製造業編:この10年で社員の役割はどう変わった?
大規模調査をもとに、管理職と一般社員に求められることの変化を分析しました
2022年6月24日
ビジネスを取り巻く環境が猛スピードで変化する中、ビジネスパーソンに求められる役割も大きく変わっています。 前回のレポートでは、大規模調査をもとに「情報通信業」における管理職・一般社員の役割の変化を明らかにしました。 今回は「製造業」に焦点を当て、ここ10年間の変化や他業種との違いを見ていきます。
製造業の6割が"役割の変化"を実感
今回の調査は、2021年10月11日~12月13日にかけて実施。一般社員から管理職、役員・経営者まで、様々な立場のビジネスパーソン5,099人にご協力いただき、製造業からは758人にご回答いただきました。
本レポートでは、課長・部長・経営層・役員クラスを「管理職」、係長・主任クラスまでを「一般社員」と位置付け、製造業における管理職像の変化や一般社員に求められることの変化、また製造業の特徴などを明らかにしていきます。
まず、製造業界のビジネスパーソンが実際に自分たちの役割の変化を感じているのか、その実態から確認してみましょう。10年前と現在を比較し、管理職や一般社員に求められることは変わったのかを尋ねたところ、59.7%が「管理職像の変化」を感じ、また62.7%が「一般社員への期待の変化」を感じていることが明らかになりました(図1・図2)。前回のレポートで紹介した情報通信業と比べ、製造業では変化を実感しているビジネスパーソンが多いようです。
コンプライアンスへの意識と意思決定のあり方が大きく変化?
では、約6割が自身の役割や上司・部下に求められる役割の変化を実感する中、実際にはどのような変化が起こっているのでしょうか。まずは、管理職像の変化から見ていきます。10年前に求められていた管理職像について尋ねたところ、「トップダウンで物事を進める(77.1%)」が最も多く、次いで「部下に自分の模倣を求める(62.5%)」「前例を踏襲する(57.4%)」となりました(図3)。
一方、現在求められている管理職像は、「コンプライアンスやモラルを重視する(82.8%)」「時間内で効率的に終わらせる(79.5%)」「自ら何をすべきかを定義し、遂行する(72.9%)」となりました。
この中で、特に大きく変化したのがコンプライアンスやモラルへの意識と意思決定のあり方です。ハラスメントに対する世の中の関心が高まっていることもあり、「コンプライアンスやモラルを重視する」は10年前から73.5ポイント増加。また、意思決定のあり方については、「トップダウンで物事を進める」が56.9ポイント減少し、その裏返しでもある「ボトムアップで物事を進める」は55.1ポイント増加しました。
ただし、他業種(製造業を除く全業種)との違いという視点で見ると、製造業では現在求められている管理職像として「企業利益を重視する」「トップダウンで物事を進める」といった項目を選ぶ割合が高く、"従来型"の管理職像も求められる傾向にあることがわかりました。
こうした現在の管理職像に対して、実際に今の管理職はどのような役割を果たしているのでしょうか。「現在求められている管理職像」と「現在の管理職の傾向」を比較したところ、最も大きなズレがあったのが、「自ら何をすべきかを定義し、遂行する」で、47.1ポイントの開きが(図4)。また、現在求められている管理職像の1位である「コンプライアンスやモラルを重視する」では34.5ポイント、2位の「時間内で効率的に終わらせる」では38.9ポイントの差が見られました。このほか、「ボトムアップで物事を進める(-45.4ポイント)」や「前例にないことを行う(-43.8ポイント)」でも"理想"と"現実"に大きなズレがあることが判明しました。
さらに、現在の管理職の傾向を他業種と比較してみると、製造業では「トップダウンで物事を進める」が48.3%でトップとなり、他業種よりも4.6ポイント高い結果となりました。同率1位の「コンプライアンスやモラルを重視する(48.3%)」に関しては大きな違いは見られませんでしたが、3位の「前例を踏襲する(46.6%)」は他業種より6.4ポイントも高く、製造業では"従来型の働き方"をしている管理職が他業種よりも多い実態が見えてきました。
管理職像の変化の理由から見えた、製造業の特徴は?
ここまで、製造業の管理職像の変化や理想と実態のズレを確認してきました。では、なぜ管理職像が変化したのか、その背景を尋ねたところ、「働き方(雇用形態や勤務時間・場所など)が多様化した(65.7%)」「市場環境が変化・複雑化した(53.7%)」が1位、2位となりました(図5)。
他業種でも1位2位は同じ項目が並びましたが、3位以降に違いが見られ、製造業では「求められる成果がより高くなった・難易度が増した(41.6%)」が3位にランクイン。他業種よりも7.4ポイント高い結果となりました。
一方、他業種と比べて回答割合が低かったのが「ビジネス・業務のやり方が以前と変わった」で、他業種では34.3%のところ、製造業では29.9%にとどまりました。「トップダウンで物事を進める」「前例を踏襲する」傾向がまだまだ強いことも踏まえると、経験豊富な上位職の指示のもと、誤りのない手順を重んじ、全員が一体感を持って業務を進めるという特徴が色濃く残っているようです。
こうした状況の中、管理職に求められるスキルや知識にも変化は現れているのでしょうか。10年前と比べて「特に重視されるようになってきた」スキル・知識を尋ねたところ、「マネジメント(64.5%)」が最多に(図6)。6割以上がその重要性を認識していることが明らかになりました。2位は「リーダーシップ(41.9%)」となり、この2項目は他業種を大きく上回る結果となりました。
一方、他業種で2番目に多かった「IT・デジタルに関するリテラシー」は、製造業では39.6%にとどまり、5位となっています。製造業の現場ではデジタルツールの活用よりも、社員一人ひとりの可能性を信じ、能力を引き出すこと、先を見せて導くことを重視しているのではないかと推察できます。
今の一般社員に求められるのは「チームで協力して成果を上げる」こと
次に、一般社員の変化を見ていきます。10年前に一般社員に期待されていたことを尋ねたところ、「定型的な業務を確実に遂行する(77.4%)」が最多となり、2位が「上位層の方針や判断をこまめに確認し、行動する(52.8%)」、3位が「個人として成果を上げる(48.3%)」となりました(図7)。
一方、現在期待されていることのトップ3は、「チームで協力して成果を上げる(69.7%)」「自ら現場で判断し、行動する(67.0%)」「非定型的な業務・プロジェクト型の業務で役割を遂行する(63.7%)」で、3位の「非定型的な業務・プロジェクト型の業務で役割を遂行する」においては10年前と比べて50ポイント以上増加しました。
逆に10年前の1位だった、「定型的な業務を確実に遂行する」は42.6ポイント減の34.8%となったほか、「上位層の方針や判断をこまめに確認し、行動する」は12.0ポイント減の40.8%、「個人として成果を上げる」は8.6ポイント減の39.7%にとどまりました。非定型業務やプロジェクト型の業務で臨機応変な対応が求められる中、チームワークをより重視しつつ、時には自らリーダーシップを発揮する姿勢が必要になってきたといえます。
しかし、管理職と同様、また前回のレポートで紹介した「情報通信業」をはじめとする他業種と同様、理想と現実には大きなズレがあるようです。期待されている役割と実際に担っている役割を比較したところ、その差は「チームで協力して成果を上げる」で20.4ポイント、「自ら現場で判断し、行動する」で32.0ポイント、「非定型的な業務・プロジェクト型の業務で役割を遂行する」で35.3ポイントの開きが見られました(図8)。とはいえ、「チームで協力して成果を上げる」は回答者の49.3%が実際に"担えている"と感じていることから、求められる姿に一致している部分もあるといえるのではないでしょうか。
製造業で必要なのは「タイムマネジメント力」と「言語化力」
続いて、一般社員に求められることが変化した背景を確認していきます。変化の理由を尋ねたところ、「状況の変化が早くなった(60.4%)」が最も多く、次いで「顧客やマーケットのニーズが多様化した(41.6%)」「チームメンバーの特性やレベル感が多様化した(41.4%)」となりました(図9)。
また、製造業の特徴として「リモートワークの浸透により、単独で行動する機会が増えた(11.5%)」を選んだ割合が他業種と比べて圧倒的に低いことが挙げられます。リモートワークができる職種が限られるといった製造業特有の事情もうかがえました。
では、環境変化のスピードが加速し、顧客・マーケットニーズの多様化も進む中、一般社員にはどのようなスキル・知識が求められるようになったのでしょうか。10年前と比較し重視されるようになった項目は、「タイムマネジメント(57.6%)」「言語化する力(相手に合わせた表現で伝える力)(45.5%)」「IT・デジタルに関するリテラシー(43.2%)」がトップ3となりました(図10)。ただし、「IT・デジタルに関するリテラシー」に関して、他業種では56.5%とトップだったのに対し、製造業では13.3ポイント低い43.2%となっています。IT・デジタルの重要性は他業種ほど差し迫った課題にはなっていないと考えることができそうです。
まとめ
今回のレポートでは、製造業に焦点を当て、管理職と一般社員に求められることの変化を見てきました。その結果、前回ご紹介した情報通信業と同様、製造業におけるビジネスパーソンの役割認識は、この10年間で大きく変化したことが明らかになりました。
例えば、「時間内で効率的に終わらせる」という管理職像に注目してみると、ベテラン社員の高齢化・リタイアによる戦力ダウン、原材料費の高騰、価格競争によるコスト意識のさらなる高まり、顧客・市場ニーズの変化スピードに合わせた短納期化などが、現場社員の効率性に対する危機意識を高め、それにより「時間内で効率的に終わらせる」という管理職像が求められるようになったと考えられます。
こうした変化の中、重視されるようになった管理職のスキルに目を向けると、「マネジメント」や「リーダーシップ」が他業種を大きく上回っていることがわかりました。反対に、他業種では2位にランクインした「IT・デジタルに関するリテラシー」を挙げる社員の割合が低くなっています。製造業の現場では、デジタルツールの活用よりも、社員一人ひとりの可能性を信じ能力を引き出すこと、先を見せて導くことを重視している傾向があるといえるのではないでしょうか。
日本の製造業は従来、強い"現場力"に支えられてきました。その現場力は強みとして未来の日本にも引き継ぐべきものです。一方で、先述したようなビジネス環境の変化以外にも、労働時間や労働環境に対する法整備、若年層の働き方や会社への帰属意識なども変わりつつあります。こうした外的変化に対応するには、現場の管理職が行動レベルからやり方を見直さなければなりません。前提を疑う力を伸ばし、仕事の進め方を抜本的に見直す、またデジタルツールの活用も検討するなど、思考の枠組みを変える取り組みが求められるのではないでしょうか。本レポートが、チーム・組織運営のあり方、また一般社員も含む全社員の役割見直しの一助となれば幸いです。
調査概要
調査対象者 | 当社が提供する研修(会場型・オンライン型)、オンライン講演の受講者 | |
---|---|---|
調査時期 | 2021年10月11日~2021年12月13日 | |
サンプル数 | <製造業のみ>758人 <他業種(製造業以外の全業種)>4,341人 | |
属性 | <製造業> (1)年代 20代以下 134人(17.7%) 30代 217人(28.6%) 40代 214人(28.2%) 50代 160人(21.1%) 60代以上 19人(2.5%) 不明 14人(1.8%) (2)役職 一般社員(非管理職) 568人(74.9%) └一般社員クラス 365人(48.2%) └係長・主任クラス 199人(26.3%) └その他(専門職・特別職など) 4人(0.5%) 管理職 183人(24.1%) └課長クラス 135人(17.8%) └部長クラス 38人(5.0%) └経営層・役員クラス 10人(1.3%) 不明 7人(0.9%) (3)従業員数 100人以下 155人(20.4%) 101人~300人 342人(45.1%) 301人~500人 156人(20.6%) 501人~1,000人 51人(6.7%) 1,001人以上 39人(5.1%) わからない 7人(0.9%) 不明 8人(1.1%) |
<他業種(製造業以外の全業種)> (1)年代 20代以下 1,357人(31.3%) 30代 1,121人(25.8%) 40代 1,083人(24.9%) 50代 609人(14.0%) 60代以上 71人(1.6%) 不明 100人(2.3%) (2)役職 一般社員(非管理職) 3,617人(83.3%) └一般社員クラス 2,586人(59.6%) └係長・主任クラス 982人(22.6%) └その他(専門職・特別職など) 49人(1.1%) 管理職 678人(15.6%) └課長クラス 491人(11.3%) └部長クラス 164人(3.8%) └経営層・役員クラス 23人(0.5%) 不明 46人(1.1%) (3)従業員数 100人以下 1,074人(24.7%) 101人~300人 1,874人(43.2%) 301人~500人 462人(10.6%) 501人~1,000人 368人(8.5%) 1,001人以上 402人(9.3%) わからない 116人(2.7%) 不明 45人(1.0%) (4)業種 情報通信業 1,319人(30.4%) 卸売業,小売業 663人(15.3%) サービス業(他に分類されないもの) 519人(12.0%) 学術研究,専門・技術サービス業 249人(5.7%) 建設業 243人(5.6%) 不動産業,物品賃貸業 201人(4.6%) その他 1,147人(26.4%) |
*本調査を引用される際は【ALL DIFFERENT株式会社「製造業の社員に求められることの変化に関する調査」】と明記ください
*各設問において読み取り時にエラーおよびブランクと判断されたものは、欠損データとして分析の対象外としています
*構成比などの数値は小数点以下第二位を四捨五入しているため、合計値が100%とならない場合がございます
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