雇用とは?雇用契約書などのポイントや使える助成金一覧

published公開日:2024.04.26
目次

雇用とは、簡単にいえば「人を雇うこと」を意味します。しかし、ひとくちに「雇用」と言っても、雇用形態やルールなど、知っておくべきことは多岐にわたるもの。特に法令で定められたルールを無視すると、大きなトラブルに発展しかねません。

本コラムでは、雇用形態の種類から法令で定められたルールのポイント、利用できる助成金まで、詳しく解説します。

雇用とは

はじめに、雇用の意味と、日本における雇用の現状を見ていきましょう。

雇用の意味

雇用とは、会社などが「労働者」を雇って、労働に従事させることです。労働者は、特定の企業や雇用主と双方の合意に基づいて雇用契約(労働契約)を結び、労働基準法などの法令に保護されながら働きます。その労働に対して、会社など「使用者」は報酬を支払います。

雇用形態にはいくつか種類があり、正社員、契約社員、派遣社員、パート・アルバイトなどがよく知られているところでしょう。

雇用は「雇う-雇われる」という両者の関係が成立するものですので、自営業主や家族従業者、一人で働く個人事業主は、雇用者(雇用される人)に含まれません。

日本の雇用状況

内閣府の資料によれば、日本における2023年時点の労働需給を見ると、賃金が上がりやすい局面であるとされています。しかし、実際に所得の引き上げにつなげるには、労働生産性や労働者のモチベーション、キャリア全体に対する自己肯定感などの向上とともに、さまざまな人が働ける場が必要です。男女間賃金格差や統計的差別、無意識の思い込みなどの解消も、重要課題であるとしています*1。

「労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)」で具体的な数値は、下表の通りです。

【2023年の日本の状況】*2

項目 数値 前年比
平均労働力人口 6,925万人 23万人増
(2年ぶり増)
平均完全失業率 2.6% 同率
完全失業者数 178万人 1万人減
(2年連続減)
平均就業者数 6747万人 24万人増
(3年連続増)
女性の就業者数 2671万人 22万人増
男女別正規雇用数 男 2346万人
女 1268万人
男 2万人減
女 18万人増
男女別非正規雇用数 男 683万人
女 1441万人
男 14万人増
女 9万人増
雇用者に占める非正規の割合 (役員を除く) 37.0% 0.1pt上昇

このように、2023年は非正規雇用で働く人が4割弱を占め、特に女性では正規よりも非正規で働く人が過半数を占めました。

女性だけでなく、高齢者や障害者、その他就職が難しい人々がより働きやすくなるよう、使用者にはより多様な取り組みが求められています。

*1 内閣府「第2章 家計の所得向上と少子化傾向の反転に向けた課題 第3節」

*2 総務省統計局「労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果」

雇用形態の種類

雇用形態の種類の違いは、雇用期間が限られているか否かや、業務における責任の範囲、労働時間、誰と契約を結んでいるかなどにあります。

具体的には、次のような種類があります。

【雇用形態の種類】

雇用形態 特徴
正社員・短時間正社員 雇用期間に定めがなく、基本的にフルタイムで働く労働者。
短時間勤務制度等がある企業では、より短い時間で働く正社員もいる。
契約社員(有期雇用契約) 雇用期間があらかじめ定められて働く労働者。1回あたりの契約期間は原則として最大3年。
雇用期間満了によって、雇用契約は自動的に終了する。
嘱託社員 期間を定めて雇用契約を結んだ、特定の高いスキルや豊富な経験を持つ人材や定年退職者など。
労働条件や契約期間に明確な規定はなく、職場で「嘱託社員」等と呼ばれている労働者。
派遣社員 派遣会社と雇用契約を結び、派遣された先の会社で働く労働者。業務指揮は派遣先で行われるため、雇用契約の相手と指示を受ける相手が異なる。派遣労働法で細かなルールが定められている。
パートタイム労働者 所定労働時間が正社員より短く、雇用期間を定めて働く労働者。
パートタイム労働者法が適用される。

雇用契約における必要書類

雇用契約締結にあたっては、「労働条件通知書」など、いくつかの書類の作成・交付が必要です。

内定から入社までに作成・交付する書類としてよく知られているのは、「内定通知書」や「雇用契約書」、「労働条件通知書」があるでしょう。特に労働条件通知書は、雇用条件を通知するための文書として労働者への交付が法律で義務づけられています。

一方、「雇用契約書」は、雇用契約について企業と労働者が合意したことを示す書類です。法律で交付を義務づけられているわけではありませんが、労働条件・給与・労働時間など、労働条件通知書の中でも特に重要な情報を明示する目的があり、さらに雇用契約に双方が合意したことを示す重要書類となります。

以上も含む雇用時の書類は、以下の通りです。

【雇用時に必要な書類】 *太字の書類は必須

書類名 内容 使用目的
採用通知書(内定通知書) 採用が決定したことを知らせる書類。
法令による交付義務はない。
内定者への正式な採用決定の通知
入社誓約書(入社承諾書) 内定者に入社を約束してもらう書類。
入社後の待遇、就業規則などを記載した用紙を内定者に渡し、内定者に署名・捺印、定められた日までに提出してもらう。
内定者への労働条件等の明示と入社の意思確認
雇用契約書 労働条件通知書に記載される事項のうち特に重要なものを記載した契約書。
双方の合意があることを示すため、2通作成して企業側と労働者側が署名・捺印し、1通ずつ保管するとよい。
法令による発行の義務はない。
雇用契約に合意したことの明確化
労働条件通知書 労働条件を明記した書類。
雇用期間、賃金、勤務時間、休暇など、記載事項が法令で定められている。
企業に交付義務があり、企業側の署名・捺印が必要。
雇用契約書と兼ねて「労働条件通知書兼雇用契約書」とすることもある。
労働条件の明確化と紛争の予防
年金手帳(の写し)または基礎年金番号 基礎年金番号が記載された手帳(の写し)。
年金手帳自体は企業または労働者自身が保管。企業が保管する場合は退職時に労働者に返却。
2022年4月から年金手帳の交付が廃止されたため、基礎年金番号通知書によって番号を確認する必要がある。
年金加入手続き
雇用保険被保険者証 雇用保険に加入したことがある労働者が持っている書類。
所持している労働者に提出してもらい、企業が保管。退職時に返却する。
雇用保険加入、失業時の給付等申請
源泉徴収票 労働者の賃金額と源泉徴収額を記載した書類。
年内に退職・転職した労働者に、前の職場から交付されるため、これを提出してもらう。
年末調整など税金関係の計算・手続き
扶養控除等申告書 扶養家族の有無を明記する書類。法令で定められた様式で、扶養家族がいない場合も必ず作成する。
扶養家族がいる場合、年末調整で一定の控除がある。
複数の事業所で働く労働者の場合は、本業である1社のみに提出する。
年末調整など税金関係の計算・手続き
健康保険被扶養者(異動)届・国民年金第3号被保険者関係届 労働者に扶養家族がいる場合に提出してもらう書類。
企業から用紙を渡し、労働者に記入・捺印して提出してもらう。
健康保険・年金の扶養加入
給与振込先の届書 給与等の振込先(銀行口座情報など)を明記した書類。
企業から渡した用紙に記入してもらったり、銀行通帳等のコピーを取ってもらったりして、労働者から提出してもらう。
給与等の振込
マイナンバー マイナンバーカードや通知カードのコピー等を提出してもらう。提出を求めるにあたり、マイナンバー情報の使用目的を労働者に説明する。 労働保険、社会保険、年末調整などの手続き
免許・資格関連書類 業務に必要な免許や資格の取得を証明する書類。医療関係の資格取得証明書、長距離ドライバーの無事故・無違反証明書など。 業務に必要な免許・資格の取得状況の確認、資格手当支給
退職証明書 前の会社を退職していることを証明する書類。労働者が前の職場から受け取り、転職先の企業へ提出する。 転職先での保険加入
卒業証明書 主に新卒・第2新卒の労働者に提出してもらう。 学歴確認

雇用時の基本的なルールと手続き

先述の通り、雇用契約では労働条件通知書を労働者に交付する必要があります。労働条件通知書に記載する項目は法令で定められており、特に「絶対的明示事項」と呼ばれる項目は、必ず記載しなければなりません。

こうした法令によるルールと、書類の作成・交付・提出等の一般的な流れを見ていきましょう。

雇用契約の基本ルール

労働条件通知書に記載しなければならない項目は、労働基準法第15条と労働基準法施行規則第5条第1項で定められています。

規定されている項目は14項目で、このうち「絶対的明示事項」である5項目は、必ず書面で示さなければなりません。労働者が希望する場合は、紙の書類ではなくメールなどでの明示でも構いませんが、書面として出力できる形式である必要があります。

【労働条件通知書の絶対的明示事項 5項目】

  項目 補足
1 労働契約の期間に関する事項
2 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項 有期雇用であり、契約期間満了後に契約を更新する場合がある者に限り、書面交付が必須
3 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項 テレワークなどを雇入れ直後から行うことを想定している場合など、変更の範囲に明示する必要がある
4 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項 交替制や変則的な労働時間になる場合も、原則的な時間を記載する
5 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 退職手当および臨時に支払われる賃金等を除く
昇給に関する事項以外、書面交付が必須

絶対的明示事項以外は「相対的明示事項」と呼ばれる項目で、企業において定めがある項目について明示することが義務づけられているものです。書面での交付は必須ではありません。

【労働条件通知書の相対的明示事項 9項目】

  項目 補足
6 退職に関する事項 解雇の事由も含む
7 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
8 臨時に支払われる賃金、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項 退職手当を除く
9 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
10 安全及び衛生に関する事項
11 職業訓練に関する事項
12 災害補償及び業務外の疾病扶助に関する事項
13 表彰および制裁に関する事項
14 休職に関する事項

これらの事項に関する規定は、改正されることが多くあります。実際、上の一覧で示した事項は2024年4月1日から施行されたものです。

今後も働き方の多様化や労働者の保護を目的として改正される可能性がありますので、定期的に労働局のお知らせや省庁の公式サイト等をご確認ください。

雇用契約の進め方・手続き

雇用契約締結の際は、労働条件の明示、および企業と労働者による合意の確認を行って書類を作成するとともに、今後の手続きに必要なさまざまな書類を回収しなければなりません。その手続きとは、法定三帳簿の作成、社会保険や雇用保険への加入手続き、税金関係の手続きなどです。大まかな流れに沿ってご紹介します。

必要書類を回収し、法定三帳簿を作成する

雇用契約書や労働条件通知書などの必須書類などを回収したら、法定三帳簿を作成・保管しましょう。法定三帳簿とは、「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」です。法令で企業に作成・保管が義務づけられています。

【法定三帳簿】

帳簿名 概要 記載内容
労働者名簿 人事や労務に必要な労働者の情報をまとめた帳簿 氏名・住所・生年月日
雇入れ年月日
業務内容など
賃金台帳 労働者への賃金の支払い状況を記録する帳簿 氏名・住所
賃金計算期間・労働時間数
時間外労働時間数
基本給・手当など
出勤簿 労働者の労働時間を記録する帳簿 氏名
出勤日、労働日数
始業・終業時刻、休憩時間
日別労働時間数など

保険・税金関係の手続きを行う

帳簿を作成したら、法令で定められた期限までに社会保険や雇用保険の加入手続きをしなければなりません。従業員の住民税を企業が代理で納付する場合は、従業員の住所がある市区町村への申請も必要です。

社会保険(健康保険と厚生年金保険)の手続きは、加入条件を満たす場合に行います。手続きの期限は雇用開始から5日以内。年金事務所または健康保険組合に必要書類を提出してください。

雇用保険も、加入条件を満たす場合に行いましょう。手続きの期限は、雇用を開始した月の翌月10日まで。書類の提出先はハローワークです。

いずれの場合も、手続き完了後に申請先から被保険者証や通知書が送られてきますので、従業員に渡しましょう。

備品等の支給を行う

以上と同時に進めなければならないのが、入社した社員への備品等の支給です。具体的には、次のようなものがあるでしょう。

  • ●制服、社員証、入退室用のICカード
  • ●名刺、机、椅子、パソコン、その他事務用品
  • ●メールアドレス、システムを使うためのID・パスワード

担当する業務に必要なものを事前にチェックし、抜け漏れのないように支給してください。

雇用で重要な労働三法とは

これまで言及してきた雇用契約に関わる法令も含めて、日本には、雇用にかかるさまざまなルールがあります。その中で、労働者の保護に関して最も基本となる法律が、労働基準法、労働組合法、労働関係調整法という3つの法律(労働三法)です。

1つ目の労働基準法は、労働時間や賃金、休日といった労働条件の最低基準を定めた法律です。以下のような規定が設けられています。

  • 労働時間:1日8時間、週40時間を超過しない(超過する場合は時間外労働)
  • 時間外労働・休日労働:労使協定の締結と割増賃金の支払いが必要
  • 賃金:最低賃金を下回る賃金は禁止
  • 解雇予告:解雇には30日以上前の予告または30日分以上の解雇予告手当の支払いが必要
  • 労働災害:労災事故が発生した場合、雇用主に補償責任

2つ目の労働組合法は、労働者の団結(団結権)と雇用主と組合の交渉(団体交渉権)、そして労働条件の維持や改善を求めるストライキなどを行う権利(争議権)を保障するものです。

そして3つ目の労働関係調整法は、労使間の争いが生じた場合に外部機関が間に入って調整し、紛争解決することを目的とした法律です。そうした調整と解決に必要な手続きが定められています。

なお、最低賃金は最低賃金法に、有期雇用労働者やパート・アルバイトの労働者、育児や介護をしている労働者などの保護については、パートタイム・有期雇用労働法や育児・介護休業法などに細かな規定があります。労災に関しては、労働安全衛生法や労働者災害補償保険法も重要です。

加えて、2022年から2023年には、パワハラ防止法や育児・介護休業法、女性活躍推進法など、多くの労働法が改正されました。

これらの法律や改正の内容を確認し、労働者の労働条件や経営方針、職場環境整備の見直しを定期的に行いましょう。

雇用する際の5つの注意事項

以上のことを踏まえて、労働者の雇用にあたって注意すべき事項をまとめて見ていきましょう。

法令による禁止事項

雇用契約締結時に明示すべき項目については、労働基準法やその施行規則によるルールがありました。

実は、労働条件として契約内容に含めてはいけない項目も定められています。その主なものが、以下の3つです。

【雇用契約に含めてはいけない項目】

項目 根拠となる法律
賠償予定の禁止
労働者が労働契約違反をした場合に違約金を支払わせることや、その金額を定めることを禁止
労働基準法第16条
前借金相殺の禁止
労働することを条件に労働者にお金を前貸しして、毎月の給料から一方的に天引きする形で返済させることを禁止
労働基準法第17条
強制貯金の禁止
労働者に強制的な形で会社にお金を積み立させることを禁止
労働基準法第18条

これに違反した場合、懲役または罰金が科されますので、十分に気をつけてください。

採用内定取り消しは「解雇」

すでに雇用した労働者を解雇する場合は、解雇予告の規定に従わなければなりません。ここで注意が必要なのは、採用内定の取り消しです。採用内定によって事実上の雇用契約が成立したと認められる場合、その取り消しは「解雇」と見なされ、適切な理由や手続きが求められます。

解雇の理由については、労働契約法第16条にあるように、「客観的に合理的な理由」と、その理由によって解雇することが「社会通念上相当である」という2つの条件を満たさなければなりません。これが認められない場合、内定取り消しは「無効」となります。

内定取り消しが認められる場合でも、労働基準法第20条の規定は守らなければなりません。すなわち、30日以上前の解雇予告を行うか、30日分以上の解雇予告手当を支払わなければならないというものです。

内定取り消しの対象者から解雇の理由などに関する証明書が請求された場合は、その証明書の交付も必要です(労働基準法第22条)。

適切な手続きを怠れば、不当解雇と見なされたり、訴訟などで事態が悪化したりするケースもあります。安易に内定取り消しを出さないよう、採用人数や求職者の条件など、十分に検討・確認してください。

就業規則の作成・周知・届出

労働者の労働条件や職場におけるルールを定めたものに「就業規則」があります。就業規則は、常時10人以上の労働者を雇用している場合、作成と労働基準監督署への届出が義務付けられているものです(労働基準法第89条)。

就業規則に定める項目は、

  • ●始業および終業の時刻
  • ●休憩時間
  • ●休日、休暇
  • ●交替制勤務の場合の終業時転換に関する事項
  • ●賃金
  • ●退職

などです。懲戒処分を行う可能性がある場合は、事前に懲戒の事由と処分内容を規定しておく必要もあります。

就業規則作成・変更にあたっては、必ず労働者の意見を聞く必要があるとともに、法令や労働協約に反する内容を定めることはできません(労働基準法第92条、労働契約法第13条)。

作成・届出をするだけでなく、労働者にその内容を周知することも義務づけられています。

労働保険と社会保険の手続き

雇用契約の手続きにおいて、雇用保険や社会保険について述べました。これらの保険は、加入条件を満たす労働者がいる場合、必ず加入しなければなりません。

雇用保険の加入条件は、その労働者について

  • ●1週間の所定労働時間が20時間以上
  • ●31日以上の雇用見込みがある

などです。保険料は、労働者と会社の双方が負担します。

労災が発生した際の補償のため加入する労災保険については、原則として労働者を一人でも雇用した場合は入らなければなりません。これには、パート・アルバイトの労働者も含まれます。保険料は、全て会社が負担します。

雇用保険と労災保険を合わせて「労働保険」と呼びます。

一方、「社会保険」は健康保険と厚生年金保険を指します。

健康保険は病院などで保険診療を受けるために必須です。国、地方自治体、法人の事業所や、一定の業種で常時5人以上を雇用する個人事業所は強制適用され、必ず加入しなければなりません。

社会保険は、パート・アルバイトの労働者についても、1日または1週間の労働時間および1か月以上の所定労働日数が、通常の労働者の4分の3以上の場合は、加入させる必要があります。保険料は、事業主と労働者が折半して負担します。

これらの手続きを怠ると、労働者に大きな不利益が発生するとともに、雇用関係の助成金を受けられない場合があります。加入が必要な場合は、忘れずに手続きを行いましょう。

障害者雇用率制度と雇用義務

雇用において忘れてはならないのが、障害者雇用です。近年、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みの加速と人材不足解消の観点からも、国全体で施策を強化。民間企業でも、常時雇用する労働者数が一定数以上の場合は、障害者雇用への取り組みが義務づけられています。

雇用する労働者における障害者の割合については、障害者雇用促進法における法定雇用率制度で、達成すべき目標が具体的に定められています。2024年4月からの法定雇用率は2.5%、2026年7月からは2.7%です。

雇用した障害のある労働者には、その障害特性に応じた合理的配慮を提供する必要もあります。具体的な内容は労働者ごとに異なるため、社内で支援メンバーを育成したり、外部の支援機関と連携したりする必要があるでしょう。

採用や配属、昇給・昇格にあたって、障害を理由として他の労働者と異なる扱いをすることは、障害者差別として禁止されています。募集や採用で基準とするスキル・能力や労働条件についても、無理な働き方になっていないかを改めて確認しましょう。

雇用で活用できる助成金一覧

法令に従った雇用や効果的な人材確保を進めるには、さまざまなリソースが必要になるもの。そこで、国や地方自治体では、さまざまな雇用関連の助成金を支給しています。

本コラムの最後に、雇用時や雇用継続に関わる国の助成金をいくつかご紹介します。

雇入れで利用できる助成金

新しく労働者を雇い入れる際に利用できる助成金は、多数あります。その中で、障害者雇用や難病患者の雇用、就職氷河期世代の雇用、生活保護受給者等の雇用、成長分野における雇用や育成に活用できるのが、以下の特定求職者雇用開発助成金です。目的別に複数のコースが設けられています。

【雇入れで利用できる助成金の例】 *特定求職者雇用開発助成金の場合

特定求職者雇用開発助成金のコース名 概要
特定就職困難者コース ●高齢者・障害者・母子家庭の母など、通常の条件では働きにくい人の雇入れが対象
●支給額:30万円~240万円
●支給期間:1年~3年
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース ●発達障害者や難病患者などの雇入れが対象
●支給額:30万円~120万円
●支給期間:1年~2年
就職氷河期世代安定雇用実現コース ●就職氷河期に正規雇用の機会を逃したことなどにより、正規雇用に就くことが困難な人(1968年4月2日生~1988年4月1日生)の雇入れが対象
●支給額:50万円~60万円
●支給期間1年
生活保護受給者等雇用開発コース ●ハローワークや地方公共団体で通算3か月超の支援を受けている生活保護受給者や生活困難者の雇入れが対象
●支給額:30万円~60万円
●支給期間:1年
成長分野等人材確保・育成コース ●高年齢者や障害者等の就職困難者(未経験)の雇入れと成長分野の業務への割り振り、育成や職場定着施策の実施、賃上げの実施が対象
●現在の成長分野は、情報処理・通信技術やデータサイエンス、脱炭素・低炭素化などに関する研究・技術に該当する業務
●支給額:45万円~360万円
●支給期間:1年~3年

特定求職者雇用開発助成金以外では、例えば中途採用者の雇用を大きく拡大させた場合に支給される「中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)」、雇用機会が不足している地域などで事業所の設置・整備を行って地域住民を雇用した場合に支給される「地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)」などもあります。

雇用の維持に使える助成金

既存の従業員の雇用を維持するために使える助成金もあります。

近年のコロナ禍で特に多く活用された助成金として「雇用調整助成金」をご存じの方も多いでしょう。感染症拡大防止のために売上が減少した場合や、従業員の休業や教育訓練を実施した場合などに支給されました。

雇用調整助成金は、景気変動や産業構造の変化、その他経済上の理由で事業活動を従来通りに行えなくなった場合に支給されるものです。今後も大きな社会全体の変化が発生した場合に活用する機会があるでしょう。

助成金名 概要
雇用調整助成金 ●景気の変動、産業構造の変化、その他経済上の理由で事業活動を縮小しなければならなくなった場合に、一時的な雇用調整(休業、教育訓練、出向)を行って雇用を維持する施策が対象
●支給額:施策実施の際の賃金相当額に対する一定の割合

他に利用しやすい助成金としては、「両立支援等助成金」があります。子育てパパの育児休業推進、介護と仕事の両立、育児世代の育児休業取得と職場復帰の促進、不妊治療と仕事の両立など、目的別にコースが用意されています。

【両立支援等関係の助成金の例】 *両立支援等醸成金の場合

コース名 概要
出生時両立支援コース
(子育てパパ支援助成金)
●中小企業で、男性労働者が子の出生後8週間以内に開始する連続5日以上の育児休業を取得した場合が対象
●支給額:20万円~60万円
介護離職防止支援コース ●中小企業で、介護支援プランを作成し、労働者の円滑な介護休業取得・職場復帰に取り組んだり、介護のための柔軟な就労形態を利用させたりした場合が対象
●支給額:15万円~30万円
育児休業等支援コース ●中小企業で、育休復帰支援プランを作成し、労働者の円滑な育児休業取得・職場復帰に取り組んだり、実際に育児休業を取得させたり、育児休業取得者の業務を代替する労働者を確保するとともに当該休業取得者を原職等に復帰させたりした場合が対象
●支給額:10万円~50万円
不妊治療両立支援コース ●不妊治療のための休暇制度等を利用しやすい雇用環境整備を行い、不妊治療を受けている労働者がその休暇制度等を利用した場合が対象
●支給額:30万円
育休中等業務代替支援コース ●中小企業で、育児休業取得者や育児のための短時間勤務をしている労働者の業務を代替するための体制整備(業務を代替する労働者への手当支給、代替要員の新規雇用)を行った場合が対象
●支給額:20万円~25万円

雇用に関して社会的な課題となっているものは、助成金制度が設けられている可能性があります。どのような助成金があるのか、受給の要件は何かなどは変更されることもありますので、厚生労働省や労働局の公式ページで最新情報をご確認ください。