マタニティハラスメントとは?定義・種類と事例、防止措置の例


職場におけるマタニティハラスメント(マタハラ)とは、女性従業員の妊娠・出産・育児などを理由とする嫌がらせのこと。厚生労働省の実態調査では、約4人に1人が「経験した」と回答しています。マタニティハラスメントを防ぐには、どのような防止措置が必要なのでしょうか。
本コラムでは、マタニティハラスメントの定義・種類や事例とともに、会社がとるべき防止措置と事案への対応を解説します。
マタニティハラスメント(マタハラ)とは?厚生労働省による定義・種類と関連する法律
はじめに、マタニティハラスメントの定義と種類、関連する法律を確認していきましょう。
マタニティハラスメントの定義と種類
厚生労働省によるポータルサイト「あかるい職場応援団」によれば、マタニティハラスメント(通称:マタハラ)は以下のように定義されます。
【マタニティハラスメントの定義】*1
「職場」において行われる上司・同僚からの言動(中略)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業・介護休業等を届出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されること
このうち、特に女性労働者に対するものがマタニティハラスメントです。
厚生労働省の定義における「労働者」には、正社員だけでなく契約社員やパート・アルバイトといった全ての労働者が含まれます。そのため、企業は従業員の雇用形態にかかわらず、妊娠・出産・育児などの事情があるメンバーに対して適切に対応しなければなりません。
マタニティハラスメントには、以下2つの種類があると言われています。
【マタニティハラスメントの種類】*2
種類 | 定義・具体例 |
---|---|
制度等の利用への嫌がらせ |
制度または措置の利用に関する言動により就業関係が害されるもの
|
状態への嫌がらせ |
女性労働者が妊娠・出産したことなどに関する言動により、就業環境が害されるもの
|
妊娠・出産・育児によって労働時間の短縮や休業・休暇の利用があると、現場の人員が減少することになります。これを「しわ寄せ」であるとして嫌うメンバーがいるかもしれません。
しかし、妊娠・出産・育児は重要なライフイベントであり、子どもが生まれ育つことが社会の維持・発展にもつながります。従業員それぞれの人生を大切にしながら事業活動を続けられる仕組みを設けることが、企業側の取るべき施策となります。
ハラスメント全般の基本的な考え方や防止措置については、以下の関連コラムもぜひご覧ください。
コラム「ハラスメントとは?定義・種類・原因・対策を簡単にわかりやすく解説」はこちら
マタニティハラスメントに関わる法律の例
マタニティハラスメントに関わる代表的な法律は、労働基準法と男女雇用機会均等法、育児・介護休業法です。
具体的には、次の条文がよく参照されます。
【マタニティハラスメントに関わる法律の例】
法律 | 条文の概要 |
---|---|
労働基準法 65条3項 | 妊娠した労働者から軽易な業務への転換の申し出があった場合、使用者はその要求に応じなければならない |
男女雇用機会均等法 9条3項 (不利益取扱いの禁止) |
事業主は、女性労働者の妊娠・出産・育児やそれらを理由とする休業などについて、その女性労働者に対して解雇などの不利益な取扱いをしてはならない |
男女雇用機会均等法 11条の2 (マタハラ防止措置義務) |
事業主は、女性労働者の妊娠・出産・育児やそれらを理由とする休業などについて、その女性労働者の就業環境が害されないよう防止措置を講じなければならない |
育児・介護休業法 10条 (不利益取扱いの禁止) |
事業主は、労働者が育児休業を利用することなどについて、その労働者に対して解雇などの不利益な取扱いをしてはならない |
育児・介護休業法 25条 (マタハラ・パタハラなどの防止措置義務) |
事業主は、育児休業・介護休業などの利用に関して、その労働者の就業環境が害されることのないよう防止措置を講じなければならない |
簡単に言えば、
- 妊娠・出産を理由として業務内容の変更をしてほしいと女性従業員に言われた場合は、原則として応じる必要がある
- 妊娠・出産・育児を理由に嫌がらせをしてはいけない
- 妊娠・出産・育児に関する休業・休暇制度を活用しようとする従業員に対して、嫌がらせをしたり減給・降格・解雇したりしてはいけない
ということです。
ちなみに、出産・育児に関する男性労働者へのハラスメントは、「パタニティハラスメント(通称:パタハラ)」と呼ばれます。パタニティハラスメントも、マタニティハラスメント同様に企業に対する防止措置義務が定められています。
マタニティハラスメントの実態調査では約4人に1人が「経験した」
マタニティハラスメントは、どのくらい発生しているのでしょうか。
ここで、「令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」から、「女性の妊娠・出産・育児休業等ハラスメント」の詳細結果を見てみましょう。
マタハラを「経験した」女性労働者は27%、管理職では約48%に増加
まず、「女性の妊娠・出産・育児休業等ハラスメントを受けた経験」に関する設問では、過去5年間において就業中に妊娠・出産した女性労働者1,000人のうち26.1%が「経験した」と回答しました。
業種別に見ると、運輸業・郵便業で38.7%と最も大きく、次に生活関連サービス業・娯楽業の35.5%でした。企業数が多い製造業や卸売業・小売業では、それぞれ26.7%、27.6%となっており、全体での割合よりもやや大きくなっています。マタニティハラスメントを経験した人の割合が最も小さかった業種は、金融業・保険業(15.5%)でした。
【マタニティハラスメントを受けた人の割合(業種別)】*1
業種 | 割合 |
---|---|
全体 | 26.1% |
運輸業、郵便業 | 38.7% |
生活関連サービス業、娯楽業 | 35.3% |
製造業 | 26.7% |
卸売業、小売業 | 27.6% |
金融業、保険業 | 15.5% |
これを職種別に見ると、女性管理職の多くがマタニティハラスメントを受けていることがわかります。
【マタニティハラスメントを受けた人の割合(職種別TOP3)】*2
職種 | 割合 | |
---|---|---|
1位 | 管理職 | 47.8% |
2位 | サービス職 | 31.2% |
3位 | 専門技術職(研究者を含む) | 28.6% |
管理職でマタニティハラスメントを受けた人は約半数にのぼり、サービス職や専門技術職でも約3人に1人という結果となりました。最も割合が小さかった職種は営業・販売職(20.5%)ですが、それでも5人に1人は妊娠・出産・育児に当たって何らかのハラスメントを受けています。
なお、こうしたマタニティハラスメントがあったことを会社側が認識していたかどうかを女性労働者に尋ねると、「認識していなかった」が過半数の53.6%を占めました。認識していた場合でも、会社側の対応として「特に何もしなかった」と回答する女性労働者が35.5%。組織としての認識不足・対応不足がうかがわれる数字となっています。*3
*1 出典:「令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(厚生労働省)p.196(図表225)
*2 出典:同上、p.199(図表231)
*3 出典:同上、p.209(図表243、図表244)
ハラスメント内容で最も多いのは、嫌がらせの言動・仕事の取り上げ
マタニティハラスメントの内容として最も多かったのは、嫌がらせとしての言動や仕事の取り上げです。これらが繰り返し行われたり、継続的に行われたりしたという女性労働者は、21.5%を占めました。
ほかに、休業制度などの利用における上司・同僚からの妨害も比較的多く選ばれています。
【マタニティハラスメント内容の割合(TOP3)】*
内容 | 割合 | |
---|---|---|
1位 |
繰り返しまたは継続的な嫌がらせなど
|
47.8% |
2位 | 制度などの利用の請求や制度利用について、上司からの妨害 | 31.2% |
3位 | 制度などの利用の請求や制度利用について、同僚からの妨害 | 28.6% |
また、内容に関しては正規社員・職員と非正規の従業員とで大きな差が見られる項目もいくつかありました。
正規社員・職員のほうが非正規よりも多く当てはまるものでは、
- 減給または賞与などにおける不利益な算定(11.9pt差)
- 不利益な配置変更(9.7pt差)
- 昇進、昇格の人事考課における不利益な評価(9.4pt差)
があります。
反対に、非正規のほうが多く当てはまるものには、
- 退職の強要や、正社員を非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要(9.8pt)
が見られました。
全体として見ると、いずれも給与・賞与の減額やキャリア形成に支障をきたす内容となっています。
*出典:「令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(厚生労働省)p.200(図表233)
マタニティハラスメント・不利益取扱いの主な原因
どのようなことをきっかけに、マタニティハラスメントが生じるのでしょうか。これについて、同調査では、休業前または職場復帰後でマタニティハラスメントの要因と考えられる理由や制度を尋ねています。
休業前のマタニティハラスメントで最も多かった要因は、「妊娠・出産したこと」それ自体であり、回答者の38.4%に選ばれました。次に多かったのは、妊娠・出産による体調不良で業務遂行が難しくなったこと(28.6%)、産前・産後休業の申し出や取得をしたこと(27.7%)となっています。
これに対し、職場復帰後のマタニティハラスメントで多かった要因は、育児のために早退・遅刻が増えたこと(37.8%)でした。ほかに、短時間勤務制度や始業時刻変更など労働時間の調整が要因とした人は32.4%、「その他育児のための休暇等制度」の申請・取得や要因と答えた人は27.0%です。
【マタニティハラスメント・不利益取扱いの要因(TOP3)】*
休業前 | 復職後 | |
---|---|---|
1位 | 妊娠・出産したこと (38.4%) |
子の養育のために早退・遅刻等が増えたこと (37.8%) |
2位 | 妊娠/出産に起因する体調不良(つわり等)により労務の提供ができないこと/できなかったこと、労働能率が低下したこと (28.6%) |
短時間勤務制度等の申請・利用、始業時刻変更等の措置の申出・利用 (32.4%) |
3位 | 産前・産後休業の申出・取得 (27.7%) |
その他育児のための休暇等制度(育児のために取得する年次有給休暇等を含む)の申出・取得 (27.0%) |
妊娠・出産に関しては、その女性労働者の体調変化で業務量や労働時間の減少と労働能率の低下、育児に関しては労働時間の減少が、マタニティハラスメントの主な理由となっていることが推察されます。
マタニティハラスメントでよく聞かれる発言例に、「しわ寄せ」「迷惑」などがあります。これらは、職場全体の業務量が変わらない状況で人員が減り、1人当たりの業務量が増加することへの不満です。
マタニティハラスメントの要因を減らすには、組織として業務の再配分や一時的な人員確保・業務委託などの選択肢を考える必要があるでしょう。
*出典:「令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(厚生労働省)p.202(図表235)、p.203(図表236)
マタニティハラスメントで訴えられたら?裁判例、損害賠償・慰謝料の例
もし女性従業員からマタニティハラスメントで訴えられたら、会社はどのような点で責任を問われるのでしょうか。
マタニティハラスメント関連の裁判例としてよく取り上げられるのは、広島市中央保健生協事件(最一小判平26.10.23)です。この事案は、病院で勤務する理学療法士・副主任である女性Xさんの業務内容の変更と副主任という地位からの降格が、男女雇用機会均等法9条3項で禁じられている「不利益取扱い」であるという訴えです。
【事案の概要】
- 理学療法士Xさんは、副主任として勤務してきた
- Xさんは妊娠したので、軽易な業務への転換を病院側へ申し入れ、転換が行われた
- Xさんは、副主任からも外されてしまった
- Xさんが育児休業を終了したあとも、副主任に任命されることはなかった
第2審となる広島高裁では、降格は適法であるとしてXさんの敗訴としています。しかし、最高裁はこれを差し戻しました。最高裁の判断のポイントは、病院側とXさんの間で十分な合意形成が図られたかどうかです。
そのうえで、一連の措置によってどのような影響があるかについて、Xさんは事業主からの適切な説明と十分な理解に基づく承諾をしたとは言えないとしています。
本件のような降格を男女雇用機会均等法9条3項の不利益取扱いの禁止に反しないものとするには、
- 病院における業務上の必要性の内容や程度の根拠
- Xさんにおける業務上の負担軽減の内容や程度の根拠
が必要であるとされました。
最終的に、差し戻し後の控訴審では男女雇用機会均等法9条3項違反が認められ、病院側(病院を経営する法人側)に慰謝料100万円と副主任手当の全額の支払いが命じられています。
妊娠・出産・育児に関わる業務内容や労働時間、職位の変更を会社側の都合で一方的に行うと、マタニティハラスメントとして損害賠償や不払いとなっていた給与・手当等の支払いを迫られる可能性が高いということです。
対象従業員にただ説明するだけでなく、業務内容や労働時間、職位の変更によってどのような影響があるのか(給与や手当等の変更がある場合は、その合理的な理由も)を丁寧に説明し、双方で合意できる措置を探しましょう。
参考:「10-2『マタニティハラスメント』に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性」(確かめよう労働条件 厚生労働省)
マタニティハラスメントの逆?「逆マタハラ」とは
マタニティハラスメントを語る際に取り上げられる問題の1つに、「逆マタハラ」があります。
逆マタハラとは、妊娠・出産をした女性従業員が、妊娠・出産・育児を理由として、会社やほかの従業員に不当な要求や嫌がらせを行うことです。例えば、以下のような言動が逆マタハラであると言われています。
【逆マタハラの発言例・行為例】
- 「独身なんだから、残業しても問題ない」と言って、業務を押し付ける
- 「育児中で大変だから」という理由で、就業時間中でも仕事をせず怠けている
- 自身の要求が通らないことに怒り、事実でないことも含めて「マタハラだ」と周囲に言ってまわる
気をつけなければならないのは、一方の発言・行為のみをもって逆マタハラか否かを判断することは難しいということです。厚生労働省は、「業務上必要な言動」はハラスメントに該当しないとしています。*
【マタニティハラスメントに該当しないケース】
-
妊娠・出産・育児に関する制度などを利用したい女性従業員に対して、以下の依頼や相談をする(強要しない限り、ハラスメントではない)
- 業務上の必要性から、業務内容や業務量の変更をすること
- 業務上の必要性から、配置変更をすること
-
妊娠した女性従業員が「今まで通り働きたい」と希望している場合に、客観的に見てその従業員の体調が悪い場合に、業務量の削減や業務内容の変更などを依頼・相談すること
会社側が誠実に対応したり職場での適切な配慮を受けたりしているにもかかわらず、繰り返し過度な要求をすると逆マタハラとなる可能性があります。ただし、繰り返しになりますが、会社側が不誠実な対応や一方的な決定を行う場合は、マタニティハラスメントと評価されてしまうでしょう。
いずれにしても、当事者同士が丁寧に話し合いを重ね、従業員側が一方的に不利な状況を押し付けられないよう、合意形成を図ることが何よりも大切です。より円滑な話し合いを実現するには、あらかじめ労使で協議し、一定のルールを定めておきましょう。
マタニティハラスメント対策の義務化と防止措置の具体例
冒頭で述べた通り、企業にはマタニティハラスメント防止措置義務があります。適切なルールづくりと運用、社内での啓発ができれば、安心して働ける職場づくりにつながり、ひいては逆マタハラの問題も軽減・解消できるでしょう。
では、具体的にどのような措置を講じればマタニティハラスメントを防げるのでしょうか。基本的な施策は、パワーハラスメントに代表されるほかのハラスメントと共通です。そこで、今回はマタニティハラスメントで特に注意すべきポイントに絞って見ていきましょう。
統計で見るマタニティハラスメントがある職場の特徴
先にご紹介した厚生労働省の調査では、マタニティハラスメントを経験した女性労働者と経験しなかった女性労働者の職場について、その特徴を比較しています。
マタニティハラスメントがあった職場の特徴は、次の項目でした。
【マタニティハラスメントがある職場の特徴】*
分類 | 職場の特徴 | 差分 |
---|---|---|
従業員の属性の偏り | 子育てをしている管理職がいない/少ない | 19.0pt |
女性の育児休業取得に否定的な人が多い | 13.9pt | |
従業員の年代に偏りがある | 13.2pt | |
子育てをしている従業員がいない/少ない | 10.5pt | |
社内の雰囲気・制度 | 残業が多い/休暇を取りづらい | 14.9pt |
上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない | 13.3pt | |
ハラスメント防止規程が制定されていない | 12.8pt |
もし自社にこうした特徴が見られる場合、マタニティハラスメントが発生しやすい環境となっているかもしれません。まずは、妊娠・出産・育児に関する制度の利用のしやすさを向上させるとともに、安心して相談できる企業風土の醸成を進めましょう。
次項で、具体的な施策例をご紹介します。
*出典:「令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(厚生労働省)p.215(図表253)、「差分」は「経験した」人の割合から「経験しなかった」人の割合を引いたもの
マタニティハラスメント防止対策 4つのポイントと施策例
厚生労働省の調査結果から見えてくるのは、従業員の多様性と風通しの良い職場づくりの大切さです。マタニティハラスメント防止対策としては、主に4つのポイントをおさえましょう。
【マタニティハラスメント防止対策 4つのポイント】
ポイント | 施策例 |
---|---|
従業員の多様性を大切にする |
|
風通しの良い社風をつくる |
|
制度を整える |
|
人員不足に対処する |
|
従業員の多様性確保では、採用活動において多様な人材に入社してもらえるような基準を設定したり、既存社員の多様なライフスタイルに応じた働き方を実現できる制度を導入したりする方法があります。
特に、妊娠・出産・育児の経験者が増えれば、そうした事情で働き方に制限のある従業員への理解・共感が進みやすいでしょう。女性管理職の妊娠・出産・育児に配慮することで、社内にロールモデルが生まれ、ほかの従業員も制度を利用しやすくなります。
風通しの良い社風の醸成と制度の整備は、組織側と従業員側のコミュニケーションの円滑化によってトラブルを防ぐ施策です。研修実施による意識醸成、働きやすさの確保、トラブル発生時の対応基準・方法の明確化を進めることで、「困ったら相談できる」「話し合って決めることができる」といった心理的安全性を向上させられるでしょう。
経営トップから「マタニティハラスメントは許さない」というメッセージをしっかり発信することも、大変重要です。同時に、研修を通じて“やってはいけないこと”だけでなく、“適切な対応方法は何か”も伝えましょう。
ただ、妊娠・出産・育児による業務内容・業務量の変化、休業などによる欠員は、ほかの従業員の業務に影響を及ぼすことは否定できません。ここで注意すべきポイントは、ほかの従業員に過度な負担がかからないよう、一時的な人員の確保や外注を選択肢に入れることです。具体的には、業務委託・契約社員・派遣社員といった選択肢があります。
それぞれの特徴については、以下の関連コラムで詳しく解説していますので、ぜひご確認ください。
コラム「雇用形態とは?種類や必要な社会保険、変更手続きや注意点について解説」はこちら
コラム「契約社員を雇うメリットは?正社員登用と無期転換ルール」はこちら
コラム「業務委託とは|簡単にわかる契約の種類と違い、メリット、注意点」はこちら
マタニティハラスメント発生時の対応
マタニティハラスメント対策は、防止施策だけではありません。マタニティハラスメントが発生したら、相談窓口で担当者が相談に応じ、適切な手順で事実確認などを進める必要があります。
マタニティハラスメント相談窓口での対応ポイント
相談窓口の設置方法や担当者の対応の流れは、ほかのハラスメントに関する相談対応と同様です。ただし、マタニティハラスメントやセクシャルハラスメントなど、相談者の性別が大きく関わるものについては、原則として相談者と同性の担当者が応じるほうがよいとされています。マタニティハラスメントの場合、女性特有の心身の変化を理解しやすく、同性であることが話しやすさにもつながるからです。
相談者の話を聴く際は、必ず傾聴の姿勢をもち、急かさず丁寧に聴いてください。相談者は身体的な負担と同時に不安や混乱、怒りなどで疲弊している場合も多いため、まずは気持ちに寄り添いましょう。
もし心身の不調を訴えるようであれば、産業医やカウンセラーなどの専門家へつなぐとよいでしょう。
相談窓口でできる事実確認は、
- マタニティハラスメント内容
- マタニティハラスメントの発生日時
- 行為者の氏名・所属・職位
- 相談者の氏名・所属・職位
などです。今後の対応として、ハラスメント行為者や現場にいた第三者などへのヒアリング(事実確認)を行ってよいかどうかについても、相談者と話し合いましょう。相談者からの同意を得ないまま勝手に調査を行うと、被害が拡大する恐れがあります。相談者の意思を大切にしながら対応を進めることが大切です。
事実確認におけるポイント
また、事実確認を進める際は、相手のプライバシーに配慮して別室などでヒアリングを行うとともに、調査を担う担当者が中立の立場で対応しなければなりません。一方的に「ハラスメントがあった/なかった」と決めつけてしまえば、それ自体がハラスメントになってしまうでしょう。
例えば、ハラスメント行為者へのヒアリングにおいては、ハラスメントとして相談された行為の有無だけでなく、そのような行為に及んだ理由や行為者の心身の状況などの確認も必要です。もし行為者に心身の不調がある場合は、産業保健スタッフなどの専門家につなぎましょう。
事実確認後の行為者の処分や紛争解決のポイント
事実確認の結果から「実際にマタニティハラスメントがあった」と認定した場合は、行為者に対して何らかの処分を決定します。処分内容は、社内のハラスメント関連ルールに基づいて決定しましょう。
そして、そのルールと処分内容、処分の理由などをハラスメントを受けた従業員と行為者それぞれに伝えてください。
対応や処分の内容に関して従業員側と折り合いがつかない場合は、公的な「個別労働紛争解決制度」を利用する手もあります。これは本格的な訴訟ではなく、無料かつ短期間で労働に関するトラブル解決を図るための制度です。助言や指導を受けられる「助言・指導」と、紛争調整委員会による解決案などの提示を受けられる「あっせん」があります。
個別労働紛争解決制度を利用するには、まず労働局や労働基準監督署内にある「総合労働相談コーナー」で相談しましょう。
参考:「個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)」(厚生労働省)
マタニティハラスメントの再発防止のポイント
マタニティハラスメント防止措置では、具体的事案を活用して再発防止につなげる取り組みも欠かせません。具体的にどのような状況で発生したか、誰から誰に行われたかなどを分析することで、マタニティハラスメントが発生しにくい職場づくりに役立てられます。
例えば、再発防止策として考えられる主な施策には、以下のようなものがあります。
【マタニティハラスメント再発防止策の例】
分類 | 具体例 |
---|---|
制度の改善や新規導入 |
|
定期的な実態把握 |
|
厚生労働省の調査では、マタニティハラスメントを経験した女性労働者の約半数が、「勤務先はマタニティハラスメントの発生を認識していない」と回答していました。
マタニティハラスメント防止施策では、「まさか、うちの会社で起こるはずがない」という思い込みで実態を見誤らないよう、意識的に現状を把握していかなければなりません。相談窓口を設置するだけでなく、定期的なアンケートや1on1を実施していきましょう。
マタニティハラスメント防止には、休業制度の意義理解と適切な情報共有を
マタニティハラスメントの背景には、妊娠・出産・育児による働き方の変化と、周囲の従業員の業務負担の変化、妊娠・出産・育児に関する周囲の理解不足などがあります。特に業務内容や業務量の変化については、「しわ寄せ」と感じるなどのネガティブな感情につながっています。
こうした変化への対応を現場任せにすれば、妊娠・出産・育児に関する制度を適切に利用しようとする従業員に嫌がらせが行われ、職場の雰囲気も悪化するでしょう。ひいては従業員のモチベーションも下がり、組織全体の業務効率に悪影響を及ぼしかねません。
マタニティハラスメントを防ぐには、妊娠・出産・育児に関する休業制度や短時間勤務制度がなぜあるのか、誰もが働きやすい職場づくりをなぜ進める必要があるのかなどを改めて説明し、理解を深めてもらう必要があります。そのうえで、業務負担に関して会社側で一方的に決定するのではなく、話し合いを通じた落とし所を見つけなければなりません。
多くの企業で人材育成に伴走してきたALL DIFFERENTでは、組織のコミュニケーションを円滑にし、誰もが働きやすい職場づくりにつなげるスキル向上研修を多数ご提供しています。現場メンバーの信頼関係強化、業務の属人化防止をテーマとする研修など、豊富なラインナップからお選びいただけますので、ぜひ課題解決にご活用ください。
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また、ハラスメントの早期発見には、従業員のメンタルヘルスの変化に気づくことも大切です。ALL DIFFERENTのメンタルヘルス研修では、管理職の方を対象として、部下のメンタルヘルス不調への対応方法だけでなく、ご自身のヘルスケアなども学んでいただけます。