雇用形態とは?種類や必要な社会保険、変更手続きや注意点について解説



雇用形態とは、企業が労働者を雇う際の契約の種類です。正社員、契約社員、パートタイム労働者、派遣社員など、近年、多様な雇用形態が混在する職場が増えてきました。企業が多様な人材を効果的に活用するには、適切な労務管理や公正な待遇の実現を図る必要があります。
本コラムでは、雇用形態についてわかりやすく解説します。雇用形態の種類や必要な社会保険、雇用形態変更の手続き、注意点などについて理解を進めていきましょう。
雇用形態とは
雇用形態とは、企業が労働者と雇用契約を結ぶ際の種類や形態を指します。具体的な雇用形態の名称や労働条件は、雇用する企業によって異なります。
まずは雇用契約の基本事項から、正規雇用と非正規雇用、直接雇用と間接雇用といった雇用形態の大まかな分類について解説します。
雇用契約とは
雇用契約は、企業と労働者の間で交わされる労働に関する契約です。契約内容は雇用契約書や労働条件通知書に明記します。両者を一体化した「労働条件通知書兼雇用契約書」を使用することもあります。
雇用契約をする際は、労働基準法第15条1項に基づいて、勤務内容や賃金、勤務時間などの条件を労働者に示します。*1
特に、以下の労働条件については明示するよう、労働基準法施行規則第5条に定められています。*2
- 労働契約の期間
- 期間の定めのある労働契約の場合、契約を更新する場合の基準
- 就業の場所と従事すべき業務とその変更の範囲
- 労働時間、休憩、休日
- 賃金の決定、計算方法、支払いの方法
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
新しい人材を雇用する際は、これらの条件をあらかじめ検討・確認しておくことが大切です。
正規雇用と非正規雇用
雇用形態には「正社員」や「アルバイト」などの呼び方がありますが、これらは法律で明確に定義されているわけではありません。一般的には正社員を正規雇用、それ以外を非正規雇用と呼びます。
正規雇用
正規雇用とは、主に「正社員」として雇用する形態を指します。正規雇用は通常、定年までの長期的な契約であり、長期間働き続けることが前提となります。そのため、責任が大きな仕事を任されることが多く、企業の中核としての役割が期待されます。
非正規雇用
非正規雇用とは、正規雇用以外の雇用形態を指します。具体的には、アルバイト、パートタイム、派遣社員、契約社員、嘱託社員が該当します。
通常、非正規雇用は期間の定めがある有期雇用契約が多く、契約期間終了後も引き続き働いてもらうには、契約の更新が必要です。
直接雇用と間接雇用
雇用形態は、正規雇用・非正規雇用の分類だけでなく、直接雇用・間接雇用に分けられます。
直接雇用
直接雇用とは、企業が労働者と直接雇用契約を結ぶ形態です。正社員や契約社員、パートタイム、アルバイトなどの雇用形態がこれに該当します。労働者は雇い主である企業から直接指示を受け、業務を遂行します。
間接雇用
間接雇用は、直接雇用以外の雇用形態を指します。代表的な例として、派遣社員が挙げられます。労働者は派遣会社(派遣元企業)と雇用契約を結び、実際の業務は別の企業(派遣先企業)で指示を受けながら行うという仕組みです。
雇用形態の種類と業務委託
ここまでは正規雇用と非正規雇用、直接雇用と間接雇用という、雇用形態に分けて見てきました。しかし、これらの区分の中にも様々な雇用形態の種類が含まれています。
ここでは、正社員、契約社員、パート・アルバイト、派遣社員といった雇用形態と業務委託について、それぞれの特徴を詳しく解説します。
業務委託は雇用形態ではなく、働き方の1つです。しかし、近年、フリーランスや個人事業主として働く人が増えていることから、雇用契約との違いを理解するために、併せて確認しましょう。
正社員
正社員とは、企業と無期限の雇用契約を直接結ぶ「正規雇用」の従業員です。雇用の安定性が高く、経済的な安心を得られるほか、長期的に働くことで継続的なキャリア形成が可能です。一方で、業績目標の達成やプロジェクトの成功など、責任を伴うことも多くあります。
かつて、正社員といえば1日8時間のフルタイム勤務が一般的でしたが、近年の働き方の多様化により、短時間正社員制度を導入する企業も増えてきました。短時間正社員は、通常の正社員と同様に無期限の雇用契約を結びますが、労働時間を短縮した雇用形態です。
例えば、1日6時間勤務や週3日勤務など、労働時間や労働日数を柔軟に設定できるため、ライフスタイルやライフステージに応じた多様な働き方を実現できます。そのため、厚生労働省も短時間正社員制度の導入・定着を支援しています。
契約社員
契約社員とは、期間の定めがある雇用契約(有期雇用契約)で働く従業員です。正社員との最大の違いは、契約期間があらかじめ決められており、期間終了時に契約の更新が必要となる点です。契約期間は原則として上限3年です(高度な専門知識をもつ人や60歳以上の人の上限は5年)。
ただし、有期雇用契約の従業員であっても、同じ企業で通算5年以上働き、かつ1回以上の契約更新を経ている場合は、期限のない雇用契約への転換(無期転換)を申し込むことができます。労働者から無期転換の申し込みがあった場合、原則として企業はこれを拒否できず、無期雇用契約に転換する義務があります。
出典:「無期転換ルールについて」(厚生労働省)(2025年1月28日に利用)
パート・アルバイト
パート・アルバイトは、労働時間が短く、柔軟な働き方ができる非正規の雇用形態です。パートとアルバイトに法律上の違いはなく、両者とも「パートタイム労働者」と呼ばれます。
契約社員と同様、期間の定めのある雇用契約を結び、給与は1時間当たりの報酬額を定める時給制が一般的です。
先述した「無期転換ルール」は、パート・アルバイトの従業員にも適用されます。同じ使用者のもとで5年以上働き、かつ1回以上の契約更新を経ている場合は、無期転換を申し込む権利が発生します。
また、パートタイム労働者を雇用する場合、企業は「パートタイム・有期雇用労働法」に基づき、公正な待遇の確保や正社員への転換などに取り組むことが義務付けられています。
出典:「パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善のために」(厚生労働省)(2025年1月28日に利用)
派遣社員
派遣社員とは、労働者が派遣会社と雇用契約を結んだうえで、他の企業(派遣先)に一定期間派遣されて働く雇用形態です。労働者の雇用主は派遣会社(派遣元)ですが、業務に関する指示を行う権利(指揮命令権)は派遣先の企業にあります。
労働者派遣については、「労働者派遣法」によって、様々なルールが設けられています。例えば、派遣先の同一部署で働けるのは原則3年までといった制限や、派遣社員にさせることのできない業務(派遣禁止業務)などの規定です。
出典:「労働者派遣法」(厚生労働省)(2025年1月29日に利用)
業務委託
業務委託は雇用形態ではなく、企業が個人と業務委託契約を結んで、雇用関係を伴わずに仕事を依頼する働き方です。法人と業務委託契約を結ぶ場合もありますが、ここでは雇用形態との違いを確認するため、個人への業務委託について解説します。
業務委託で働く人は、個人事業主、自営業、フリーランス、自営型テレワーカーなどです。
業務委託と雇用契約の違いは、委託元の企業が業務の指揮命令権を持つか否かです。業務委託契約では、企業が受注者に対して、業務の場所や時間、仕事の進め方などを細かく指示することはできません。もし、これらを指示している場合、「その実態は雇用関係である」と見なされる可能性があります。
仮に業務委託契約であっても、その働き方の実態が雇用契約を結んだ「労働者」であると判断されれば、受注者は労働基準法の適用を受け、雇用関係にある従業員のように社会保険への加入が必要になる場合があります。契約内容と実際の働き方が合致しているか、慎重に確認することが重要です。
雇用形態による社会保険の加入条件
正規社員でも非正規社員でも、一定の条件を満たしていれば社会保険に加入させる必要があります。社会保険とは、企業が従業員に加入させる労災保険、雇用保険、健康保険、介護保険、厚生年金保険の総称です。加入条件は雇用形態や勤務時間・収入によって異なります。
ここでは、以下の雇用形態や働き方ごとに、社会保険の加入条件を詳しく解説します。
- 正規雇用(正社員)
- 非正規直接雇用(契約社員、パート・アルバイト)
- 非正規間接雇用(派遣社員)
- 業務委託
1つずつ見ていきましょう。
正規雇用(正社員)
正規雇用(正社員)の従業員については、原則、企業は全ての社会保険に加入させなければなりません。社会保険は労働保険(労災保険、雇用保険)と狭義の社会保険(健康保険、介護保険、厚生年金保険)に分類されます。
労働保険(労災保険、雇用保険)
原則として1人でも労働者を雇っていれば、法律上、労働保険に加入の義務がある「適用事業」となります。
ただし、個人経営の農林水産業で常用労働者数が5人未満の事業所など、一部の事業については、当分の間、労災保険の適用が任意の「暫定任意適用事業」とされます。暫定任意適用事業の場合、加入するかどうかは、事業主または労働者(労災保険は過半数、雇用保険は2分の1以上)の意思に任されます。
狭義の社会保険(健康保険、介護保険、厚生年金保険)
次のいずれかに該当する事業所は、法律上これらに加入義務がある「強制適用事業所」となります。
- 法人の事業所
- 常時5人以上の労働者を雇用している適用業種の個人事業所
強制適用事業所以外の事業所は、被保険者となるべき者のうち2分の1以上の同意を得ることで、社会保険の適用事業所になることも可能です。
出典:「労働保険関係の成立と対象者」(厚生労働省)(2025年1月29日に利用)
非正規直接雇用(契約社員、パート・アルバイト)
契約社員、パート・アルバイトの場合、社会保険の制度ごとに加入条件が異なります。
健康保険・厚生年金保険
原則として、以下の条件①または②を満たす場合、健康保険・厚生年金保険に加入させる必要があります。
- ①1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上
-
②以下全ての条件を満たす従業員(短時間労働者として加入)
- a. 従業員数51人以上の企業に勤務
- b. 1週間の所定労働時間が20時間以上
- c. 1カ月の賃金が8万8,000円以上
- d. 2カ月を超えて雇用される見込みがある
- e. 学生ではない
労災保険(労働者災害補償保険)
労災保険は、従業員の雇用形態にかかわらず、全ての従業員が対象となります。
雇用保険
雇用保険は、労災保険とともに「労働保険」として扱われることが多いです。しかし、労災保険では全ての従業員が対象であるのに対し、雇用保険は一定の条件を満たした従業員のみが対象となるため、加入条件が異なります。
契約社員・パート・アルバイトの雇用保険は、原則、以下3つの加入条件を満たす場合に加入が必要です。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上の雇用見込みがある
- 学生ではない
参考:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
派遣社員
派遣社員は、雇用契約を結んだ人材派遣会社(派遣元企業)で社会保険に加入します。派遣元企業は社会保険の加入手続きを行い、社会保険料を負担する義務があります。
一方で、派遣社員を受け入れる派遣先企業には、社会保険の加入状況を確認する義務があります。派遣社員に被保険者証のコピーなどの書類を提出してもらい、社会保険の被保険者であることを確認しましょう。この確認内容は派遣先が作成する「派遣先管理台帳」に記載する必要があります。
当該派遣社員が社会保険の被保険者に該当するにもかかわらず、正当な理由なく社会保険に加入していない場合は、派遣先が派遣元に対して、当該派遣社員の社会保険加入または派遣社員の入れ替えを要求するなどの対応を検討しなければなりません。
出典:「派遣先の皆様へ」(厚生労働省)(2025年1月29日に利用)
出典:「派遣相談 社会保険の加入は派遣元まかせでよいですか」(厚生労働省)(2025年1月29日に利用)
業務委託
業務委託で働く人は、企業と雇用関係がないため、社会保険の加入義務もありません。フリーランスや個人事業主の場合、自身で国民年金や国民健康保険に加入する必要があります。
ただし、委託元企業の指揮監督下で働いているなど、雇用関係のある従業員と同様の勤務実態がある場合は、注意が必要です。先述の通り、たとえ業務委託という形式をとっていても、実態として当該フリーランスなどが「労働者」であると見なされれば、委託元企業に社会保険の加入義務が発生します。
雇用形態変更の手続き
ライフステージや健康状態、ライフスタイルの変化などにより、従業員から雇用形態の変更を求められることがあります。また、経営状態の変化や経営方針の変更といった会社側の都合により、従業員の雇用形態の見直しを検討することもあるでしょう。
雇用形態を変更する際は、従業員に労働条件の変更内容を説明し、同意を得たうえで、新たな雇用契約を締結します。ここでは、それぞれの雇用形態から別の雇用形態に変更する際の手続きについて解説します。
パート・アルバイト・契約社員から正社員に変更する場合
パート・アルバイトや契約社員から正社員(正規雇用)に雇用形態を変更する場合は、新たな雇用契約を結びます。勤務時間・勤務日数・給与などの労働条件が変わる場合は、社会保険の手続きも必要になるため、事前に確認しましょう。
社会保険へ加入・被保険者区分の変更
雇用形態の変更により、社会保険(雇用保険、健康保険、介護保険、厚生年金保険)への加入や、被保険者区分の変更が必要になる場合があります。
- 社会保険に未加入だった場合 → 新たに社会保険へ加入する
- 既に加入している場合 → 勤務時間や給与の変更により、被保険者区分を見直す
パート・アルバイト・契約社員の頃に社会保険へ加入済みであっても、新しい労働条件で勤務時間や勤務日数が増える場合、被保険者区分の変更が必要なケースがあります。
例えば、健康保険と厚生年金保険において、1週間の所定労働時間または1カ月の所定労働日数が正社員の4分の3未満である「短時間労働者」から正社員になる場合は、被保険者区分が変わります。
その場合、「被保険者区分変更届」の提出が必要です。「被保険者区分変更届」は、雇用形態の変更があってから5日以内に、管轄の日本年金機構(事務センターまたは年金事務所)へ提出しましょう。
参考:日本年金機構「一般被保険者が短時間労働者になったとき/短時間労働者が一般被保険者になったとき」
標準報酬月額随時改定の手続きを行う
給与が大きく変わる場合は、厚生年金保険料や健康保険料を決める「標準報酬月額」を改定する「随時改定」の手続きが必要になります。
随時改定の手続きが求められるのは、継続した3カ月の報酬月額の平均と、それまでの報酬月額を比べて、標準報酬月額等級に2等級以上の差があるケースです。その場合、雇用形態変更後の4カ月目から新しい社会保険料を支払うことになります。
随時改定の対象となるかどうか、雇用形態を変更する従業員の変更前・変更後の給与額をもとに確認しましょう。
正社員(正規雇用)からパート・アルバイトや契約社員に変更する場合
正社員(正規雇用)からパート・アルバイト・契約社員に変更する場合も、新たな雇用契約を結びます。
この変更により、勤務時間や勤務日数が減り、社会保険の加入条件を満たさなくなる場合があります。加入条件を満たすかどうかで必要な手続きが異なるため、それぞれ見ていきましょう。
社会保険の加入条件を満たす場合
雇用形態の変更後も社会保険の加入条件を満たしている場合は、継続して社会保険に加入します。ただし、勤務時間や勤務日数の減少により「短時間労働者」となる場合は、被保険者区分の変更手続きが必要です。
雇用形態の変更があってから5日以内に、管轄の日本年金機構(事務センターまたは年金事務所)へ「被保険者区分変更届」を提出しましょう。
参考:日本年金機構「一般被保険者が短時間労働者になったとき/短時間労働者が一般被保険者になったとき」
社会保険の加入条件から外れる場合
健康保険・厚生年金保険の加入条件は、前述の通り、原則として、以下の①または②を満たすことです。
- ①1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上
-
②以下全ての条件を満たす従業員(短時間労働者として加入)
- a. 従業員数51人以上の企業に勤務
- b. 1週間の所定労働時間が20時間以上
- c. 1カ月の賃金が8万8,000円以上
- d. 2カ月を超えて雇用される見込みがある
- e. 学生ではない
上記の条件に該当しなくなった場合は、被保険者資格の喪失となります。雇用形態を変更してから5日以内に、管轄の日本年金機構(事務センターまたは年金事務所)へ「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届/厚生年金保険70歳以上被用者不該当届」を提出しましょう。
雇用保険については、1週間の所定労働時間が20時間未満となる場合、または31日以上引き続いて雇用されることが見込まれない場合に、被保険者資格を喪失します。雇用形態を変更してから10日以内に管轄のハローワークへ「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出しましょう。
ただし、所定労働時間の変更が6カ月以内の臨時的なものである場合は、雇用保険の資格喪失の手続きは必要ありません。
標準報酬月額の随時改定
給与が大きく下がる場合は、前述した「随時改定」の対象となります。随時改定の手続きが必要な場合は、忘れずに行いましょう。
注意すべき点は、雇用形態がパート・アルバイトになり、給与が下がったとしても、最初の3カ月間は正社員の頃と同じ社会保険料を支払うことです。従業員の月々の負担を考慮し、雇用形態変更の際にしっかりと説明し、理解を得ておくことが重要です。
参考:ハローワークインターネットサービス「雇用保険被保険者資格喪失届」
参考:日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き」
派遣社員を正社員に変更する場合
派遣社員を正社員として迎え入れる場合は、一般的には派遣期間終了後に雇用契約を結びます。契約締結に当たり、正社員登用後の労働条件を当該派遣社員へ提示し、同意を得ましょう。
派遣期間中に派遣社員を直接雇用に切り替える場合は、派遣元との契約内容を必ず確認しましょう。なぜなら、直接雇用を禁止する旨の条項が派遣契約に含まれる場合があるためです。
こうした正社員登用に関する懸念を回避するには、職業紹介を兼ねた派遣契約である「紹介予定派遣」を活用するとよいでしょう。紹介予定派遣とは、派遣会社に紹介手数料を支払うことで、派遣期間中でも派遣社員を直接雇用に切り替えられるものです。
なお、派遣期間終了後は、派遣元企業(派遣会社)は派遣社員の直接雇用契約を制限してはいけないという法律があります(労働者派遣法第33条)。そのため、派遣期間終了後であれば、いずれの場合も問題なく直接雇用に切り替えられます。
出典:「派遣先の皆さまへ」(厚生労働省)(2025年1月29日に利用)
出典:「労働者派遣法の実務」(厚生労働省)(2025年1月29日に利用)
正社員・パート・アルバイト・契約社員を派遣社員に変更する場合
直接雇用していた従業員を派遣社員として迎える場合は、注意が必要です。
離職後1年以内の派遣受け入れは禁止
60歳以上の定年退職者を除き、正社員やパート・アルバイト、契約社員といった直接雇用の従業員は、離職から1年を経過するまでは派遣社員として受け入れることはできません(労働者派遣法第40条の9)。
この場合の派遣先は「事業所単位」ではなく「事業者(企業)単位」で捉えます。つまり、同じ企業の別部門や別支店で勤務することも禁止されていますので、注意しましょう。
1年を経過したあとは、派遣元企業と派遣契約を締結したうえで派遣社員として受け入れられます。当該派遣社員が社会保険加入条件を満たす場合は、社会保険にきちんと加入しているかどうかも派遣元にご確認ください。
出典:「離職後1年以内の労働者派遣の禁止について」(厚生労働省)(2025年1月29日に利用)
正社員から業務委託に変更する場合
自社の従業員だった者が離職するなどの事情により、直接雇用の正社員から業務委託契約に変更となる場合もあるでしょう。この場合、企業側は離職時の各種手続き(社会保険の資格喪失や離職票の交付、積立金など金品の返還など)を行ったあと、新たに業務委託契約を締結します。
社会保険については、元従業員が個人事業主となった場合は個人での加入となり、他の事業所などに所属している場合は、その所属先が判断し、必要に応じて加入します。
なお、業務委託契約では、労働条件や業務の進め方がそれまでの雇用と大きく変わります。具体的には、以下の3点です。
【業務委託契約の特徴】
- 業務委託契約では、契約した範囲の業務のみを行う
- 労働基準法による保護(労働時間の上限、最低賃金や割増賃金など賃金支払いに関する規定、休日に関する規定、同一労働同一賃金に関する規定など)が適用されない
- 業務の進め方や働く場所・時間などについて、企業側に指揮命令権はない
業務範囲や報酬体系、労働時間以外に、マネジメント面でも違いがあるため、注意が必要です。
マネジメント面では、「雇用形態の種類」で述べた通り、企業側に業務の指揮命令権がない点が特に重要です。業務委託契約を結んだ後、正社員の頃と同じように上司が業務指示のようなマネジメントを行うと、その程度によっては「雇用関係にある」と判断され、改めて雇用契約の締結や社会保険の加入が求められる可能性があります。
従業員を正社員から業務委託契約に変更する際は、当該従業員および業務委託締結後に担当者となる自社の従業員に対して、これらの事項を十分に説明し、理解を得ましょう。
雇用形態を変更する際によくある疑問
ここまでは様々な雇用形態の種類や雇用形態を変更する際の手続きなどを見てきました。
最後に、従業員の雇用形態を変更する際によくある疑問として、有給・退職金・ボーナスの取り扱いについて解説します。
有給はどうなる?
有給(年次有給休暇)は、正社員、パートタイム労働者など雇用形態の区分に関係なく、一定の要件を満たした全ての労働者に対して付与されるものです(労働基準法第39条)。
ただし、有給の付与日数は、継続勤務期間と労働時間によって異なります。正社員に対する付与日数と、週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者に対する付与日数(比例付与)では異なる基準が適用されるため、正社員のほうが多くの日数を付与されます。
雇用形態変更時の「継続勤務期間」の扱い
付与日数の算出に用いられる「継続勤務期間」は、同じ職場での在籍期間を意味します。例えば、次のようなケースは労働関係が継続している限り、「継続勤務期間」として扱われます(年次有給休暇の継続勤務に関する行政通達(昭.63.3.14 基発150号))。
- パート従業員を正社員に切り替えた場合
- 定年退職した者を引き続き嘱託などで再雇用する場合
一方、派遣社員を派遣期間終了後に派遣先企業で直接雇用する場合、直接雇用契約の前は派遣元(派遣会社)と当該派遣社員が雇用関係にあり、直接雇用契約後は派遣先企業と元派遣社員との雇用関係が開始されることになります。そのため、派遣社員として働いていた期間(派遣会社での在籍期間)については、派遣先における継続勤務として扱わなくても法律上は問題ありません。
もちろん、派遣社員のモチベーション維持のために、自社独自の規定として、入社後すぐに一定の有給休暇を付与したり、派遣社員としての期間を在籍期間に通算したりする取り扱いも可能です。
権利発生日の雇用形態による付与日数の違い
年次有給休暇の付与日数は、「権利発生日」の雇用形態によって判断します。
例えば、入社時は比例付与の対象者(短時間労働者)であったとしても、6カ月経過日(権利発生日)にフルタイム正社員になっていれば、10日分の有給休暇を付与しなければなりません。一方、6カ月経過日(権利発生日)もそのまま比例付与の対象者(短時間労働者)であった場合、年度の途中(その後1年以内)にフルタイム正社員になったとしても、付与日数を増やす必要はありません。
反対の例でも同様のことがいえます。例えば、年度の途中で正社員からパートへ雇用形態の変更を行ったとしても、一度付与した年次有給休暇は取り消せません。
出典:「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」(厚生労働省)(2025年1月29日に利用)
退職金はどうなる?
退職金の支給の有無や金額は、法律ではなく、企業の就業規則や退職金規程によって決まります。
例えば、正社員がパートへ雇用形態を変更する場合、正社員としての雇用契約は一度終了し、退職扱いとなるケースがあります。このとき、会社の規定で退職金支給対象であれば、企業はそれにしたがって退職金を支給しなければなりません。
退職金支給の支給条件は、会社が独自に定めるものです。就業規則に退職金を支給すると明記があれば、退職金の支払い義務が生じます。ただし、規定がない場合は、支給する必要はありません。
雇用を転換する際は、該当する従業員が退職金支給対象であるかを事前に確認することが重要です。就業規則における退職金規程をしっかり確認し、従業員にも説明しましょう。
ボーナスはどうなる?
ボーナス(賞与)についても、退職金と同様、法律上の支給義務はありません。支給の有無や条件、金額は企業が独自に定めた労働契約や就業規則によって決まります。ボーナスを支給する旨を明示している場合は、その規定にしたがって支払わなければなりません。
多くの企業では、「賞与支給日に在籍している従業員のみに、賞与を支給する」という「支給日在籍要件」を定めています。この要件があることで、賞与査定期間中は正社員として働いていたが、賞与支給日前にパートに雇用形態を変更した場合、正社員としての賞与は支払わないことが明確になります。
また、事前に従業員に周知することで、「パートに変更しても正社員のボーナスを受け取れるのでは?」という誤解やトラブルを防ぐメリットがあります。
ただし、決算賞与のように損金算入を目的としたボーナスでは、支給日在籍要件以外の要件が適応されることも。この場合、正社員からパートになった従業員にも賞与を支払わなければならないケースがあります。
雇用形態を正しく理解して、適切にマネジメントしよう
ここまで、雇用形態について解説しました。正社員、契約社員、パート・アルバイト、派遣社員など様々な雇用形態があり、それぞれ労働条件や管理方法が異なるため、適切な労務管理が求められます。
しかし、労働に関する法律や雇用形態の多様化により、企業が従業員の管理に課題を抱えるケースも少なくありません。社会保険の手続き、有給休暇の付与基準、雇用形態の変更時の手続きなど、知識不足や誤解によるトラブルが発生しやすい分野です。
ALL DIFFERENTでは、こうした課題を解決するために「労務管理研修」をご用意しています。中堅社員や管理職の方に向けて、労務管理の知識と具体的な対応を学べるプログラムです。
組織の労務管理を強化し、トラブルを未然に防ぎたい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。