雇用保険とは?加入条件と手続き、もらえる給付金・手当



雇用保険とは、事業主と従業員が保険料を折半して納付することで、従業員が離職や育児休業・介護休業などで働けなくなった際に給付金を受け取れる公的な保険制度です。多くの事業所は強制適用となりますが、雇用保険に加入できない人もいます。
本コラムでは、雇用保険とは何か、加入条件や被保険者資格の取得・喪失手続きのほか、受け取れる給付金や加入のメリット・デメリットをわかりやすく解説します。
雇用保険とは?社会保険との違い
雇用保険とは、働く意思がある人が失業して所得を失った場合や、育児・介護などで働けなくなった場合、働くために知識・スキルを身につける必要がある場合などに、必要な給付を行うことで生活の安定を図るための制度です。
まずは、雇用保険とは何か、制度の概要と社会保険や失業保険との違いを確認していきましょう。
雇用保険とは何か?制度の目的・概要
雇用保険とは「労働者の生活及び雇用の安定と就職の促進」を目的とする公的な保険制度です。*1
雇用保険制度では、被保険者が失業した場合に、失業中の生活の安定や再就職に向けた活動、働くために受講する教育訓練などを対象として給付金を支給します。給付金の中で最も有名なものは、失業給付(基本手当)です。
基本手当は、被保険者が離職後にハローワークで求職申し込みを行い、受給資格を認められたうえで7日間の待機期間と一定の給付制限期間が経過し、「失業の認定」を受けることで受給できます。
雇用保険制度には、ほかにも
- 失業の予防
- 雇用状態の是正と雇用機会の拡大
- 働く人の知識・スキルの向上
- 育児・介護のために休業した被保険者の生活・雇用の安定
といった事業を実施しています。
雇用保険の保険料は、会社と従業員が折半して支払います。保険料の金額は、毎年定められる保険料率をもとに算出。2025年度における一般事業の保険料率は、会社側が0.9%、従業員側が0.55%です。*2
なお、雇用保険制度に関する最も重要な法律は、雇用保険法です。雇用保険法は改正が多く、2024年にも改正が行われました。2025年4月以降に施行される主な改正内容は、下表のようになっています。
【雇用保険法 2025年4月以降の主な改正内容】*3
施行時期 | 内容 | 概要 |
---|---|---|
2025年4月 | 自己都合退職者への給付制限の緩和 |
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2025年4月 | 育児休業などに関する給付の創設 |
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2025年10月 | 在職中の教育訓練に関する給付 |
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2028年10月 | 雇用保険の適用拡大 |
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雇用保険制度の最新情報は、厚生労働省の公式ページや都道府県労働局などで確認できます。
*2 出典:「令和7(2025)年度雇用保険料率のご案内」(厚生労働省)
雇用保険と社会保険の違い
雇用保険は、保険料が給与から天引きされる保険制度の1つです。雇用保険以外には、健康保険や厚生年金、労災保険などがあります。これらの保険をまとめて広い意味で「社会保険」と呼ぶこともあります。
ただし、厳密には社会保険と雇用保険は同一ではありません。社会保険には狭い意味での使い方もあるからです。狭い意味での社会保険に含まれる保険制度は、健康保険・厚生年金・介護保険です。各制度の概要は、下表のようになっています。
【狭義の社会保険に含まれるもの】
制度 | 概要 |
---|---|
健康保険 | 病気やケガをしたときに安心して医療を受けられるようにした医療保険(協会けんぽなど) |
厚生年金 | 加齢や障害、死亡などで所得が減る場合に、高齢者・障害者・遺族の生活安定のために支給する年金制度 |
介護保険 | 高年齢で介護が必要になる状態に備え、40歳以上の人が保険料を支払い、介護を受けやすくする制度 |
狭義の社会保険の特徴と雇用保険の違いは、給付が行われる事案にあります。狭義の社会保険では、病気・ケガ・加齢による医療・介護といったケースで支給が行われます。これに対し、雇用保険では、労働者が失業して就職活動を行ったり、自主的に教育訓練を受けたり、育児や家族の介護で休業したりした場合が対象です。
なお、広義の社会保険については、以下の関連コラムでもわかりやすく解説しています。併せてご覧ください。
コラム「社会保険とは?種類や加入条件をわかりやすく解説」はこちら
雇用保険と失業保険の違い
雇用保険とともによく聞かれるのが「失業保険」です。失業保険は、現在の雇用保険制度となる前に用いられていた名称であり、それが現在も「失業等給付」の通称として使われています。
もともとの失業保険は「失業保険法」として1947年に制定・施行されました。それが1974年に「雇用保険法」へ生まれ変わり、現在につながっています。
現在の失業等給付の意味で使われる失業保険と雇用保険の違いは、給付対象の範囲の広さです。失業等給付としての失業保険は、被保険者が失業した場合に支給される給付金のみを指します。
これに対し、雇用保険は失業等給付を含む保険制度全体の名称です。そのため、失業した場合だけでなく、被保険者が育児休業・介護休業をした場合や、教育訓練を受ける場合にも支給されますし、雇用安定などを目的とする各種助成金制度もあります。
雇用保険の適用事業所・加入条件・加入できない人
雇用保険は、制度の目的上、1人でも従業員を雇用した場合は原則として加入しなければなりません。ただし、事業によっては「暫定任意適用事業」として加入しなくても構わないケースがあります。
また、原則適用となる事業(強制適用事業)であっても、従業員の状況によっては加入できない場合もあります。
雇用保険の強制適用事業(必ず加入する)
雇用保険制度の特徴の1つが、原則として1人でも従業員を雇用する事業所は、雇用保険の適用事業所として保険料を納めなければならないという点です(雇用保険法第5条)。これを「強制適用」と呼び、強制適用される事業を「強制適用事業」や単に「適用事業」と呼びます。
ただ、実際には従業員を雇用していながら雇用保険に加入していない事業所も見られます。その多くは、次項でご紹介する「暫定任意適用事業」の事業所でしょう。
適用事業所であるにもかかわらず従業員を雇用保険未加入のままで放置すると、会社側の対応は法令違反となります。その場合、6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科される恐れがあります(雇用保険法第83条)。
雇用保険の暫定任意適用事業(加入は任意)
では、雇用保険に加入しなくてもよい事業所とは、どのような事業所でしょうか。
雇用保険における「暫定任意適用事業」を行う場合、その事業の従業員の雇用保険加入は、当面の間、任意となっています。暫定任意適用事業の具体的な条件は、次の通りです。
【暫定任意適用事業の条件】
- 個人経営の農林水産業である(農業用水供給事業、もやし製造業を除く)
- 雇用している労働者が常時5人未満である
暫定任意適用事業が設定されている目的は、行政の事務負担軽減にあります。雇用保険は事業所単位で適用されますが、小規模の農林水産業では事業所の把握が難しく、賃金の支払い関係についても必ずしも明確ではありません。これを把握するには多大な労力が事業主・行政ともにかかってしまいます。そのため、当面は一定の条件に当てはまる事業について、雇用保険の適用を強制しないということになっています。
ただし、暫定任意適用事業の事業所であっても、雇用保険に加入しなければならないケースがあります。従業員の半分以上が加入を希望しているときです。そうした場合は、都道府県の労働局長に任意加入の申請を行い、認可を受けましょう。
雇用保険に加入できる人の条件
事業所単位で見ると、暫定任意適用事業の事業所でない限りは強制的に雇用保険の適用事業所となります。ただ、従業員一人ひとりについては、また別の加入条件が設定されています。
従業員が雇用保険に加入できる第1の条件は、「適用事業所で働いていること」。これ以外に、原則として以下の3つの条件を満たさなければなりません。逆にいえば、パート・アルバイトであっても、これらの条件を満たす限り、雇用保険に加入させる義務が事業所にはあります。
【雇用保険に加入できる人の条件】
- (1)31日以上働く見込みがある(雇用期間)
- (2)週の所定労働時間が20時間以上である(労働時間)
- (3)昼間学生ではない(本人の状況)
雇用期間については、具体的な定めがなくても、31日以上働く見込みがあると判断される場合は、加入対象です。したがって、たとえ雇用契約で31日未満(1カ月未満)の雇用期間を設定していても、契約更新をすることが示されているケースや、過去に同様の条件で31日以上雇用した実績がある場合は、「見込みあり」と判断されます。
労働時間については、1週間当たりの所定労働時間で判断します。所定労働時間とは、就業規則や雇用契約書などに定められた労働時間のことです。休暇などを取得して実際に働いた時間が週20時間未満であっても、所定労働時間が週20時間以上である限り、雇用保険の加入条件を満たします。
一方で、残業や休日労働で実際に働いた時間が週20時間以上になったとしても、所定労働時間が週20時間未満である場合は、加入条件を満たすことにはなりません。
本人の状況に関しては、昼間に学校へ通っている学生でないことが重要です。そのため、通信教育を受けている学生、夜間または定時制の学校に通う学生は、雇用保険に加入できます。
昼間学生の場合、31日以上働く見込みがあり、週所定労働時間が20時間以上であったとしても、雇用保険の対象とはなりません。留学生やワーキングホリデーによる滞在者も雇用保険の対象外です。
ただし、卒業見込証明書があり、卒業前に就職した事業主のもとで卒業後も引き続き勤務することが決まっている場合は、雇用保険の加入対象となります。
雇用保険に加入できない人(適用除外)
雇用保険に加入できない人は、前項でご紹介した3つの項目を満たさない人が基本です。
ほかに雇用保険の適用除外となる人には、次のような人がいます。
【雇用保険の適用除外となる人】
- 会社の社長や役員
- 家事使用人
- 船員保険に加入している人
- 公務員
- 季節的に雇用される人(4カ月以内の雇用で週所定労働時間30時間未満の場合
最後の項目にある「季節的に雇用される人」とは、例えば雪の除雪作業で雇われる人、スキー場の従業員、海の家の従業員などのように、季節的な業務のために期間を定めて雇用される人のことです。
雇用保険被保険者の種類は4つ
雇用保険に加入できる人は「被保険者資格」を取得します。この被保険者には、働き方や年齢に応じて4つの種類があり、どれに該当するかで受け取れる給付金・手当が異なります。
(1)一般被保険者
1つ目は、「一般被保険者」です。簡単にいえば、年齢が65歳未満であり、このあとで紹介する高年齢被保険者・短期雇用特例被保険者・日雇労働被保険者のいずれにも該当しない被保険者を指します。
したがって、雇用保険の被保険者の中で最も多く、65歳未満であれば大抵は一般被保険者となります。
(2)高年齢被保険者
2つ目は、「高年齢被保険者」です。65歳以上の被保険者であり、短期雇用特例被保険者や日雇労働被保険者でない人が該当します。
また、高年齢被保険者には、特例として「マルチジョブホルダー」という枠組みがあります。これは、複数の事業主の適用事業所に雇用される65歳以上の人が一定の条件を満たし、厚生労働大臣に申し出ることで、1つの事業所での週所定労働時間が20時間未満であっても雇用保険に加入できる仕組みです。
具体的な条件は以下の通りです。
【65歳以上の雇用保険マルチジョブホルダーの条件】
- 複数の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の人である
- 2つの事業所の所定労働時間の合計が1週間あたり20時間以上であり、かつ、このうち1つの事業所での週所定労働時間が5時間以上20時間未満である(週所定労働時間10時間+週所定労働時間15時間など)
- 2つの事業所それぞれの雇用見込みが31日以上である
高年齢者が比較的短い時間で雇用されながら、複数の事業所を掛け持ちして働くという働き方の多様性に即した制度となっています。
参考:「【重要】雇用保険マルチジョブホルダー制度について」(厚生労働省)
(3)短期雇用特例被保険者
3つ目の「短期雇用特例被保険者」は、季節的に雇用される人のうち、以下の条件を満たす人です。
【短期雇用特例被保険者の条件】
- 季節的に雇用される人である
- 4カ月以内の期間を定めて雇用される人ではない
- 1週間の所定労働時間が30時間未満ではない
つまり、季節的に雇用される人であっても、比較的長い期間にわたって週所定30時間以上の労働時間を定めて雇用される人であれば、雇用保険の対象になるということです。
また、同じ事業主に雇用された期間が1年以上となった場合は、一般被保険者か高年齢被保険者に変更となります。
(4)日雇労働被保険者
最後は、「日雇労働被保険者」です。これに該当する被保険者は、日雇労働者または30日以内の期間を定めて雇用される人です。イメージとしては、非常に短期間の雇用契約で異なる事業主に雇用されながら働く人を指します。
そのため、同じ事業主に一定日数以上雇用される場合は、日雇労働被保険者ではなく、短期雇用特例被保険者または一般被保険者となります。その日数の条件は、次の通りです。
【日雇労働被保険者から他の種類の被保険者になる条件】(どちらかを満たす)
- 連続する2カ月のそれぞれの月について、同じ事業主の適用事業に18日以上雇用された場合
- 同一の事業主の適用事業に継続して31日以上雇用された場合
よって、日雇労働被保険者や短期雇用特例被保険者となるか否かは、労働時間・労働日数とともに、雇用主が同一であるかどうかもポイントとなります。
雇用保険でもらえる給付金・手当
では、雇用保険の被保険者がもらえる給付金・手当などの概要とともに、もらえる条件も簡単に見ておきましょう。これらの給付金・手当などは、次の5種類に大別されます。
- (1)求職者給付
- (2)就職促進給付
- (3)教育訓練給付
- (4)雇用継続給付
- (5)育児休業給付
順番に解説します。
(1)求職者給付
求職者給付とは、離職した人の生活と再就職に向けた活動を支えるための給付です。どの種類の被保険者かによって受給できる具体的な給付金が異なります。
【対象者と求職者給付の給付金・手当】
対象者 | 給付金・手当の名称 | 概要 |
---|---|---|
一般被保険者 | 基本手当 | 離職し、働く意思・能力があっても就業できない人のための基本の手当 |
技能習得手当 | ハローワークの指示で公共職業訓練などを受講する場合、受講期間中、基本手当に加えて支給される手当 | |
傷病手当 | ハローワークで求職の申し込みをしたあとで、15日以上継続して傷病のために職業につけなくなった場合に支給される手当 | |
高年齢被保険者 | 高年齢求職者給付 | 基本手当のかわりに、高年齢被保険者が離職した際に支給される一時金 |
短期雇用特例被保険者 | 特例一時金 | 基本手当のかわりに、短期雇用特例被保険者が離職した場合に支給される一時金 |
日雇労働被保険者 | 日雇労働休職者給付金 | 失業の日の属する月の前の2カ月間に26枚以上の印紙が貼付され、日雇労働被保険者が失業した場合に支給される給付金 |
この中で、「基本手当」は最も基本的な給付金です。手当は日額で計算され、給付日数は被保険者であった期間と離職理由に応じて90日〜360日が設定されます。
また、失業期間中にハローワークからの案内でスキル習得や資格取得を行う人もいるでしょう。そうした際に公共職業訓練などハローワークが指定する講座を受講すれば、その分の手当も追加で支給されます。これが、「技能習得手当」です。技能習得手当には、受講自体への手当(受講手当)とその学校や施設に通うための手当(通所手当)があります。
高年齢求職者給付は、被保険者であった期間が6カ月以上あればもらえる給付金(一時金)です。6カ月以上1年未満の加入期間の場合は30日分、1年以上の加入期間がある場合は50日分が支給されます。
特例一時金も、高年齢求職者給付のように一時金として支給されます。原則は基本手当の30日分です。
これに対し、日雇労働被保険者は少し仕組みが細かくなります。給付される金額の日額は級別に3段階に分けられ、そのうえで印紙の貼付枚数に応じて13日〜17日の範囲で給付日数が定められています。
参考:「基本手当とは…」(ハローワーク インターネットサービス)
(2)就職促進給付
就職促進給付とは、離職者の再就職を促すための給付金です。早期に再就職した場合や、求職活動のために引っ越しをした場合などに支給されます。
一般被保険者がもらえる就業手当・再就職手当・就業促進手当のほか、障害のある人など就職困難な人がもらえる常用就職支度手当、引っ越しの費用を支援する移転費、遠隔地での求職活動を支援する広域求職活動費があります。
【被保険者の種類と就職促進給付の給付金・手当】
対象者 | 給付金・手当の名称 | 概要 |
---|---|---|
一般被保険者 | 再就職手当 | 基本手当を受給できる人が所定支給日数の3分の1以上を残して就職した場合、その残日数に応じて支給される手当 |
就業手当 | 基本手当を受給できるが再就職手当の支給対象とならなかった人で、常用雇用など以外の形態で就業した場合に、基本手当の支給残日数が3分の1以上かつ45日以上あれば支給される手当 | |
就業促進定着手当 | 再就職手当を受給した人が、その就職先に6カ月以上雇用されており、その賃金の日額が離職前よりも低い場合に支給される手当 | |
就職困難者 | 常用就職支度手当 | 障害のある人や一定年齢以上の人など、就職が困難であると認められる人が安定した職業に就いた場合に支給される手当 |
被保険者全員 | 移転費 | ハローワーク、特定地方公共団体や職業紹介事業者が紹介した職業に就くため、またはハローワークの指示によって公共職業訓練などを受講するために、引っ越しをしなければならない場合に支給される費用 |
被保険者全員 | 広域求職活動費 | ハローワークの紹介で遠隔地にある求人事業所を訪問し、採用面接などを受けた場合に支給される費用 |
再就職手当や就業手当は、基本手当の支給日数が残った状態で早期に仕事に就いた場合にもらえる手当です。働き始めたあとでも、残っている基本手当の支給日数に応じて一定の割合で受け取れるため、より生活を安定させやすくなるでしょう。
常用就職支度手当は、就職が困難であるとされている人(就職困難者)が1年以上雇用されると見込まれる職業に就いた場合で、就職日の前3年間に再就職手当や常用就職支度金を受け取っていないことを条件として支給されます。就職困難者には、具体的には障害のある人、45歳以上の人、そのほか社会的事情などで就職が困難な人が該当します(雇用保険法施行規則第32条)。
移転費については、被保険者の種類にかかわらず「就職や職業訓練などのために引っ越しをしなければならない」と認められた場合に支給されます。就職先から引っ越し費用や支度金が支給されていないか、実際の費用よりも少ないことが支給の条件です。
そして、広域求職活動費は、求職活動で遠隔地へ採用面接などに行かなければならない場合に、その交通費と宿泊料を支給する制度です。
参考:「就職促進給付」(ハローワーク インターネットサービス)
(3)教育訓練給付
教育訓練給付は、教育訓練開始時に一般被保険者または高年齢被保険者である人などを対象とし、教育訓練などを受ける人に支給される給付金です。簡単にいえば、受講費の一部が支給されます。
支給されるのは、厚生労働大臣が指定する講座を受講した場合です。講座の内容に応じて「専門実践教育訓練」「特定一般教育訓練」「一般教育訓練」の3タイプに分けられており、それぞれ給付率が異なります。
【教育訓練の種類と給付率】
教育訓練の種類 | 給付率 | 訓練のレベル |
---|---|---|
専門実践教育訓練 | 最大80% | 中長期的なキャリア形成のための教育訓練 |
特定一般教育訓練 | 最大50% | 速やかな再就職と早期のキャリア形成のための教育訓練 |
一般教育訓練 | 20% | 上記以外の雇用の安定や就職の促進を目的とする教育訓練 |
給付金を受け取るには、指定された講座を受講・修了するだけでなく、定められた期間にハローワークへ申請する必要があります。
参考:「教育訓練給付制度」(ハローワーク インターネットサービス)
(4)雇用継続給付
雇用継続給付は、一定年齢以上の一般被保険者、介護休業を取得した一般被保険者や高年齢被保険者がもらえる給付金です。手続きは基本的に会社側で行いますが、従業員自身が自分で手続きをしたいと希望する場合は、本人が申請することも可能です。
【雇用継続給付の種類と概要】
雇用継続給付の種類 | 概要 |
---|---|
高年齢雇用継続基本給付金 | 基本手当を受給しておらず、60歳以後も継続して雇用されており、60歳時点での賃金の75%未満にまで賃金が減少している場合に支給される給付金 |
高年齢再就職給付金 | 基本手当を受給して再就職した場合に、60歳以後も継続して雇用され、60歳時点での賃金の75%未満にまで賃金が減少しており、再就職の前日における基本手当の支給残日数が100日以上ある場合に支給される給付金 |
介護休業給付金 | 家族を介護するために休業した被保険者に対して、一定の要件を満たす場合に原則として休業開始時の賃金の67%が支給される給付金 |
高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金は、60歳以上65歳未満の一般被保険者であり、被保険者の期間が通算5年以上で、60歳時点と比較して賃金が一定以上減少している人が対象です。
高年齢雇用継続基本給付金は被保険者が65歳に達する月まで、高年齢再就職給付金は、基本手当の支給残日数が200日以上の場合は2年間、100日以上200日未満の場合は1年間受け取ることができます。
介護休業給付金に関しては、支給条件が細かく定められています。まず、受給できる被保険者の種類は一般被保険者と高年齢被保険者です。そのうえで、賃金支払日数・時間数と“完全月”に関する要件、金額に関する要件、就業日数に関する要件を満たさなければなりません。
【介護休業給付金の要件 概要】
-
賃金支払日数・時間数と“完全月”に関する要件
会議休業開始日の前の2年間について、「賃金支払基礎日数が11日以上ある完全月」が12カ月以上あるか、「賃金の支払基礎となった時間数が80時間以上である完全月」が12カ月以上ある
-
金額に関する要件
介護休業期間中の1カ月ごとについて、休業開始前の月額賃金の8割以上の賃金が支払われていない
-
就業日数に関する要件
就業している日数が、1カ月ごとの所定の各期間において10日以下である
詳しい要件や日数・時間数の計算については、ハローワークでご確認ください。
参考:「雇用継続給付」(ハローワーク インターネットサービス)
(5)育児休業等給付
育児休業等給付は、近年特に注目されている給付金です。育児を行う被保険者を対象に、子の年齢や養育の状況が一定要件を満たす場合に支給されます。申請手続きは原則として会社側が行いますが、介護休業給付金と同様に、本人の希望があれば本人が申請することも可能です。
代表的な給付金は「育児休業給付金」や「出生時育児休業給付金」ですが、国による“共働き・共育て”推進を目的として2025年4月から新たに2つの給付金が始まりました。
【育児休業等給付の種類と概要】
育児休業等給付の種類 | 概要 |
---|---|
育児休業給付金 | 原則として1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した場合に、休業開始時の賃金の67%を基本に、子が1歳になるまで支給される給付金 |
出生時育児休業給付金 | 「産後パパ育休」の取得期間(最大4週間分)について、休業開始時の賃金の67%を基本に支給される給付金 |
出生後休業支援給付金 | 2025年4月1日から始まった制度で、出生時育児休業給付または育児休業給付が支給される休業を通算14日以上取得し、かつ配偶者が一定期間に通算14日以上の育児休業を取得した場合に、追加で最大28日間支給される給付金 |
育児時短就業給付金 | 2025年4月1日から始まった制度で、2歳未満の子を養育するために育児時短就業をする場合に、子が2歳になるまで支給される給付金 |
育児休業等給付の支給要件は、子の年齢以外に被保険者の就業日数や保険加入期間に関する条件があります。
例えば、育児休業給付金と出生時育児休業給付金の場合は、育児休業を開始した日の前の2年間について、賃金支払い基礎日数が11日以上ある月が12カ月以上あるか、そうでない場合は就業時間数が80時間以上である月が12カ月以上あることが必要です。さらに、育児休業や産後パパ育休の期間について、1カ月ごとの期間の就業日数は、各期間10日以下(または80時間以下)でなければなりません。
出生後休業支援給付金については、出生時育児休業給付金または育児休業給付金を受給していることが要件となっていますので、同様にそれらの休業開始前2年間の要件と休業中の要件が影響してきます。
育児時短就業給付金については、育児休業給付を受給していることが基本的な条件です。育児休業給付を受給していない場合は、被保険者期間が12カ月以上あることが条件となっています。
雇用保険に加入するメリット・デメリット
雇用保険に加入すると、会社も従業員も保険料を支払わなければなりません。会社にとっては資金繰りが圧迫される可能性がありますし、従業員にとっては雇用期間における手取りが減ってしまいます。
とはいえ、強制適応事業所で働き、加入条件も満たす従業員は雇用保険に加入する義務があります。
では、暫定任意適用事業のように雇用保険への加入が必須ではない事業所の場合、雇用保険には加入しないほうがよいのでしょうか。あえて雇用保険に加入するメリットがあるなら、それは何でしょうか。
会社側のデメリット
雇用保険に加入することによる会社側のデメリットは、強いていえば保険料の負担です。冒頭でお伝えしたように、雇用保険料は従業員と会社で折半して負担しなければならないからです。
ただ、この負担率は決して大きなものではありません。雇用保険料率は各年度で国が事業ごとに定めています。その一覧が下表です。
【令和7年度の雇用保険料率】*
事業の種類/負担者 | ①従業員側の負担 | ②会社側の負担 | ①+② 合計の雇用保険料率 |
---|---|---|---|
一般の事業 | 0.55% | 0.9% | 1.45% |
農林水産・ 清酒製造の事業 |
0.65% | 1.0% | 1.65% |
建設の事業 | 0.65% | 1.1% | 1.75% |
会社側の雇用保険料の負担は従業員の賃金の1%程度です。介護休業や育児休業、育児のための時短勤務などにおける給付金の受給と雇用継続という利点を考えれば、十分なリターンがあるといえるでしょう。
*出典:「令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内」(厚生労働省)
会社側のメリット
したがって、会社側にとっての雇用保険加入のメリットは、様々な場面で従業員の雇用を守れるという点にあります。
有能な人材や自社で育ててきた人材に引き続き活躍してもらうには、働きやすい会社でなければなりません。介護休業・育児休業・育児時短勤務といった制度と休業中の生活を雇用保険で支えられる仕組みは、多くの従業員にとって魅力的です。
さらに、雇用保険には各種助成金制度もあります。コロナ禍において多くの企業に活用された雇用調整助成金も、その1つです。
変化の激しいVUCAの時代にあっては、事業を常に安定して続けられるとは限りません。不測の事態により規模を縮小したり、一時的な休業を迫られたりする場合もあるでしょう。そうしたときに、雇用調整助成金では、会社都合の休業措置にかかる費用の一部が国の制度として支給されるのです。
また、2016年以降社会保険の適用範囲が拡大される中、パートやアルバイトの労働時間延長・賃金引き上げ・正社員転換などについても、「キャリアアップ助成金」として一定額が支給されています。
こうした制度の活用には、雇用保険への加入が大前提です。上手に活用することで、従業員の生活安定につながり、会社としても人材の確保・定着をより進めやすくなるでしょう。
従業員側のデメリット
では、従業員側にとって雇用保険加入のデメリットはあるのでしょうか。
従業員側のデメリットも、会社側のデメリットと同様に保険料の負担があげられます。保険料は給料から天引きされ、手取り額が減ることに抵抗感を覚える人は少なくないでしょう。
ただ、終身雇用制度が崩壊した現在の日本では、誰もが失業のリスクを抱えていますし、転職のために自ら離職し、一定期間を職業訓練に充てる人もいます。
加えて、子育て世代は出産・育児と仕事の両立のために育児休業制度・時短勤務制度の活用は不可欠であり、高齢化の中で家族の介護に時間をとる必要がある人も少なくないでしょう。
こうした多様な事情が発生した場合、雇用保険制度による給付は収入の減少を補ってくれます。手取り額が減ることはつらいものですが、今後のリスクへの備えとしての保険料と考えれば、メリットがデメリットを上回る制度といえるのです。
従業員側のメリット
従業員側が雇用保険に加入する具体的なメリットは、何と言っても失業した際の基本手当の受給です。
自己都合の場合は一定期間の給付制限が発生しますが、会社都合での離職(解雇や倒産、ハラスメントによる退職など)であれば7日間の待機期間後に給付制限期間なしで手当を受け取れます。仕事を失って収入がない中での基本手当は、安心して求職活動を進める拠り所となるでしょう。
そして、失業に関する基本手当以外にも再就職に向けた訓練を手当付きで受講できる制度、介護休業や育児休業に関する給付金などがあります。これらは再就職・職場復帰までの重要な経済的支えになります。
雇用保険の資格取得・喪失の手続き
最後に、雇用保険の被保険者資格取得の手続き、資格喪失の手続きを簡単にご紹介します。最新の手続き内容・申請方法については、厚生労働省の公式ページや労働基準監督署の窓口(暫定任意適用事業の場合は労働局の窓口)での案内も併せてご活用ください。
(1)はじめて従業員を雇用する場合
はじめて従業員を雇用する場合は、まず従業員を雇い入れた日の翌日から10日以内に、労働保険(雇用保険+労災保険)の保険関係成立届を労働基準監督署またはハローワークに提出しなければなりません。
そのうえで、労働保険の概算保険料(年度の末日までに労働者に支払う賃金の総額の見込額×保険料率)を50日以内に銀行または労働局へ申告・納付します。
さらに、「雇用保険適用事業所設置届」を設置から10日以内に、「雇用保険被保険者資格取得届」を翌月10日までにハローワークに提出しましょう。
(2)新たに従業員を雇用する場合
新たに雇用保険の加入条件を満たす従業員を雇用したり、既存の従業員が新たに雇用保険加入条件を満たしたりした場合は、翌月10日までに「雇用保険被保険者視覚取得届」をハローワークに提出します。
この手続きは、今後新しく雇用保険の対象者を雇用するたびに行わなければなりません。
(3)加入手続き後に取り扱う各種書類と注意点
雇用保険への加入手続きが完了すると、以下の書類が交付されます。
- ①雇用保険被保険者証
- ②雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(被保険者通知用)
- ③雇用保険適用事業所設置届け事業主控
- ④雇用保険被保険者視覚取得等確認通知書(事業主通知用)
「①雇用保険被保険者証」と「②雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(被保険者通知用)」は、従業員本人に遅滞なく渡しましょう。
会社によっては、紛失防止を目的として「①雇用保険被保険者証」を会社で保管することもあります。その場合は、会社で保管していることを必ず従業員に伝えてください。また、従業員が離職する際には、本人に渡す必要があります。
「③雇用保険適用事業所設置届事業主控」は、事業者の雇用保険加入番号が記載され、今後の手続きに必要です。紛失しないよう、会社できちんと管理・保管しましょう。
「④雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(事業主通知用)」は、被保険者に関する雇用保険関連書類です。雇用保険法により、対象となる従業員の資格喪失から4年間の保管義務が定められているため、当該従業員が資格を失ってからも大切に保管してください。
(4)従業員が退職などで被保険者資格を喪失する場合
離職などにより、従業員が雇用保険の加入条件を満たさなくなった場合は、「雇用保険被保険者資格喪失届」をハローワークに提出します。提出期限は、被保険者でなくなった日から10日以内です。
資格喪失の届け出を怠ると、離職者が失業給付などを受ける際に不利益が生じる場合があります。また、必要な届け出を行わないことで、雇用保険法における罰則規定が適用される可能性もあります。「忘れていた」ということがないよう、十分に確認しながら手続きを進めましょう。
なお、離職以外にも、労働条件の変更(加入条件を満たさなくなった場合)や役員への就任、出向などでも雇用保険被保険者資格喪失届の提出が必要です。
適正な雇用保険加入には労務管理が大切
これまで見てきたように、雇用保険は雇用保険法に基づいて適切に加入しなければならない公的保険制度です。雇用継続と従業員が安心して働き、生活できるようにするための重要な制度ですので、「ついうっかり」というミスでも大きなトラブルにつながりかねません。
特に、非正規従業員の社員登用や処遇改善が求められている昨今、労働時間や雇用期間といった労働条件の変更、今後行われる改正雇用保険法の施行により、それまで雇用保険の対象とならなかった従業員が新たに被保険者となることも十分にあり得ます。
雇用保険への加入手続きを適正に行うには、雇用契約における労働条件の把握とともに、日々の労務管理が不可欠なのです。
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