管理職意識調査(2024年 悩み・課題編)
管理職育成の鍵は「ステージ別の課題への理解」ー新任管理職・ベテラン管理職・幹部候補ー

2024年9月10日

2024年5月20日~7月17日の期間、当社の管理職向け研修の受講者415名を対象に「管理職の悩みや課題」に焦点を当てた調査を行いました。管理職を役職や経験値により三つのステージに細分化し、比較・分析することで、従来の管理職調査では明らかにされていなかった、管理職ステージ別の調査結果を公表いたします。

〈背景〉業務負担が増大。管理職は今、何に悩んでいるのか

近年、管理職になりたくない若者が増加していると取り沙汰されており、誰もが出世を目指すことが当たり前だった時代との価値観のギャップが浮き彫りとなっています。その背景に、働き方の変化やDXの進展への対応など、ビジネス環境の変化に伴う管理職業務の複雑化・高度化が、ワークライフバランス重視の傾向にある若者の理想像と合致しないことが挙げられます。さらに、近年の管理職はキャリア自律の促進や部下のモチベーション維持など、個のキャリアプランに基づいたマネジメントが求められ、業務負荷の増大も指摘されています。そうした背景を踏まえ、現在の管理職はどのような課題感を抱えているか、実態を調査いたしました。本レポートでは、管理職を役職や経験値により三つのステージに細分化し、比較・分析することで、従来の管理職調査では明らかにされていなかった、管理職ステージ別の調査結果を公表いたします。今回の結果が、管理職の育成に悩む経営層、人事担当者、さらには悩みを抱える管理職にとって、有益な情報となれば幸いです。

調査結果の概要

管理職の悩み

  • ・半数以上が「部下の育成」と回答し、悩みのトップに
  • ・新任管理職は「自身の判断力」、ベテラン管理職は「部下とのコミュニケーション」、幹部候補は「成果達成」に悩みを抱える割合が高い

知識・スキルの課題を感じる場面

  • ・新任管理職は「判断が求められるとき」、ベテラン管理職は「方針・戦略を浸透させるとき」、幹部候補は「新たな領域業務へ挑戦するとき」に、知識・スキルの課題を実感する傾向に

認識している自身の役割

  • ・新任管理職は「部下の業務状況の把握」、ベテラン管理職・幹部候補は「会社や部門方針の伝達」を役割として認識。幹部候補になると視点高まり、「部門戦略の構築」や「予算管理」の役割認識も

(概要)

【管理職の悩み】
半数以上が「部下の育成」と回答し、悩みのトップに

まず初めに、課長クラス以上の管理職(以下「管理職」と記載)はどのような悩みを抱えているか質問をしました。結果、悩みがない管理職はわずか2.7%となり、97.3%の管理職は何かしらの悩みがあることがわかりました。

最大の悩みは「部下の育成」で、55.2%と半数以上の管理職が回答。次に「部下とのコミュニケーション」が30.4%、「部下の評価・フィードバック」が27.4%と続き、部下に関する項目が上位に上がりました。(図1)

(図1)

次に、管理職のうち、1~3年目の課長クラスを「新任管理職」、4年目以上の課長クラスを「ベテラン管理職」、部長クラスを「幹部候補」と三つのステージに分類し、ステージ別に違いがあるかみていきます。

新任管理職 1~3年目の課長クラス
ベテラン管理職 4年目以上の課長クラス
幹部候補 部長クラス

新任管理職は「自身の判断力」、ベテラン管理職は「部下とのコミュニケーション」
幹部候補は「成果達成」に悩みを抱える割合が高い

管理職の悩みを「新任管理職」「ベテラン管理職」「幹部候補」と三つのステージに分けて比較をすると、それぞれ半数以上が「部下の育成」と回答し、ステージに関係なく最大の悩みであることがわかりました。

新任管理職では「部下の育成」(57.3%)の次に、「自身の判断力」が33.6%、「部下の評価・フィードバック」が32.7%と続く結果となりました。他ステージと比較すると、「自身の判断力」が他ステージよりも2倍以上高い傾向がみられました。

ベテラン管理職では「部下の育成」(56.0%)の次に、「部下とのコミュニケーション」が36.2%、「部下の評価・フィードバック」が23.3%と続きました。他ステージと比較すると、「部下とのコミュニケーション」が他ステージよりも7.4ポイント以上高くなりました。

幹部候補では「部下の育成」(50.0%)の次に、「部門・チームの成果達成」が37.9%、「部門・チームの方針や戦略の浸透・伝達」が31.8%と続きました。他ステージと比較をすると、「部門・チームの成果達成」が15.2ポイント以上高く、突出した結果となりました。また、「会社の業績/将来」は24.2%と割合としては高くないものの、他ステージよりも10.4ポイント以上高く、管理職ステージが高いほど、回答割合が高まる項目であることがわかりました。(図2)

(図2)

【知識・スキルの課題を感じる場面】
新任管理職は「判断が求められるとき」、ベテラン管理職は「方針・戦略を浸透させるとき」、
幹部候補は「新たな領域業務へ挑戦するとき」に、知識・スキルの課題を実感する傾向に

次に、どのような場面で知識・スキルの課題を感じるのか、ステージ別に比較をしました。結果、各ステージ共通して「上司や会社から求められる立場・役割を果たすとき」に、知識・スキルの課題を感じる人が多いことがわかりました。

新任管理職では「上司や会社から求められる立場・役割を果たすとき」(49.1%)が第1位となりました。次いで「管理職として判断が求められるとき」が46.4%と続き、他ステージより13.6ポイント以上高い結果となりました。

ベテラン管理職では、「上司や会社から求められる立場・役割を果たすとき」(43.1%)の次に、「管理職として判断が求められるとき」が32.8%、「新たな領域の業務に挑戦するとき」が31.9%と続きました。他ステージと比較すると、「部門・チームの方針や戦略を浸透させるとき」が31.0%と高い割合となりました。

幹部候補では、「上司や会社から求められる立場・役割を果たすとき」(43.9%)の次に、「新たな領域の業務に挑戦するとき」が40.9%と続き、他ステージより9.0ポイント以上突出する結果となりました。(図3)

(図3)

【認識している自身の役割】
新任管理職は「部下の業務状況の把握」、ベテラン管理職・幹部候補は「会社や部門方針の伝達」を
役割として認識。幹部候補になると視点高まり、「部門戦略の構築」や「予算管理」の役割認識も

最後に、管理職として自身の役割をどのように認識しているかを質問しました。

新任管理職では6割が「部下の業務状況を把握すること」と回答しました。次に、「会社や部門方針を、部下に正しく伝達すること」が55.5%、「部下の目標を設定し、共有すること」が51.8%と続きました。他のステージと比較すると「部下の目標を設定し、共有すること」が6.1ポイント以上高くなりました。

ベテラン管理職では、「会社や部門方針を、部下に正しく伝達すること」が56.0%と最大の結果となりました。次に、「会社の方針を正しく理解すること」が55.2%、「部下の業務状況を把握すること」が53.4%と続きました。他ステージと比較すると「部下に業務の姿勢や行動を見せて覚えさせること」が5.4ポイント以上高くなりました。

幹部候補では、「会社や部門方針を、部下に正しく伝達すること」が65.6%、「会社の事業計画に対し、部門の戦略を構築すること」が62.3%、「部下の業務状況を把握すること」が59.0%となりました。特に、他ステージとの比較においては、「会社の事業計画に対し、部門の戦略を構築すること」が26.1ポイント以上、「予算の立案・執行・管理をすること」が18.2ポイント以上、「構築した部門の戦略を、計画に落とし込むこと」が17.2ポイント以上高い結果となり、幹部候補になると役割への認識が大きく変わることが明らかとなりました。(図4)

(図4一部抜粋)
*上図は回答項目を抜粋しています。全項目のデータは本レポート末尾の「参考資料」をご覧ください

まとめ

今回の調査結果より、半数以上の管理職が「部下の育成」に悩みを抱えていることが改めてわかりました。昨年の調査結果*1でも管理職の最大の悩みが「部下の育成」であり、管理職にとって「部下の育成」は永遠のテーマであると言えるでしょう。また、自身の知識・スキルへの課題を感じる場面では、「上司や会社から求められる立場・役割を果たすとき」がトップとなり、各役割に対して求められている水準に達していないことへの、課題感を抱く様子が見受けられました。

さらに、管理職には「新任管理職」「ベテラン管理職」「幹部候補」とステージごとに悩みや課題の違いがあり、管理職と言っても一括りにして考えるべきではないことも明らかとなりました。

新任管理職では、「部下の育成」のほかに「自身の判断力」に悩みを感じる管理職が多いのが特徴です。自身の知識・スキルへ課題を感じる場面では、「管理職として判断が求められるとき」と回答する割合が高くなり、一般社員から管理職と役職が変わり、判断を求められるシーンが急激に増えるものの、自身の判断基準が定まらず、試行錯誤している様子が見受けられました。

ベテラン管理職になると、「部下の育成」のほかに、「部下とのコミュニケーション」への悩みが上位に上がりました。特に、「部門・チームの方針や戦略を浸透させるとき」に自身の知識・スキルを感じており、部下への納得感の醸成に苦戦している様子がうかがえます。

幹部候補では、「部下の育成」のほかに「部門・チームの成果達成」や「会社の業績/将来」へ悩みを感じる割合が高くなり、自身の知識・スキルへの課題では「新たな領域の業務に挑戦するとき」と回答する割合が高くなりました。自チームの成果にコミットすることや、会社が成長し生き残るために、経営層の一員として新たな領域を模索する視点の高さが垣間見られました。

このように、新任管理職では判断軸など自身の知識・スキルへ悩みを抱える傾向にあり、ベテラン管理職になると、会社の方針・戦略の浸透や部下とのコミュニケーションに対する悩み、そして幹部候補になると、自分や部下よりも会社経営のための視点が強くなることがわかりました。

調査概要

調査対象者 当社が提供する管理職向け研修の受講者
調査時期 2024年5月20日~7月17日
調査方法 Web・マークシート記入式でのアンケート調査
サンプル数 415名
属性 (1)業種
建設業 32人(7.7%)
製造業 64人(15.4%)
電気・ガス・熱供給・水道業 5人(1.2%)
情報通信業 100人(24.1%)
運輸業,郵便業 16人(3.9%)
卸売業,小売業 74人(17.8%)
金融業,保険業 17人(4.1%)
不動産業,物品賃貸業 12人(2.9%)
学術研究,専門・技術サービス業 17人(4.1%)
宿泊業,飲食サービス業 2人(0.5%)
生活関連サービス業,娯楽業 1人(0.2%)
教育,学習支援業 1人(0.2%)
医療,福祉 3人(0.7%)
複合サービス事業 11人(2.7%)
サービス業(他に分類されないもの) 37人(8.9%)
公務 4人(1.0%)
その他 18人(4.3%)
わからない 1人(0.2%)

(2)企業規模
~50名 44人(10.6%)
51名~100名 53人(12.8%)
101名~300名 202人(48.7%)
301名~1,000名 90人(21.7%)
1,001名~5,000名 18人(4.3%)
5,001名以上 6人(1.4%)
わからない 2人(0.5%)


*本調査を引用される際は【ラーニングイノベーション総合研究所「管理職意識調査(悩み・課題編)」】と明記ください

*各設問において読み取り時にエラーおよびブランクと判断されたものは、欠損データとして分析の対象外としています

*構成比などの数値は小数点以下第二位を四捨五入しているため、合計値が100%とならない場合がございます

CLM(最高育成責任者)の考察

今回の調査結果から、管理職の悩みや課題はステージごとに異なることが明らかになりました。新任管理職は判断力の不足を感じ、ベテラン管理職は部下とのコミュニケーションに苦慮し、幹部候補は部門・チームの成果達成に課題を感じています。これらの課題に対して、企業側がどのようにサポートできるかを考察します。

まず、新任管理職の判断力を磨くためには、本人の自助努力だけに頼るのではなく、組織として「良い判断とは何か」を明確にし、浸透させるための仕組みを整えることが求められます。例えば、重要な意思決定やその根拠を組織内で共有し透明性を高めるなどが考えられます。判断力を養うためのシミュレーションを用いた意思決定のトレーニングや、経験豊富な管理職からのフィードバックを受ける機会を設けるためのメンター制度の導入も有効です。多くの場合、上司から判断軸の引き継ぎや指導がされておらず、手探りで判断せざるを得ない環境に置かれている新任管理職が多いため、上記取り組みは本人にとっての助けになるはずです。

次に、ベテラン管理職には、バイアスを取り除いたり、コミュニケーションスキルを改善したりするワークショップや、部下との対話を促進するプログラムが必要です。例えば、ロールプレイングやケーススタディを通じて部下とのコミュニケーションを再構築する方法を学ぶ場を設けることなどが考えられます。

最後に、幹部候補には、部門やチームの成果達成に必要な能力を把握し、強化すべきポイントを明確にするためのアセスメントを行うことを推奨します。部門やチームの成果達成に必要な能力は多岐にわたるため、誤った課題設定をしてしまい、能力開発の取り組みが徒労に終わってしまうことがあります。そのため、アセスメントを活用し、強化ポイントを明確にしたうえで、着実にPDCAを回していくとよいでしょう。

これらの取り組みを通じて、各ステージの管理職が直面する課題を解決し、組織全体のパフォーマンス向上に寄与することが期待されます。

(根本さん)

ALL DIFFERENT株式会社
組織開発コンサルティング本部 シニアマネジャー・開発室 室⾧
CLM(最高育成責任者)
根本 博之(ねもと・ひろゆき)

事業会社を経て、2010年にALL DIFFERENT株式会社(旧トーマツイノベーション株式会社/株式会社ラーニングエージェンシー)に入社。コンサルタント業務・講師業務を通じ、年間100~150社ほどの組織開発・人材育成を支援する傍ら、社内の育成責任者としても活動。大阪支社の立ち上げに参画し、営業リーダーとして年間目標達成に導いた後、本社にてコンテンツ開発業務に従事。中堅・大企業向けコンサルティング事業部門の責任者を歴任。日本経済新聞、NHKなどメディア出演多数。

参考資料

(図4全項目)
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