モチベーションとは?意味、下がる理由と上げるための方法・理論

update更新日:2025.07.10 published公開日:2023.12.18
モチベーションとは?意味、下がる理由と上げるための方法・理論
目次

モチベーションとは、言い換えれば「意欲」「やる気」のこと。社員・部下のモチベーションを上げるには、報酬などの外発的動機づけだけでなく、成長や達成感を得られる体制づくりが有効です。

本コラムでは、モチベーションの基本的意味とモチベーションが下がる理由、社員のモチベーションを上げる方法を調査結果や理論とともにご紹介します。

モチベーションとは何か?意味、エンゲージメントとの違い

モチベーションは、組織の人材確保と生産性向上に欠かせない要素です。

はじめに、モチベーションの意味や、マネジメントにおいて同様に重要な「エンゲージメント」との違いを確認しておきましょう。

モチベーションとは?意味と言い換え

モチベーションの辞書的意味は、「物事を行うにあたっての、意欲・やる気」です。*

ビジネス用語としては、「仕事のモチベーションが上がらない」などの使い方がされます。この場合、業務遂行や業務上の目標達成に向けて積極的に行動するために必要な心理的プロセスを指すと考えればよいでしょう。

よって、モチベーションを言い換えれば「意欲」「やる気」「動機」などとなります。

モチベーションは、個人の生産性と組織の業績に大きな影響を及ぼします。

かつての日本企業では、終身雇用制や年功序列制により、会社への強い帰属意識がありました。しかし、現在は人材の流動化が進み、転職が当たり前の選択肢となっています。

社員に自社で活躍し続けてもらうには、個々のモチベーションを高め、その仕事が組織全体の成長につながるという実感をもってもらうことが欠かせません。

*出典:「モチベーション」『デジタル大辞泉』(コトバンク)

モチベーションとエンゲージメントの違い

社員がどれだけ自社の業務にコミットしてくれるかという観点で言及されるもう1つの概念に「エンゲージメント(ワーク・エンゲージメント)」があります。

エンゲージメントとは、社員の高いモチベーションの結果生まれる心理状態であり、熱意・没頭・活力の3要素で構成されます。

【エンゲージメントの3要素】

熱意 誇りややりがいを感じながら仕事をしている
没頭 夢中になって、集中して仕事をしている
活力 自ら積極的に仕事をしている

簡単にいえば、

  • モチベーションは社員が高いエンゲージメントを発揮するための原動力となるもの
  • エンゲージメントは、高いモチベーションで仕事に当たることによって発揮される熱心な姿勢

ということです。

モチベーションはなぜ必要?モチベーション・マネジメントのメリット

モチベーションと仕事の関係を語る際に、「仕事をモチベーション任せにしてはいけない」と言われることがあります。モチベーションの有無によって仕事の質が変化することへの警句です。しかし、それでも感情や精神状態にパフォーマンスが左右されるのが、人間です。

ここで重要となるのが、社員のモチベーションの状態を把握し、管理する「モチベーション・マネジメント」。モチベーション・マネジメントの具体的な3つのメリットを見ていきましょう。

社員の退職・転職予防につながる

人材の流動化が進む現在、当然の選択肢として転職があげられるようになりました。そのため、モチベーションの低下は以前よりも退職につながりやすくなっています。

もし本人の状況に応じたサポートがあれば、退職に至るほどのモチベーション低下を防げるかもしれません。反対に、「辞めるのは本人の勝手」と放置すれば、人材不足が叫ばれる昨今、より多くの採用コストがかかってしまいます。

社員のモチベーション・マネジメントを行うことで、モチベーションの低下を早期に察知し、必要な施策を講じられます。

社員のスキル・生産性が向上する

モチベーションが高い社員は、自ら進んで業務に必要なスキルの習得・向上に励みます。目標達成に積極的に取り組み、課題解決に向けた分析もいとわないでしょう。

その結果、モチベーションの低下した社員よりも高いスキルを獲得し、生産性が向上します。自己の成長を実感することで、その社員は仕事へのモチベーションをより高めるでしょう。

平成30年版労働経済白書に、モチベーションに関する興味深い調査結果が掲載されています。それによれば、過去5年間の企業の能力開発について「積極的になった」と感じた労働者では仕事へのモチベーションが上昇した労働者のほうが10pt以上多く、反対に「消極的になった」と感じた労働者ではモチベーションが低下した労働者のほうが20pt以上多くなりました。

これは、社員の能力開発を積極的に支援することで、モチベーションを上昇させられる可能性が高いことを示唆しています。*

モチベーション・マネジメントを実施すれば、こうした社員のモチベーションの変化を的確に捉え、最適なタイミングで成長を支援することができます。

*出典:『平成30年版 労働経済の分析 -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について-』(厚生労働省)p.132

チャレンジできるようになる

適切なモチベーション・マネジメントによって社員のモチベーションが向上すると、それは成功体験につながり、仕事への自信にもつながっていきます。そして、「自分は目標を達成できる」という自己効力感は、より難しい課題に挑戦する余裕や意欲を生むでしょう。

組織の課題解決や新規プロジェクトで成功できれば、さらに自信を深め、仕事のモチベーション向上・維持につながります。失敗したとしても、上司などから適切なフォローを行うことで、モチベーションを失わず次の目標に挑むことができます。

モチベーションが下がる5つのきっかけ

しかし、モチベーション・マネジメントは簡単ではありません。

当社の研修受講者である若手社員1,200名を対象とした意識調査で、ストレス軽減と仕事の意欲増進につながる「精神支援」を受けているかどうかを尋ねたところ、全体として5〜6割が「してもらっている」「十分してもらっている」と回答。一方で、入社1年目の新人の4人に1人が「全くしてもらえていない」と回答しました。2〜4年目の社員についても、約5人に1人が「全くしてもらえていない」と答えています。*

適切な精神支援やモチベーション・マネジメントを行うには、「何がモチベーション低下の原因となり得るのか」を知らなければなりません。

そこで、「仕事のモチベーションが下がった」と言われる代表的な5つのケースをご紹介します。

(1)給与が上がらない・ボーナスがカットされた

1つ目のケースは、賃金に関するものです。「給与が上がらない」「ボーナスがカットされた」などの事態は、その社員の働きが報酬につながらないという点で、不満を招きます。

社員は、当然ながら働くことで収入を得て、自身や家族の生活を支えています。近年の物価高や同業他社の賃金アップなどが続く中で、自社だけ給与が上がらないとなれば、その不満も大きくなるでしょう。

賃金を上げられない合理的な理由がある場合は、必要に応じて説明するほうが、社員の大きなモチベーション低下を防げます。これに対し、そうした説明がないままでは、会社への不信感が募り、モチベーションの大きな低下を招いてしまうでしょう。

モチベーションを失った結果、活躍していた社員が「もっと給料の良い会社へ」と転職活動を始める可能性も否定できません。

(2)やりたくない仕事・苦手な仕事を割り当てられた

2つ目は、それぞれの社員と業務の相性です。

「やりたくない仕事を振られてモチベーションが下がった」と言われると、会社側としては「単なるわがままでは」と感じるかもしれません。ただ、以下のようなケースがあることには注意が必要です。

  • 当初は目標達成に向けて頑張っていたが、達成のための支援を受けられず、未達成のまま終わった。仕事自体がどうでもよくなってしまった。
  • 同僚からの頼まれごとが多く、自分の仕事を進められない。他人の尻拭いばかりしていて疲れた。

「成長につながるから」という理由であったとしても、本人が苦手とする業務を割り当て、何ら支援を行わなければ、過度なプレッシャーや過剰な業務量によるメンタルヘルス不調を招きます。状況が改善されなければ、仕事へのモチベーションを失う場合さえあるでしょう。

(3)上司とのコミュニケーション・人間関係に課題がある

近年、人材や働き方の多様性が進み、コミュニケーションや人間関係にも新たな課題が見られるようになりました。それらの課題には、モチベーションの低下に関わるものもあります。

【モチベーション低下に関わる働き方の課題の例】

課題例 概要
孤独感・疎外感 リモートワークによって帰属意識が薄れ、孤独を感じている
ワークライフバランスの乱れ 仕事と私生活の境界があいまいになり、ストレスをためやすくなる
コミュニケーションの質の低下 対面交流が減り、同僚・上司との信頼関係構築が困難になっている

帰属意識や良好な人間関係は、モチベーションの維持・向上に欠かせません。しかし、リモートワークやハイブリッド勤務という働き方の多様性によって対面での交流機会が減ると、「1人で仕事をしている」と強く感じる社員が出てきます。

これらの問題を放置すれば、やがて仕事へのモチベーションを失い、退職を考えるようになってしまうでしょう。

(4)人事評価が低い・不公平である

そして4つ目の理由が、不適切な人事評価です。会社の評価制度が不透明で、「公平な評価が行われている」と感じられないことが、社員のモチベーション低下の要因となるのです。

評価基準が不透明であれば、社員自身が努力してきたことが評価対象とならず“骨折り損のくたびれもうけ”と感じられるでしょう。同じくらいの能力・業績・貢献度であるにもかかわらず特定の社員だけ評価されるのであれば、「どうせ評価されない」という考えから仕事をいい加減に進めるような状況も発生し得ます。

そうした制度上の不備は、多くの社員の不満を招きます。雰囲気の悪い職場でモチベーションを高められる社員はなかなかいません。

(5)不本意な人事異動があった

適正な人事評価を行っていても、社員のモチベーションが低下する場面があります。それが、本人にとって不本意な人事異動です。

人事異動によるモチベーション低下が見られる主な原因は、会社が目指す方向と社員自身のキャリアプランの不一致です。近年、社員の「キャリア自律」として主体的なキャリア形成に注目が集まっています。実際に、自社でキャリア自律促進に向けた施策を展開している企業もあるでしょう。

しかし、社員のキャリア自律を促しながら会社側がそれを無視した一方的な人材配置を行えば、社員は自らが描くキャリアプランを実現できず、大きな不満を感じます。

経営戦略などの方向性からやむを得ない人事異動である場合でも、会社側がより丁寧な説明を行いつつ本人にとってのメリットも提示しなければ、社員からの理解は得られないでしょう。

社員・部下のモチベーションを上げる4つの方法と理論

管理職に期待される役割の1つに、部下育成があります。部下育成における悩みを管理職に尋ねると、3人に1人が「部下のモチベーションが向上しない」を選んでいます。それほど、部下のモチベーション管理に関する課題は大きいということです。*

部下のモチベーションを上げるには、ただ励ますだけでなく、これまで積み重ねられてきたモチベーション理論を踏まえながら、多様なアプローチを取らなければなりません。そこで、基本的な5つの理論をポイント別に解説します。

【外発的動機づけ・内発的動機づけ】デシの理論

モチベーションに関する基礎知識として最初におさえておきたいのが、「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」です。アメリカの心理学者エドワード・L・デシによる理論が有名です。

2つの動機づけの違いと具体例を下表にまとめました。

【外発的動機づけ・内発的動機づけ】

種類 概要
外発的動機づけ 外部からの人為的な刺激・報酬によって生じるモチベーション
  • 金銭的報酬
  • 昇進・昇格
  • 表彰、罰則の回避
内発的動機づけ 本人の興味・好奇心・達成感などから生まれる、自己の内にある目的を達成するためのモチベーション
  • 仕事自体への興味・楽しさ
  • 自己成長
  • 自己実現
  • 創造性・主体性の発揮

外発的動機づけの特徴は、短期的な行動変容に効果がある一方で、長期的な維持が難しいことです。また、報酬に慣れてしまうと、当初と同程度のモチベーションを得るためにより大きな報酬が必要となる場合があることも、無視できません。

これに対し、内発的動機づけの特徴は、自己成長につながりやすく、持続性があることです。部下自身の中にモチベーションがあるため、仕事でも高い集中力やフローと呼ばれる没頭状態を生み出しやすいという点も大きなメリットでしょう。

両者の特徴を踏まえると、企業における人材育成では特に内発的動機づけに注力することが求められます。

なお、外発的動機づけは、内発的動機づけを高めることもあれば、低下させることもあります。外発的動機づけが内発的動機づけを高めることを「エンハンシング効果」、低下させることを「アンダーマイニング効果」と呼びます。

【エンハンシング効果とアンダーマイニング効果】

効果 概要
エンハンシング効果 外発的動機づけとして、称賛などの言語的報酬を与えるとで、部下の内発的動機づけを高めることができる
アンダーマイニング効果 もともと内発的に動機づけられていた行動に外部から報酬を与えることによって、その行動への意欲が低下する

エンハンシング効果は、「部下が自発的に進めたやり方に対してポジティブフィードバックを与えることで、部下がより積極的に業務改善に取り組むようになる」などのケースが該当します。

反対に、アンダーマイニング効果の例は「部下が自発的に進めた業務改善に対して特別な報奨金を支給したら、報奨金を目的に業務改善を進めるようになり、もともとあった改善の楽しさを失ってしまう」といった事態です。

参考:子安増生・丹野義彦・箱田裕司 監修「内的動機づけ」『現代心理学辞典』有斐閣、2021年

【安全性・所属意識】マズローの欲求階層説とアルダファーのERGモデル(ERG理論)

モチベーションの向上には、「この職場は安全である」「自分は組織の一員である」といった感覚も重要です。これを指摘した代表的な理論が、マズローの欲求階層説と、欲求階層説を発展させたアルダファーのERGモデル(ERG理論)です。

欲求階層説では、人間の欲求を低次から高次まで5段階のピラミッド構造で説明しています。

【マズローの欲求階層説】

欲求 概要
高次


低次
自己実現欲求 自己成長や自分自身の存在意義、価値を追求する欲求
自尊欲求(承認欲求) 他者から認められたい、尊敬されたいという欲求
社会的欲求 集団に属したい、仲間が欲しいという欲求
安全欲求 危機を回避したい、安全・安心な暮らしがしたいという欲求
生理的欲求 生きていくための基本的・本能的な欲求

欲求階層説では、低次の欲求が満たされることで、より高次の欲求をもつようになるとされています。例えば、生活を安定させる給与額や安全な職場環境が実現されていない状況では、自己成長よりも生活の安定を優先するということです。

これに対し、ERGモデルでは、人間の欲求を「存在欲求(Existence)」「関係欲求(Relatedness)」「成長欲求(Growth)」の3つに分類しました。

【アルダファーのERGモデル】

欲求 概要
高次


低次
成長欲求
  • 生産性向上や創造性につながる、自己成長に向けた欲求
  • 欲求階層説における自尊欲求・自己実現欲求に相当
関係欲求
  • 自分にとって重要な人(上司・同僚など)について「関係を築きたい」「良好な関係でいたい」「認められたい」という欲求
  • 欲求段階説における社会的欲求や自尊欲求に相当
存在欲求
  • 安全・安心な環境にいたいという欲求
  • 欲求段階説における生理的欲求や安全欲求に相当

ERGモデルの特徴は、より高次の欲求が満たされなかった場合に、それと同等および低次にある欲求が引き起こされるという仮説にあります。

例えば、成長欲求が満たされない場合は、「もっと成長したい」という欲求とともに「周りの人に認められたい」という欲求が引き起こされます。そして、「周りの人に認められたい」という関係欲求も満たされていない場合、今度はその低次である「安心できる職場で働きたい」という欲求も引き起こされることになります。

これらの欲求の分類と関係性は、「モチベーション向上に向けた複数のアプローチがある中でどれを優先するか」といった検討の際に役立ちます。部下に自己成長のモチベーションを高めてもらいたい場合は、本人の職場の人間関係や心理的安全性、業務環境の安全性も確認するようにしましょう。

【承認・成長】ハーズバーグの二要因理論

周囲からの承認や自己成長の欲求が見られる場合に考慮したい理論として、アメリカの心理学者ハーズバーグによる二要因理論もあります。

ハーズバーグは、仕事に対する満足・不満足に関する要因を次の2つに分類しました。

【ハーズバーグの二要因理論】

要因の分類 特徴
動機づけ要因 満たされることで満足につながる
  • 仕事の達成感
  • 周囲からの承認
  • 仕事への興味・やりがい
  • 自己成長
衛生要因 満たされても満足にはつながらない
不満足の解消にしかならない
  • 賃金
  • 福利厚生
  • 職場の人間関係

動機づけ要因は、それが満たされることで長期的な満足感につながるとされている要因。他方、衛生要因は、それが満たされても不満を解消するだけで、しかも短期的効果しかないとされている要因です。

したがって、部下のモチベーションを長期的に維持・向上させるには、

  • 仕事で失敗しても途中で取り上げず、完遂できるようサポートする
  • 完遂した仕事や好ましい業績、努力などに対してポジティブフィードバックを与える
  • 業務を割り当てる際は、本人の興味・関心がある分野も考慮する
  • その仕事が本人の成長につながることを提示する

といった点がポイントになります。

【達成感・人間関係】マクレランドの欲求理論

そして、もう1つおさえておきたいのが、アメリカの心理学者マクレランドによる欲求理論です。

【マクレランドの欲求理論】

欲求の分類 概要
達成欲求 目標や基準を上回る成果を出そうとする意欲
権力欲求 他者に影響を与え、指導的立場に立ちたいという願望
親和欲求 良好な人間関係を築き、所属意識を得たいという欲求

この欲求理論の特徴は、各社員について「どの欲求が強いタイプか」を見極めることで、人材配置やマネジメントに活かそうという考え方です。

例えば、達成欲求が強い部下の場合、本人の実力よりやや高い目標を設定して支援することで、その欲求を満たし、仕事へのモチベーションを高められるでしょう。

権力欲求が強いタイプの部下には、チームリーダーを任せつつ、適切なリーダーシップの発揮をサポートします。同僚や他社との競争が発生しやすい仕事を任せることも、「優位に立つ」というチャンスを与える1つの手です。

親和欲求が強い部下については、反対に厳しい競争が発生する業務は避けるとよいでしょう。周囲との友好的な関係を望むタイプですので、その社交性を活かせる対人業務が適しています。同時に、上司としても日々の友好的なコミュニケーションを大切にしなければなりません。

ここで忘れてはならないのが、3つの欲求は誰もが多少は持っているということです。「権力欲求が強いAさんには、親和欲求がない」ということではなく、「Aさんは権力欲求や達成欲求が強いけれど、一方で親和欲求もある」といった見方をする必要があります。

部下の普段の行動をよく観察し、どういった欲求をどの程度強く持っているかを見極めることが、適切なアプローチのヒントになります。

欲求段階説やERGモデル、二要因理論、欲求理論といった視点を活用しながら、部下のモチベーション向上に多角的にアプローチしていきましょう。

中堅社員のモチベーション維持に必要な2つの観点と理論

ここで、仕事のマンネリ化とモチベーション低下が起こりやすい中堅社員について、もう少し詳しく見ていきましょう。

中堅社員は、自社のミッション・ビジョン、商品・サービスの特性、業務の進め方などをよく理解している重要な人材です。引き続き活躍してもらうには、こうした社員がモチベーションを維持できるような職場にしなければなりません。

注目したい観点は、仕事の完遂と目標達成です。

【仕事の完遂】ハックマン&オールダムの職務特性理論

これまでご紹介してきた理論で見た通り、モチベーションの向上には自己成長の欲求が関わっています。ALL DIFFERENTが実施した中堅社員800人に対する調査において、「成長を実感する場面」を尋ねると、1位は「仕事を完遂したとき(42.3%)」でした。*

モチベーションの源泉として仕事の完遂をあげる視点は、これまでご紹介した理論でも「達成感」などの形で登場しました。しかし、「最初から最後まで一貫して関わる」という点では、ハックマン&オールダムの職務特性理論がより参考になります。

職務特性理論は、モチベーションを高める要因は職務特性にあるとして、5つの特性を提示した理論です。

【ハックマン&オールダムの職務特性理論】

職務特性 意味
技能多様性 自分のもつ多様な能力を活かせる仕事か
タスク完結性 仕事の始まりから終わりまで、一貫して関わることができるか
タスク重要性 仕事そのものが重要視されているものか
自律性 自分の裁量が発揮できるか
フィードバック 実施した仕事からフィードバック(手応え)が得られるか

職務特性理論では、これら5つの特性を満たすことでモチベーションが引き出されると考えられています。

職務特性理論の活用方法としては、例えば次のようなやり方があるでしょう。

  • 業務を割り当てる際に、その業務の意義や期待される役割を説明し、完遂をサポートする
  • 集合研修やオンライン講座などでスキル向上の機会を確保しつつ、学んだ内容と現場の業務を連動させて成果や努力を承認し、ポジティブフィードバックを与える

効果的なOff-JTについては、以下の関連コラムで詳しく解説しています。

コラム「Off-JTとは?OJTとの違い、Off-JT研修のやり方や具体例を解説」はこちら

【適切な目標設定】ロック&レイサムの目標設定理論

また、中堅社員に対する同調査における「成長を実感する場面」の2位は、「目標を達成したとき(31.4%)」となりました。これは、若手社員の目標達成だけでなく、中堅社員にも適切な目標設定と達成が必要であるということを意味しています。*

“適切な目標設定”という観点で重要なのは、ロックとレイサムによる目標設定理論です。社員のモチベーションと行動に大きな影響を与える目標が備える4つの要素を提示しました。

【ロック&レイサムの目標設定理論】

目標の要素 概要
目標の難しさ より高く、より困難な目標のほうが、やる気を出す
目標の具体性 漠然とした目標よりも、具体的な目標のほうが効果的である
目標の受容 押しつけられた目標よりも、自分で設定した目標や理解して受け入れた目標のほうが強い動機づけになる
フィードバック 目標到達の過程で、定期的に進捗状況を確認し、フィードバックを受けることで、やる気が高まる

目標設定理論のポイントは、「自分で納得して設定し、やりがいのある(でも無理ではない)目標に向かって頑張り、その過程で適切なフィードバックを受けられること」です。

「難しい目標のほうがいいらしい」という考えだけで高すぎる目標を一方的に与えると、「どうせ無理だ」と逆にモチベーションが下がってしまいかねません。「少し背伸びをすることで達成できる」くらいのレベル感にすることが重要です。

目標の具体性については、基準の明確化があげられます。「売上げを伸ばす」という曖昧な表現ではなく、「売上げを前年同期比で+5%にする」「次の展示会で200枚の名刺を獲得する」などのように、なるべく具体的な指標と数値を設定しましょう。

「そもそもどのような目標を設定するべきか」という点では、所属している組織のビジョンや上位計画との連動がポイントです。組織と個人の目指す方向を合わせることで、自身の仕事が事業にどのように貢献するのかを理解しやすくなるからです。

中堅社員の上司として目標設定を支援する場合は、

  • なぜその目標が必要なのか
  • どのような成果を期待しているのか
  • 達成した場合、どのように評価されるのか

といったことを明確に伝え、定期的な1on1で進捗の確認とフィードバックを行いましょう。

モチベーショングラフを使うセルフマネジメント

社員のモチベーションを高めるには、周囲からの働きかけが重要です。とはいえ、社員一人ひとりのモチベーション維持・向上施策を人事担当者や管理職だけで行うには無理があるでしょう。

可能であれば、社員が働きやすい環境を整えると同時に、それぞれの社員が自らのモチベーションを管理できるようにしたいところです。この有効な取り組みの1つが、モチベーショングラフの作成と活用です。

モチベーショングラフとは

モチベーショングラフとは、子どもの頃から現在までの意欲や充実度の変化を表したグラフです。日本では、主に就職活動の際に使われます。「そういえば描いたことがある」と思い出す人もいるかもしれません。

モチベーショングラフは、就職活動だけでなく、社会人になってからもモチベーションのセルフマネジメントに活用できます。

モチベーショングラフの描き方

モチベーショングラフは、以下の手順で作成します。

【モチベーショングラフの作成手順】

  1. (1)縦軸に意欲・充実度をとる(値の範囲は-100〜+100)
  2. (2)横軸に年齢をとる(値の範囲は5歳前後〜現在)
  3. (3)年齢や学年をヒントに、楽しかったこと、充実していたこと、やる気がなくなったことなどを書き込み、折れ線(または曲線)グラフを作成する
  4. (4)各イベントについて、意欲・充実度が変化した理由を分析し、グラフに書き込む

モチベーショングラフの作成で特に重要なのは、(4)の分析です。分析をしっかり行うことで、自身のモチベーションの源泉をより明確に把握できるようになるでしょう。

分析しにくいと感じた場合は、ぜひ5W2Hの視点で考えてみてください。

【5W2Hの各要素と意味】

When いつ
Where どこで
Who 誰と/誰に
What 何をした
Why なぜ
How どのように
How much いくらで/どのくらい

モチベーショングラフは1度作成して終わりにするのではなく、意欲・充実度の変化を感じたときに更新すると、より正確で分析しやすいグラフになります。表計算ソフトなら更新も簡単です。日々のモチベーション管理に役立てましょう。

モチベーション研修で納得できるモチベーション・マネジメントへ

社員のモチベーション向上を目指すなら、それを直接マネジメントしようとするのではなく、それぞれの社員と職務の相性、適切な目標設定、働きやすいサポート体制などを考慮しながら進めるほうが得策です。それには、管理職や一般社員が自身の立場から学べるモチベーション研修を実施するとよいでしょう。

例えば、ALL DIFFERENTでは、若手社員向け研修として、自分自身で考えて行動する「セルフマインド」を軸に仕事の意欲を安定させる研修や、「やりたい仕事を任せてもらえない」という悩みを「やりがい」のメカニズムから理解して現状突破を図る研修をご用意しています。

「若手社員研修~仕事に対するセルフマインド醸成~」の詳細はこちら

「若手社員研修~仕事への向き合い方~」の詳細はこちら

部下のモチベーションを引き出したい管理職の方には、「モチベーションがアップする目標の3つの条件」など、部下の目標設定・管理を具体的に学ぶ研修がおすすめです。

「目標設定研修~組織のモチベーションとメンバーの士気を高める目標立案のポイント~」の詳細はこちら

企業風土や具体的な課題に対応した研修プログラムの作成、講師の派遣なども可能です。ぜひお気軽にご相談ください。

「講師派遣型研修」の詳細はこちら