に"機能させるポイントとは?」はこちら
休憩や休暇はしっかりとるよう呼び掛ける
もし休憩時間にも働いているようなら、休憩を呼びかける必要があります。仕事の遅れを取り戻そうとしているとしても、休憩は労働者の権利であり、1日の後半を乗り切るためにも欠かせません。「上手に休憩をとることも仕事のうち」と伝えるとよいでしょう。
休暇についても、新入社員は必要な休暇でも言い出しにくい場合がありますので、体調不良や生理休暇、家族の用事など必要な休暇はきちんととるように先輩や上司から声がけをしてあげてください。
仕事上の苦情や批判は人格攻撃ではないことを繰り返し伝える
意欲が高く、顧客や周囲の従業員と必死に関係づくりをしている場合も要注意です。相手の立場に寄り添いすぎると、仕事で生じた苦情や批判を自分自身の人格への攻撃と勘違いしてしまう可能性があるためです。
良好な関係を築くことは望ましいものですが、そこにはやはり一定の冷静さが必要です。「苦情や批判を受けても、それは人格への攻撃ではない。システムややり方への指摘である」という考え方を都度伝えるとよいでしょう。